沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

2022年映画ベスト10!(+栄光の次点イレブン)

毎年恒例の「映画ベスト10」発表時期がやってまいりました。今年は劇場で観た映画は116本くらいでした(配信を含んでないのと、重複があったりするので本数が正確なのかよくわからないけど大体…。)

これまではイラスト+手描き文章の図解で発表していたんですが、今年はブログ感想を再始動したこともあり、イラストを描きつつも文章をメインにしてみました。その結果めちゃ長くなってしまった(18000字以上)…っていうかぶっちぎり過去最長記事になってしまったのでお時間ある時どうぞ。

参考までに2021年ベストはこちら↓

numagasablog.com

あと昨年2021年はなんとなく順位つけるのやめてみたんですが(決定的な1位みたいのがなかったため)今年はベスト10には無理やり順番つけてます。まぁ自分の中の優先順位みたいのもわかって面白いからね。

さっそく発表していきたいと思いますが、毎年のことながらベスト10にはどうしても入らなかったけど語らずに年は終えられない作品が多すぎるので、まず「次点イレブン」として11本に絞って紹介していきます。次点は順位とかなくて順不同。

<栄光の次点イレブン>

次点1

『トップガン マーヴェリック』

みんなベストに入れるだろうから私は入れなくていいかオブザイヤー。今年の洋画大作の中ではぶっちぎり大人気の映画だったし、批評的な評価までもがバリ高いのも全然頷ける見事な出来栄えの一作だともちろん思ってます。こんなに「ハリウッド大作!!」って感じの映画がコロナで大ピンチだった劇場にやってきて、皆で盛り上がれたのも本当に良かった。そこはもうトム・クルーズ、素直にありがとうとしか言いようがない。

なのでもし仮にコロナがなくて予定通りの年に公開されていたら、普通〜にベスト10に入れてただろうなと思う。ただ、「今年のベスト10」にギリ入れなかったのは、やっぱロシアのウクライナ侵攻があって、戦争や紛争のエンタメ化に対して「あんまり無邪気に楽しんでいいのかな」と少し思うところがあったのも正直ある…。

とはいえこちらで語ったように→(@numagasaさんの伏せ字ツイート | fusetter(ふせったー))、観客と作り手の一種の共犯関係によって成り立っていた、ある無邪気な映画ジャンルの「終わり」の雰囲気が色濃く漂っている本作は、「最後の映画スター」トム・クルーズが贈る大作にふさわしいと言えるのかもしれないな…とか、不思議な哀愁も感じさせる映画で、そこも好きだった。

とはいえ湿っぽい映画では一切ないので映画ファンは確実に必見。もう観てるか。

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次点2

『シチリアを征服したクマ王国の物語』

「このアートが凄い」海外アニメ大賞。どこか懐かしい色彩と、シュールレアリズム的な美しさに溢れた世界で、過酷だが楽しい大冒険をクマたちが送る物語。後半のビターな展開も忘れがたい。シチリアには一度だけ行ったことがあり、今でも人生でいちばん鮮烈に心に残っている旅先で、本作はそんな記憶を呼び覚ます映画だった。(この映画みたいに凄い山とかはなかったと思うけど…。)ヨーロッパの海外アニメ好きな人は確実に観たほうがいいよ。

kuma-kingdom.com

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次点3

『メタモルフォーゼの縁側』

今年いちばん良かった実写邦画エンタメです。まぁ原作がまず本当に良い漫画というのもあるが、その最良の魅力をちゃんと掬ってうまく2時間にまとめていた。

最低限のBL認識さえあれば(なくても別に)誰でも楽しめる見やすいエンタメだが、あえて硬い感じで言えば「それぞれの抑圧や規範に晒されてきた高齢女性と若年女性がクィア表象を通じて連帯する」という今けっこうストライクなテーマなので、海外の映画賞とかでも評価されてほしい…。

BLファン活に励む2人の煌めきが本当に素敵で、主に女性が社会規範から一時自由になれる空間としての背景もあるBLコミュニティに、暖かく光を当てる映画としても相当に意義深いと感じる。中盤からクリエイターとしての視点が強まり始めるけど、純然たるBLファン/消費者としての2人の暮らしをもっと見ていたかったと思うほど。

