沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

2ヶ月でみろ!AppleTV+作品オススメ祭り(2022年11月時点)

 あなたがAppleTV+に加入していなかったとして、誰に責められようか。たとえドラマや映画を日常的に見る人であったとしても、NetflixやらAmazonプライムやらDisney+やらhuluやらU-NEXTやら群雄割拠な配信サービスに膨大に流れ込んでくる作品の消化で忙しいことだろう。その上さらにAppleのよくわからんサブスクに入る時間的/金銭的余裕はないかもしれない…(最近600円→900円に値上げしよったし)。

 しかし数ある映像サブスクをそこそこ使い倒してる身として自信をもって言うが、AppleTV+はすごい。その最大の特性は「クオリティ・コントロール」だ。要するに、とても質の高い作品が少数精鋭で揃っている映像サブスクなのである。作品数は多いとは言えず、見放題なのもAppleオリジナル作品だけなので、物量的にはNetflixやAmaプラに比べてはっきりとショボい。だがたとえば作品を大量に投入し続けるNetflixには意外とクオリティのバラつきがあったりすることに比べて、「何を見てもまず間違いなく面白い」AppleTV+の異質さは際立っている。

 ドラマ分野のエミー賞ではすでに常連という感じだが、映画分野でも、昨年のアカデミー賞でAppleTV+発の『CODA あいのうた』が作品賞を取ったりした(ややこしいことに日本ではAppleTV+では見放題できないのだが…)ので、映画・ドラマファンがいよいよ無視できない配信プラットフォームになってきているのは確実だ。

 すでにAppleTV+の回し者感が出てしまっているが、一応言っておくとPR案件でもなんでもない。このサービスが(特に映画・ドラマファンの間で)埋もれ続けることは一種の文化損失だと思うし、せめてエンタメ好きの間でくらいは普通に流行ってほしいし、ちょうど無料キャンペーンやってるし、何より良い作品が多いので自分用にもそろそろ一回まとめておきたかったのだ。

 まず初見だと「AppleTV」と「AppleTV+」はどう違うの?と迷うかもしれない。ややこしいよね。ざっくり言うと「AppleTV」はデバイスの名前で(AmazonのFire StickのApple版みたいなもん)、「AppleTV+」は今回紹介する配信サービスの名前である。なおAppleTV+を観るにあたってAppleTVは必要なく、アプリとかブラウザでNetflix感覚で見られる。

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 腹立たしくも300円も値上げしよったAppleTV+だが(作品がだんだん増えてきて権利関係とかでしょうがないらしいけど)、ちょうど今2ヶ月無料のキャンペーンを行っているので、入ろうか迷ってた人はこのチャンスを逃さないでいただきたい(ブログ記事タイトルの由来)。無料コードの有効期限は2022年12月2日までらしいので今すぐ入って2ヶ月でぜんぶタダで見よう!見れるかな。わからん!

2022年12月25日更新:2か月無料コードが復活してました↓。期限は2023年1月14日とのこと。入っとこう。

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『バッド・シスターズ』

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 色んな有名作品を置いといて、まずは(2022年11月時点で)最新ドラマ『バッド・シスターズ』から紹介したい。主人公は固い絆で結ばれた5人姉妹だ。姉妹のひとりグレースの夫・ジョンが死んでいる場面から物語は始まる。時をさかのぼると、このジョンという男が清々しいほどの最低クソ野郎だったことがわかる。ジョンは基本的に女性や社会的弱者を常に見下し馬鹿にしていて、とにかく妻グレースをはじめ周囲の人みんなに嫌な思いをさせているモラハラ男なのだ。ジョンのせいでどんどん弱っていくのに、彼から離れられないグレースを見ていられない姉妹たちは、思い切ってジョンを殺すことを決意する!

 さすがに殺すなんてひどいだろ!と思うかもだが、ドラマを見続けていくと「まぁ殺意を抱かれるだけのことはあるクソ野郎だな…」と思えてくるだろう。本作最大の見どころとして、ジョンのクソ野郎っぷりの解像度が非常に高いことがある。明らかにひどいモラハラ的な暴力から、ちょっとした会話に滲ませる差別意識まで、その細やかで丁寧なクソ野郎表現が本当に不快なのだ(褒め言葉)。死ぬとわかっていなかったら逆にだいぶ視聴がキツイだろう。

