沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

今週の気候ニュース:氷河崩壊が引き起こす地震と土石流の脅威

先週は明るい気候グッドニュースに触れてみたが、今週は再び、ド級の恐ろしいバッドニュースに触れざるをえない。

www.bbc.com

8月26日に発生し、ネパール・中国を襲った土石流のことだ。リンク先で動画も見られるが(BBCの編集で人が飲み込まれる瞬間は映ってないとはいえ)ショッキングなので一応注意してほしい。そこに映っているのは、山から打ち寄せる怒涛の鉄砲水によって、まるで怪獣に壊される特撮作品のセットのように、現実の建物や橋が跡形もなく破壊されていく様子だ。

ネパール観光局は29日、これまでに外国人261人を救出したが、320人がなお行方不明だと発表した。

中国のCCTVは30日、中国側の行方不明者546人のうち、261人は23カ国の外国人だと伝えた。

最新情報だと死者は700人近く、行方不明者も3000人以上の大惨事となった。災害の性質上、亡くなった人を特定することすら簡単ではなさそうな上に、この地域は世界中から人が訪れる土地でもある。日本含め様々な自然災害が続発する東アジアでも、史上屈指の大災害として扱われるのはほぼ確定だろう。

 

ちなみに災害発生時のショッキングな映像は中国では全く放送されていないらしい。そこには中国/チベット間の政治的な事情も絡んでいるようだ。

www.bbc.com

中国共産党は、今回のような惨事が住民の不満をあおりかねないと懸念しているだろう。災害の事後対応への不満、あるいは大災害を未然に防ぐための先見性の欠如に対する不満を、当局は警戒しているはずだ。

また、今回のような悲劇がもたらす影響や、それが住民団結のきっかけになる可能性も、中国政府は恐れているかもしれない。特に、信仰が長く中心的な役割を果たしてきた地域社会においてはなおさらだ。

中国共産党政府は、災害発生直後から救援活動自体は熱心に行っているようだが、BBCの記者が情報収集に苦労するほど、当局の厳しい規制によって、現地のネット上には災害画像も動画もほとんど見つからないという。

逆説的に、「中国政府が放送を許可できないほど甚大かつショッキングな気候災害」だと世間に示す形にはなっているが、情報収集をネットに全く頼れないとなると現地の被災者の苦労は増すばかりだろう。大災害と独裁的な政治体制が組み合わさった時のリスクのひとつと言える(日本も他人事ではないが…)。

 

そして一応は(雲行き怪しいとはいえ)言論の自由が保証されている国の一市民として、やはり強調しておかなければいけないのは、この大災害が気候変動/地球温暖化の影響によって発生した可能性が高い、ということだ。「可能性が高い」というかデータや状況証拠をみる限りほぼ確定じゃねーの、と素人目線では思うが、ここは科学者たちの厳密さ重視の姿勢を見習うとしよう。

 

現時点でわかっていることは、こちらのCNN記事に詳しい。

www.cnn.co.jp

「最も可能性が高い原因」として地滑りが上げられている。注目すべきは以下のポイントだ。

正確な原因の特定には数週間かかるが、巨大な氷河の塊が山からはがれ落ち、峡谷に落下したとみられている。

USGSはその後、揺れは、地震ではなく、この極めて強力な地滑りそのものが引き起こしたもので、その規模はM5.2の地震に相当すると説明した。

つまり、地震が氷河の地滑りを引き起こしたのではなく、地滑りが地震を引き起こしたのだ。

最後の一文はさりげないが、我々一般人の固定観念を揺さぶるような恐るべき内容でもある。まだ気候と結びつきやすい豪雨や台風と違い、地震はさすがに「人知を超えた」天災として扱われることが多いが、科学者の推測通りに人為的な気候変動が氷河の融解と地滑りを引き起こしたなら、その結果としての地震も人災ということになる。

 

ロイターの良いグラフィック記事↓(これも動画や写真がショッキングなので一応注意)

www.reuters.com

「氷河の下部が崩壊→雪崩が谷を下る→地すべりが下流で壊滅的な工事を引き起こす」という流れがよくわかる。

比較の図によって、ブルジュ・ハリファ(ドバイの世界最高の高さのビル)よりも高いというか大きな範囲(1km近く)の氷河が破断したと図示されている。これほどの規模の氷河が崩落したとなれば、地震さえも引き起こす破壊力を持とうというものだ…。

中国政府の地質学者によると、土石流は秒速約50メートルで流れ、20キロ以上にわたって広がった。人が反応できる時間はほとんどなかったという。

記事にもあるように中国・ネパールの国境の両側の湖が決壊してしまえば、被害がさらに拡大していく懸念もある。

ひとたび発生してしまえば「詰み」ともいえる大災害の原因については、繰り返しになるが、こうした専門家の発言を重く受け止めるべきだ。

ニュージーランド地球科学研究所の科学者サイモン・コックス氏は「気候変動は、高山地帯の岩石と氷を不安定化させる状況を生み出している」と述べた。

これにより、今週発生したような崩落や災害の連鎖がより頻繁に起こるようになっているという。

専門家は、気候変動を今回の土石流の単独かつ直接的な原因と表現することには慎重な姿勢を示す一方で、気温の上昇と氷河の融解が今回の災害に影響した可能性が高いとみている。

専門家が「慎重」なのはあくまで、気候変動が土石流の「単独かつ直接的な原因と表現すること」であることであり(これは異常気象の原因が気候変動「だけ」と断言する科学者がいないことにも通じる)、少なくとも気候変動が要因のひとつであることは間違いないだろう。

 

タイムリーなギフト記事を見かけたのでこちらも共有
「山々が崩れ落ちていく」(英語)

https://www.nytimes.com/2026/08/29/opinion/nepal-flood-glacier-melt-climate-change.html?unlocked_article_code=1.9FA.DJL-.eLQ7pmqwJGfd&smid=url-share

これは、寒冷な山岳地帯における新たな、そして方向感覚を失わせる危険の兆候である。氷河と永久凍土の急速な不安定化は、瞬く間に景観全体を変貌させてしまう可能性がある。こうした連鎖的な崩壊を引き起こすプロセスは複雑だが、その背後にあるのは人為的な気候変動である。私たちの化石燃料の燃焼が、世界の最高峰を崩壊させているのだ。

人為的な気候変動、つまり化石燃料を燃やすことが、文字通り「山を動かして」いる。ただし、動かされた山に押しつぶされるのは人々なのだが…。

私たちは山々、特にサンスクリット語で「雪の住処」を意味するヒマラヤ山脈を、固定され、時を超越し、不動で、永遠のものだと考えがちです。しかし、ネパールで起きた災害は、山々が脆弱であることを示す、最新の憂慮すべき兆候です。人類が地球温暖化を進めるスピードは、山々を根底から引き裂いています。

