ゲーム『THE LAST OF US』シリーズは正真正銘の神ゲーである。
『THE LAST OF US(ザ・ラスト・オブ・アス)』…通称「ラスアス」について超ざっくり説明すると、菌類ゾンビパニックで崩壊しつつある世界で、とある深い喪失に苦しむ中年男・ジョエルと、世界を救う鍵となるかもしれない少女・エリーの、残酷で過酷な旅路を描く作品だ。あらすじだけ聞くと「よくあるゾンビものね」という感じかもしれないが、プレイヤーが主人公に乗り移って他者の人生を追体験する「ゲーム」としての性質をものすごく巧みに活かした物語や演出によって、映画やドラマではまず不可能な、強烈なインパクトをプレイヤーの心に与えやがっ……与えてくれるゲームである。
続編の『THE LAST OF US Part II 』(通称ラスアス2)では物語が格段にスケールアップするだけでなく、「主人公を操作する」ゲームとしての必然性がさらに濃厚になり、考えうる全てのギミックをプレイヤーの心を抉るためフル活用してくるため、もはや娯楽っていうか"プレイする地獄"のような有様になってくる。2は非常にショッキングな展開が冒頭で起きることもあり賛否両論あるのだが、私に言わせれば傑作の1をはるかに上回る大傑作なので、否定レビューは気にせずさっさとプレイしたほうがいい。
まぁとにかく『THE LAST OF US』は強烈に面白いゲームシリーズなのである。世界中で大ヒットを記録し、様々な賞を総なめにし、ここ10年を代表する傑作ゲームとして語り継がれているのも、当たり前と言うほかない。
ラスアスはあまりに神ゲーすぎるし人生ベスト級に大好きな1本なので、まさかの実写ドラマ化を果たすと聞いた時には、「なにそれ楽しみ〜絶対みる」という期待と、「実写化?あのゲームを?厳しくね?」という不安が入り混じった。だが………まずは観てみなければわからない。
そんなこんなで運命の配信日1/16当日となり、さっそくHBOドラマ版『THE LAST OF US』を(去年『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』が終わって一回切ったU-NEXTに入り直して)、さっそく観てみたわけだが…。
HBOドラマ『THE LAST OF US』1話見たが、これは最高なのでは? 今年イチの期待度と、原作ゲームが好きすぎて微量の不安とを抱えつつ爆速で見たが、期待を大きく上回るクオリティ。コロナ後の世界についに放たれた、パンデミックを描く超大作エンタメという意味でも、かなり重要なシリーズになる予感。 pic.twitter.com/Pyk7chxWha
— ぬまがさワタリ (@numagasa) 2023年1月16日
まだ第1話だし現時点での評価ということになるが……結論から言って「最高」の出来栄えに仕上がっていたと思う。かなり高かった期待のハードルを大きく上回ってくれたことが嬉しいので、珍しく第1話からいきなり感想を書いてみたい。
致命的なネタバレはなるべく避けて語るつもりだが、何も知らずに観れるならそれに越したことはないので、可能であればドラマを見てから読んでもらいたい。「ゲーム未プレイの人はドラマとどっちから入るべきか」問題は、普段のスタンスならゲームを勧めるが、これだけ出来がいいとドラマから観るのも大いにアリだと今回は思う(せっかく世界同時に盛り上がれるしね)。第1話は80分と、ちょっとした映画くらい長いが、本当に面白いので体感すぐ見終わるだろう。↓
【パンデミック以降の世界に突きつける「パンデミック超大作」】
ドラマの基本的なあらすじは、ゲームと全く同じだ。主人公の男ジョエルは、娘のサラ、弟のトミーと一緒に幸せな人生を送っていた。しかし何の変哲もないある日、世界が急に音を立てて崩れ始める。謎のウイルス…ではなく実は「菌」なのだが、ともかくアメリカ中に致命的な感染症が広がってしまい、ゾンビのような人食いの「感染者」が跋扈し、文明社会が崩壊していくという、史上最悪のパンデミックが幕を開けることになる。
ここまでは確かにゲームもドラマも同じだ……しかし、ある意味では「同じ」ではない。私たちの世界のほうが変わってしまったからである。ゲーム『THE LAST OF US』は2013年に発売された作品だが、その実写化作品を今2023年に観るにあたって、現実世界に起きた大事件を想起しない人は誰ひとりいないだろう。言うまでもなく、2020年から世界を席巻している、新型コロナウイルスのパンデミックである。
あくまで私の思いつく限りではあるが、本作のように莫大な制作費が投じられた世界的なエンタメ大作で、「コロナ禍以降」に「パンデミック的な災害」を主要なテーマとする新作は、このドラマ『THE LAST OF US』が初となるのではないだろうか…? (まぁ『ウォーキング・デッド』などおなじみのゾンビ系は色々あるし、より小規模な作品であれば当然いくらでもあるだろうが。)
