沼の見える街

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カモの晴れ舞台ですわ。『FLY!/フライ!』感想&レビュー(byカルガモ令嬢カモミール)

ごきげんよう、わたくしはカルガモ令嬢の「カモミール」ですわ。カルガモ令嬢とはいったい…?と訝しんでいる貴方は、以下↓をご参照くださいませ。

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なぜ高貴なるわたくしが、庶民のブログの映画レビューにわざわざ出向いたのか…? 何を隠そう、このたび待望のカモ映画『FLY!/フライ!』が公開されたからですわ。

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カモは人間にとってたいへん身近な野鳥ですが、物語の主人公になることはめったにありませんわよね。そんな中、カモの一家の「渡り」を描くアニメ映画『FLY!/フライ!』が公開されると知り、わたくしも羽折り数えて待ちわびていましたわ。

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鳥アニメ多しといえど…

鳥をフィーチャーしたアニメーション作品には、それなりに長い歴史があるんですの。古典としては、宮崎駿にも大きく影響を与えた、ポール・グリモー『王と鳥(やぶにらみの暴君)』が有名ですわね。

王と鳥

王と鳥

  • ピエール・ブラッスール
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アニメーション技術の発展に伴って鳥の表現も大幅に進歩していき、ピクサーの短編CGアニメ『ひな鳥の冒険』では、ミユビシギの動きを信じがたい細やかにアニメで再現していました。めちゃカワですわね。

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フクロウを主役にしたフランスの2Dアニメ長編『シュームの大冒険』も、リアルタッチと可愛さのバランスが素晴らしい出来栄えでしたわ。配信などで気軽に見られるといいのですけれど…。

もっとカジュアルな作品でも、鳥が主役の長編CGアニメといえば『コウノトリ大作戦!』なんかも記憶に新しいですわね。

自分をネズミと思い込んでいるコマドリを主人公にした、アードマンのアニメ『ことりのロビン』も凶悪なまでにカワイイ作品でしたわ…。

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そして日本でも、まさかのアオサギを大フューチャーした『君たちはどう生きるか』が鳥界を震撼させたばかりですわね。『The Boy and the Heron(少年とサギ)』という英語タイトルで海外公開されて、先日アカデミー賞も取りましたし、世界中のサギファンは大歓喜でしょうね。インコ好きの皆さんは多少怒っていましたが…。

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文化を愛する高貴なカルガモの一員として、わたくしもこうした鳥アニメの良作を楽しんでいましたが、「いつになったらカモがフィーチャーされるんですの?」と、煮えたぎる紅茶のごとく業を煮やしていたのは否めません。鳥のキャラクターにもダイバーシティを求めたいところですわね…。

とはいえ最近は、ゲーム『ポケットモンスター』新作の最初にもらえる3匹、いわゆる「御三家」にカモのポケモン「クワッス」が選ばれたりもして(↓こちらの記事で詳しく語られていますわ)、ひそかにカモの夜明けが訪れつつあったとは言えますけれど…。

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そんな中、ついに正真正銘のカモ映画『FLY!/フライ!』が公開されるとくれば、初日に駆けつけざるをえませんわ。すでに3月中盤で、お友達の鴨々(かもがも)がだんだん北に渡り始めてちょっぴり寂しかっただけに、良いタイミングとなりました。「渡りに船」ならぬ「渡りにカモ」と言ったところかしら…。

 

カルガモ令嬢が見る『FLY!/フライ!』のカモ描写

というわけでさっそく『FLY!/フライ!』を、カモ視点でレビューしていきたいと思いますわ。(作品のネタバレは控えめにしておきますが、内容に触れる場合は注意表示を出しますわね。)

まず、本作の主人公となるカモは「マガモ」という種類のカモですわ。『FLY!/フライ!』はアメリカで作られたアメリカが舞台の映画ですが、このカモはきっと日本のみなさんもよく目にしているカモしれませんわね。というのもマガモは北米だけでなく、日本を含むユーラシア北部にも広く生息するカモなのです。