冴えない女の子の(周囲にあまり大っぴらにしづらい)ファン活動に真正面から光を当てた作品という点で、同じく今年のベスト級の映画『私ときどきレッサーパンダ』を連想して「同時代!」となったし、そこに半世紀も世代が離れた女性同士の交流や連帯という要素が加わる点は本作のさらに面白いところ。

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原作漫画も最高なので読もうね。

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次点4

『映画 ゆるキャン△』

今年の日本アニメ映画、サプライズ大賞。過ぎゆく時間の一抹の寂しさと、大人になることの楽しさや可能性を優しく描く作品だが、実はとっても挑戦的なアニメ映画だと思う。ルックは今風の"かわいい女の子"アニメでありながらも、「誰でも(かわいい女の子も)いつかは年をとって大人になる、でもそれは悲しいことじゃなく、本当は素敵なことなんだよ」と告げるような優しい映画。優しいだけでなく、「終わらぬ世界」「変わらぬ人々」を愛でる美少女系アニメの風潮に対するアンチテーゼ的な尖りすら感じた。

本作のように一見いかにもジャンルムービー的で、ファンをきっちり喜ばせながらも、実はその作品ならではの新しい挑戦をして、ジャンル全体へのカウンターにさえなってる…みたいな、したたかな作品って一番好きかもしれない。「キャンプ場を無から作る」という、地味ながらも「えっどうするの?」とリアルに気になる縦軸ストーリーも絶妙。今年は日本アニメに驚かされる機会がかなり多くて、アニメ好きとしては嬉しい限りだった。

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次点5

『アンネ・フランクと旅する日記』

今年の海外アニメを語る上で外せない一作。アンネ・フランクの"空想の友達"キティーが現代に蘇り、「いなくなった」アンネを探す。偶像化も進むアンネの人生に再び命を吹き込み、排外主義と暴力が蔓延する社会で(入管の件とか聞く限り日本も全く他人事ではない…)今なすべきことは何かを突きつける。

アンネが命がけで遺した何かを真に継ごうと思うなら、(あくまで普通の少女だった)彼女を過度に偶像化・聖人化して、古びた教科書の1ページにするのではなく、いま現実に起きていることから目を逸らさず行動すべきだろ!という至極もっともな精神に貫かれていて眩しかった。

映画の参考に『アンネの日記』を読み返したのだが、冒頭からアンネの辛口が冴え渡ってる箇所とか好きなので、映画でユーモラスにアニメ化されてて嬉しかった。アンネが現代で妙な具合に偶像化されてるのを見たキティーが「ちげーのよな…」となってたのも頷ける…。アンネ・フランクさん、平和だった頃の日記を読んでもわかるけど(語弊あるかもだが)相当おもしれーやつというか、鋭い知性と辛めなユーモアの持ち主で、もし生存していたら普通に文筆家として大成していたかもな…というオーラが凄くて、だからこそ悲しい。

今に深く刺さるテーマ性はもちろんだが、単純にアニメーションの品質が極めて高いので、アニメファンは必見レベルと言える。アムステルダムでの日常や冒険、狭い隠れ家で羽ばたく想像力の表現など見どころが多く、ヘビーだけど全く見飽きないし、シンプルに美しい映画。とてもオススメです。

【いま観たい人は→】U-NEXT等でレンタル配信中

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次点6

『神々の山嶺』

こちらも今年の海外アニメの重要作。命の危機を顧みず世界最高峰の山岳登頂に挑む、他者の理解を拒む人間が主人公の物語。にもかかわらず、圧巻の美術と繊細な演出によって、全ての領域で通用する「高みを目指す」という言葉をこれ以上なく力強く美しく体現していて、万人に開かれた普遍性もあるのが本当に「強い」映画だなと。

『ウルフウォーカー』の制作チームも関わっているだけあってアートが本当に贅沢の極みなのも最高。大自然の美しさはもちろんだけど(日本を含む)街の描写が地味に見事で、往年の東京の情景をここまで鮮烈に切り取ったアニメって近年だと皆無なのでは…?と思わざるをえない出来。これ今の日本で作るのだいぶ厳しいんだろうな〜という悔しさも否めない。

雪に覆われた過酷な山々を表現する上で、シンプルな「白」が生む絶望的なスケールの大きさと美しさを巧みに活かす手法は、名作『ロング・ウェイ・ノース』の「引き算の美学」も連想した。欧州アニメに顕著な表現と言えるけど、「アニメの豊かさ=描き込みの多さ」ではないよなとつくづく実感させられる。アニメファンは絶対観て損ない傑作です。

