沼の見える街

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菌も金もやばい。ドラマ『THE LAST OF US』第2話感想(ネタバレあり)

HBOドラマ版『THE LAST OF US』、1話に続いて2話もめちゃ面白かった〜。好きなコンテンツの実写映像化でこれほどテンション上がること自体かなり珍しい、なんなら人生初かも…?くらいあるので、前回に引き続き感想を書いていく。毎週やるかは気分次第。

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前回の感想はこちら

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ちなみに今回の第2話“Infected(感染者)”は、原作ゲームのクリエイターであるニール・ドラックマンが監督を務める回という意味でもかなり重要である。

 

ーーーネタバレ注意ーーー

 

【わくわく菌類ドラマとしてさらなる高みへ】

2話の開幕早々、舞台は驚きのインドネシアへ。ゲームの『THE LAST OF US』は、基本的に「ジョエルの視点」で統一されているため、舞台となるアメリカから離れた視点もほぼ全く挟まらないこともあり、アメリカ以外の「ラスアス菌」パニック(の前兆)の様子が描かれるだけでもかなり新鮮である。

軍に呼び出された菌類学者の中高年女性が、謎の菌類に乗っ取られたと思しき人間の死体を観察する(もう皆あっさり流してそうだけど、この役回りの人が女性なのやっぱイイよなと思う)。感染者の口から菌糸がモゾモゾ出てくるのはドラマ版のオリジナルな設定だと思うが、ビジュアル的におぞまし怖いし、この菌が「生きもの」であることがゲームよりも強調される形になっているのも興味深い。

そしてこの菌類のヤバさを目の当たりにした専門家が、軍のエライ人に「結局どうすればいいんだ?」と問われて告げる、「爆撃しなさい(Bomb)」という言葉の衝撃。「ワクチンも治療法もない、爆撃して皆殺しにするしかない」という宣告の絶望感に凍りつくエライ人…。「ウイルスならまだワクチンもできるけど、真に凶悪な"菌類"が感染を広げ始めたら、人間にはなす術もない…」ということなのか。

1話冒頭のTV番組もだが、「何かとんでもなくヤバいことが起こる前の静かな不穏さ」とか「事態がヤバすぎることを専門家だけが気づいている絶望感」のような嫌な表現が、このドラマはかなり巧みだ。まさにそういうドラマの大傑作『チェルノブイリ』のクリエイターであるクレイグ・メイジンが関わっていることも、この雰囲気作りに大いに貢献しているのだろう…。ちなみに『チェルノブイリ』もU-NEXTで見られる。

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緊張感にあふれた素晴らしい冒頭だったが、一点だけ気になったのが、現在進行で新型コロナに結びつけたヘイトにアジア系が晒されていることを考えると、これでもし東南アジアが「ラスアス菌」の発生源ってことにされてたら(フィクションとはいえ)イヤだな…とは見ながら思った。ただ、そういうことでもないっぽいので少し安心。結局ゲームでもまだラスアス菌の源泉って描かれてないと記憶してるけど、ドラマではそこも深掘りしていくのかな。

 

さっきも言ったようにドラマ版『THE LAST OF US』では、人類を滅ぼしつつある脅威がウイルスや呪いではなく、「菌」であることの必然性と、だからこその恐ろしさが原作ゲームよりも強調されている。

たとえば今回、最も鮮烈だったショットは、建物のバルコニーから、遠くの地面に寝そべる大量の感染者たちを眺めるシーン。それらがマスゲームのように、各個体が動きをあわせてゴロゴロしていく姿が、まるで「蛆虫」のような動きで、まったくイヤなことを考えるなぁ…と一瞬思ったのだが、実はそれは感染者たちの「生態」を表していることがわかる。

つまり感染者たちはバラバラのゾンビというよりは、集団で一つの「生きもの」を形作るような生態をしている。地中では物理的に張り巡らされた「菌糸」で互いに繋がっていて、独特のコミュニケーションを取っていて、遠く離れていても菌を踏んづけたりしたら察知して駆けつけてくる、という油断ならなさもある。逆に、だからこそ炎が弱点というのも現実味があるわけだが。