私たちが「人間のスケールを超えた不変の存在」と考える山でさえ、気候変動のスピードの前では脆弱だということ。いわんや、他の自然現象をや…。

 

日本でも今月、千葉県が豪雨に襲われたと思ったら、今度は石川・富山に同じく「レベル5の大雨特別警報」が発令された。

weathernews.jp

氷河の崩壊によって引き起こされた地震と鉄砲水や、1000年に一度クラスの豪雨災害について報じる時、気候変動について全く言及しないのは、街でクマが人を襲っている時に「動物が人を襲っています」とだけ報じるようなものだ。…いや、なんかへんなたとえになってしまったが、なぜか頑なに動物の名前を言わなかったら生理的におかしな感じがするだろう。災害関連のニュースを見ていて受ける違和感はそんな感じだ。

言論の自由を標榜する民主主義国家を名乗る以上、メディアも「大災害が起きました、こわいですね」だけでなく、しっかり原因(確定ではなくても可能性が高い原因)について語る必要がある。そのためには一般人が(こういうブログとかも含めて)日常的に気候変動の話題を増やしていくしかないのかもしれない…。

今週の気候ニュース:大気汚染対策で子どもの肺が驚異の回復

酷暑の九州を震度7が襲う!猛暑で動物園のライオンが死ぬ!千葉を10000年に一度の豪雨が襲う(ついでに昨晩深夜には震度5弱が襲う)!

…という崖っぷちな気候/環境ニュースが3週も続いてしまったが、今週は良いニュースにも目を向けてみよう。www.bbc.com

イギリスで大気汚染規制が導入された地域に住む幼い子どもたちの肺が、驚くほど早く回復し成長し始めたことが、最新の研究で明らかになった。調査チームはこの結果に「衝撃を受けた」と述べている。

「2026年の科学グッドニュース」に堂々ランクインできそうな良いニュースだ。

 

参考:昨年のグッドニュース10選↓

numagasablog.com

気候変動を筆頭に、あらゆる環境問題が激化・深刻化しているように思える昨今だが、ひとつはっきりと明るい傾向がある。それは大都市の大気汚染の改善だ。

 

よくオススメするハナ・リッチーの『これからの地球のつくり方 データで導く「7つの視点」』でも、「最も多くの人の命を奪っている環境問題」にして「最も劇的に改善している環境問題」の筆頭として、第1章で「大気汚染」について論じられている。

まず大前提として、大気汚染がいかにとんでもねぇ激ヤバ環境問題なのかを知ってほしいので、本書の第1章から引用する(数字表記は漢数字から置き換えた)。

WHOのまとめによると、大気汚染により毎年700万人が亡くなっている。420万人は屋外の大気汚染が原因とされ、380万人は屋内で木や炭を燃やすことが原因とされている。もう一つの国際的保健機構である保健指標評価研究所(IHME)もまた、それに近い670万人という数字を発表している。それよりも死者数は多いとする科学者もいる。直近でもっとも引用されている研究では、吸い込む空気が原因で少なくとも900万人が毎年亡くなっていると推定している。

もっと身近な例にあてはめてみると、こうした数字は喫煙による死者数に近い。喫煙による死者はおよそ800万人である。これは交通事故の死者数である130万人の六倍以上にあたる。毎年のテロや戦争の死者数の数百倍になる。大気汚染は新聞の見出しにはのぼらない、静かな殺人者だ。洪水や台風の映像ほどは衝撃的でないものの、近年の自然災害による死者数の合計よりも500倍も多くの命を奪っている。

こうしてデータで見せられると、大気汚染はまさに桁違いの殺意(?)をもつ環境問題といえる(喫煙もヤベーなという印象が強まったが…)。真に恐ろしいのは「地味」という点かもしれない。地震や台風や火災やテロやサメの襲撃は確かに恐ろしいし、ニュースの絵面や字面も派手なので報道されやすいが、「今月も大気汚染で世界の人が50万人も亡くなりました」というニュースを聞いたことがある人は少ないはずだ。実際、そういう計算になるのだが…。

私自身も気候変動を人類社会におけるトップクラスの問題だと考えているが、単純に現在進行形で死んでいる人の数を考えれば、大気汚染こそ確かに真っ先に取り組まなければいけない問題のはずである。人類は何をやっていたのか。

人類「ごめん」  〜完〜

 

…いや、そうではなく、人類は一応(遅ればせながら)やるべきことをやってきた、というのが今週の本題だ。

以下の『これからの地球のつくり方 データで導く「7つの視点」』より引用したグラフと本文を見てみよう。↓

状況は悲惨だ。だがこの本の多くの事例と同じで、これが全体像ではない。大気汚染による死者数はいまだに恐ろしいほど多いが、このデータの中には希望が見える。
大気汚染という人類の悲劇は今がピークらしいということだ。おそらく、大気汚染による死者数はそろそろ頭打ちに近づいている可能性が高い。暗い話に聞こえるかもしれないが、最悪の時期は過ぎ去った。

人類が「大気汚染のピーク」を過ぎたかもしれない、というのはなかなか元気が出る話だ。

こちらはBlueskyで見かけたポストで、さまざまな汚染物質が減少していることを示すグラフ。

Bit of good news for your weekday: our species has probably passed "peak pollution" based on data from Our World in Data, so don't listen to all the (dubiously funded) doom merchants. Heck, moving to renewable energy and electric transport will be worth it for the clean air alone.

Gavin Shoebridge (@kiwiev.bsky.social) 2025-01-30T18:46:42.910Z

bsky.app

ほとんどの汚染物質の量が近年、ピークをすぎて減少に向かっている(農業で生じるアンモニアだけは例外のようだが)。

 

ハナ・リッチーは『これからの地球のつくり方』で以下のように語っている。

すでに書いたが、大気汚染の解決策はひとつの基本的な原則に従っている。それは、これ以上ものを燃やさないということだ。私たちはものを燃やさずにエネルギーを生産する方法を見つけなければならない。あるいは、安全に微粒子を捉えて絶対に大気中に排出しないことだ。多くの国はこの段階から遠くない。最貧国は遅れているが、燃やす対象を変えてエネルギーにすることで、かなりのところまで達している。

「ものを燃やさない」は、気候変動対策の一丁目一番地ともいえる「温室効果ガスの排出削減」とほぼ同じ「原則」である。化石燃料の燃焼を止めて再生可能エネルギーに移行したり、ガソリン車から電気自動車に移行したり、調理器具や暖房器具を電化したりすることは、気候変動対策になると同時に、大気汚染の改善にも繋がるというわけだ。

 

