沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

読んだ本の感想まとめ(2023年1/16〜1/22)

今年の「摂取したコンテンツなるべく全部メモする」チャレンジの一環としての読んだ本まとめ記事です。おもにTwitterまとめ+アルファ。

 

<今回読んだ本>

『シチリアを征服したクマ王国の物語』ディーノ・ブッツァーティ
『成長戦略としての「新しい再エネ」 (SDGs時代の環境問題最前線)』山口 豊
『特別展「毒」公式図録』
『布団の中から蜂起せよ: アナーカ・フェミニズムのための断章』高島 鈴
『女性の世界地図: 女たちの経験・現在地・これから』ジョニー・シーガー
『30年にわたる観察で明らかにされたオオカミたちの本当の生活 パイプストーン一家の興亡』ギュンター・ブロッホ

 

前回↓

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『シチリアを征服したクマ王国の物語』ディーノ・ブッツァーティ

アニメ映画『シチリアを征服したクマ王国の物語』が、昨年のベストに選ぶくらい素晴らしい出来栄えだったこともあり…

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ブッツァーティの原作『シチリアを征服したクマ王国の物語』を改めて読んだ。かわいくて恐ろしくて楽しくて、やがて哀しきクマたちの大冒険。名作として語り継がれるのもよくわかる、獰猛で自由な想像力に満ちた童話であった。

本書で特筆すべきは、ブッツァーティが自分で描いてる挿絵の数々がマジで良いんですよね。棒人間みたいにシンプルなクマがほんとかわいいし、それでいて絵を見るとけっこうひどいことが起こってるという、童話らしくさりげない残酷性もいい。デ・キリコとかのイタリア形而上絵画をも想起させる、不気味な夢のような実在感があるのも素敵。ブッツァーティ、もしも小説がウケてなかったら絵本作家とかになってたのかな。

ブッツァーティの絵心は『絵物語』(https://amzn.to/3JnKTOr)とかでも堪能できるから要チェック。

雰囲気こそかわいらしいけど『シチリアを征服したクマ王国の物語』は、人とクマという異なる種族が対立し、融和し、結局また断絶する…という凄いドライな話とも言える。それはどこか、現実のシチリアという島の歴史の写し鏡のようにも思えてくる。昔から対外的に色んな国に侵略されたり、分裂したりしてきたシチリアの、悲しい歴史が凝縮されたようなストーリーにも感じられるのだ。それでも、いやだからこそ、『シチリアを征服したクマ王国の物語』のラストはしんみりした感動を与えてくれる。人とクマの別れの場面で鳴り響く、人の子らとクマの子らがそれぞれ歌う悲しい歌は、確かに存在した両者の繋がりと、仄かな希望を語っているようにも思える。そういう悲哀と光明のバランスも、まさに名作だなと思う。

そして原作をちゃんと読んだ後にアニメ映画の『シチリアを征服したクマ王国の物語』を振り返ると、かなり原作に忠実に作りつつ、一点メタな構造を取り入れることで現代の作品としてバランスも取ってて、改めて優れたアニメ化だったな〜と感銘を受ける。配信レンタルもきてるので、海外アニメ好きは確実に観る価値あり。

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アニメ『シチリアを征服したクマ王国の物語』を見た時「まぁシチリアにこんなすごい山は全然ないけどな…(ブッツァーティが住む北イタリアならともかく)」と思ったんだけど、原作小説の開始1ページめに「こんな山は今はないが、山がなくなるほど大昔のことだった…」みたいなことが書いてあって、作家の力技を感じた。

さらに余談だが『シチリアを征服したクマ王国の物語』、支配者側の人間に子グマがさらわれてしまい、取り返すためにクマたちが団結して猛攻をかける…というstoRRRyなので、脳内でこの曲が流れてしまうのだった。なにをみても『RRR』のことを考えてしまう…

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購入『シチリアを征服したクマ王国の物語』

 

『成長戦略としての「新しい再エネ」 (SDGs時代の環境問題最前線)』山口 豊

現代の動物好きとしては環境問題に着目せざるをえず、そのためには再生可能エネルギーにも着目せざるをえないので近年は色々な関連書籍を読み漁ってるが、今回は日本の再エネ分野での挑戦を説明した 『成長戦略としての「新しい再エネ」』を読んだ。

どう考えても今後の世界の鍵を握るであろう再生エネルギー分野で、日本はいっけん遅れをとっているようだが、実は破格のポテンシャルがあるぞ、全然まだまだやれるぞ…と証明していくという、基本的には元気の出る内容となっている。