10年前のゲーム第1作の方は当然として、2020年6月の発売となるラスアス2を作った制作陣も、その直後に現実世界を致死的な感染症が襲うことになるとは予想していなかったはずだ。その意味でこのドラマは、コロナ禍の世界を作り手も観客も十分に思い知った後に、そのリアリティを織り込んで作られる、なんなら初かもしれない「パンデミック超大作」になるというわけだ。その意味でも、映像エンタメの歴史において、けっこう重要なポイントになりそうだな…と思っている。
『THE LAST OF US』シリーズの恐ろしさは、人食いゾンビである「感染者」の描写に最もわかりやすく現れている。ドラマではまだ序の口だが、平和だった日常が突如反転し、無害な隣人が「人ではないもの」に姿を変えてしまうという、かなり恐ろしい「感染者」描写をいきなり味わうことになる。
本作はまぁ確かにゾンビものではあるのだが、ウイルスではなくキノコのような「菌類」、それも冬虫夏草とかの寄生系のロジックで動くゾンビというのが(生きもの好きとしても)かなり面白いポイントなので、ドラマでも冒頭からそこに焦点が当たってくれて嬉しい。(まだ序の口だけどさっそく登場した、胞子化した死体のビジュアルとか最高!)わくわく菌類ドラマとしてのポテンシャルの高さがこの「おぞまし美しい」オープニングからもひしひし伝わる。↓
#TheLastOfUs opening credits. Streaming now on @HBOMax. pic.twitter.com/Y7z6pbj6KS
— The Last of Us (@TheLastofUsHBO) 2023年1月16日
だがドラマ1話では感染者=ゾンビそのもの以上に、「感染者」と「感染していない人」と「感染しているかもしれない人」の間に、恣意的かつ暴力的に「線が引かれる」ことの恐ろしさが強調されていた。この世界ではどんな人でも、他者の偏見や思い込み、体制側の都合、その場の成り行きによって、かんたんに排除され、命を奪われてしまうということだ。そのことの恐ろしさは、実際にパンデミックを経た現実世界の私たちの中で、より嫌なリアリティをもって増幅されはしないだろうか…。
ジョエルたちを襲う最大の悲劇が、その暴力的な「命の線引き」によってもたらされてしまう…という事実の残酷さには、ドラマ全体を通じて確実に(ひょっとするとゲーム以上に頻繁に)繰り返し立ち返ることになるだろう。
何より悲しいのは、その悲劇にたどり着くまでに、ジョエル自身も多くの「線引き」を繰り返してしまっている…ということだ。極限状態で家族を守り、生き残ろうとするジョエルを責められはしないものの、それでも「困っている家族を見捨てる」だとか「感染者だろうが人間だろうが車で轢いて逃げる」だとか、彼もまた「線引き」をしてきたという残酷かつシンプルな事実が、ドラマではより強調されているのだ。だが、そうした行動の真の恐ろしさに、必死で生き延びようとしている人々が気づくことはない。ついに自分たちに「線引き」の銃口が向けられる、その時までは…。
ドラマオリジナル場面となる、文明崩壊後に命からがら街にたどり着いた子どもを待ち受ける運命にも震えてしまった。極めてドライな描き方ではあるが、システム(そしてそれを構成する私たち=us自身)による「線引き」の無情さをあぶり出しているのだ。
そして物語の最後、エリーを巡る「線引き」に対して、ジョエル自身が出すことになる結論こそが、『THE LAST OF US』の核心にあるテーマである。あの心を揺さぶる結末が、ドラマではどのように表現されるのだろうか。まだ1話だが、考えると早くも震撼してしまう…。
今後も「パンデミック以降、初のパンデミック超大作」として、現実のパンデミックによって明らかになった社会の歪みを織り込んできたり、原作ゲームにはなかった要素を色々ぶつけてくるかもしれない。私は原作の大ファンとは言え、別メディアであるドラマが必ずしもゲームに「忠実」に進めていく必要はないと思っているので、震えながらも楽しみにしたいところだ。
【"ゲームキャラ実写化"の新たな挑戦】
ドラマ『THE LAST OF US』の見どころとして、ゲームのキャラをどのように「実写化」するかは期待のポイントだった。ゲームの時点でかなりリアルに作り込まれたキャラたちなので、実写では逆に忠実にゲームへ寄せていくのか、それとも大胆な変更を遂げるのか…。その意味でも、この実写ドラマ版はとても好ましいバランス感覚を発揮してくれた。
