沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

国立科学博物館の特別展「毒」に行ったよ毒毒レポート

ニコチンは 神経毒の 一種です(五七五)

というわけで上野の国立科学博物館の特別展「毒」(〜2/19)に行ってきました。ポイズン〜〜〜!

www.dokuten.jp

生き物好き的にもかなりエンジョイできたので写真レポ&感想をまとめておきます。(基本、写真OKシェアOKな特別展でした。現代的でイイと思う。)

ちなみに私は科博ガチ勢の嗜みとして、常設展に入り放題な「リピーターズパス」を持っているので、それを提示することで700円引きくらいで入れた(日時指定予約は必要だが)。年に2〜3回科博に行く人ならたぶん元取れるから受付で買っとこう。科博に限らず年パス系は、国が予算をケチるせいで国立なのに色々苦しいという博物館へのダイレクト支援にもなる。国立博物館を軽視しておきながら国を名乗ってんじゃねーぞ(←毒)

 

特別展「毒」、入ってみるとさっそく巨大オオスズメバチと巨大ハブが待ち受けていてアツイ!(前の「昆虫展」や「大哺乳類展」でも巨大フィギュアあったので、恒例化したんだろうか。)

でかい!こわい!カッコいい!

実は私は子どもの頃オオスズメバチに刺されてヤバかった過去があるため、一時期(こどものころ)はハチを敵視していたのだが…。

今はオオスズメバチの、狩りと戦闘に特化した能力と姿を美しいと思っている。(だから私を毒殺しようとしたことは水に流すとしよう。)こうして巨大な姿をまじまじ眺めると、本当に戦闘マシンのように美しい造形をしているよな…。こんな大きさじゃなくて本当に良かった。

 

ちなみに巨大イラガ幼虫もいた。

バッシバシなすごい毒棘(どくきょくと読む)。写真をタップしただけでかぶれそう。

こうして巨大な姿でクローズアップして見ると、あまりに毒トゲが過剰な気がして「そんなにトゲいることある?」となんか笑ってしまうが、自分を喰らわんとする外敵に、いかに効率よく毒を注入するか最適化した進化の結果なのだろうな。最適で合理的だからと言って、無印良品みたいにシンプルになるとは限らないのだ!(?)

 

ハチ毒のコーナーには、有名な「シュミット指数」の話題も。

シュミット指数とは…「毒のカクテル」と称されるほど多様で複雑なハチ毒の強さを、マジで色んなハチに刺されることで、体を張って確かめたシュミット博士が考案した痛みの指数。

 すげえキメの細かい「痛み」の指標とかも眺めていると、シュミット博士の体の張り方が変態的なのは否めず、素人目にはそのうち死ぬぞと思ってしまうが、科学者としては真面目で真摯な態度なのは疑いようもない。「痛み」という数値化しづらい感覚に基準を設けた点でも有意義である…。

シュミット指数最強の「タランチュラホーク」めっちゃこわいな(名前はカッコいい)。「毒」って、体が小さくて非力な動物が、外敵との力関係をひっくり返すために大きなコストを払って体に仕込むもの…というイメージがなんとなくあるので、この「タランチュラホーク」みたいに、ハチとしては明らかにバカでかいにもかかわらず、とんでもなく強烈な毒をもってるって、なんつーか反則な気がする。

かように一筋縄ではいかない「ハチの毒」、考え出すと面白いのだが、今回の「毒」展でもその多様さが詳しく解説されていてよかった。攻撃だけでなく守備にも使える「毒」の意外な応用性の高さこそが、ハチの進化の多様さを生んだ、という考え方もできるわけか…。

それほどハチ毒は(ハチ自身と同じように)多様を極めるので、「この毒が痛い」「いちばん強いハチ毒はこれ」なんてことは、実際に刺されてみないとわからない。「痛み」なんて感覚は主観が混ざるぶん、条件を揃えなければ定量化も難しいわけで、その意味でもシュミット博士のやったことって冗談抜きで意義深いんだろうな…。その成果は 『蜂と蟻に刺されてみた―「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ』という本によくまとまっているのでぜひ読もう。

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そしてちょうど『THE LAST OF US』という菌類ゾンビが出てくるゲーム/ドラマがアツい時期なので…

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「毒」展でもどうしても菌類に目が行ってしまう。

「毒を持つ菌類」といえば、身近なのはやっぱり毒キノコということで、世界の色んな毒キノコが展示されていました。

 

世界一有名な毒キノコ🍄だけど、いうほど致死的な毒はないベニテングタケ。でも絶対食べないほうが良い!