というわけで、冒頭で紹介したニュースに戻ろう。

www.bbc.com

今回の研究では(気候対策にも関連する)排ガス規制によって大気を浄化することで、子どもの肺機能が劇的に改善したことが示されている。

BBC記事よりグラフを引用↓

今回の研究には関与していない英レスター大学のアナ・ハンセル教授は、子どもたちの肺機能の改善は「生涯にわたる健康上の恩恵をもたらす可能性が高い」と述べた。

世界の都市で暮らす10億人以上の子どもにとって朗報であり、環境/気候対策を推し進めることの直接的かつ具体的なメリットでもある。

 

関連ニュースとして今年、ロンドン、サンフランシスコ、北京など世界の19都市で、大気汚染の「著しい減少」が達成したという喜ばしいニュースもあった。

www.theguardian.com

自転車専用レーンの設置、電気自動車の普及、汚染車両への規制といった対策が、大気の改善に繋がったという。

「この報告書は、都市がかつては不可能と思われていたこと、つまり10年強で有害な大気汚染を20~45%削減できることを示しています」と専門家は語っている。

今回の「子どもの肺機能が改善」の研究はロンドンだったが、他の大都市で同様の研究をやっても、似たような結果が出てもおかしくないだろう。

 

「気候変動対策(排ガス規制など)をしても、結果が出るのはだいぶ先のことでしょ」的な言われ方もよくするが、少なくとも大気汚染のような深刻な問題の解決にはすでに繋がっている…どころか、健康面では思った以上に早くポジティブな変化が起こっている。気候変動対策は気候変動対策のため「だけ」ならず、というわけだ。

仮に気温上昇による被害の全てを防ぎきれなかったとしても、少なくとも人類が「きれいな空気」を手に入れることは十分に可能である。気候変動/環境問題対策がもたらす様々なメリットに目を向けつつ、絶望せずに歩いていくとしよう。

 

最後に、気候界隈で(?)けっこう有名な風刺漫画を紹介しておく。

気候サミットで、気候変動対策をするとこんな良いことがありますよ(エネルギーの自立性、熱帯雨林の保護、持続可能性、雇用、住みやすい街、きれいな水や空気、子どもの健康など)と、メリットを列挙する人に対して、気候変動に懐疑的な人が反論する。

 「もしも気候変動がデマだったらどうする? より良い世界をムダに創ってしまうだけじゃないか!」というのだ。

 

大声で言い返そう。「いいだろ別に!!」

「山口華楊展」(SOMPO美術館)感想メモ

新宿のSOMPO美術館で開催中の「山口華楊展」、良かったので感想メモ。

www.sompo-museum.org

山口華楊(1899-1984)
山口華楊は、京都の友禅職人の家に生まれました。17歳で、文展に初入選。以後、官展を中心に展覧会への出品を重ねます。1938年に晨鳥社を再興。1944年、海軍省派遣画家としてビルマ方面に従軍。戦後は日展を主たる発表の場としました。1981年、文化勲章を受章。1982年にはチェルヌスキ美術館(パリ)で個展が開催され、「偉大なる現代の動物画家」と評価されました。

「すてきないきもの&カルチャー」を肩書きとする者としては(肩書きなのか)行かなくてはいけないが、夏なので暑くて引きこもっていたら終わりかけていた(8/30まで)のであわてて駆け付けたのだった。

動物と植物を精力的に描き続けた画業の集大成が見られる展示で楽しかった。(思わぬ素敵な出会いもあったが、後述しよう。)

個人的ベストを選ぶなら「青柿」。

華陽が自宅の庭の柿の木を描いた作品なのだが、葉も実も青々としていて、よく見ないと柿だとわからない。

右下の黒猫との鮮烈な対比によって、柿の木のむせかえるような「青(緑)」の色彩や匂いまでもが、鑑賞者にむわっと迫ってくるような力強い絵だった。右下にひとつだけ落ちている実も画竜点睛という感じ。実物は大きな絵なのでしばし圧倒された。

動物と植物を描き続けることで、生命の繊細さとパワフルさを表現した華陽の才能がほとばしる一作。

もうひとつ選ぶなら「黒豹」だろうか。

かつて大阪の天王寺動物園にいた黒豹をモデルにしたという。

これも「青柿」同様、一種の黒猫(黒いネコ科)を描いたといえる絵だが、影のように伸びやかな黒豹のシルエットを鮮烈に捉えている。華陽はカラスの絵もわりと描いているので、動物の輪郭が描く「黒」の美を愛した画家でもあったのだろう。

パリのチェルヌスキ美術館の華陽展(1982年)でも、この「黒豹」がメインビジュアルに採用されたそう。わかる〜(フランスでウケそう)

 

京都の動物画家というと、最近知った竹内浩一(生まれはちょうど華陽の半世紀ほど後だが)も思い出す。こちらの記事で触れた。

numagasablog.com

華陽も嵐山に通ってサルを観察して描いていた。竹内の儚げで幽玄としたサルよりもどっしりした生命力を感じさせる。

嵐山のサルたち、意外と日本美術のキーパーソン。じゃなくてキーモンキーだね…

 

「白鷺」は気品と神秘を感じさせるサギたちを描いた作品。

華陽自身は「新幹線の車窓から、田に舞い降りる白鷺を見て、絵の構想がひらめいた」とのちに語っているのだが、(図録の修正メモによると)この絵が発表された当時は新幹線はまだ開通していなかったという。
華陽の記憶が混同したのか、話をちょっと盛ったのか、時空SF新幹線だったのかはわからないが、この絵のぼんやりと不思議な雰囲気をちょっぴり増している話だ

 

かように華楊は(非ダジャレ)動物や鳥や植物の絵が多かったのだが、ちょっと異色で目を引いたのが「南海魚」という絵。

高島屋の委託で扇子の原画として描いた絵らしいが、魚を主題とした絵は見た限りこれだけだった。

エンゼルフィッシュと思しき魚の青い縞模様や、余白を生かした大胆な配置がなんとも綺麗で、普通にこの柄の扇子ほしくなった(売店にワンチャン売ってないかと思ったが、なかった)。

華陽の経歴に「1944年、海軍省派遣画家としてビルマ方面に従軍。」とあり、その時に見た動植物や自然の記憶が、その後の華陽の創作を方向づけた可能性があるという。美しい一方で、戦争の影がほのかに落とされた作品でもある。

 

戦争といえば…ではないが、今回ちょっと素敵な出会いがあった。

山口華楊展の会場・SOMPO美術館に行く途中、道に迷っているご高齢のマダムに出会った。目的地が同じだったため、一緒に美術館まで行き、なんか流れで展示も一緒に見ることになり、さらに流れでランチもご馳走してもらった。