【いま観たい人は→】2023年1/6からamaプラで配信されるそうです!

natalie.mu

 

次点7

『セイント・フランシス』

全然ベスト10に入れたい素晴らしい一作(今年はフェミニズム系テーマの映画も本当に豊作だったな)。題材そのものはヘビーだがユーモアもキレキレで、劇場に何度も笑いが起こった。やはりフランシス(ラモーナ・エディス・ウィリアムズ)の輝きが半端ない。大人の考えた"かわいい子ども像"を絶妙に打ち破る感じのカオス具合と、幼い知性のきらめきを同時に体現する奇跡の役柄だった…。

品の良い"大人のコメディ"的なルックによらず、わりと全編を通じて血がドバドバ出るブラッディな映画なのだが、生理のような人類の約半分にとって極めて日常的な現象が、いかに通常のエンタメでは封殺されているかを逆に突きつけられる思いだった。そうした不条理に光を当てるのも映画の力だな…と実感。

【いま観たい人は→】今ちょうど劇場公開も配信もないタイミングのようです(悲しいかな年間ベストあるある)。今年8月公開なので、来年の前半くらいには配信or円盤くるかな? 

 

次点8

『すずめの戸締まり』

「あるクリエイターの作品に対する好き嫌いの振れ幅」という意味では、史上最大と言ってもいいかもしれない。個人的には年間ワーストレベルで(別にひどい出来の映画とかじゃないんだけど)合わなかった『天気の子』の新海監督の次作ということで、ぶっちゃけ全く期待していなかったが、驚くほどお気に入りの一作となった。ただ超メジャー作品だけあって色んな意見はあるだろうし、後に出てきた批判もよくわかるなあという感じではある。詳しくは長文ブログ書いたので読んでね(前作への批判が半分を占めるという異常な記事になってしまったが…)

numagasablog.com

【いま観たい人は→】普通に映画館でやってるので行こう!

 

次点9

『プレデター ザ・プレイ』(配信)

1年に1本はこういう映画が観たい!こんな爽快な映画が年間ベストに入っててほしい!という超ソリッドなアクション映画で最高なのだが、こういう映画をDisney+でおうちで観ることになるとはなぁ…というのはちょっと複雑。でもとにかくべらぼうに面白いのでヨシ!としたい。もう「プレデターvsアメリカ先住民」という発想の時点で"勝ち"だが、そもそもプレデターとは「狩人」としてどういう存在なのか、という根本から考えた結果としての対戦カードなのだろう。そのコアの発想を美しく引き立てて無駄を削ぎ落とすことで、シンプルかつパワフルな映画となった。

【いま観たい人は→】Disney+で視聴可!

プレデター:ザ・プレイを視聴 | 全編 | Disney+(ディズニープラス)

 

次点10

『ナイブズ・アウト: グラスオニオン』(配信)

いやもう最高に面白すぎるだろ。年間ベストでは配信よりも劇場作品を優先したいなあ…みたいな旧世代の感覚をまだ拭い去れないつもりだけど、それでも次点に入れてしまったくらい面白かった。

ギャグ要素も前作よりさらに冴えてて、途中で(少なくとも調子こいた全能気取りの大金持ちにとっては)名探偵がいかに最悪な存在になりうるかが露わになるくだり、今年いちばん笑った場面かもしれない。あんなイーロン・マスクみたいなイヤな野郎なのにさすがに気の毒&気まずすぎて「さ、最悪だ…!」と声出そうになった。

良い意味でライアン・ジョンソンらしく、ジャンルのファンが(この場合はミステリー?)怒り出しかねない破壊的な横紙破りやご都合主義も厭わないのだが、「そんな狭いお約束よりももっと大切なことがあるだろ!」と叩きつけるような怒りが根底にあるように思えて(クライマックスはまさに色々叩きつけてましたね…)、かなり痛快に感じたし、この時代に必要なエンタメを作ったるぜという高い熱い志を感じた。

この機会に1作目も見返したけどやっぱめちゃくちゃ面白いわ。2作目にして完全に大好きなシリーズと化してしまったのでダニクレが現役な限り一生続けてほしい。

【いま観たい人は→】

1作めは各種配信で、https://amzn.to/3G1i4nh

今回の2作目はNetflixで見られます。

ナイブズ・アウト: グラス・オニオン | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

 

次点11

LOVE LIFE

本当は次点もキリよく10作にまとめるはずだったが、あろうことか『LOVE LIFE』を「観た映画リスト」そのものに入れ忘れていたことに気づいたので、次点を増やさせてもらったぜ!