 物語において「クソ野郎」を描くのは意外と難しい。打倒されるべき悪役には大抵クソ野郎属性が付与されるものだが、平凡な作り手だとテンプレ表現になりがちで、逆に「こんなやついるか?」と物語から深みが失われてしまうものだ。だがその点、本作『バッド・シスターズ』のジョンは(悪い意味で)素晴らしい。度を越したクソ野郎でありながら、「いやでもこういう男は実際にいるよな…」と観客に思わせるイヤな質感と説得力があるのだ。もはや近年のエンタメのキーワード概念ともいえる「有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)」が、現実世界でどのような形をとって現れているか、ドラマの作り手が本気で考察・分析していなければ生まれ得ないキャラクターだと言える。

 物語は、そんなジョンが"活躍"する過去パートと、ジョンが死んだ後の現在パートを行き来しながら進行する。過去パートでは、圧倒的クソ男ジョンを、爆殺・毒殺・銃殺など多種多様なやり方で抹殺しようと企てるタフな姉妹たちの密かな陰謀が楽しめる。現在パートでは、ジョンの死の真実を突き止めようとする(貧乏で切羽詰まった)保険会社の調査員が、姉妹たちに迫る様がスリリングだ。

 果たしてジョンを「殺した」のは誰なのか…?  その答えに向けて、時を行き来しながら突き進んでいく本作は、一気観してしまうエンタメ的勢いに満ちている。いまだ世の中を支配するマッチョでトキシックな男の醜悪さと弱さを解体しながら、虐げられた女性たちの(時に法をブチ破ってでも)連帯していく姿を描く、「犯罪シスターフッド」系ドラマの新たな名作だ。『キリング・イヴ』好きな人にもオススメ。

 

ちなみに同じくAppleTV+で『バッド・シスターズ』に通じるテーマ性や雰囲気の、短めのドラマ『彼女達が、キレた時』も凄く良かったのでぜひ。Netflix『ブラックミラー』のような不気味なテイストもありつつ、女性たちの"怒り"に焦点を合わせた版という感じの迫力あるオムニバスだ。

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『ブラックバード』

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 こちらも最近のドラマだが、無類に面白い犯罪サスペンスなのでイチオシだ。タロン・エジャトン演じるめちゃモテ男・ジミーはワルな人生をエンジョイしていたが、銃の違法取引がバレて刑期10年の罪を喰らってしまう。だが「重犯罪刑務所に潜入して、少女連続殺害の容疑者と仲良くなって自白を引き出したら釈放してやるよ!(ただし失敗したらそのまま刑務所に放置ね)」という無茶な条件を引き受けて、ジミーはヤベー犯罪者が集う刑務所に潜入する。こうして「スーパー陽キャなモテ男vsスーパー陰キャな殺人鬼」の人生かかった心理バトル(友達づくりともいう)が幕を開けるのだった!

 本作で最も強烈なポイントは、なんといっても殺人鬼(仮)役のポール・ウォルター・ハウザーだ。恰幅のいいボディと妙に小動物的なニュアンスのある顔が特徴的な役者で、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』や『ブラック・クランズマン』で「本当にこういうやつを引っ張ってきたんじゃないの?」と思わせるほどリアルなダメ人間を演じていたと思っていたら、イーストウッドの『リチャード・ジュエル』でまさかの主演を演じていた上に、このたびタロン・エジャトンとの堂々共演なのだから、地味にキャリアのウナギ登りっぷりが目覚ましい。

 そんなポール・ウォルター・ハウザーが本作で演じるのが、少女を暴行して殺した(容疑の)最悪殺人鬼ラリーというわけだ。リンカーンみたいな時代錯誤のヒゲ面が強烈すぎて、はっきり言って変態殺人鬼にしか見えないので初見でもう「お前がやったんだろ!!」と思ってしまう…のだが、本作を複雑にしているのは、このラリーが妙に「かわいげ」があるやつなのだ。一見やべー殺人鬼でも、仲良くなってみると妙に人懐っこかったり、(役者の体型も相まって)くまさんみたいな愛嬌もあったりして、ジミーともども「あれ、なんかけっこうイイやつ?」とちょっと「ほだされて」しまうのだ。…だが、しかし、もちろんそれで終わるはずもなく……という展開の緩急が見事で、温泉と冷水風呂を行き来するような鑑賞体験が味わえる。  

 ラリーの心に秘められた闇が明らかになる過程がとにかく恐ろしい一方で、ジミーもジミーで心に鬱屈を秘めていて、まったく正反対の2人がどこかで互いに自身の影を見出す…という複雑な心の機微も、本作の深みを増している。全6話できれいに完結しているので見やすいし、近年いちおしのサスペンスドラマだ。