80代のマダムは水彩画と俳句と気功を趣味とし、同年代のフレンズが認知症になったり亡くなったりしつつも(アートや気功のパワーもあってか)ご自身は精力的に生活されているようだ。

ちょうど終戦の年に生まれたそうで、最近のやたら好戦的な情勢には危機感があり、トランプがいかにしょうもないかの話で盛り上がったりした。「ジェントルマンじゃないのよね、あの人は」と上品なマダムも苦言を呈していた。非常に控えめな批判だが、まったくだ…。

トランプの存在に良かった点などないが、たまたま出会った80代のマダムと「全くあの野郎は戦争おっ始めるわインサイダー取引で大金稼ぐわ本当しょうもないですよね!」と世代を超えて盛り上がれる共通の話題を提供してくれたことには1ミリほど感謝しよう。

ちなみにマダムは認知症のお友達にこういう美術展のポストカードに手紙を書いて送っているとのことだった(絵葉書をちゃんとハガキとして使ってるんですね…と変なコメントをしてしまった)。私も誰か友達にでも送りつけるか…(うっかり2枚買ってしまったため)

素敵な絵と素敵な出会いをくれた山口華陽に感謝。

映画オタクやりたい邦題!『ミニオンズ&モンスターズ』感想

『ミニオンズ&モンスターズ』ちょっと予想の斜め上で面白かったので感想メモ。

「ミニオンズ」シリーズは劇場に行ったり行かなかったり、という塩梅のファンなのだが(行けばやっぱクオリティは間違いなく高いし面白い)、今回も「行けたら行くわ」くらいのテンションだったが、映画ファンが何やら騒いでいる気配を感じ、行ってみたら確かに「うお〜なるほど〜〜〜」って感じでテンション上がった。

今回は公式には「ミニオンズ」シリーズの7作目という位置付けのようだ。本当に初出の「怪盗グルーの月泥棒」から、「怪盗グルー」のナンバリングと「ミニオンズ」スピンオフあわせて7作目…ということだが、「怪盗グルー」シリーズでも実質主役やんけみたいな立ち位置になってるので、若干わやわやな区分だ。

今更言うまでもないが、「映画は観てないがキャラクターだけは知ってる」という意味での知名度なら世界屈指の有名キャラであるし、映画本編もたとえば「怪盗グルーのミニオン大脱走」(2017)なんかは世界興収10億ドル超えの超絶大ヒットである。

そんな超絶大人気を後ろ盾に、もはや「ミニオンさえ出てれば何やったってヒットするんだから何やったっていいでしょ?」と開き直ったかのような作品が今回の『ミニオンズ&モンスターズ』である。一言で言えば、思いっきり映画ファンに向けられた「映画アニメ映画」となっていた。それもハリウッド黎明期のクラシックな映画ネタに喝采を送るタイプの面倒な…じゃなくてコアな映画ファンに向けられたアニメだ。

目についた映画オタク歓喜ネタ(あくまで私が気づいた範囲なので一部だが)をいくつか箇条書きにしてみよう。

 

〜ネタバレは一応気をつけるが必然的に多少は含むので注意〜

 

・冒頭に出るユニバーサル・ピクチャーズのロゴが、どんどん時代を遡っていき、ついに最初期に至る。これ自体は「スパイダーバース」とかでもやってた王道ネタだが、こうしてみるとかなり変遷が大きくて面白い。

The Universal Pictures Logo History, Colors, Font, And Meaning

・その後に挟まれる、1930年代初期くらいの白黒アニメ調ミニオンズも地味に重要だ。
この時期のワーナー・ブラザーズのアニメとしては「ルーニー・テューンズ」が有名だが、むしろ姉妹シリーズの「メリー・メロディーズ」を意識したっぽい。

「A Great Big Bunch of You」(1932)っぽいバイブスを感じた↓

youtu.be

もう100年前のアニメスタイルだが、ゲームの「Cuphead」なんかも大人気だし、全然現役で生き残ってるアニメーションと言わざるをえないのは改めて考えるとスゴイね…。やっぱ「時代の徒花」では片付けられない、表現形式の普遍的な魅力ってのはあるんだろうなと思う。

・そして「アニメーションの歴史」という観点から見逃せない引用が直後にもうひとつ。エドワード・マイブリッジの「動く馬」シリーズである。ja.wikipedia.org

1878年に撮影された馬の連続写真セットで、本来は科学的研究のために記録されたのだが、写真の連なりで動きを表現する営み、つまり「映画」の原初とも言われる、たいへん重要な記録写真だ。

「NOPE/ノープ」でも鍵を握る存在になりましたね(こちらの記事参照↓)

numagasablog.com

「映画の始まり」であり「アニメーションの始まり」でもあるという背景から、意外と現代のフィクションにも頻出するモチーフなので、もし知らなければこの機会に覚えておくと楽しいだろう。

しかしなんつっても「ミニオンズ」だけあって、歴史のお勉強では終わらず、ミニオンたちがこの「動く馬」に急に割り込んできたり、他にも色々登場する歴史的な連続写真の登場人物にちょっかいを出して台無しにしたりするシークエンスが最高に楽しく、映画ファン的には爆笑&垂涎ものといえよう。

初期映画ネタもたくさんあって、最も有名なのは「ラ・シオタ駅への列車の到着」(1896年)。スコセッシも「ヒューゴの不思議な発明」でド派手にオマージュしてましたね。

www.youtube.com

同じくらい有名なメリエス『月世界旅行』(1902年)。なぜか顔がある月面にロケットがブッ刺さる絵面が悪夢のように強烈で、いまだに初期映画の顔ともいえる作品となっている。ミニオン版はもうちょっとマイルドになっていた…かな…?

youtu.be

ミニオンたちの物語が本格的に始まる前の、映画ミュージアムの冒頭シーンからもう映画ネタが満載(監禁されてるジョージ・ルーカスとか声出して笑ってしまった)で、いちいちあげていけばキリがない。だが本作『ミニオンズ&モンスターズ』の白眉としてあげたい名シーンはやはり、ミニオンたちがロサンゼルスの街(劇中ではハリウッドタウンという名前らしいが)に突撃していく列車シークエンスだろう。 

このシーンの凄いところは、単にクラシック映画のネタを散りばめただけでなく、それらを「列車アクション」というひと繋がりのシークエンスに美しく織り込んでいくことだ。

とりわけサイレント時代に活躍した「三大喜劇王」と称される、チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイドの名アクションを立て続けに引用し、観客が「あっ、あの映画のあのシーン!」と笑う間さえほとんど与えず、まさに暴走列車のごとく突っ走っていく。

 

ハロルド・ロイドの、時計に掴まるスタントが有名な映画『要心無用』(1923年)。

youtu.be

100年後の今みてもロープが伸びすぎちゃうシーンで「あっ!!」と声出そうになる。

 