基本ものすごくヘビーな話である。特に序盤のある"事件"が本当に悲惨で、かつあまりに日常的なのが逃げ場なくて最悪であり、人によっては閲覧注意かもしれない(特にこの年末年始にはなるべく思い出したくないレベルで怖い)。一般的な"怖い"映画の、呪いだの幽霊だの殺人鬼だの殺人UFOだのといったフィクショナルな恐怖が、観客に現実を忘れて気持ちよく帰ってもらうための"配慮"に思えてくるほどだった…。

かように『LOVE LIFE』、とてもヘビーな話のはずなのだが、後半のある車中のシーンとか、ふっと突き放した軽やかな視点が入ってくるのが大好き。けっこう重大な嘘がバレて、裏切られた主人公が衝撃を受けてブチ切れるという、いくらでも深刻に描きうる場面だ。それなのに2人を載せてくれた女性が(当然だが)全くそれまでの文脈を共有していないがゆえに「モメててウケるw」みたいな反応なせいで、絶妙に笑えるシーンになってる。ひどいはひどいけど、人生って特定の誰かを中心に回ってないし、世の中そういうもんかもな!という、どこか肩の荷が降りるような素敵な場面だった。今年みた映画で最も好きなシーンと言っていい。

超イヤな話としてのポテンシャルも絶大だが、決まり文句と化した「人には様々な一面がある」という真実を、これほど真正面から真摯に実践してみせる邦画なんて滅多にないし、国際的な評価が高いことにも頷くしかない。日本の映画ファンは深田晃司監督と同時代を生きる幸運に感謝しつつ観るべき。

【いま観たい人は→】配信とかはまだですが、普通にミニシアターなどでやってるとこもあるそうです。劇場でぜひ。

映画「LOVE LIFE」公式サイト

 

次点・番外

チャップリン特集上映で観た映画

『チャップリン特集上映 フォーエバー・チャップリン』 公式サイト 11月3日(木・祝)~ 東京・角川シネマ有楽町他、順次公開

独裁者、街の灯、殺人狂時代、給料日+黄金狂時代、ニューヨークの王様、ライムライト、サニーサイド+キッド、チャップリン・レヴュー、モダン・タイムス、のらくら+巴里の女性】の全10作+アルファを2日連続でぶっ続けで鑑賞するという、学生時代みたいな体力の使い方をしてしまったが、古典おもしれえ〜〜〜と心から思わされたという意味で、本当に行ってよかった特集上映でした。日頃、わりと最新の映画ばっかり追いかけてる感じですが、いや〜やっぱ長く残ってるものは残るだけのことはあるんですよね!ということを時々は実感せねばなと。映画って本当に良いものですね!おわり。良いお年を〜!

…うっかりまとめに入ってしまったが、まだ次点を発表しただけなので、ここからが本番となります。

 

<2022年映画ベスト10>

まぁ最初のベスト10イラストで発表はしたようなもんだけど。一応もう1回イラスト貼っとこう!どどん。

 

10位 

バッドガイズ

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もう大好き! 映画史に残る級の傑作もそりゃ良いけど、こんくらいの全然むずかしくない、いつでも誰でも全然スッと見れるエンタメほんと好き!! 散々語ったおじさん間じっとり感情も見応え抜群ですが、やっぱダイアン知事…好きすぎる……。あとなんつっても『スパイダーバース』をさらに別の形に広げたようなこのアートワークの魅力、なんだかんだドリームワークスすげーな〜とか詳しくはブログで散々語ったので読んでね。

今年は上位ベスト5が非常に固くて絶対に動かないだろうなと思いつつ、8〜10位くらいは本当に迷ったので、次点クラスと完全に同格という感じなのだが、せっかく記事も書いたしね…ってことで。

【いま観たい人は→】残念ながらちょうど劇場も配信もないタイミング(夏〜秋あたり公開作はわりとこれね…。)そのうち来るので見てね。

 