 

『テッド・ラッソ :破天荒コーチがゆく』

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 たぶん最も有名なAppleTV+のドラマだろう。最近はエミー賞コメディ部門の常連だったりするし、ドラマ好きなら名前くらいは聞いたことがあると思う。実際に見てみればその心温まる素晴らしい内容から、世評の高さにも納得するのではないだろうか。

 主人公テッド・ラッソはアメフトのコーチだったが、なぜかイギリスでサッカーチームの監督を務めることになってしまう。サッカーはド素人なのでチーム運営は当然うまくいかず、試合でも負けまくり、チームメンバーとも揉めまくり、メディアにも観客にも叩かれまくるラッソ監督。だが持ち前の明るさとユーモア、そして飛び切りの親切心によって、思ってもいなかったような変化を周囲にもたらしていくのだ。

 主人公のテッド・ラッソ監督は、先ほど紹介した『バッド・シスターズ』の最悪モラハラクズ男・ジョンの、まさに正反対に当たるような男といえるだろう。 

 ただでさえ、この社会は「弱さ」にとても厳しい。勝ち負けが全てを左右するスポーツ業界なら、なおさらだ(ワールドカップへの反応を見よ)。結局のところ成果主義・実力主義であり、優しかったり感じが良かったりしても「弱ければ無意味」、勝てなければ意味がない…。そんな考え方は合理的なものとして社会に蔓延している。だからこそ『バッド・シスターズ』のジョンのように、仕事では優秀だが中身はクズみたいな人間が必然的にはびこるわけだ。だが本作は、最も「弱さ」が許されないスポーツ業界において、心優しいラッソ監督が引き起こしていく変化の波を描くことで、強さ/弱さをめぐる価値観を揺るがしていくドラマなのだ。

 この手のスポーツものの定石を覆すような、シーズン1のラストにはかなり驚いたのだが、「たとえ弱くても優しくあることの価値」を示す本作にとっては、むしろ筋が通った結末といえる(と同時にシーズン2への強いヒキにもなっているわけだが…)。テーマ性から語ることもできるが、何よりまず文句なしに楽しいコメディなので、AppleTV+にせっかく加入した際は見逃さぬように。

 

『パチンコ』

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 かなりヘビーな描写を含むものの、とりわけ日本人に観てほしい作品、それが本作『パチンコ』だ。韓国系の作家ミン・ジン・リーによる小説『パチンコ』をドラマ化したアメリカの作品で、韓国の釜山から日本の大阪に移住した女性(とその子孫)の物語を、壮大な時間的/空間的スケールで描き出す。

 日本が舞台であるにもかかわらず、在日コリアンの物語が日本で作られることはめったにないため、彼女たちの激動の人生を新鮮な気持ちで追うことができるだろう(ちなみに主人公の老年期はアカデミー賞もとったユン・ヨジョンが演じている)。『ゲーム・オブ・スローンズ』を上回るという破格の予算を投じて、釜山や大阪の生命感あふれる当時の姿を再現した舞台美術など、驚異のビジュアルも見応え抜群だ。

 本作を語る上で欠かせないのが、シーズン後半に起こる重大事件だ。ややネタバレかもしれないが、歴史的な出来事なので言ってしまおう。それは1923年の関東大震災と、それに伴って引き起こされた朝鮮人虐殺である。民族差別・災害パニック・メディアの扇動・権力の暴走が複雑に絡まり合って引き起こされた、日本史上でも屈指の惨劇であり、決して繰り返されてはならない歴史の汚点と言える。

 この描写のためか本作『パチンコ』は、主に日本の歴史修正主義的なヤバい人々から「反日プロパガンダだ!」みたいな理不尽な攻撃を浴びた。しかし朝鮮人虐殺は確固たる歴史的事実であり、在日コリアンの歴史を語る上で絶対に避けて通れないターニングポイントなのだから、描かれない方がおかしい。それどころか、極めて重大かつ悲惨な出来事でありながら、日本のフィクションで振り返られることがあまりに少ない歴史的事象であることを考えても、むしろ日本の視聴者こそ積極的に観るべきだろう。

 たしかに観るのが辛い部分はあるが、虐殺を生き延びる韓国人の青年に寄り添う日本人のキャラクターも印象的に描かれていた点で、むしろ日本人でも見やすいようなバランスはかなり(ちょっと意識しすぎなほど)意識されていたように思う。まぁそもそも歴史修正主義を振りかざして本作を叩くような人が、わざわざAppleTV+に加入してこのドラマを終盤まで観てるとは思えないのだが…。