バスター・キートン「キートンの蒸気船」(1928年)のあまりに有名なスタント「崩れ落ちる壁」。パロディにされた回数では「AKIRA」のバイクに匹敵するかもしれない。一歩も動いてないが、文字通り一歩(というか十数cm)間違えれば死ぬであろうスタントだということは一目でわかる。

youtu.be

この動画↑では「崩れ落ちる壁」の直後に映る「キートンの大列車追跡」(1926)の列車シーンのミニオン版もありましたね。

 

そして映画ファンには説明不要であろう、チャップリンの「モダン・タイムス」(1936)のただでさえ大変な工場のシーンにも、ミニオンが突如乱入してもっと大変なことに。

youtu.be

これらの「三大喜劇王」がミニオンたちの暴走を通じてアベンジャーズさながらに奇跡の大集合というわけだから、そりゃアツいシーンにもなろうというものだ。ここでサイレント時代を飾る喜劇王たちにフィーチャーしてるのも、ただの懐古趣味やスノビズムではなく、ミニオンたちが現代のアニメ版「喜劇王」としての役割(それもチャップリンたちと同じく喋らない)を務めていることを考えると、自らの歴史に改めて目を向けるという点で、実はシリーズ屈指の重要なシーンになったんじゃないだろうか。それにふさわしい、徹底して作り込まれた名場面だったと思う。

そんな本作、過去を振り返って(主に白人男性に光が当たりやすい)映画界のかつての栄光に浸るだけじゃないのも素晴らしいところ。物語が進むにつれて、女性参政権運動/サフラジェットにさらりと触れてみせたりもする。わけもわからず…ではあるものの、ミニオンたちが女性の行進に連なったりもするシーンは拍手であった。なんだかんだ、こういうとこの意識の持ち方は(恐縮ながら本邦の主流アニメと比較しても)アニメーションの作り手として格が違うよな…と感嘆させられる。

サフラジェットの活動を描いた映画「未来を花束にして」も前に紹介マンガ描いた↓ので、興味あれば映画みてね

numagasablog.com

公開時から散々言われてたように邦題はちょっとダサいのだが…(原題はシンプルに「サフラジェット」)。内容は良いよ

未来を花束にして(字幕版)

未来を花束にして(字幕版)

  • キャリー・マリガン
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そんなわけで『ミニオンズ&モンスターズ』、このように(少なくとも世界全体で愛される子ども向けアニメとしては)信じがたいほど知的で重層的なが際立っていた作品では確実にあった…のだが、まぁとはいえ「ミニオンズ」シリーズなので、終盤にいくにつれて、わりといつものドタバタした感じになっていくのは否めないが、エンドロール前の文字通りメタなオチ(これはぜひ劇場で味わってね)が素敵だったので特に文句はない。

全体としては相当に満足高かったし、やっぱ海外の子ども向けアニメは本当に侮れないなとつくづく思った。この夏、映画オタクに一番オススメしやすい映画がまさかミニオンズとは…。

もっと「こんなネタが…」とかいくらでも早口で語れるはずだが、クラシック映画に詳しい人はいくらでもいるし、短めに収めたいのでこのへんにしとこう。

英語だけどこのイースターエッグ解説記事↓も参考になりました。

www.goodhousekeeping.com

 

ちょうど映画をみる前日、AppleTVのドラマ「シュガー」シーズン2で、シュガーが「As Time Goes By」をピアノマンに弾いてもらう回を見たばかりだったのだが、まさか翌日に「ミニオンズ」新作で全く同じオマージュを見ることになるとは…。

youtu.be

まぁ一応「カサブランカ」くらいは一回見ておくと人生なにかと楽しいよってことね

 

おわり

恐竜・フォローズ!?「オークストリートの異変」感想

予告編を劇場で一目みた時点で「なんてことだ…絶対みなければ…」となる映画が年に数本ある。今年は本作「オークストリートの異変」がそれであった。なんといってもあの「イット・フォローズ」のデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の、実に8年ぶりとなる、マジで待望の最新作である。

「イット・フォローズ」は10年前にイラスト解説や記事を書いていた。おお、10年前か…としみじみする(文体が違ってて別人のようだが…)。長年このブログを読んでる稀有な人はご存知かもしれないが、私の映画紹介は生き物紹介(紹介?)よりキャリアが長いのだった。

numagasablog.com

「イット・フォローズ」も昨日、10年ぶりに見返した。オールタイムベスト級に好きなホラーだが意外と再見はしてなかった(そういう映画もけっこう多い)。

イット・フォローズ

イット・フォローズ

  • マイカ・モンロー
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やっぱ抜群に面白くて、怖いだけでなく若者の日常のちょっとした美しい瞬間(とそこからの突然の変調)を捉える手腕と視線が際立ってるし、文句なしに2010年代ホラーの最重要作のひとつよな〜と思う。作品の出来から言っても文化的影響力から言っても際立った一作と言える。

つい先日記事を書いた「オブセッション 災愛」が代表格だが、今のインディ精神やミニマルさや心理描写の繊細さを武器とするYouTuber出身のホラー監督が活躍したりする、新しい流れのひとつの源流にもなった作品だと思う。

numagasablog.com

ちなみに続編の「They Follow(原題)」もこの夏から撮影開始らしい。It→Theyと複数形になってて若干ジワる(あれが同時に複数くるとしたら確かに怖い、てか難易度上がるな…)

press.moviewalker.jp

デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督といえばもう一本、「アンダー・ザ・シルバーレイク」(2018)も大好きな映画である。「イット・フォローズ」からはまたガラリと空気が変わって、デヴィッド・リンチみ(特にやっぱ「マルホランド・ドライブ」でしょう)が濃厚な、奇怪なLAノワールとなっている。

アンダー・ザ・シルバーレイク(字幕版)

アンダー・ザ・シルバーレイク(字幕版)

  • アンドリュー・ガーフィールド
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これも超面白かったんだが、興行的には振るわなかったようで(まぁ万人ウケするような内容ではない)、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督もこれ以降しばらく新作を撮らないまま8年がたち、どうしてるかな、もう撮らないなら残念だな…と思っていたところに、突然(本当に突然)劇場の予告編でその名前を目にすることになった。

しかも…恐竜!!?