カモの絵文字を打ち込むとマガモのイラストが表示されることが多いようですし(機種にもよりますが)、マガモは世界的にも「THE・カモ」とでも呼ぶべき、カモの代名詞的な存在と言えますわね。カルガモとしてはちょっぴり悔しいですけれど…。

『FLY!/フライ!』の主人公・マックや息子・ダックスのように、マガモのオスは綺麗な緑色の頭、黄色いくちばし、首の白いリング…という鮮やかな色彩を有していますわ。本作のパムのように、メスはちょっぴり地味なブラウンなので、あまりカモを見慣れない方は、わたくしカルガモと区別がつきにくいカモしれませんわね。

ちなみに子ガモとなると、カルガモとマガモはとてもよく似ているので、さらに見分けにくいですわ! マガモの子は、本作のグウェンのようにくちばしの色が黒いので、カルガモのひな(くちばしの先端が黄色い)と見分ける際はそこに注目しましょう。

 

こうしたマガモの一家が、アメリカ・ニューイングランド州の小さな池で、天敵の恐怖に怯えながらも楽しく暮らしていましたが、ひょんなことから初めての「渡り」にトライ!というのが本作のざっくりあらすじです。

ところでカモが空を飛ぶ映画で『FLY!/フライ!』とはずいぶんなド直球タイトルですわね、と思いましたけれど、英語の原題は「Migration(渡り)」なので、こっちもこっちで直球ですわね。子ども向けアニメのタイトルになるくらいだし、アメリカではMigrationという単語がかなり普通に人口に膾炙しているのかしら…。「国境を超えた人間の移住」を表すImmigrationと違って、Migrationは人間や動物の「移動」をより広く表す言葉ですわ。

人間には普通「渡り」の習慣はない(ある人もいるカモですが…)と思いますので一応説明しておきますと、鳥たちは繁殖や越冬を目的に、異なる生息地の間で季節ごとに移動をする行動…つまり「渡り」を行うのですわ。こうした鳥が「渡り鳥」と呼ばれ、鳥類の約40%に相当すると言われています。日本でも様々な鳥たちが、どの季節にやってくるかによって、「夏鳥」「冬鳥」などと分類されていますね。なお、マガモは日本では「冬鳥」…つまり冬に渡ってくる鳥として知られています。

そして残り60%の「渡り」をしない鳥は、一年中同じ生息地で生きているのです。スズメやハトなどの身近な野鳥を筆頭に、渡りをしない鳥も沢山いますし、こうした鳥は「留鳥」と呼ばれます。かくいうわたくしカルガモも、渡りをしない「留鳥」カモの代表格なのですわ。日本の皆さんは、素敵な鳥に一年中会えて幸せですわね。

マガモは一般的には渡りをする鳥なのですが、本作のマガモファミリーは、どうやら一度も渡りをしたことがないようです。マガモの中では変わり者と言えそうですわね。とはいえ、実は現実のマガモも、みんながみんな渡りをするわけではありません。現に日本でも、北海道など一部地域では、冬になっても渡りをせずに繁殖するカモたちも多く見られるようですし…。

こうしたカモたちは、なにも本作のマックのように怯えていたり、出不精だったりするわけではありません(たぶん)。地域によっては冬になっても十分にエサが確保できる場合、わざわざ渡りをするメリットが少ないという合理的判断もあるのでしょうね。

また気候変動が進む中、カモたちの移動パターンに変化が起きているようで、まさに本作のマックたちのように「いいか、渡りなんかしなくても…」と「定住」派に鞍替えしてしまうカモもいるようです(本作の製作者であるクリス・メリダンドリもこうしたニュースでカモに興味を持ったとのこと)。同じ種の中でも行動に多様性が見られることを描いている点では、本作のマガモ描写は科学的に正確と言えるカモしれませんわね。

今回、そうした科学的な事実と、全年齢向けアニメとしての「嘘」=ファンタジーの部分の兼ね合いをどうするのかしら?と、カモとして注目していたのですが、そのバランス感覚が現れているのは、カモたちのキャラクターデザインですわ。