9位

『FLEE』

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ド派手な実写エンタメとか、びっくりするような出来のアニメも沢山あった中、すごく静かで地味な作品なんだけど、心にドスンと刺さる本作は絶対ベストに入れたいと思った。公開から半年たった今、さらにロシアがLGBTQ+の存在を法律で「禁止」したりとか、どんどん本作で描かれたことが現実社会で切実になっていくし、アニメの可能性を問う表現手法の上でも、今年の海外アニメーションを語る上で絶対に外せない重要作だと思う。詳しく書いたので記事読んでください(やっぱこういう作品もちゃんとフックアップしないとだな。)

【いま観たい人は→】DVDとかはまだないっぽい?けどamazonとかでデジタル購入できるようです。買う価値は絶対アリ。

Amazon.co.jp: FLEE フリー(字幕版)を観る | Prime Video

 

8位

『グレート・インディアン・キッチン』

掛け値なしに今年最もキツかった映画で、正直イラストに描くだけでも「うう…」となってしまうので一瞬外そうかと迷ったレベルなのだが(弱っ)、だからこそ逆に絶対にベストに選出せねば…と思わされた強烈な作品。

性差別を正面から扱う映画は世界的にも次々と生まれているけど(近年のインド映画でも『パッドマン』とか、韓国の『82年生まれ、キム・ジヨン』とか)、その中でも個人的には屈指のキツさだった。

「食」という営みは、社会が進歩した今でも人間の動物的で生々しい側面を大いに含み、かつ性規範と深く結びつく。だからこそ『グレート・インディアン・キッチン』のようなフェミニズム的批評性と、怒りに満ちた作品のテーマになりうるのだなと実感。日本でも漫画/ドラマ『作りたい女と食べたい女』が大きな話題を呼んだのとも通じる。

ただ、たしかに本作、一切楽しい映画ではないし甘さも限りなくゼロなんだけど、観終わったあとは不思議と強いエネルギーで心が満たされる映画でもある。「わざわざ映画館で金払って辛い重い映画を見たくない」的な声もあろうが、全く楽しくも明るくもなく、現実の理不尽さをシビアな視線で捉えた作品が、むしろ(虚ろな楽しさや明るさよりも)元気をくれる、心に火を灯してくれることも多いし、本作はその絶好の例だなと。

特に、広い意味での「科学」に関わる人には深く染みる話でもあって。劇中で科学の話は特に出ないのだが、だからこそ冒頭の"Thanks Science(科学に感謝)"というクールな謝辞が鮮烈に響く。科学で家事が便利に…的な話(それも大事だが)を超えて、性差別のような理不尽を撤廃することと、真実を求める科学の精神は、深い所で繋がっているのだとつくづく思う。

【いま観たい人は→】配信に来てると良いな〜と思ったけど見当たらず。でも幸いDVDは日本でも出てるようなので、ぜひ。https://amzn.to/3vnq4Ks

 

7位

NTLive 『プライマ・フェイシィ』

フェミニズム的テーマかつ非常にヘビーなテーマの映画を立て続けに選んでしまったが、どっちも観たらベストに選出せざるをえない、とてつもない出来栄えの傑作だったので仕方ない…。90分ノンストップで喋って動きまくるジョディ・カマー(『キリング・イヴ』『最後の決闘裁判』)のまさに圧巻の一人舞台、その才能に震えるしかなかった。彼女の新たな代表作になると思う。

性被害を扱う法システムの不当さを強靭な論理性によって糾弾するという重厚なテーマで、MeToo問題が知名度を得ていく一方でバックラッシュも加熱している日本でも広く見られるべきだなと今改めて感じる。

重いだけでなく、とにかくストーリー運びが面白い。主人公の有能っぷりを見せつける痛快な法廷シークエンスから始まり、転換点となる恐ろしい事件やクライマックスの告白に至るまで、一人の変幻自在の役者による怒涛の勢いの語りと演技にひたすら引き込まれるという、演劇でしか味わえない喜びが凝縮された一本でもあった。

【いま観たい人は→】残念ながら、今回のベスト作品でいちばん見るの難しい作品かも。というのもNTLiveは配信とか円盤とか絶対やらないので、少なくとも日本語版は再上映を待つしかないですね…(原語版ならweb配信もあるのかな?)。ただ、NTLive史上でもかなり話題になったヒット作のようなので、確実にまたリバイバルすると思います。

 