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ホラー/怪奇映画ファンで「イット・フォローズ」→「アンダー・ザ・シルバーレイク」と観た時点で「この監督の次作、なんだろ…?もしかして、恐竜映画かな?」と思った人はゼロだっただろう。この予告も世界的になんの前触れもなく突如映画館に現れたそうなので、驚きもひとしおだ。

あらすじは、平和な町の一帯が太古の時空(ここは曖昧だが)に丸ごと吹き飛ばされ、恐竜や古生物に襲われることに…!?というお話。なんだかスティーブン・キングの中編とか(実際「ミスト」や「アンダー・ザ・ドーム」と雰囲気は近い)、最近だと「ブラックミラー」シリーズとかにもありそうな、SF風サバイバルホラーである。

最初に予告編を見た時、「予告では恐竜がフィーチャーされてるけど、たぶん実際に観ると、タイムスリップした後に追い詰められていく町民の人間模様の描写とかが多くて、実際はそんなに恐竜ばっかり出てくる恐竜映画ってわけではないのかもな」と予想したのだが、そんなことはなかった。恐竜映画だった。恐竜(含む古生物)のスクリーンタイムで見れば、それこそ「ジュラシック」シリーズと比べても遜色ないほど、正面突破の恐竜映画だった。

余談だが個人的に『「もしも?」の図鑑 もっと楽しい! 恐竜たちの飼い方』という本にイラスト担当で参加したばかりなので、平和な町に恐竜が!というプロットには妙に当事者性?を感じてしまった…。(この本では恐竜と人間が共存しておりホラー要素はないが…)

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〜以下、登場恐竜について軽いネタバレあり〜

 

デヴィッド・ロバート・ミッチェル(以下DRM)監督のファンはほぼ全員「えっ恐竜映画!?」というリアクションだったかもしれないが、パンフレットによると、恐竜は監督にとっても思い入れの深い対象だったようだ(父親が考古学者に憧れていて、恐竜が身近だったらしい)。

そんな思い入れも功を奏してか、確かに生物ファンが「あ、これは恐竜好きが作ってるな」とちゃんと思えるような細やかさも感じる。例えば恐竜のチョイスだ。本作を見て、半分くらいの人は「ティラノサウルス怖かったな〜」と思って帰るんじゃないかと思うが(名前も出ないので)、あれはティラノサウルスではなく、アロサウルスだ。

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同じ中世代の大型肉食恐竜でも、ティラノサウルスは白亜紀、アロサウルスはジュラ紀なので時代が違う。ということは「ジュラシック(ジュラ紀)・パーク」ではアロサウルスが主役を務めるべきだったんじゃないだろうか。それはともかく、世界一有名な恐竜とされるティラノサウルスを差し置いて、あえてちょっとマイナーなアロサウルスをメインの脅威に持ってくるあたり、作り手のこだわりを感じる。本作で最もショッキングな後半のある展開(残酷表現が苦手な方は注意)でも、アロサウルスが千両役者っぷりを発揮しており、まごうことなき主役恐竜であった。

もう一つわかりやすいポイントは羽毛だ。全体として恐竜が羽毛でモサモサしており、より鳥っぽくなってるというか、最新の恐竜学の知見を反映した姿になっている。

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こういう↑最新の恐竜ドキュメンタリー(いやもちろん恐竜の映像を撮ったわけではないので厳密にはドキュメントしてないが…)では、結構な割合の恐竜がすでにフッサフサの羽毛恐竜として描かれているので、生き物好きとしてはむしろ馴染み深いのだが、「ジュラシック」シリーズなどでしか映画の恐竜に触れてこなかった人は、ちょっと面食らうかもしれない(「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」では満を辞して羽毛恐竜が活躍したりしたけど。)

ただ羽毛があろうとなかろうと、日常の中にあんなに巨体で動きも速く人を捕食する動物が現れたら文句なしに怖いはずだし、本作もその異様さと怖さを十二分に表現できていたので、たとえフッサフサでもサバイバルホラーの主役を務めるポテンシャルは十分にあるな、恐竜…と確信できた次第だ。

さらに偶然ではあるが、今年の夏は『プリミティヴ・ウォー 恐竜戦争』という、これまた面白い恐竜映画もスクリーンに登場している。こちらも実は恐竜の姿が全体にモッサモサで、現代仕様にアップデートされた本格恐竜映画だった。試写で観て面白かったのでコメントも寄せた。

この夏が予期せずして、羽毛恐竜が激アツなホットサマーとなっているのは(鳥好きとしても…?)嬉しいことだ。ぜひ二本立てしてほしい。

 

 

〜以下、もうちょっと踏み込んだネタバレ。できれば鑑賞後に読んでね〜

 

 

ここまで散々「恐竜映画」と言ってしまったが、「オークストリートの異変」で活躍する(つまり人を食べたり家や車を壊したりする)生物のうち、体感半分くらいが「恐竜」ではなかった気がする。

この後に語る、とある重要な巨大生物を筆頭に、もはや中世代(恐竜の時代)の古生物ですらなく、恐竜が絶滅した後の新生代に栄えた動物も活躍したりするので、本作は時代の一貫性には特にこだわっていない。というか、時間SFとしての異様さを強調するために、あえてバラバラの時代から寄せ集めている可能性もある。(まぁ恐竜/古生物好きくらいしか気づいたり突っ込んだりはしてくれなさそうだが…。)

生物ホラーとしては最も鮮烈な場面だった、と多くの人が認めるだろうシーンの主役も、やはり恐竜ではない。全長13メートルのでっけぇ蛇、「ティタノボア」である。

拙著「絶滅どうぶつ図鑑」でも図解した古生物なので、特別にそのページを公開しておこう。

本はこちら↓

映画の「アナコンダ」のフィクショナルな主役さながら、ワニすら襲う古代の巨大ヘビが実在したこと自体がロマンだが、まさかDRM監督作品でフィーチャーされるとは誰に予想できようか…。アゴがめっちゃ開く構造で「自転車程度なら丸呑みできた」というので、あの家での恐怖シーンもまんざら絵空事ではなさそうだ。ちなみにCGオンリーではなく、撮影時には巨大なヘビの模型も用意したらしい。(準ロッキー方式…?↓)

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ティタノボアのシーンは、「イット・フォローズ」でも存分に発揮された、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督のホラー映像作家としての腕前が一番わかりやすく出ていたシーンでもあった。つまり、画面内の人物たちが気づいていない状況で、ヤバい危機が少しずつ「迫りくる」=「フォローして(追いかけて)くる」というシチュエーションだ。そして観客は、それをハラハラしながら、むざむざと画面の外から観ているしかない。この「無力な快感」とでも呼ぶべき感情は、(たとえば自分で操作できるゲームなどでは発生しない)映画ならではの感覚と言える。

あれだけ巨大なティタノボアの存在に、家にいる全員が全く気づいておらず(この状況でさすがに不注意すぎるだろ…笑というツッコミどころはご愛嬌だが)、じわじわと危機が進行していく。このシーンが絵面的に面白い点は、家のバラバラな場所にいる4人が、同時に同じ動物に取り囲まれているということで、そんな芸当ができるのは巨大なヘビ以外にない。作家性にあふれた斬新なホラー展開と動物チョイスに唸った。まぁティタノボア本蛇(ほんへび)は何も悪くないので、ブスブス刺されてるのは、ヘビ好きとしてはちょっとかわいそうだったが。