主人公のカモ一家のデザインを見ても、おおむね実際のマガモの色合いや体格、美しい翼鏡(よっきょう:カモ類の次列風切の部分で青や緑など綺麗な光沢をもつ)といったポイントを巧みに再現しながらも、ちょっとずつ「嘘」を混ぜることで、アニメ的に親しみやすいキャラクターを作り上げていますわ。一例としては、マガモには本作のマックやダックスのように、ぴょんと伸びる頭の「寝癖」のような冠羽はありませんが、「あったほうが可愛いよね」と判断したのでしょう。

くちばしに関しても、ちょっとした「嘘」に気づきますわね。現実のマガモのオスのくちばしの先端には黒いもようがあるのですが、なぜか省略されていました(アオサギのくちばしの先端に、実際にはない赤色を追加した『君たちはどう生きるか』と対象的ですわね)。また、現実のマガモのメスのくちばしは橙と黒が入り混じった色合いですが、パムのくちばしは黒一色にシンプル化されていましたわね。

本作に登場する(マガモ以外の)他のカモの描写もなかなか興味深かったですわ。序盤でマックたちが住む池にやってくる、青い頭のカモはどなたかしら…?と思って調べたのですが、実は本国の鳥好きの間でもはっきりとした答えは出ていないようです。ブルーの背中と冠羽をもつ点から判断すると、アメリカオシ(Wood duck)が有力のようですが、本当にそうならデフォルメとしてはかなり大胆…というかほぼ別物と言えますわね。顔や胸の複雑な模様をばっさりカットしてるわけですから…。

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わたくしカモとしてはせっかくなら(マガモと同じくらいの)最低限のデフォルメ感で、実在するカモの姿を描いてほしかった気もしますが、あえて非常にシンプルな色合いの「準リアル」なカモを作り出すことで、観客が視覚的に混乱することを避けたのカモ…?と思うと、思い切りの良さも感じますわ。

こうした「リアル」と「ファンタジー」を柔軟に行き来する姿勢は全編にわたって見られますね。ここで注目すべきは、本作『FLY!/フライ!』の監督が、『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』(2012)のバンジャマン・レネールだということです。

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ヨーロッパアニメーション的な美しさと楽しさにあふれた動物ファンタジーの名作を手掛けた監督が、『FLY!/フライ!』のような全年齢CGアニメに抜擢されるとは少し意外でした。パンフレットを見るまで全く気づきませんでしたわ!

しかし振り返ってみれば、『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』でも見られた、クマやネズミの動物学的な特徴の再現と、親しみやすいアニメ的な擬人化を両立する手腕は、本作『FLY!/フライ!』でも存分に発揮されていましたわね。

製作のクリス・メレダンドリも、キャラ造形の際に「何も手を加えなくても、カモはもともと面白くて漫画的な生き物だ」と力説したようです。スタジオに本物のカモを用意して、その飛び方や動き、泳ぎ方といった特徴を観察したというので気合が入っていますわね。駐車場にスタッフ全員が集まって輪を作り、その真ん中にカモを置いて、じっくりその行動を観察したのだとか…。なんだか楽しそうですわね(カモ的にはシュールな状況だったでしょうけれど)。

このような研究を通じて、いわば現実のカモという「素材を活かす」形でその魅力を発揮する方向性になったのは、カモとして喜ばしいことです。特に、いよいよ旅立ちを迎えたマガモ一家が「飛翔」するシーンは、現実のカモの飛行がいかにダイナミックかをアニメ的に表すことで、ありふれているはずの「鳥の飛行」というアクションが持つ気持ちよさを実感させる名場面でした。シンプルに、鳥ってすごいな…!と色んな人が思ってくれることを願いますわ。

 