 こうした重厚なテーマをもつ真摯な作品を、日本が主導して…とまでは言わずともせめて参加して作れていたらベストだったと思うが、昨今の政治状況を鑑みても、実現には程遠いのか…と考えると暗くなる。検閲めいた異常な圧力も明らかになったばかりだし…(都職員が「懸念」示した朝鮮人虐殺巡る映像、上映会で人権意識問う声:朝日新聞デジタル)。とはいえせっかく『パチンコ』のような優れた作品が(海外経由であっても)日本でも見られるのだから、国内の汚泥めいた状況に足を取られることなく、ぜひ積極的にチェックしてほしい。普通に女性の一代記としても凄く面白いので。

 

『TRYING 〜親になるステップ〜』

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 AppleTV+作品の中ではそれほど話題にならないが、個人的に大変お気に入りのコメディである。中年に差し掛かったカップルのニッキーとジェイソンは子どもがほしいと願っていたが、色々な事情でかなわなかったので、養子を迎えることを決意する。だがイギリスで養子を迎えるハードルはかなり高く、どっちも別にお金持ちでもなんでもない普通の会社員である2人に、様々な試練が降りかかるのだった。

 …とだけあらすじを書くとなんか重そうだが、2人がちっとも暗くならない人柄で常にちょっとふざけていたり、難題を思いも寄らない方法で解決(?)したり、人格的には難があるけど妙に愛すべきやつらが沢山出てきたりするので、全体に肩の力を抜いて見られるコメディなのが本作の素晴らしいところ。世の中思うようにはいかないが、捨てたもんでもないなと実感したい時などに(『テッド・ラッソ』とも合わせて)ぜひ観てほしい。今の所シーズン3まであるが、4も作ってくれたらいいな(子どもが成長しちゃうと難しいのかもだが)

 

『フォー・オール・マンカインド』

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 「もしも月面着陸の競争に勝っていたのが、アメリカではなくソ連だったら…?」という、アメリカの共同幻想ならぬ共同悪夢みたいなショッキングな「IF」からスタートする、歴史改変SF宇宙開発ドラマ。国運を賭けた月への闘いに敗れたアメリカは打ちひしがれ、歴史の歯車が狂ったことで今の私たちが知る世界からどんどんズレていく。だが面白いのは、本作で描かれる「負けた」IF世界線のアメリカの方が、「勝った」現実のアメリカよりも、見方によってはずっと"進歩的"になっていたりすること。

 たとえば切羽詰まったNASAで(白人男性だけでなく)女性や有色人種の宇宙飛行士も活躍し始め、その流れで政府の要職にもマイノリティが多く就くようになったりして、アメリカ政治の風景も国際政治のあり方も現実の歴史とガラッと違っていたりする。バチバチの宇宙開発ドラマとしても見応え抜群だが、そうした「IFの社会」を描く歴史SFとしても大変面白いエンタメだ。

 最新のシーズン3では『ポセイドン・アドベンチャー』みたいな宇宙事故サバイバルから始まり、アメリカvsソ連vsアフリカの三つ巴で宇宙開発バトルになだれ込むというケレン味もたっぷりで、物語的にどんどんヒートアップ。今後も目が離せない、文句なしの大作宇宙ドラマだ。

 

『神話クエスト』

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 大規模なオンラインゲーム「神話クエスト」を制作するゲーム会社を舞台にしたコメディ。自信過剰でナルシストなゲームディレクター・アイアンや、アジア系女性でオタクな天才エンジニア・ポピーを中心に、無茶振りと大人の事情が飛び交うゲーム会社の悲喜こもごもを描く。大人気ゲーム配信者であるクソガキYouTuberの評価をめちゃくちゃ気にしないといけないゲーム制作陣の姿とか、1話からいきなり辛辣で笑ってしまう。

 たぶんUbisoft(アサクリとか)あたりのゲーム会社をモデルにしてると思われ、UbiのみならずAAAタイトルのゲーム映像がいっぱい挿入されて、ゲーム好きはちょっとうれしい。私も大好きな『ホライゾン』シリーズでアーロイの声をつとめるアシュリー・バーチさんも出演し、Z世代のレズビアン女性ゲーマーのキャラを素敵に演じていた。現在シーズン4で、特に3話は最高のガールズ友情回でグッと来ちゃった。

 