ゾンビと言えば基本的にはウイルス由来の設定が多いと思うけど、ウイルスという「生物か非生物か微妙」な存在ではなく、菌というハッキリと「生きもの」である存在だからこその怖さを描こうという意志を明確に感じるし、「わくわく菌類ドラマとしてやっていくぞ」という気概がある(?)ので、生き物好きとしてもやはり目が離せないことになりそうだ。個人的にも今「菌」に興味あるし…↓

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そんな恐怖のわくわく菌類ドラマを象徴するような恐怖キャラとして今回、満を持して登場したのが、みんな大好き「クリッカー」だ。

Twitterでハッシュタグつけてタイトルをつぶやくとクリッカーの絵文字が出るよ↓

本作を象徴する敵キャラであるクリッカーの初登場は、とても重要なだけあって、緊迫感のある秀逸なシークエンスになっていた。菌糸だらけの博物館に入った直後、何者かに殺された死体を見つけるわけだが、普通の感染者とは明らかに違う力で惨殺されている…。「まさか"ヤツ"がいるのか…」と不穏な空気を出すジョエルとテス。「ここからは"静かに"じゃなくて"音を出すな"」というジョエルの警告も緊張感を高める。そして奥へと進むにつれて、静まり返った空間についに鳴り響く「ココココ…」というあの独特の"クリック音"。キノコ化が進んで強化された"感染者"・クリッカーの登場である! 一連の流れが丁寧かつ周到だったこともあり、その満を持した出現には恐怖と同時に「待ってました〜!」とテンション上がった。

クリッカーは頭の上半分がキノコ化していることもあり、視覚は失っているのだが、そのかわり非常に優れた聴覚をもっている。特有のクリック音は(イルカやコウモリなどのように)その反響で周囲の状況や、獲物の位置を察知する目的があるのだろう。さらに、キノコ化した頭が(メンフクロウのように)ある種のパラボラアンテナのような役割を果たすことで、外界の小さな音でも決して聞き逃さない能力を持っていると思われる。原作ゲームでもクリッカーに捕まった場合は(通常の感染者と違って)一撃ゲームオーバーとなる攻撃力があるだけでなく、なかなか死なないタフな生命力まで持っており、ロクな武器もない序盤では非常に厄介な敵として印象的だった。

遭遇から始まるvsクリッカーのゾンビバトルも、近年のゾンビものの中でも屈指の緊張感が充満しているとともに、ゲームプレイ的な臨場感さえも感じさせる(ついスティックをゆっくり倒したりボタンを連打したくなってしまう…)、大変クオリティの高い出来栄えでゲームファンとしても満足だ。この辺りはさすがニール・ドラックマンが監督してるだけある、と言うべき力の入り方だった。

ところで今回、前半のエリーとジョエルたちの雑談の中で話題に出たクリッカーがいきなり登場したわけだが、もうひとつ話題に出た「胞子を飛ばしてくるヤツ」であるブローターも間違いなくドラマで描かれるはずなので、今から楽しみである。急に飛び道具を使うので初見では「ふざけんなや」と思ったものだ…。

 

【菌もヤバいけど金のかけ方もヤバい】

1話に続いての称賛だが、やはり美術が圧倒的に素晴らしく、なんて美しいドラマなんだ…とため息が出てしまう。実際この「美しさ」こそは、原作ゲームの最大の特徴でもあった。すでにPS5版にリマスターされた超美麗グラフィックなバージョンも出ているようだが(私は未プレイ)、元のPS3版の時点でもハッキリと「美しいゲームだ」と感じさせたので、グラフィックの質が云々というよりは、ロケーションの構築や、世界の切り取り方にこそ本作の「美」の真髄があるんだと思う。現に「ゲームの中のあの場所が妙に心に焼き付いて離れない」という場面を、本作をプレイした人には沢山思いつくはずだ。そうした美意識の賜物として(ホラー要素が強いにもかかわらず)ゲーム史上でも稀に見る美しい作品が生まれたのは間違いない。

そんなゲームの美学を、実写ドラマがここまで巧みに再現してくるとは、やはり想像以上と言わざるを得ない。確かに、細かく見るとゲームから削ったり変えたりしてるところも少なくない。倒壊ビルに全く入らなかったとか、議事堂手前の印象的な水場が省略されているとか、その他諸々。しかし本作がゲームと違いプレイ不可のドラマである以上、特にアクション面はゲームをそのままなぞってもダレるだけだし、むしろいくつかの要素を統合した結果、より鮮烈なイメージを観る者に与える場面が出来上がっていたと思う。