カモだけじゃない!『FLY!/フライ!』の鳥たち

カモたちの旅路の中にも、鳥をトリ囲む「現実」と、「ファンタジー」の合間を縫った面白い描写がたくさんありましたわ。

旅の最初に出会うサギのエピソードも、なかなか強烈でした。細長い首や体や足、そしてくちばしを大胆にデフォルメした、相当アクの強いデザインのサギ「エリン」が登場します。冠羽や顔のもようなど、日本のアオサギによく似た鳥のようですが、舞台がアメリカなので正確には「オオアオサギ」だと思われますわ。つい先日アカデミー賞をとった『君たちはどう生きるか』と本作で、やたらクセの強いアオサギを短期間で2回も見ることになってびっくりですわね…。

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このサギ「エリン」は、なかなか恐ろしい風貌と雰囲気を備えています。本作の冒頭で、マックが子どもたちに聞かせていたおとぎ話では、サギをまるで血に飢えたモンスターのように語っていました。

野鳥に詳しくない人は、なぜカモがサギをそんなに怖がるの?と不思議に思う人もいるかもしれませんが、実はサギは本当にカモのひなを捕食するのです! ネットで調べると、カルガモのひなをアオサギが丸呑みする、まさにその瞬間の映像も見つかりますが、カモはもちろん心臓の弱い人間の皆さんも閲覧注意ですわ…。わたくしもうっかり見てしまって、普通にショッキングすぎて3日は悪夢にうなされました…。汗ダックだくでしたわ(ダックだけに)。

↓そういえばカモスタンプにもそのシーンが含まれていますわね…悪趣味ですこと。

そんな現実の自然界に存在する「カモとサギの間の緊張関係」を生かしたサスペンスが展開される、アオサギの宿のシーンは、羽に汗握りながら見ました…!  と同時に「見た目や先入観の判断」を戒める、真っ当なメッセージが込められたシーンでもありましたね。まぁわたくしは、現実でオオアオサギに出くわしたら速攻で逃げてしまうカモですが…(ちなみにこのシーン、監督の日本での滞在経験がモデルになってるんだとか…。)

 

旅の中で出会う鳥といえば、ハトも印象的でしたわね。

人間にとって、とても身近な野鳥であるにもかかわらず(だからこそ?)カモと同じくらい…いえ、それ以上にナメられてる鳥、それがハトですわ。しかし本作では、ハトのリーダーであるチャンプ(原語の声はオークワフィナさん!そういえば『リトルマーメイド』でも鳥を演じていましたわね)を通じて、大都会のジャングルで逞しく生きる鳥として、ハトの姿を描いていました。

よく見ると片足に障害があったりしつつ(ハトはよく猫や猛禽に襲われたり、劇中で描かれるように交通事故に巻き込まれることも多いので…)、その鋭い知性と心の広さでタフに生き抜いてきたチャンプは、ハトのステレオタイプから逸脱した魅力的なキャラクターでしたわね。

↓ハトをナメてる人間の皆様はこちらもご覧くださいませ。

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ハトが活躍するニューヨークの場面は「鳥と人」の関係を通じて、人がすむ都会を別の視点から眺める点でも興味深いものでした。爽快な雲の中の飛行シーンに続いて、巨大な化け物のように霧の中から浮かび上がってくる船、そして「異界」として立ち現れる街…という幻想的な場面はとりわけ忘れがたいですわ。

注目したいのは、マックが飛びながら「窓ガラス」に写った自分を見るシーンです。水面ならともかく、空を飛ぶ鳥にとって、飛んでいる自分の姿を目にすることは、人工物への反射以外ではありえない不可思議な事態です。そして窓ガラスは、実際に鳥にとって危険でもあります。

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先日、ニューヨークの動物園から脱走して街の人気者になったワシミミズクの「フラコ」が、おそらく建物に衝突した死んでしまったことがニュースになりました。アメリカだけでもなんと年間10億羽もの鳥が建物に衝突して死んでいる、というのだから驚きですわ…。おいたわしい。

渡り鳥の多くは夜に移動するので、都市の光に引き寄せられて方向感覚を失いやすく、昼は昼で光を反射する窓に衝突しやすくなるそうです。まさに「見えない壁」である窓ガラスは、都会が鳥にとって一触即発な危険を秘めた場所であるという事実を、象徴する物体と言えますわね。