6位

『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』

公開されれば必ず映画館に駆けつける割には、意外とMCU作品をベストに選出するのは珍しいのだが、これはさすがに今年最高の映画体験として入れざるをえなかった。やはりなんといっても、満を持して「彼ら」が……いやもうさすがに1年たったしいいでしょ、満を持してアンドリュー・ガーフィールドとトビー・マグワイアが登場する場面で、劇場が「おおお〜〜〜〜(泣)(笑)」と泣き笑いみたいな「どよめき」に包まれた瞬間の高揚感と幸福感は本当に忘れられない。まぁまぁ長く映画館に通っているが、(イベント上映とかでもないのに)客席から起こる初めてのリアクションだった気がする。

あの場面が凄いなと思うのは、正直ほとんどの人はアンドリュー・ガーフィールドとトビー・マグワイアが出ること自体は完全に予想してたと思うんだよね。だって報道とかで「出るよ」的なネタバレは事前に食らってたし、そもそも過去の悪役が出るのにヒーローだけ出なかったら逆になんなんだよって感じだし。それでも凄く的確な「出し方」と、心を打つ演出によって、たとえ予想していたとしても大きな感動を与えてくれたわけで、映画って単なる「ネタ」の集合体ではないよなあと実感する。

ちなみに約11分の楽しい映像(FUN STUFF)を加えて再編集したバージョンである『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム THE MORE FUN STUFF VERSION』も観た。もちろん追加部分も楽しかったが、熱量高いファンと一緒に劇場で観る体験は(特に本作は)格別で、やはりヒーローものとして見事な作品だなと再認識した。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の結末はとても寂しいけど、たとえ何もかも失ったとしても、自分の信じる「正しい」道をひとり歩もうとする人に捧げられた讃歌として解釈できると思う。その歩みは孤独ではあるかもしれないが、「ひとりだけど、ひとりじゃないかもしれない」という救いが、マルチバースという仕組みを見事に活かして語られる映画でもある。個人的にも、どこか心の深い部分で慰められ、励まされる映画だった。

ジョン・ワッツのスパイダーマン3部作は全て大好きだが、こんなにも素晴らしい作品でそのサーガを閉じてくれたことにただ感謝したい。ただ次はそろそろジョン・ワッツのオリジナル作品が観たいかな〜!(Disney+の「ザ・オールド・マン~元 CIAの葛藤」も見ねば。)

【いま観たい人は→】通常版も各種配信サービスで見られるし、U-NEXTなどで「THE MORE FUN STUFF VERSION」も見られるようです(名前変わってるけど)。

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム エクステンデッド・エディション

 

5位

私ときどきレッサーパンダ(配信)

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この5位から上はぜんぶ1位です!(実際6〜10位はまだちょっと迷ったけどベスト5は一切揺るがなかった。)『私ときどきレッサーパンダ』も完全に1位としか言いようがないほど大好き。本当に劇場で観たかったぜ!!!と一生言い続ける。

今年は色んなところで繰り返し引き合いに出したけど、女の子キャラクターの造形や描写の素晴らしさには感嘆することしきりだったし、ガールズムービーとしても歴史に名を残すこと間違いないと思う。

ストーリーも凄く重層的な見方ができて秀逸だった。レッサーパンダへの変身が何を象徴するのかは、主人公メイメイの中に渦巻く情念の現れとか、色んな解釈が可能だけど、個人的には「創作マインド」として受け取った。メイメイは小さな火花のような(性の目覚めっぽさもある)ときめきを、燃え盛るような創作欲として爆発させていくんだけど、そうした創作欲が客観的に見ると「黒歴史」的な強烈な恥ずかしさも生む、という生々しい点もしっかり描かれる。そこには、ドミー・シー監督のリアルな創作遍歴も反映されている。彼女が若い時に二次創作的な活動を活発にしていたことが、ドキュメンタリー『レッサーパンダを抱きしめて』で語られる。最高のドキュメンタリーなので絶対みよう。

レッサーパンダを抱きしめて : 『私ときどきレッサーパンダ』メイキング映像を視聴 | 全編 | Disney+(ディズニープラス)

「作りたい、恥ずかしい、でも止められない!」という、喜びや戸惑いや怒りや性が織り混ざった強烈なうねりのような情念が創作の初期衝動になっていることは、監督のみならず多くのクリエイターが同意するはず。そうした様々な寓意が込められたレッサーパンダと、最後にメイメイがどう向き合うのかも、すごく好きな着地だった。とにかくこの作品を起点にディズニー/ピクサーが新時代に突入してもおかしくないくらい革新的な映画だったと思う。最高!!