ただし、新しい試みも各地でちゃんとやってるのだが、それが社会システム全体にうまく結びつかないんだよね〜、そしてそれこそが(再エネに限らない)日本の停滞の根本的な理由なんだよね〜〜〜…という、だいぶ身につまされる問題提起もあぶり出されるという、一筋縄ではいかない本であった。BBCでこんな記事↓も出たばかりだし…

www.bbc.com

たとえば、軽くて薄い次世代太陽電池として世界的にも高評価されている「ペロブスカイト太陽電池」は実は日本生まれで、国内原料調達も容易なのだが、国が研究支援を渋ってるうちに英・中その他に製品開発で差をつけられちゃった話とか、「あちゃー」という感じのエピソードも載っている。そしてそれは再エネに限らず、まさに日本の諸分野で起こってることのように思える…。

時事ネタとしては、ウクライナ危機以降に改めて浮き彫りになった再エネの重要性にも光を当てていく。化石燃料に国として頼り続けることの大きなリスクは、やはり近年改めて思い知ったという人も沢山いるんじゃないかと思う。そもそもウクライナ侵攻の勃発自体が再エネシフトの潮流と切り離せないのだ、という本書でも語られているロジックも本当そうだよなと思うし。色んな意味でターニングポイントな時代なので、まずはこうした本を考える契機にするのが良いと思う。

なんにせよ『成長戦略としての「新しい再エネ」』、今後の日本を考える上で、希望と焦燥を感じさせる1冊でした(希望も焦燥も、どちらも必要になりそう)。

購入→『成長戦略としての「新しい再エネ」』

 

『特別展「毒」公式図録』

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本というか特別展↑の図録だけど、とても読み応えがあった。

図版だけでなくコラムも充実で、たとえば「毒をもつ哺乳類」のコラム読んで「おもしれ〜〜」となったり。有毒の哺乳類ってめちゃ珍しいんだけど、いずれの種も全く異なる4つのグループに分散していて、毒の成り立ちや毒腺の構造も多岐にわたる。つまり「毒は哺乳類の進化のなかで4回独立に進化した」というわけ。こういう話を聞くと、毒って本当なんなんだろうね…と思えてくる。

全く異なる系統なのに一種の収斂進化のように毒を獲得した、レアな有毒哺乳類たちも面白いけど、さらにレアと思われる有毒の鳥類は、なぜか(このズグロモリモズを含む)複数種がパプアニューギニアに集中して生息しているというのもかなり面白いわ…。

そういえば先日『コーヒーの科学』読んで、カフェインの由来から「植物と毒の進化」について考えたばかりだったな。毒という色んな意味で「強い」ファクターが起点となって、進化の流れがパズルのように組み替わっていく点で、毒は生物全体の進化を考える上で重要なのよな…。

生物ネタにとどまらず「毒と人類の歩み」とか人文的考察も読み応えあった。「毒とフィクション」というコラムでは、現代エンタメにおける毒使いのキャラとしてジョジョ5部のチョコラータが挙げられててマニアックで笑った(フーゴじゃないんだ…と思ったが直後に出てきた)。バトル漫画とかエンタメにおける毒使いといえば敵役が多かったが、最近は最初から味方なことも多く(『鬼滅の刃』のしのぶさんとか)毒好きとしても時代の変化を感じるとのこと…。

かように多方面からの「毒」考察が面白くて、根本的に「毒とは何か」を考察する本という括りでも、現時点での決定版では?と感じるクオリティ。購入は今のとこ会場限定みたいだが、東京これない人のために通販もやってくれるといいな。

購入→グッズ・図録 | 特別展「毒」 <オフィシャルHP>


『布団の中から蜂起せよ: アナーカ・フェミニズムのための断章』高島 鈴

「紀伊國屋じんぶん大賞」1位を獲ったりと、今注目の人文書『布団の中から蜂起せよ』も読んだ。「革命」というと、立ち上がって武器をとって権力に立ち向かったり、バスティーユ刑務所を襲撃したりするようなアクティブな行動のイメージが強いかもしれない。布団の中でウダウダしてるだけなんて、「革命」には最も程遠い態度だ…と普通は思うだろう。だが本書『布団の中から蜂起せよ』は、「布団の中で」ただ生き延び、虚無に満ちた日々をやりすごすこともまた、弱者を抑圧する社会への反抗であり、いつか革命にも繋がりうる、れっきとした「蜂起」である…と、著者自身のパーソナルな経験や苦しみも織り交ぜながら説いていく挑戦的な1冊だ。