とりわけ今回は、水没したホテルのロビーの場面が素晴らしかった。崩壊した文明の物悲しさと美しさ、エリーの子どもらしい性格描写、びっくり描写と、限定空間を利用して起きる短いシークエンスの中で、様々なものが表現されている。ピアノの鍵盤にカエルが乗って音を奏でるショットも、ちょっとしたユーモアがあって素敵だ。

それにしても、この短いシーンのためだけに、ここまで凝ったセットを作り上げるとは、なんつー金のかかったドラマだ…と思わざるを得ない。HBOドラマの本領発揮というべきか、各話の制作費が10億円とかいう、ちょっと桁違いの金をかけているだけのことはあり、ほぼ全てのシーンが「こんなに贅沢で大丈夫なのか」と心配になるようなリッチな画作りをしている。同じくHBOの『ゲーム・オブ・スローンズ』とはまた違った意味での金のかけっぷりを感じさせる豪奢な作りだ。もちろん、制作費をかけたわりにはなんかショボイみたいなことも映像業界には多いので、あくまで優秀なクリエイターが正しい金の使い方をすればこうなる、という話なんだろうが…。なんにせよ、もはや物語云々というか、ゲームのあの場所をどう再構築するのかを見るためだけでも、毎週楽しみになってくる。

 

 

ーーーさらにネタバレ注意ーーー

 

【ザ・ラスト・オブ・テス】

2話を締めくくるのが、テスの哀しき最期である…。ゲームとほぼ同じ展開なので驚きはないとはいえ、アナ・トーヴさん演じるタフで実在感あふれるテスが、たった2話でめちゃ好きなキャラになっていただけに、話を知っているにもかかわらず普通に退場が悲しい。はあ……。ここで彼女が生き残っていたら、『THE LAST OF US』はまた違う物語になっていたんだろうか。だが最後まで自分の良心を貫き、大きな希望を誰かに託しながら逝けたという点で、マジで容赦なく人が死んでいく『THE LAST OF US』世界の中ではかなり幸福な部類の最期とも言える。

前回の感想でも書いたが、テスのキャラクターの再造形のハマりっぷりを見るだけで、本作の実写リメイクの意義深さを感じ取れるレベルだったし、もはや(ゲームのテスにも深い思い入れがあるにもかかわらず)こっちのドラマ版のテスでゲームの方もプレイしたくなってくるほどだ。ドラマの人気が高まれば、未来では「実写版のキャラ造形でプレイ」設定もできるようになったりして。

ところでゲームではテスの最期はハッキリと描かれることはなく、敵の軍勢に取り囲まれた後に銃声が鳴り響くことで間接的に死が表現されていたが、ドラマ版のテスの散り際はけっこう違っていたので意表を突かれた。まず(話をシンプルにするためもあるだろうが)人間ではなく感染者たちを食い止める流れになっている。

さらに、感染者になりかかっているテスに、別の感染者が口移しで「菌糸」を伸ばしてくるという、かなりおぞましい絵面の場面が追加されている。わりと性的な暴力性も感じさせる変更点なこともあり、もしかすると賛否あるかもしれないが、これによって直後の爆発がより大きなカタルシスを生んでいて、彼女の最期が一層インパクトの強いものになっていたと思う。また感染者を操る「菌」がもつ、先述した「生きもの」的なキモさというか、生理的にイヤ〜な感触を強調するという意味でも上手いと思った。

 

原作ゲームでも、こうしてテスが退場するまでが長い「序章」というか「チュートリアル」であり、ここから人類の命運を賭けたジョエル&エリーの2人の旅がいよいよ幕を開ける。序章の時点ですでに素晴らしいと言わざるを得ないドラマ版だが、「本番」に突入し、さらにヒートアップしていくのが楽しみだ。「わくわく菌類ドラマ」としての掘り下げからも目が離せない。U-NEXT独占配信だけどドラマ好きはぜひ見よう↓

『THE LAST OF US』U-NEXTで視聴

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