主人公ジョエルを演じるペドロ・パスカルの素晴らしさは言うまでもない(2023年はこの後『マンダロリアン』も来るし、今年の干支はウサギではなくペドロ・パスカルなのだろうか)。だが特に唸らされたのは、本作のもう1人の主人公エリー(ベラ・ラムジー)、そしてジョエルのパートナー女性テス(アナ・トーヴ)である。2人とも、ゲームのキャラに外見を「寄せる」方向のキャスティングというわけではないので、一部では「外見が違う!」などと言われるのかもしれない。だが実際に1話を見てみると「これしかない」というバッチリ感で、すでに2人とも大好きなキャラになってしまった。
おそらく制作陣が意識したのは、パンデミック後の崩壊した世界で、本当にたくましく生きていけそうな実在感と生命力を備えた女性キャラクターの造形だろう。エリーは、常に悪態をついているガラの悪い少女だが、その奥にはタフなサバイバル精神と知性を秘めており、そしてもっと奥には普通の子どもらしさが隠れていることが、ベラ・ラムジー(いま気づいたけど『ゲーム・オブ・スローンズ』のリアナか!そりゃ凄いわけだ)の見事な演技によって伝わってくる。その頭の回転の速さによって、無愛想なジョエルに一発くらわせる「暗号」のシーンなんて絶品だ。
テスにしても、56歳設定のジョエルのパートナーにふさわしく、現実的な加齢を重ねつつも、したたかな精神力と生存スキルを獲得してきた女性として、巧みに再解釈されている。このドラマ版の2人の造形を見てしまった後では、むしろゲームのほうのエリーやテスが、ちょっと男性主人公&プレイヤーに都合が良く、マネキン的にかわいすぎる&綺麗すぎる感じがしてこないか心配になるほどだ。あれほど思い入れのあるゲームにそんなことを思わされるという時点で、もはや実写化は成功していると言えるのではないだろうか。
とはいえこれは言っておきたいが、『THE LAST OF US』シリーズは、そもそもゲームからして、反差別や多様性への意識が極めて高い作品である。1作目の時点でもゲイのキャラクターであるビルが味方として登場したり、エリーへの性的な加害・搾取を怒りとともに描いたりしていた。『Part II』ではさらに踏み込んで、主人公エリーが同性愛者であることを正面からしっかり描き、女性の恋人と一緒に冒険をさせ、現実の社会をリアルに反映した多彩な人種・属性の人物を積極的に登場させるという(物語そのものは地獄みたいだが)とても現代的で風通しの良い、革新的なゲーム作品になっている。
残念なことに日本のゲーマーの一部に、その制作陣の真摯な姿勢をあげつらって、「ラスアス2はポリコレを意識しすぎて駄作になった」などと差別的な上に見当外れな意見を撒き散らす人もいるようだが、まさに愚の骨頂としか言えない。そもそも「エリーがポリコレで同性愛者にさせられた!」とか騒いでる時点で前日譚のDLC『The Last Of Us Left Behind –残されたもの-』すら遊んでいないニワカであることが明らかだし、ゲームの真価をまともに見極める鑑賞眼もないのだろう。TVゲームなどという高尚な趣味からは手を引き、そのへんで缶蹴りでもしていてほしいものだ。
少し脱線したが、このドラマは原作『The Last Of Us』のそうした先進的な姿勢を汲み取って、実写というフィールドでさらに研ぎ澄ませようと試みているに違いない。少なくとも「ゲームと見た目を全く同じにしましたよ、その方がファンも嬉しいでしょ?」みたいな表面的な"リスペクト"には、ドラマ制作陣は一切興味がないようだ。制作陣が追い求めているのは、傑作ゲーム『THE LAST OF US』の実写化にふさわしい、真に血が通った「生きた」キャラクターを創造することなのだろう。まったくもって信頼に値する姿勢だと言わざるを得ない。まだ1話だが、他のキャラクターがどのように再解釈・再創造されるのかゲームファンとしても非常に楽しみだ。
【ゲームの実写化という鬼門を超えられるか】
何度も言ってるが、『THE LAST OF US』シリーズは正真正銘の神ゲーである。まさに「プレイする映画」「プレイするドラマ」と呼ぶにふさわしい、濃厚な実在感をもつキャラクターたちの過酷な旅路に、ゲームならではの手法で深く「連れ添う」ことができる傑作だ。しかしだからこそ、本シリーズを改めて「実写」に作り変えるのは相当難しいだろうなあと思っていた。
たとえば、『THE LAST OF US』の制作スタジオ・ノーティドッグのもう一つの有名シリーズ『アンチャーテッド』も、奇しくも昨年トム・ホランド主演で映画化された。娯楽作としては見せ場もド派手だしかなり楽しめたのだが、「あ〜、でもやっぱゲームとは根本的に違う体験だな」というのは実感せざるをえなかった。やはり「自分でプレイする」という、ゲームをゲームたらしめている根本的な要素なしには、どんなにド派手なスペクタクルも、ゲーム版『アンチャーテッド』シリーズのような没入感や痛快さを与えてはくれないと感じたのだ。本作に限らずゲームを「実写化」することの難しさは、映画をそこそこ観ている人なら誰しも実感するところではないだろうか。