この歪んだ自己責任論に満ちた、資本主義的な「生産性」ばかりが重視される社会では、日々を無為に過ごすことはほとんど「罪」でもある。ゆえに、実際には社会の側にいくら歪みがあったとしても、そこにうまく参加したり順応したり"活躍"したりできない「布団の中」の人々には、「おまえが悪いのだ」と無言/有言のプレッシャーが日々かけられてしまう。

だが著者は搾取的・差別的な体制や権力システムを根本的に疑い、批判していくアナーカ・フェミニストとしての立場から、そんな抑圧にNOを突きつけていく。家父長制や天皇制や資本主義へのラジカルな批判に対して、必ずしもすんなり同意する読者ばかりではないかもしれない。しかし「今日も何もできなかった…」と"布団の中で"自分自身を責めてしまう人が、本書を読むことで「本当に自分が悪いのか?」と別の視点を持ち、苦しい今日を生き延びる力をもらえる本であることは間違いない。そしてそんな個々の変化はいっけん小さくても、もしかしたら大きな波を引き起こすかもしれない。それは確かに、「革命」の名に値する変化であるはずだ。

『布団の中から蜂起せよ』はエッセイ的な論考と織り交ぜて、ポップカルチャーの鋭いレビューも色々載っているのだが、特にゲーム『ナイト・イン・ザ・ウッズ』の(著者の"地元"への複雑な想いも織り交ぜた)読解はとても心打たれた。私も本当に大好きなゲーム…なのだが、制作陣がやらかしたアレコレが辛くて後味悪くて、ちょっと心の片隅に封印していたのだった。だが本書を読んで、久々に遊び直したくなったし、現実の色々な問題はなかったことにできないとはいえ、素晴らしいゲームだったな…と再実感した。半額セール中なので遊んでみてほしい…↓

t.co

それと私もめちゃくちゃ大好きな『ピエタとトランジ』の熱いレビューもあって嬉しくなった(『マイ・ブロークン・マリコ』と並べて語るの、なるほどな…と)。危険な女性探偵コンビ(?)の生涯を若いときから老年期まで描く小説で、ものすごい軽さで人がいっぱい死ぬけど最高の作品。こっちもみんな読んでほしい。

あと完全たまたまだけど『布団の中から蜂起せよ』と同時に『蜂と蟻に刺されてみた―「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ』を読み返していたので、タイトルに「蜂」が入ってる全然ちがう分野の本2冊を同時に読んでいるという珍しい事態になった。というか「蜂起」に蜂の字が入っているの少し興味深いよね。蜂起=「蜂のように起つ」…。昔の人は、蜂の小ささとその怒りの激しさに、抑圧に対して立ち上がる一般市民の姿を重ねたということなのか。やっぱこれからはハチが熱いな(?)

購入→『布団の中から蜂起せよ』

 

『女性の世界地図: 女たちの経験・現在地・これから』ジョニー・シーガー

www.akashi.co.jp

フェミニズム繋がり…というわけではないが、『女性の世界地図: 女たちの経験・現在地・これから』もインパクトのある有意義な本だった。

ジェンダー・ギャップ指数ランキングで日本は153ヵ国中「121位」とヤバイくらい低いだとか、特に経済や政治分野でのジェンダー平等への取り組みが(先進国どころか)世界的にみても遅れている…といったことは近年よく耳にするようになったし、日本で生きる人にとっても実感できる事実なんじゃないかと思う。

ただし、そうした社会の歪みが、日本固有のものなのかと言えば(むしろそうなら良かったかもだが)そうではない。女性が晒されている不平等は、日本も含めた全世界が向き合い、解決すべき大問題としか言いようがないことが、本書『女性の世界地図』をパラパラ眺めているだけで直感的に理解できるだろう。

本書では、世界の女性にとって「どんな問題が」「どこで」「どの程度」起きているのかが、カラフルな地図や図版を使いながらわかりやすく、しかし赤裸々に暴き出される。たとえばこんな感じ↓

これは「国政における女性議員の割合」を色分けして地図化したデータである(緑色が濃いほど女性の政治進出が遅れている)。政治の領域において、女性の進出がいまだに全くもって不十分であることがパッと見でわかるはずだ。我らが日本の後進っぷりが可視化されてしまい恥ずかしいわけだが、その一方でアメリカとか「先進国」とされる国でもけっこうダメなんだな…という現状が見えたりする。むしろ失礼ながら、イメージ的にはちょっと意外な国で、女性の政治的な進出が進んでいたりする(紫で表現)のも興味深いところだ…。