同じ意味で、家族が会話しているところに急に現れたアロサウルスがゆっくり近づいてくるシーンにもかなり「イット・フォローズ」みを感じて、戦慄しつつも「恐竜・フォローズだな…」と少し面白くなった。

そんなわけで「オークストリートの異変」、予告編では面食らったものの、本編を見てみると、監督の作家性という意味で(確かにジャンルやモチーフは違うけど)やはり強固な連続性を感じるのだった。

個人的にはとても面白かったのに、残念ながらというか、「オークストリートの異変」は本国で興行的にはだいぶコケてしまったそうなので(アメリカ人の娯楽センスはよくわからない)、せめて日本では広く観られてほしいものである。

商業的に失敗しようと成功しようと、現代の映画界の鍵を間違いなく握る一人、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の今後(まずは次回作「They Follow」)に期待しつつ、さらなる傑作を生み出すと信じて、しつこく「フォロー」していくつもりだ。

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今週の気候ニュース:千葉を襲う「一万年に一度」の豪雨。漆黒に染まりしチーバくん

今年の夏は気候変動とエルニーニョ現象のダブルパンチで世界中が猛暑に襲われる中、日本の関東、というか少なくとも首都圏は(昨年に比べれば)比較的涼しくて過ごしやすい、かな…?とか思っていたのも束の間、我がJIMOTO(地元)である千葉県が一万年に一度の豪雨に襲われてしまった。

チーバくんの口から胸にかけて黒く染まっている…(千葉にレベル5の大雨特別警報) news.web.nhk/newsweb/na/n...

ぬまがさワタリ@『いきものニュース図解』ほか3/19同時発売 (@numagasa.bsky.social) 2026-08-13T10:57:17.588Z

bsky.app

特別警報は黒で表示されるため、チーバくんの咽頭部あたりが漆黒に染まっており、だいぶ不穏であった。

ヴェノムに侵されたチーバくんみたいになってる…

ヴェノム

ヴェノム

  • Michelle Williams
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すでに更新されたけど当日の記事より↓

【速報】千葉県にレベル5大雨特別警報・レベル5土砂災害特別警報 命を守る行動を - ウェザーニュース

レベル5大雨特別警報が出されるのは今年5月に新しい気象警報の運用が始まってから全国で初めてです。

これまでに経験したことのないような大雨により、低い土地の浸水や河川の氾濫がすでに発生している可能性が極めて高く、命の危険が迫っています。

最大級の警戒が必要です。

周囲の状況を確認し屋外へ出ることが危険な場合は少しでも浸水しにくい高い場所に移動するなど、今すぐ身の安全を確保して下さい。

命を守る行動を取って下さい。

千葉の大雨警報としてこんなメッセージは実際、初めて見た。

千葉市や船橋市といった都市部でも道路が冠水したりとエライことになったようだ。

news.web.nhk

 

今回の豪雨はBBCニュースにもなっていた。死者も出る気候災害となってしまったし、成田空港も(千葉なので)欠航が多数あったり、外国の人もけっこう巻き込まれたのもあるだろう。

www.bbc.com

 

豪雨も地震同様スケールが大きい自然災害なこともあり、「天災だから仕方ない」みたいに遠い目になってしまう人もよく見かけるが、ここでしっかり言及しておくべきは、この豪雨が気候変動によって激化したものである、という点。

weathernews.jp

千葉市緑区から市原市東部では、574.2mmの雨量となりました。過去の気候では、この規模の大雨が起こる確率は0.001%ほどで、頻度にすると1万年を大きく超える規模に相当します。統計上、ほぼ起こり得ないレベルの大雨だったとみられます。

数字だけ見ると文字通り「1万年に一度の豪雨」だったといえるようだ。「○年に一度」系の警句も、ちょっとインフレしすぎていてイマイチ人心に響かなくなっている気配は感じるが、過去の統計をベースに数字通り解釈すればそういう計算になるという話。

今回の大雨については、過去の気候だけでなく、2030年ごろを中心とした約40年間の気候シミュレーションデータを使った分析も行いました。

その結果、今回最も雨量が多かった千葉市緑区から市原市東部の570mm級の大雨は、過去の気候ではほぼ起こり得ない規模だった一方、2030年ごろの気候では、その発生確率が過去の気候と比べて2倍以上に高まっているとみられます。

 

日本の女性研究者が今年、この温暖化と異常気象の関係にまつわる研究で賞を取ったりしていた。

scienceportal.jst.go.jp

例えば2018(平成30)年7月の西日本豪雨では、温暖化の影響で発生確率が3.3倍になっていたことを明らかにした。

 

なお豪雨も地震や火災と同様、「予測」が難しいという問題もある。

digital.asahi.com

千葉県を襲った豪雨では、13日夕に最初の線状降水帯が発生したが、気象庁が発表している事前の「予測」は出なかった。「レベル5大雨特別警報」が出たのは最初の線状降水帯発生の1時間半後。集中豪雨の予測の難しさがあらわになった。

「線状降水帯の発生には海から流れ込む水蒸気の量などがポイントになるが、海上は陸上に比べて観測地点が少ない」ため、一般的な天気予報の仕組みが通用せず、予測しづらいのが厄介。

実際、千葉の身内もここまでひどい雨になると思わず出かけてしまったようで、某ショッピングモールで足止めを食らっていたな…。身長が低い子どもがいる人とか、尚更大変だったと思う。

 

先日も熊本で地震+猛暑の複合災害が起こったばかりだが、今回の豪雨もかなり直接的に気候変動/地球温暖化で激化した気候災害のダメージが、首都圏の日常生活にまで及んだ事例として、ちゃんと報道されてほしいものだ…。

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欧州やアメリカやオーストラリアなど乾燥地域がこの夏、猛暑にあわせて森林火災という「火」に襲われているニュースを見聞きするが、日本などアジアの湿潤地域ではそうした「火」に相当する激しさで「水」が襲ってくる、という認識でいた方がいいと思う。(場所によっては森林火災もあるだろうけど。)どっちが恐ろしいかは一概に言えないが、いずれにせよ荒れ狂う火と水を鎮めるために必要なのは、神頼みでもヴェノム頼みでもなく、人智を活かして気候変動を解決することだろう。

今週の気候ニュース:ライオンも死ぬ猛暑と動物園の未来

思えばこの6年くらい、「動物好きはなぜ気候変動の問題に取り組むべきなのか?」ということをずっと言い続けてきたと思う。

一番大きなきっかけは、2020年頃のオーストラリアの森林火災であり…(図解にもした↓)