【いま観たい人は→】Disney+でどうぞ。今からでも劇場でリバイバルしろ!!!

私ときどきレッサーパンダを視聴 | 全編 | Disney+(ディズニープラス)

 

4位

雄獅少年  少年とそらに舞う獅子

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今年最もブッ飛ばされた海外アニメ映画。さらにそれが中国アニメなので『羅小黒戦記』の衝撃・再来と言えるかもしれない。

圧巻のアクション、巧みな作劇、リアリティあるキャラ造形、連打されるギャグと、美点をあげていけばキリがないが、やはり中盤以降の物語の転調から、クライマックスになだれ込む怒涛の展開は本当に忘れがたい。貧困や格差など、社会の厳しい現実からも目を離さず、「そんなことやって何になるの?お金にならないでしょ?」という冷めた視点も常にある。

そんな世の中で主人公を待ち受けるあまりに悲しい挫折と、そこからどう彼が立ち上がっていくかを示すことこそが、本作の最も素晴らしく、心を熱くするポイント。誰だって夢も希望も持っているけど、世の中は圧倒的に不平等であり、誰もが夢や希望を「持ち続けられる」とは限らない…という非情な現実を、極めて高い解像度で描く。しかし、だからこそ「現実を超越したどこか」に繋がる扉として獅子舞が輝きを放ち、あの屋上での美しく力強い「舞」の場面が脳裏に焼き付く。結末は必ずしも甘くないけど、主人公たちと似た境遇にいる、心に「獅子舞」をもつ人たちを、力強く励ます終わり方になっていた。何かを志す万人にオススメできる大傑作アニメ映画です。

【いま観たい人は→】今ちょっと観る手段があまりないんだけど…とか書こうとしていたところに、なんと2023年に日本語吹き替え版が全国公開することが決定しました!!やったあああ〜〜〜。絶対映画館で観たほうがいいよマジで。

中国の3DCGアニメ映画「雄獅少年」2023年に公開、日本語吹替版も楽しめる(動画あり) - 映画ナタリー

 

3位

『NOPE/ノープ』

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今年のベスト映画(実質1位)にして、恒例の「どうぶつ映画オブ・ザ・イヤー」も同時受賞。手前味噌だが『NOPE』のブログ記事は今年書いたものの中では最も出来が良いと思っているし、なんなら私にしか書けない内容だと勝手に自負している。(まぁここまで私の興味や関心や知識のエリアにドンピシャに刺さってくる映画はめったにないわけだが…)

『NOPE/ノープ』はUFOが攻めてきたぞ!という一見アホかつトンデモな超常SFホラーであると同時に、とんでもなく真面目な映画でもある。映画全体をグッサリと貫いているのは、「見る/見られる」の一方的な関係が、この世界に厳然として存在する「搾取」の構造の根源である…という強靭な問題意識だ。

だからこそ「搾取」と「見る/見られるの支配」を体現するような、絶望的なほど強大な超常生物「Gジャン」に、人が動物とともに覚悟を決めて立ち向かう最終決戦が非常に熱い。BGM(サントラの"The Run")もクラシックかつストレートにカッコよくて血がたぎる。動物映画としての本作のクライマックスにふさわしい名場面だった。どう考えても今年最高のサントラ大賞これでしょ↓

open.spotify.com

動物映画としての面白さや、ジュープの悲しくも忘れがたい運命など、詳しくはさんざん記事で語ったので読んでほしい。今年のベスト上位5作はいずれもエンタメ大作だが、地域も表現形式も全く異なる作品なのが面白い。そんな中、ハリウッド代表である『NOPE』が、「現代アメリカエンタメの面白さ」がギュッと濃縮されたような映画だったことを、洋画好きとしてはとても嬉しく思う。

【いま観たい人は→】ちょうど配信やディスク発売なども開始したようです!買わねば。https://amzn.to/3i4emRX

ただやっぱ劇場で、特にIMAXレーザーGTのフルサイズで観るのがとにかく最高(というかそれを基準に作られた作品)なので、リバイバルしないかな〜。してくれ!!