これはあくまで一例で、数字で表現できる信頼できるデータを引用しながら、他にも「結婚」や「出産」や「暴力」や「教育」にまつわる世界地図がたくさん掲載されている。どのページを見ても「世界的にはこんな感じなのか…」という発見があるという意味で、(あくまで現時点での最新データではあるが)何度も見返せる内容になっていると思う。広大で深刻なジェンダーの問題について、有用なデータを携えて筋道立てて考えるためにも、本書は適切な「地図」(文字通り)になってくれることだろう。

購入→『女性の世界地図: 女たちの経験・現在地・これから』


『30年にわたる観察で明らかにされたオオカミたちの本当の生活 パイプストーン一家の興亡』ギュンター・ブロッホ

オオカミ本に目がなく、見つけるたびに読んでいる私であるが、またも良い本に出会うことが出来た。『30年にわたる観察で明らかにされたオオカミたちの本当の生活 :パイプストーン一家の興亡』である。タイトルは妙に長いが、オオカミへの様々な思い込みを覆してくれる真摯な動物本であった。

2008年〜2009年、カナダ・バンフ国立公園のボウ渓谷に、オオカミの一家が突如として現れた。一家はほかのオオカミを1年で一掃し、その後5年にわたり君臨し続けた。このオオカミ一家の複雑で繊細な暮らしを、オオカミ研究の権威であるギュンター・ブロッホと、野生動物写真家のジョン・E・マリオットらが、忍耐強く観察していく。その結果見えてきたのは、「アルファ雄」「序列」「パック」など、従来のオオカミにまつわる固定観念をひっくり返す生き様だった。

例えば「強いオスが"アルファ"として群れを支配する」など、なんとなく知られているオオカミ生態は、あくまで人間が観察のため囲いに閉じ込めた、非常に特殊な状況の群れの話にすぎないと指摘。開かれた自然では、より多様で複雑だという。「アルファ」から「オメガ」といった、従来の一律的な序列の概念では、オオカミの繊細な社会をとらえきれないのである。

『30年にわたる観察で明らかにされたオオカミたちの本当の生活』で指摘された、人間の都合で狭められた条件で動物を観察し、さらに人間社会のバイアスを当てはめて生態を結論づける…というような、知的怠慢ともいえる態度は、オオカミに限らず色々な領域で起こってるのかもなと思うし、だからこそ常に問い直しが必要になってくる。

さらに『30年にわたる〜』では、観光事業の拡大がもたらしたオオカミたちの生活の変化など、
人間社会や人の行動がオオカミに与える悪影響を批判的に見ていく。シビアな話ではあるが、人間と動物の健全な関係を考える上でも、無視できない大事な内容である。

類書(判型も同じ)としては『オオカミたちの隠された生活』があり、これも読みやすく真摯な現代的オオカミ本でオススメ。

「アルファオス」みたいなオオカミ概念に実は人間側のバイアスがかなり入ってた…という話は『狼の群れはなぜ真剣に遊ぶのか』(これも良い本)でも取り上げられていた。実際の被害以上に膨れ上がった「恐ろしい動物」としてのイメージもまた正確な認識を妨げているんだろうな。

ちなみに『30年にわたる〜』には、拙著『ゆかいないきもの超図鑑』でも描いた「オオカミとカラスの共生」についても言及がある。童話みたいな関係に思えるかもだが、ちゃんとした科学的な裏付けもあるのです。カラスを「オオカミの目」と呼んできた先住民族は正しかったのだ。

Twitterでは他にも色んなオオカミ本を紹介したが、なんか自分でも整理したくなってきたので、そのうち別個にオオカミ本まとめ記事でも作ろうかな。いったんここまで。

購入→『30年にわたる観察で明らかにされたオオカミたちの本当の生活 :パイプストーン一家の興亡』

 

今回はこんな感じ。こういう読書メモ自体は続けたいが、5〜6冊紹介するだけでも8000字超えてしまい地味に大変なので、またちょっとやり方を考えるかもしれない。やっぱ映画みたいに1冊ずつ紹介のほうがいいかな。まぁしばらくは続けてみようかな。気になる本があったらリンクから買ってみてくれたら励みにはなります(amazonアソシエイト入ってるのでオススメした本が買ってもらえると数字でわかるので嬉しいのであった)。おしまい〜〜〜