沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

図解「不老不死」の鍵を握る動物たち

不老不死になりたいですか? あっという間に過ぎていく人生の儚さが不満な人は、老いや死の常識をぶち破るような動物の生き様をチェックしてみましょう。そんなわけで今回は「不老不死」の鍵を握る(かもしれない)動物たちの図解です。

【テキスト】

<1>
「不老不死」…それは人類の見果てぬ夢だ。歴史上、数多の権力者やセレブがその夢を追ったが、実現した者はいない。だが実は「不老不死」の秘密を解き明かす鍵を動物が握るとしたら…?

2007年、アラスカ沖で捕獲されたホッキョククジラの体の奥深くから、大きな「銛」の破片が発見された。だがなんと、その銛が最後に使われていた時代は、1890年ごろだと判明した。このクジラに銛が打ち込まれたのは約120年前ということになるのだ…!

1890年前後に銛を打たれたクジラは…1世紀以上も生き続け…2007年に死亡し銛が発見。

参考 1886年 ベンツが世界初のガソリン車を発表
2007年 スティーブ・ジョブズが初代iphoneを発表

これほど長い時間を、クジラは生き続けたことになる。

<2>
ホッキョククジラは地球の哺乳類で最も寿命が長い。なんと211歳という超長寿の個体も確認されている。
その寿命の長さには厳しい生活環境が関係しているようだ。冷たい海では体が大きくなるほど体温の維持がしやすくなるのだが…餌の少ない北極海では、大きく成長するには長い時間がかかり、繁殖の時期も遅くなる。
こうした条件から、長生きできる個体が有利となり、「長寿」に進化したのだろう。
冷たい海の大型動物が「不老」めいた長寿となる例が他にもある。
北極圏の深海に棲む世界最大の肉食サメ「ニシオンデンザメ」の寿命は、なんと400年を超えると判明した。
いま生きているニシオンデンザメは徳川家康やシェイクスピアが生きていた時代に生まれたかも…?
不老の秘密をまず探すべき場所は、海なのかもしれない。

<3>
驚くべき"不老"能力は、陸の小さな動物にも見られる。
アフリカの地下にすむ齧歯類ハダカデバネズミは、飼育下ではなんと30年以上も生きるとわかった。ふつうのネズミの10倍もの寿命だ。
単に寿命が長いだけではない。人間の死亡率は8年半ごとに倍増すると言われているが(ゴンペルツの法則)、ハダカデバネズミの死亡率は歳を取っても上昇せず、ずっと一定だ。つまり老化の兆候が皆無なのである。
驚くべき「長寿」の秘訣は、強力なタンパク質「Nrf2」が酸化による細胞へのダメージを打ち消すことにある。

さらに、ハダカデバネズミは決してガンにならないという。ガン細胞を制御する「ヒアルロン」酸の分子量が他の動物よりも大きい(マウスや人間の5倍)ことが理由と考えられている。「老化とガン」という人間のトップクラスの死因を防ぐ鍵を握る哺乳類として、注目は高まる一方だ。

<4>
「不老」を超え、「不死」の能力をもつ動物もいる。地中海で発見されたベニクラゲの一種Turritopsis dohrnii だ。このクラゲは死が迫ると、体を溶かして「若返り」、生命サイクルを逆転。理論上は「永遠に生きる」ことができるのだ…!
動物細胞の染色体にはふつう「テロメア」という、細胞分裂のための「回数券」がある。テロメアは通常なくなっていくものだが、ベニクラゲはテロメアを修復し続けて、無限に細胞を分裂させられるという…!その驚異の能力を解明すれば、人間が老いや死を克服する未来にも繋がるかもしれない…
とはいえ…こうした"反則的"な動物たちも、自然界ではごく普通に命を落とし、次の生命に道をゆずっていく。「死」は、「生」の大きなサイクルを回していく原動力でもあるのだ。科学や医学がどれほど発展したとしても、「死を忘れるな」の警句が古びることはないのだろう。

 

【参考資料】

『海の極限生物』スティーブン・R. パルンビ

先日の記事でも紹介した本。極限すぎる海の環境で生き抜く動物たちの極端な能力や生態を、海洋生物学者が美しくユーモラスな筆致で紹介。主にホッキョククジラのページで参考にしました。

amzn.to

 

『不老不死のクラゲの秘密』久保田 信

驚異的な「若返り」能力をもつベニクラゲの生態に関して、久保田先生は世界的な権威といっていい生物学者で、海外の本でベニクラゲを扱う時には必ず登場する。わかりやすく生態を解説した本も出しているので、せっかく日本語読めるならゲットしよう。

amzn.to

 

『海について,あるいは巨大サメを追った一年
ニシオンデンザメに魅せられて』モルテン・ストロークスネス

深海で数百年も生きるという巨大な「ニシオンデンザメ」の神秘に憑かれた、2人のノルウェー人が海に繰り出すノンフィクション。人間の都合などお構いなしな暗く深く冷たい海が育む、複雑で豊かな生命の世界を綴る。まるで『白鯨』のごとくニシオンデンザメを追い求める旅路がどう終わるかは読んでのお楽しみだが、その道程で多様な海の生物や、人と海との歴史的繋がりに寄り道するのが(筆者が歴史家だけあり)面白い。てか『白鯨』っぽい。

amzn.to

 

『ハダカデバネズミのひみつ』岡ノ谷 一夫

ハダカデバネズミの研究者による最先端のトリビアを散りばめた本。真社会性、長寿、無酸素耐性、そして図解したアンチガン細胞など、掘れば掘るほど色々出てくる動物なので、最新情報もこまめにチェックしないといけない。

amzn.to

 

『動物学者が死ぬほど向き合った「死」の話 ──生き物たちの終末と進化の科学』ジュールズ・ハワード

動物と「死」に関する総合的な読み物。死に関して動物学的な観点から哲学してみる本として面白いし、エンタメ的で読みやすいのでオススメ。(著者は『生きものたちの秘められた性生活』の人ですね。あっちも面白い)

amzn.to

 

『不老不死ビジネス 神への挑戦 シリコンバレーの静かなる熱狂』チップ・ウォルター

ビジネスとしての不老不死界隈(?)の最先端事情を知りたい人はこちら。図解したような動物研究の成果も盛んに利用されているもよう…人間の欲望は果てしない。

amzn.to