いわゆる「マジックマッシュルーム」として、食べると幻覚を見る作用のあるキノコも多いのだが、す〜ぐ毒を摂取する人類に利用されてしまうのだった(この記事↓でも本来は毒物として進化したカフェインを話題にしたけど…)

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これ↓はワライタケで、日本では所持すら違法らしいので気をつけよう! しかし冷静に考えると「人間に幻覚を見せる毒」ってどういうことなんだろうな…どういう進化のロジックでそんな毒を獲得することになるんだ……謎すぎるぞ、キノコ。

食べると当然死ぬし、なんと触っただけでもヤバいカエンタケ。絶対近寄らないようにしよう…(こいつだけ厳重なのがなんかコワイ)

毒きのこコーナーには、「毒」展らしい科学的な注意書きも。毒きのこにまつわる「法則」みたいな言い伝えはほとんどが迷信であり、科学的根拠が何もないから注意、とのこと。信じちゃうと命に関わる「迷信」だもんな…

というかそもそも「地球上のきのこの大半は食毒不明」らしく、そうなんだ…いやでもそりゃそうだよな、と妙に感銘を受けた。それこそさっきのシュミット博士みたいに体を張ってる変態…じゃなかった、真摯な科学者がそんなに多いわけでもないだろうし、うっかり食べた事故でもない限り「毒がある」なんてわかりっこないもんな。シュレディンガーの猫ならぬ、シュレディンガーの毒きのことでも言おうか…。「毒について知る」営みの困難さをさりげなく思い知らされるコーナーであった。

 

続いて「こんな動物にも毒が!?」的なコーナー。そこにいたのは…

ピトフーイだ!(正確にはズグロモリモズ。)

世にも珍しい「毒をもつ鳥」とかいうロマンすぎる存在。パプアニューギニアに生息し、羽や皮膚に「バトラコトキシン類」の毒があることが判明。なんで鳥なのに毒をもってるのかというと、常食するジョウカイモドキ科の昆虫がもつ神経毒に由来してるとのこと(この近縁種の虫も展示されていた)。

ズグロモリモズを見て、逆に「なぜ毒を持つ鳥類は圧倒的に少ないのか」とも考えてしまうんだよね。まぁ鳥だけでなく、毒を持つ哺乳類も非常に珍しいわけだが…たとえば我らがカモノハシとか。

それでも他にもスローロリスとか、トガリネズミとか、「有毒哺乳類」って地味にそこそこの数いるので、「有毒の鳥」に比べるとやや多い印象(見つかってないだけかもしれないけど)。なんで毒のある鳥って珍しいんだろうね。

さっき「毒は大きな体や強い力を持てない生きものが高コストで獲得した外敵への対抗手段」と書いたが、まぁ一般的にはおおむねそういうことなんだろう。ただ、そこに「有毒の鳥が少ない」という条件がくわわると、たとえば「移動能力と毒」の間になんらかの関連を見い出せないかなって。

自分では全く動けない植物やキノコの仲間に「毒」を進化させたものが多く、動物の中では移動能力に劣る爬虫類・両生類なども収斂するように「毒」を獲得し、ひるがえって移動能力の高い哺乳類や、もっと高い鳥類には有毒の種が少ないという事実から、「毒」が「移動能力」を代替するような強みを自然界で発揮したりする可能性なんてないかな〜とかボンヤリ考えたりした。まぁこの理屈だと虫や魚にも毒持ち多いのはなんなんだよって話なので(タランチュラホーク先輩…)、自分で言ってていきなり破綻しそうな感じだが。ただ生存には超有利な毒が、体内で生成・維持するために半端ないコストが必要な特質なのは確かなはずなので(そうじゃないならみんな有毒生物になるはずだし)、この辺の「毒のコストとの折り合い」みたいな話を真剣に考える研究とかあるんなら覗いてみたいな。

 

他にも「毒」展、色々と毒にまつわる興味深い展示が多いのでじっくり見てみてね。冒頭でも紹介した、「身近な毒」として展示されるタバコ、迫力がある。

ニコチンは 神経毒の 1種です(二回め)

 

おみやげショップには「おおきなベニテングタケ」ぬいぐるみが売ってた。1万円オーバーだったので買うのはやめといたが、ぬいぐるみコレクションにくわえたい毒々しいかわいさである。

 

図録も買った。装丁も「いにしえの毒本」って感じで本格的でイイね。『薔薇の名前』じゃないけどページに毒塗ってそうな風格が素敵。

展示されていなかった、どうぶつコラムや豆知識も沢山なので、ゆっくり読むとしよう。科博の図録、普通に生きもの図解の資料になるので私的にマストバイである。てか普通に考えてこんなガチ装丁でフルカラー180pで写真・図版・コラム山盛りで大勢の専門家フル監修の本が2400円で買える機会は特別展の図録以外ではまずありえないので、一般的にもマストバイである。

そんな感じで楽しかった「毒」展。行ってよかった!開催は2月19日までなのでみんな早めに行こうね。

我々哺乳類も(ニコチンとかマジックマッシュルームとか)マジの毒を体に仕込むのは控えめにしつつ、心に毒を仕込んでたくましく生きていきましょう!スローロリスのように…。

 

「生きものの毒」にさらに興味持った人へのオススメ本。面白いよ。

『毒々生物の奇妙な進化』クリスティー・ウィルコックス

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