だがこのドラマ版『THE LAST OF US』は、そんなハードルも超えてくれるのではないか…と期待している。なんならゲームより面白いよな、くらいに囁かれる作品になってくれてもいい。原作ファンは「それはさすがに無理じゃね」と思うかもだが、現にドラマ1話の時点で、ゲーム版で生じたよりも強い感情が、視聴者(私)の中に生まれた場面がいくつもある。
たとえば、ゲームでは冒頭のわりと一瞬で流された「腕時計」のエピソードも、ドラマではサラ視点から丁寧に肉付けして描くことで、ジョエルにとって「壊れた時計」のアイテムが持つ重みが格段に増している。その上で、ゲームの物語の流れを全く損なっていないというのもエレガントだ。
これはあくまで一例で、他にも弟トミーが留置所に入れられたせいでジョエルが出かける羽目に…のくだりとか、細かいながらサブキャラの人物描写を入れている。同時に「サラが目を覚ました時ジョエルはどこにいたのか」など、ゲームをプレイしただけではわからない情報をさりげなく補足しているわけだ。
こうした数多くの丁寧な補足や掘り下げの結果、すでに1話ラストの段階で、ゲームの同じくらいの進行度のタイミングと比べても、いっそう真に迫る実在感がキャラクターたちに与えられているように思う。確かにドラマや映画は、自分でプレイできるわけではないので、インタラクション性の楽しさや、没入感という意味ではゲームに劣るかもしれない。しかし一方通行の映像メディアだからこそ可能な、丁寧な演出や周到な描写によって、逆に「ゲームを実写化」した映像作品が、「ゲームを超える」感動を与えることも可能かもしれない…。そんな野心をも感じさせるドラマだった。そもそもゲーム『THE LAST OF US』など、ノーティドッグのゲームがなぜ凄いかといえば、ドラマや映画のそうした手法を、ゲームの構造に上手く取り入れたからというのも大きいのだから。
そんなわけでドラマ『THE LAST OF US』は、まるで既存のドラマ・映画など「一方通行の映像エンタメ」から、「新時代のエンタメ・ゲーム」に対する挑戦状のようでもあり、アンサーのようでもあり、原作への敬意だけでなくバチバチの野心に満ちているようにも感じられた。「ゲームの実写化」というジャンルの中でも、本作が歴史的な1作になってくれれば、ラスアス好き・映画好きとしてはこれ以上なく嬉しい。
というわけで、毎週このレベルのエンタメが味わえると言うだけでも、生きる気力が湧いてくるほどだ(まぁいうて見せられるのは世にも悲しく残酷な物語なのだが…)。続きを楽しみにしているし、なんなら毎週感想にトライしてみようかな、とかまで思ってる(それは仮に厳しくてもドラマ終了の段階でまた感想を書きたいものだ)。いったんおしまい。今年の1作になる予感がひしひしするので、ドラマファンはぜひ観てね↓
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ちなみにドラマ版『THE LAST OF US』はU-NEXTの独占配信なので他のサブスクでは見れない。面倒だからもう何もかも統一されればいいのにね(乱暴)。U-NEXTは月額料金を税込2200円くらい取りよるお高いサブスクなので怯む人も多そうだが、映画鑑賞とかに使えるポイントを毎月1200ポイントくれるので(少なくとも私のような映画ファンなら)まぁ実質月額1000円という感じではある。
HBOドラマはさすがにたいてい面白いので、ラスアスだけでなく、せっかく入るならエミー賞獲った『ホワイト・ロータス』とか『メディア王』とかも観てしまおう。どっちも個別に記事書きたいくらい面白かった。
紹介するまでもないが、やはりここ10年を代表するドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』はせっかくU-NEXTに入るなら必ず観ておいてほしい(8シーズンあるが…)。ドラマ『THE LAST OF US』のW主演ペドロ・パスカルとベラ・ラムセイも、出番こそ多くないけど見た人は絶対忘れないであろう強烈なキャラを演じている。配信されたばかりの前日譚『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』も凄まじい出来栄えなので必見だ。
…まぁHBOは打率が高すぎて、ついドラマ好きとしては色々勧めてしまうわけだが、普通の人はそんなドラマばかり観てるわけにもいかないと思うので、とりあえず1話だけ観て気に入りそうなやつを探してほしい。
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