また、レストランの場面で一家が出会う真っ赤なインコ「ギルロイ」は、ジャマイカ出身であることから「アカコンゴウインコ」だと思われますわ。密猟によって数を減らしていることが問題になっている鳥であり、飼い主の恐ろしいシェフ(すごいデザインでしたわね)も違法なルートで入手した可能性が大きそう…。彼を囚われの身から救い出すことが、「街」編のミッションとなっていきますわ。

現実への警鐘を鳴らす一方で、危険も刺激も山盛りな街のシーンは、やはり本作で最も楽しいくだりでしたわね。色とりどりのディスプレイが輝くビルの間を飛び抜けるシーン、スパイもののような潜入シークエンス(カモの焼死体が出てくるのでわたくしには普通にホラーでしたけど…!)、夫婦のホットなダンスの場面(カモは実際に相手の周囲をグルグル回る、踊りのような求愛行動をしますわ)など、見どころが沢山ありましたわね。森や池とは大違いの「街」という世界で、たくましく生きていく鳥たちの生命力を表すシーンとしても解釈できるカモしれません。

 

ーーー以下、若干ネタバレがあるので注意ですわーーー

 

アヒルとカモの…家禽ロッカー?

現実の人と鳥の関係を踏まえた物語を描くうえで、特に印象深かった本作の場面も語っておきますわね。マガモ一行が街を脱出した後、まるで「楽園」のような場所でアヒルたちに出会うシーンですわ。

実は、アヒルは本作の主人公・マガモと非常に関係が深い鳥です。というのも、野生のマガモを家禽(かきん:家畜の鳥のこと)化した鳥が、何を隠そう「アヒル」なのですよね。鳥ではセキショクヤケイ(野生)とニワトリ(家禽)の関係に近いです。人間の皆さんはイノシシ(野生)とブタ(家畜)のほうがイメージしやすいでしょうか…。

アヒルたちを率いる「リーダー」的なアヒル・グーグーは、そのふわっとしたトサカのような頭部から、「クレステッド・ダック」と呼ばれる品種とわかりますわね。

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ヨガをやったりプールで遊んだり、まさに「楽園」のような暮らしをアヒルたちは送っています。しかしこの「アヒルの楽園」が、実は食用のアヒルを育てるための農場だった…という、衝撃の事実が明らかになるのでした(まぁ直前の場面がレストランなので、大抵の人は想像つくのではと思いますけれど…)。

つい最近、Netflixでアードマンの名作『チキンラン』の続編である『チキンラン: ナゲット大作戦』が配信されたばかり。こちらも、まるで楽園のような世界で育てられているニワトリたちが、チキンナゲットにされる運命にあると判明…という恐ろしい展開がありましたね。

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『FLY!/フライ!』と『チキンラン: ナゲット大作戦』という、それぞれ人間に近い鳥を主人公にした近年のアニメ映画が、どちらも「食肉」という営みを通じて、人間による鳥に対する支配に抵抗する話を描いているのは、鳥としては胸がアツくなる展開ですわ。人間の皆さんは若干気まずくなるカモしれませんが、鳥のような動物の視点に立って物語を語る現代のエンタメ作品が、こうした現実社会の(動物から見た)支配や搾取の構造にふれることは、ある種の必然なのかもしれませんわね。批評マインドを重視する社会派カルガモのわたくしとしても、こうした要素はバッチコイですわ。カモン、と言うべきだったかしら…。

 

カモから目線のツッコミも…?

