沼の見える街

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神回の後の静けさ。ドラマ『THE LAST OF US』第4話感想

ドラマ版「THE LAST OF US」、なんぼなんでも神回すぎた3話の後、はたしてどうくるかな…と若干ビビっていた。すでに散々語り倒したように、3話は正真正銘の傑作回であったし、このドラマの現代エンタメ史における重要性をある程度決定づけた、と言ってしまっていいだろう。

 

↓前回(神回オブ神回)

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先週はドラマを観てからというものビル&フランクのことをずっと考えていてしまい、他の創作物がイマイチ頭に入らないほどだった。きっと同様の人が世界中に沢山いることだろう…1000万人くらい…(←このドラマの視聴者数を考えるとそんなに大げさではない数字なのでこわい)

ただぶっちゃけ毎回3話のテンションで来られても逆に困るというか、そんな毎週ドラマに打ちのめされて放心してるわけにもいかないので、今回は(話的にも繋ぎ回だろうし)あっさりめでいいっすわ…などと思っていたほどだ。そしてその期待は当たることになる。……ある程度は。

 

以下ネタバレ気にせず感想書くので、U-NEXTで見てから読んでね。

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ーーー以下ネタバレ注意ーーー

 

【ジョエルとエリー、アメリカぶらり旅】

まるで『タクシードライバー』のトラヴィスのように、前回ビルの家でこっそり手に入れた銃を、鏡の前で突きつけてポーズをとるエリー。タフな彼女の微笑ましい一面ではあるが、結局の所まだ子どもであるがゆえの危なっかしさも垣間見えて、不穏な気持ちも生じる。

ビルとフランクの家から貰い受けた車で、2人はドライブを続けているが、ガソリン補給のために廃墟のスタンドに立ち寄ったようだ。エリーがおもむろにリュックからジョークの本を取り出して読むくだりは、DLC「Left Behind」の場面を思い出すわけだが、このジョーク本が今回、意外なほど重要な役割を果たすことになる。このように、ドラマ版ではすでに何度か「Left Behind」の出来事やモチーフがさりげなく言及されてきたので、このシーズンの中で「Left Behind」もやってくれるのではないか、と期待は高まってしまう(やれば3話級の神回になるでしょ絶対)。

ゲームでもあった、ビルのゲイ向けエロ本をエリーがくすねて車内で読むシーンもちゃんと再現されていた。セリフや構図もほぼそのままだが、ゲームでも荒んだ世界の雰囲気をエリーが明るくしてくれる印象的な場面だったので、ファンサービスとして気合いを入れたのだろう。ちなみにゲーム1作目では、キャラクターが性的マイノリティであることが明示される場面は実質的にここだけなので、こうした表現に関してその後ラスアスシリーズがいかに格段の進歩を遂げていくことか、ちょっと思いを馳せてしまう。

しばらく進んだ後、野外でキャンプを始める2人。「焚き火はしない」というやりとりから、感染者よりも人間に警戒せざるを得ないという、世界の荒廃っぷりがそれとなく示される。2話で登場したクリッカーを筆頭とする感染者はたしかに恐るべき脅威だが、結局のところ行動パターンがはっきりした猛獣のような存在にすぎないとも言える。真に恐るべきは、やはり人間である…というのは、原作ゲームとも共通する世界観だ。そんな不安な夜であっても、エリーのダジャレクイズにジョエルが「正解」を出してしまう場面には暖かさがある。

翌朝ジョエルがキャンプでコーヒーを飲む場面も、地味に注目したい。ジョエルは原作ゲームでは探索中に「あ〜、コーヒーが飲みたい…」などと呟きつつ、今はめったに飲めないのであろうコーヒー愛を露わにしていたし、『The Last of Us Part II』でも彼のコーヒー大好き設定が生かされていた。しかしドラマ版では、一応コーヒーっぽい飲み物は普通に飲んでいるようだ。「焦げたウンチの匂い」とか言われて、むくれたように音を立てて飲み干すジョエルが萌えである。ちなみに焦げたウンチ呼ばわりは、文明崩壊後の生まれのエリーがコーヒーの匂いを知らないゆえなのかと思ったが、ラスアス世界で本物の(良い香りのする)コーヒーが流通してるとも考えにくいので、実は本当に劣化してヒドイ匂いのコーヒーな可能性も高い…。

そんな感じで、この4話はジョエルとエリーのやりとりなど、けっこう笑いの要素が多かったり、良い意味で力の抜けた感じも程よく、神回の直後に見るにはちょうどいい感じの繋ぎ回になっていた……と言いたいところだが、それだけでは決して済まさないのも、やはりラスアスである…。

 