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「ゆかいないきもの超図鑑」も、この森林火災の話を起点に、「社会的な問題を取り入れつつ、楽しく読めるいきもの図鑑」というコンセプトで作った。(それが読者にどれほど伝わったかはともかく。)

動物を主題にした児童書もエンタメもこれほど沢山あるのに、こうしたトピックを扱っているものが少なすぎる、という問題意識もあった。

この本を出した数年後の今も、気候変動は激化していく一方だ。今週、日本の動物好きをざわめかせたのは、「猛暑のなか多摩動物公園のライオンが3頭死ぬ」という痛ましいニュースだった。

国際的にもけっこう広く取り上げられ、BBCニュースにもなっていた。

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死んだのはメスのライオン3頭で、記事には「脱水と多臓器不全が確認され、暑さが原因となった可能性が高い」とある。

「気温」のほかに、もうひとつ重要な指標が「湿度」である。

東京大学の唐木英明名誉教授(獣医学)は、湿度が高いことでライオンの体温調節が難しくなっていると、国内メディアに話した。

唐木さんによると、ライオンは汗をかく代わりに、呼吸によって気道の水分を蒸発させ、体温を下げる。

しかし、湿度が高いため、ライオンの体温が十分に下がらなかった可能性があるという。

気温に比べると指標がわかりづらいが、「蒸し暑さ」は動物の発汗システムによっては致命的なものになりうるというわけだ。湿度が低い地域(ヨーロッパなど)の「35度」と高い地域(日本など)の「35度」では、同じ猛暑でも体への危険性が段違いになる。

「湿気」の脅威を日本人自身も少し甘くみているところがあるので、これは動物に限らず、単純に気温だけで暑さのリスクを判断してはいけないということだろう。


このたびのライオンの死を受けて、「気候変動の恐ろしさに動物好きが真剣に向き合うべき理由」がまたひとつ…でもあるが、もうひとつ考えないといけないのは、やはり動物園という施設が本来的に持つ、「生息環境が全く異なる動物を別の場所に連れてきて、気温管理のできない屋外で飼育する」という無茶といえば無茶な側面だろう。

ライオンやキリンのようなアフリカの大型動物は動物園の花形だが、アフリカの厳しい環境に適応したことは、アフリカと全く違う日本の厳しい環境に適応できることを意味しない。

私自身も本のコラボやイベントなどで動物園と一緒に仕事をさせてもらうこともあるし、当然ながら動物好きとして思い入れも深い施設だ(個人的に行くのは、どちらかといえば水族館が多い派ではあるが)。スタッフや飼育員の皆さんが動物を扱うプロであり、動物への愛情を抱いていることを疑うはずもない。ただし、それだけではどうにもならない問題が多すぎる。気候危機によって社会全体が激変する時代、動物園のあり方だけこのまま…というわけにいかないとも思う。

動物園によく行く、動物が好きという人も、「はじめての動物倫理学」は一度読んでみてほしいと思う。動物倫理の基本的な考え方や、その枠組みから見た現代社会のさまざまな「動物問題」を考えていく一冊だ。

動物園に対する批判的な見方の紹介に一章が割かれていて、辛くなったり反感を覚えたりする動物好きも多いかもしれないが、気候変動による猛暑がもたらした今回のライオン死亡事件のように、どこかで向き合わないといけないタイミングは来る。

動物園の存在意義について改めて考え、より倫理的で持続可能な「未来の動物園」を作り出したいと思うなら、「今ある批判」に(耳をふさぐのではなく)耳を傾けることは不可欠のはずだ。

ここまで気候が極端化して今後も激化する一方となると、(体の仕組みにもよるが)ライオンのような動物は、このまま日本の屋外で飼育し続けることは難しいのではないかと考えずにいられない。夏季の展示は実質的に休止として屋内に退避させておくか、(予算的に非現実的だが)ドームのような展示用施設を作るとか、なんらかの抜本的な対策が必要になるだろう。

もっといえば個人的には動物園という施設は、やはりできる限り「珍しい動物に来てもらう」のではなく、「人間がテクノロジーと学識と想像力を活かして動物の世界を垣間見る」ための施設、という方向に進んだほうがいいんじゃないか、とは思っている。

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このライブカメラ↑のように、人間が自然の中におじゃまして覗き見る技術のほうを磨き上げ、そうした映像を大画面やVRやARで映し出す技術や、それを動物学的な知識とともに楽しむ文化を発展させていくこともひとつの道筋だろう。 

水中のライブカメラ技術も発達しており、こちらではハワイのサンゴ礁に集う色々な生物を垣間見ることができる。たまにサメがきたりもするようだ。

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たとえばこういう2Dライブ映像を、実際に中に魚がいるのかと見紛うくらいの精度でリアルタイムで水槽(っぽいディスプレイ)に再現する技術くらいなら、そんな夢物語でもない気がする。

さらに想像力を飛躍させてみると、動物の行動や振る舞いをLLM(いわゆるAI)に学習させ、進歩著しいアニマトロニクスの技術を活かし、「本物らしく」動き回る動物ロボットを導入する、的な方向もありうるのではないか。なんなら今の動物園で、檻の中でぐったりしている「本物の」動物よりも、ずっと「本物らしい」かもしれない…。

こうした発想に基づいて変化を遂げた「動物園」は、飼育が比較的かんたんで持続可能な動物(あまり「花形」っぽくはないかもしれないが…)は引き続き飼育しつつ、ライオンのような珍しい異国の動物は実際には飼育せず、その存在がなんらかのテクノロジーで代替された、「インタラクション博物館+動物の世界体感パーク」みたいな性質の施設になるだろう。

SNSでこれを言ったら「動物園はテーマパークじゃなく研究施設なんですが?」みたいな反発も来たが、いや動物園に意義があるとしても「動物を見せ物にしてる」という側面は否定できないだろというのは置いといて、本当に「研究」のためだとすればなおさら、今の動物園の形がふさわしいのか考える必要があると思う(少なくとも野生環境からは完全に切り離されているわけで)。学問の観点から動物園を捉えるにしても、どのみち「動物に来てもらう」ではなく「人間が動物の世界を覗く」発想と技術の進歩は必要になる。

動物園という施設には、まだ様々なポテンシャルがあると思う。「動物に会いたい」「動物のことを知りたい」という人々が訪れる貴重な場所であり、人が動物への関心を抱く重要なきっかけになる施設でもある。

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だからこそ、その持続可能性や倫理性を動物好きこそが真面目に考え、議論し、変えるべきところは変える必要がある。それが猛暑の犠牲になったライオンへの、せめてもの礼儀というものだろう。