NTLive『ディア・イングランド』を観てきたが(シネ・リーブル池袋)とても面白かった。短めに感想&レビューを書いておく。
なんかここ数年くらいブログに、変に気合い入れた1万字とかの文章ばかり書いている気がして、書く方も読む方もたいへんなので、もう少しフットワーク軽く、Twitterの感想まとめ&メモ代わりにブログを使いたい思いが常々あり。ていうか本来はブログってそういうもののはずが…。なるべく2千字くらいでまとめたい。
NTLive『ディア・イングランド』鑑賞、とても面白かった。現役時代に大一番のPKに失敗した傷を抱える監督が、従来の「強さ」に縛られない新たなイングランド代表を作るため奮闘。明快な娯楽性と重厚な社会的テーマ性を両立し、「こんな話、演劇でできるんだ」という意外性も。舞台初心者にもイチオシ。 pic.twitter.com/hYvGa1X2wX
— ぬまがさワタリ (@numagasa) 2024年3月25日
『ディア・イングランド』の主人公はサッカーのイングランド代表の監督で、現役時代(96年のドイツ戦)に大一番のPKに失敗した傷を抱えている。そんな彼が、従来的な意味での「強さ」に縛られない、新たなイングランド代表を作るために奮闘する…という物語。
てっきりフィクションかと思ってたが、普通に実話ベースだったということに観てから気づくのだった。主人公のガレス・サウスゲートも実在のサッカー監督。有名人のようだがスポーツへの理解が低いので全然知らなかった。
イギリスの最新演劇を映画館で観ることができる素晴らしき企画「NTLive(ナショナルシアターライブ)」はたいてい面白いので、毎回ほぼ必ず行っているが、今回の『ディア・イングランド』は特に初心者にもオススメしやすい一本だなと感じる。
「PKの失敗」というトラウマを軸にした、誰が見ても面白さがわかりやすい明快なエンタメ性と、成果主義やレイシズムといったスポーツの問題点を通じた重厚な社会的テーマ性を両立した作品で、かつ「サッカーの試合を描く話とか、演劇でできるんだな…」という意外性もバッチリなので、初のNTLiveにもぴったりと思う。
NTLiveでやるような現代劇の中でも、描かれる出来事がごく最近というのもオススメしやすい点で、先述したように実際のサッカーイベントが元になっているため、サッカー詳しい人は私より楽しめるはず。まぁ逆に私は(本作で描かれる)18年や22年のW杯の結果すらウロ覚えだったので逆にハラハラできたのだが…。
本作『ディア・イングランド』、英国サッカーが舞台であること、従来的なマッチョイズムへの懐疑や抵抗、とりわけ男性のメンタルケアに焦点を当てている点、そうしたテーマ性をあえて成果主義やマッチョさが究極に幅をきかせる「男性スポーツ界」でやるという革新性は、やはりドラマ『テッド・ラッソ』を連想する。
↓前に書いたAppleTV+オススメ記事でも『テッド・ラッソ』は強めに推薦した。
私もW杯とか見てて、せっかく盛り上がった試合がPKで誰か失敗して終わる…みたいな展開を見ると(他に決着のつけようがないので仕方ないとは言え)「なんだか残酷でイヤだなぁ」と思っていたわけだが、失敗した人にのしかかる異常で過剰な重圧にこういう形でスポットライトを当てることは新鮮だったし「だよね」と思う部分も。そもそもPKのルール上、100%誰かしらは「失敗」して終わるんだから責めるのはおかしいだろ!と素人的にも思うわけだが…。
劇中で「今のイングランドに必要なのは、勝ち方ではなく、負け方よ」的な良い台詞があったが、「失敗」や「敗北」に(当事者だけでなく)周囲や社会がどう向き合うか…というのは重要だし、それを「結果が全て」なスポーツを通じて描くのは面白い試みだと思う。(そういや直近でも『ネクスト・ゴール・ウィンズ』があったな。)
『ネクスト・ゴール・ウィンズ』鑑賞。W杯予選で31-0で負けた「世界最弱チーム」アメリカ領サモアに、ワケあり監督が赴任して復活を目指す実話ベース映画。ワイティティ監督らしいおふざけ(としか言えない)を大量に挟みつつ、「実力社会」の片隅で負け犬扱いされ、嘲笑されてきた人々に光を当てる。 pic.twitter.com/m1gJHgUneH
— ぬまがさワタリ (@numagasa) 2024年2月26日
『ディア・イングランド』でも『テッド・ラッソ』でも共通して描かれる深刻な社会問題として、サッカー業界のレイシズム(人種差別)がある。アフリカ系やラテン系の人々をはじめ、多くのマイノリティがすでに欧州プロリーグで活躍しているわけだが、うまく行っているときはまぁいいんだけど、(たとえば試合でのミスやPK失敗のような)負の出来事をきっかけにして、人々のレイシズムが怪物のように顔を出すっていう。
ちょうど『ディア・イングランド』みた翌日に、現実の欧州サッカーでの人種差別がニュースになっていた↓(日本でも同様の事件は聞くけど)。
レイシズムがマイノリティの選手にプレッシャーを与えてパフォーマンスを低下させ、それがまた苛烈で差別的なバッシングの引き金になり…という最悪スパイラルは『ディア・イングランド』の中で、演劇の肉体性を活かした鮮烈な形で表現されていた。ちょっと見ていられないような緊迫感と絶望をひしひし体感させる凄いシーンだった…。
そんな現状を看過できない主人公やチームメイトは、人種差別反対を公言することになるんだけど、そんな当然の言動をしただけで「スポーツに政治を持ち込むな」「サッカーだけしてろ」的なことを(イギリスでさえ)言われるんだなっていう、いやな既視感がある。しかしそうした苦闘を経て、スポーツの場を活かして差別反対を訴えるアクションが巻き起こる、ひとつのきっかけを作ったという点で、重要な出来事でもあったようだ。イングランドサッカーの行き先というのを超えて、あらゆる意味で現在進行系の出来事を描いた現代劇として、とても見ごたえがあった。
そんな感じで短めにまとめてみたが、とてもオススメできる演劇作品。NTLiveはわりとすぐ終わっちゃうので近くでやってたらぜひ駆けつけてください。