このように、現実の鳥の生態や、鳥をトリ巻く諸問題をうまく盛り込んできた本作ではありますが…あくまで子ども向けのエンタメ映画であり、鳥を思いっきり擬人化したファンタジーであることも、カモの立場から念押ししておく必要がありそうですわね。

まず基本的なツッコミとしては、本作のグウェンくらいの年齢の幼いカモのヒナが、長距離の「渡り」を行うことはありえないと思いますわ。しっかりと成長し、翼や筋肉が長い飛行に耐えるようになって、満を持して空の旅に出発することがほとんどでしょうね。かわいい子ガモのキャラクターが冒険する絵面が必要だったゆえの、やむをえない「嘘」かもしれませんわね…。

そもそも本作で描かれたような「なかよしファミリー」をカモが形成するかといえば、これも極めて怪しいですわね。カモの子どもたちがダックスやグウェンのような微笑ましい「きょうだいの絆」を形成することもほぼないと思います。寂しいようですが、鳥の「きょうだい」関係は、哺乳類よりずっとクール&ドライなのです。

そしてなんといっても、実際のマガモの父親はマックとは大違い。子どもが生まれてから…どころか、メスがタマゴを温めている段階で、オスはメスや子どもを放棄してどこかへ行ってしまうことがほとんどです。人間的な価値観で言うと「なんたるクズ男!」という感じカモしれませんが、カモ的にはこうした行動がごく一般的なので、怒らないであげてくださいませ。「夫婦」のあり方は鳥によっても大きく異なるので、ぜひ調べてみてくださいね。

↓ちなみにコアホウドリは「同性カップル」を形成したりもしますわ。

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賢明なる観客の皆さんには言うまでもないことでしょうが、『FLY!』のカモファミリーは、あくまで多くの人間が見て感情移入できるよう「理想化」して描かれたものということですわね。本作のように動物を擬人化したファミリーものを見ると、むしろ人間が「父・母・子」からなる「家族」という共同体をいかに重視しているかが伺えて、興味深いと感じますわ。それ自体は全く悪いことではありませんが、他の動物の「家族」のありかたも人間と同じだとは、くれぐれも誤解なされませんように…。人間という同じ種の中でさえ「家族」の形は様々なのですから!

 

まとめですわ。

こうした科学的な「正確さ」や「嘘」を程よく織り交ぜつつも、カモが主役の貴重な長編アニメーション、しかも完全オリジナル作品という「カモの晴れ舞台」として、本作『FLY!/フライ!』は立派にその役割を果たしてくれたと思いますわ。

鳥描写は散々語ってきたので、最後に本作の根本的なテーマに触れておきましょう。それは「未知の自分に出会うこと」。

本作の監督が『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』のバンジャマン・レネールであることは先述しましたが、あの作品と『FLY!/フライ!』には大きな共通点があります。それは冒頭ですわ。どちらの物語も「自分たちとは異なる他者」や「外の世界」に対する、偏見や誤解に溢れた「ストーリー」が語られることから始まっていますわよね。そして、そのように世界や他者を「決めつける」ストーリーは、実は自分たち自身を「決めつける」檻でもあることが、物語を通じて示されるのです。

そうした偽りのストーリーを脱するためには様々な方法があります。たとえば本作のマックたちのように、旅へ出て様々な他者に出会うこと。そしてカモのように身近な、しかし実は壮大な旅を繰り広げている生きものに目を向けることもまた、まだ見ぬ世界や自分自身に出会うための一歩かもしれませんわよ。ちょうど渡りの季節でもありますし、飛んでいるカモがいたらぜひ空を見上げ、はるかなる旅路に想いを馳せてくださいませ。

 

ーーーおわりーーー

 

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↑わたくしもいますわよ。我ながら高貴ですわね。

 

以下、有料記事として、このブログの運営者(ぬまがさ渡り…じゃなくてワタリ)が本作の雑感とか、ちょっとした文句(?)とかをつらつら書いているそうですわ。わたくしのタメになる文章とは違い、あくまで庶民による箇条書きの雑感なので、投げ銭感覚でお願いしますわね。投げ銭と言えば、わたくしがローマを旅行した際、トレビの泉に気持ちよくプカプカ浮かんでいたら(人間は立入禁止ですがカモなのでOKですわ)、小銭を投げてくる人々が大勢いて焦ったものですわ。しかも後ろ向きスタイルで投げてくるんですのよ。人間って不可思議ですわね…。

 

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