 

2位

『THE FIRST SLAM DUNK』

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昨年(2021年)の12月くらいの自分に、「来年のお前はスラムダンクの映画をめちゃくちゃ激賞してるぞ」と教えてあげたら「なんで???」となるだろう。それだけスラダンにもバスケにも全然興味がなかったのだから。しかし蓋を開けてみれば、この有様である。原作まで改めて全巻読破してしまう始末だ。numagasablog.com

なので、来年(2023年)もどんな出会い(再会?)が待ち受けているかわからないな…と楽しみになってしまう。

今年の上位5作はいずれもエンタメ大作だった…と書いたが、そのうち1作が日本の映画だったこと、そしてアニメ映画だったことに、アニメファンとしては驚きと興奮を隠せない。たしかに井上雄彦という天才の存在があまりに大きい映画ではあるし、再びこうした凄い映画が現れるのがいつになるかは全然わからない。しかし2022年、「世界中の人に観てほしい」と心から思える日本のエンタメ映画が出てきてくれたことを決して忘れないだろう。

【いま観たい人は→】劇場に行こう!原作一切読んでなくても行ったほうが良い!

 

1位

『RRR』

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映画に順位をつけるのは確かに不毛かもしれない。それでも無理やり順位をつけるのであれば、やはり1位の王座には「地球最強の映画」に座ってもらいたい。

本作がいかに「最強」なのかはすでに各所で十分語ったし、信じがたいほどぶっ飛んだアクションや、濃厚かつ繊細なキャラクター造形がいかに素晴らしいかも繰り返し力説した。だがこの年の暮れにしみじみと思い出してしまうのは、本作の中では比較的(あくまで比較的だが)地味とも言える、後半のある場面だ。

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それは英国側に囚われたビームが、苛烈な責めと屈辱を与えられながらも、この「Komuram Bheemudo」を歌い上げ、虐げられた人々を勇気づける場面である。

『RRR』は明らかに大傑作であると同時に、ある種のナショナリズム的な「危うさ」も抱えうる作品であることはすでに記事で指摘した。しかしさらに視野を広げ、本作をより普遍的な「虐げられた人々のための映画」として観ることも大切だと思う。

2022年を象徴する世界の出来事といえば、やはりロシアのウクライナ侵攻だろう。権力をもつ者が、手前勝手な都合のために他者を蹂躙するという、むき出しの暴力と悪意が世界をおびやかす年となった。そんな中、インドの植民地時代をモチーフにした上に、ウクライナを撮影地とした『RRR』が(偶然とは言え)驚くほどアクチュアルな文脈を獲得してしまったのは驚きだが、同時に必然だったのかもしれない。

目と耳を疑うような暴力に脅かされているのは、当然ながらウクライナの人々だけではない。他にもパッと思いつく中では、イランやアフガニスタンやミャンマーなど、権力による理不尽な暴力によって踏みにじられた人々の苦しみの声は鳴り響き続けている。

たとえ直接的な暴力は少なくとも、人権を軽視する者が権力の座に上り詰め、人々の抗議や怒りを冷笑する者が持て囃され、力を持たない人々への搾取がどんどん激化していく構造は、日本でも変わらない。そんなロクでもない世界において、『RRR』のようなド直球の怒りと闘志に満ちた物語がどれほど強い輝きを放っていることか。

ベスト映画を選出してみてつくづく実感するのは、私は「何かに抗っている」作品が好きなんだなということだ。今年のベストに選んだ作品もことごとく、エンタメ性や表現技法の素晴らしさをフル活用しながら、この世の「悪しき何か」に全力で抗ってくれている、とても心強い創作物ばかりだ。

私が素晴らしいと感じる映画の条件として、「見たことのないものを見せてくれること」「他者への想像力を拡張してくれること」の2つを前に挙げた。そこに「この世の悪しき何かに抗っていること」を付け加えるなら、『RRR』を「2022年で最も素晴らしい映画」と呼ぶことに、なんのためらいもない。


【いま観たい人は→】激情に行こう!じゃなかった劇場に行こう。1年を締めくくるジ・エンドな映画としても、1年を始めるハピニュイヤァな映画としても最高。

映画『RRR アールアールアール』|絶賛上映中!

 

以上です! 来年も良い映画にたくさん出会えますように!

 

おまけ:2022年映画リスト(すごい面白かったけど語りきれなかった映画たくさんありますが、また別の機会に…。)