【ラスアス2先取り?なしんどさ】

というのもこの4話で、早くも続編ゲーム『The Last of Us Part II』のテーマ性を強く想起せざるをえない場面が現れるのである。先ほど「真に恐ろしい敵は人間」と言ったが、『The Last of Us Part II』はその「敵もまた人間である」という事実を、おそらくゲーム史上最も高い解像度によって描いた作品と言って良いと思う。たとえば、モブの敵キャラにも全員名前があり、殺そうとすると命乞いを始めたり、その死体を見た仲間がそいつの名前を泣き叫びはじめたりするという、ほとんど嫌がらせのような細かい処置が加えられている…。その結果、ガンガン人を殺していくゲームにもかかわらず、殺人や暴力がもつ取り返しのつかない重みを常に突きつけられたまま進行するという、まさに「プレイする地獄」のような有様になっているのだ。まさにそれこそが『The Last of Us Part II』を傑作足らしめているわけだが…。

このドラマ版4話では、ジョエルとエリーから見れば「敵」にあたる組織の内情が、けっこう詳しく描かれていくのも印象深い。ドラマ『イエロージャケッツ』(これもU-NEXTで見れます)にも出ていたメラニー・リンスキーが演じる、組織のリーダーである「キャスリン」という中年女性のキャラクターに光が当たり、敵には敵の事情があることが描かれていく様子も非常に『The Last of Us Part II』っぽいと言える。ゲームでもおなじみの黒人青年のキャラクター・ヘンリーと因縁があることが示され、このキャラや関係がどう転んでいくのか読めないが、ドラマならではの展開が見られることはまず間違いなさそうだ。ビル編が大きく変更されたことで出番が延びた中ボス・ブローターも、満を持して登場する気配なので楽しみである…。

そしてジョエルとエリーが「敵」である人間たちの罠にはまり、やむをえず戦闘になって相手を殺害していく場面は、何より『The Last of Us Part II』の思想を大いに感じさせた。ストーリー進行の上では単なる「モブ敵その1〜3」とかに過ぎない彼らもまた、この崩壊世界で共に生きてきた者同士であり、仲間が殺されれば当然だが大きなショックを受ける。仲間を殺したジョエルの命を奪おうとした寸前、後ろからエリーに撃たれた若者は、必死で命乞いを始め、ブライアンという名前を名乗り、ジョエルに「むこうに行ってろ」と言われて立ち去るエリーに「行かないでくれ」と懇願し、「お母さん!」と叫びながら、ジョエルにトドメを刺されることになる…。とても「主人公たちが協力して敵をやっつけたぞ!」という場面とは思えない、あまりに悲惨すぎる描かれ方である。だが本来「誰かをやっつける」というのは、リアルに描写すればこういうことなのだ…。

そんな本物の、ひたすら陰惨なだけの暴力の場面を目にしてしまったエリーは、銃をジョエルに手渡す。ゲーム版では、勝手に銃を撃ったエリーに対して、ジョエルは怒りを表明するわけだが、ドラマ版ではまったく違った反応になっていた。自分が不甲斐ないせいで、エリーに暴力を振るわせることになってしまい、申し訳ない…と謝罪するのだ。その謝罪を聞いたエリーは、自分が傷ついていたことに今気づいたかのように涙を流す。ゲーム版ジョエルの(たぶん自分の不甲斐なさへの苛立ちも混在した)怒りも理解できなくはないが、ここはドラマ版ジョエルのほうが、大人の子どもへの態度としてはずっと適切なように思う。

悲惨な出来事はあったとはいえ、ジョエルとエリーは目前の危機を脱するため、ビルに登っていく。高層階の一室で夜を明かすことにした2人。眠る前に、エリーが再びしょうもないジョークを言い、今度こそジョエルは思わず吹き出してしまう。声に出して笑うほどにジョエルがはっきりと笑顔を見せたのは、おそらく第1話の20年前の場面以来だろう。亡くなった娘・サラが残した傷が癒えることは決してないが、ジョエルとエリーという孤独な2人が築く擬似親子的な関係は、次第に深まっていくのだった。

しかし穏やかな夜は続かず、目を覚ませばそこには銃口を突きつける黒人少年の姿が…!というところで4話は幕を閉じる。いよいよ『The Last of Us』シリーズを(色んな意味で…)最も象徴するサブキャラクター、ヘンリー&サム兄弟が登場…というわけで、期待が高まっていく。 というわけで4話は、神回の直後にちょうどいい(比較的)静かな回でありながら、ゲームに忠実な再現と巧みな再構成をうまく織り交ぜながら、ラスアス2を想起する辛い展開や興味深い改変などもブチこんでくるという、相変わらず目が離せないドラマであると実感させられた。

ちなみにだが、第5話は来週の月曜ではなく、今週の金曜(2/11)配信らしいので気をつけよう。ゲームファンにはおなじみの、山寺宏一さんや潘めぐみさんの吹き替え版も2/13から配信スタートするので、楽しみに待ちたいところだ。

 

『THE LAST OF US』U-NEXTで視聴 

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