『アフターパーティー』

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これもあまり話題になってないけど映画/ドラマファンは絶対観たほうがいいやつ。みんな大好きクリストファー・ミラーとフィル・ロードがプロデュースを務めている時点で面白さの確度が上がるわけだが期待を裏切らず、最後まで先が読めないドキドキミステリーコメディとなっていた。

 高校の同窓会の二次会(アフターパーティー)で、イケイケな人気者だった参加者の1人が不可解な死を遂げた。元クラスメイトたち全員が容疑者となり、やってきた刑事は順番に話を聞いていく…という1シーズン8話完結のストーリー。

 それぞれの「容疑者」たちの視点から1話ごとに、死んだ人気者とどんな関係だったかという思い出や、彼ら/彼女らが現在どういう立ち位置なのかが描かれていくわけだが、本作がユニークなのが、容疑者ごとに「語り」のスタイルが全く違うこと。1話が王道ミステリーの導入だったと思えば、2話は(ミュージシャン志望者の視点なので)いきなりミュージカル形式になったり、他の話ではバイオレンスアクション風な雰囲気になったり、挙句の果てにアニメーションが飛び出したり、それぞれガラリと異なるスタイルで全8話が描かれることになる。

 回ごとに視点人物を変え、「人の数だけ真相がある」…的ないわゆる『羅生門』『藪の中』形式でドラマが進んでいくわけだが、マジで実際にビジュアル・演出をガラッと変えることで、閉じた密室劇であるにもかかわらず「人の数だけ」違う視点を示していることが大変ユニークで面白い。とはいえ「犯人」はきっちり存在して、ちゃんとミステリーとしても完結しているので安心してほしい。

 

『ザ・モーニングショー』

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 これもかなり有名なタイトルだが、実際必見なので簡単に紹介。朝の人気ニュース番組の司会(スティーブ・カレル)がセクハラで降板した事件をきっかけに、新人女性ジャーナリストが大企業の根深い(同時に"あるある"とも言える…)闇に切り込む。シーズン1終盤の怒涛の勢いは、MeToo運動を題材にした作品の中でも圧倒的だった。

 まずリース・ウィザースプーン演じる正義感に溢れた主人公のブラッドリーが良い。不正義にブチ切れて爆弾とか呼ばれてるんだけど、過去に自分の「正しい」行動が全てを壊してしまったのではないか?という苦しみも抱えて生きていて、だからこそクライマックスの「爆発」が何重にもエモーショナル…。ぜひシーズン1最終話まで見届けてほしい。

 あんだけ強烈かつ完璧なエンディングを迎えたシーズン1の続き、どうするんだろう…?と思っていたが、シーズン2は2019→2020に移り変わってからの「コロナ時代のアメリカ」をはっきり捉えた貴重なエンタメ作品にもなっていたと思う。(「2020」の数字が完全に大惨事の象徴になってて笑ってしまうが…)

 

『ウルフウォーカー』

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人生ベスト級の傑作アニメとして色々なところで散々語り尽くしているので、逆に今回は省略させてもらうが、数少ないAppleTV+オリジナルアニメ映画の1本が本作な時点で、そのクオリティコントロールの半端なさが伺い知れると思う。これを観るためだけにも入る価値あります。

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<他にも色々オススメドラマ>

おすすめドラマは他にも沢山あげられるのだが、そろそろ字数がヤバイので短文紹介にとどめておく。

『セヴェランス』

「仕事中の記憶と私生活の記憶を分離する」というヤバげな手術を受けた会社員が主人公の不気味なドラマ。今年のエミー賞でも旋風を起こした。

『ディキンスン 〜若き女性詩人の憂鬱〜』

わが愛するヘイリー・スタインフェルドが女性詩人エミリ・ディキンスンを演じる、皮肉満載で楽しい文芸コメディ。

『シャイニングガール』

わが愛するエリザベス・モスが『ハンドメイズ・テイル』『透明人間』に続いてまたもヤバ男の被害にあう、恐怖の記憶スリラー。

『WeCrashed ~スタートアップ狂騒曲~』
シェアワークスペースWeWork社を創立し、極端な浮き沈みを繰り返したアダム・ニューマンの実話を基にしたドラマで、ジャレド・レトが主演。

『マネー 〜彼女が手に入れたもの〜』

大富豪の夫と離婚して莫大な財産を得た世間知らずの女性が、ゆかいな仲間と一緒に新たな人生を歩みだすコメディ。

『カム・フロム・アウェイ』

実話ベースのブロードウェイミュージカルを映像化。2001年9月11日、米国同時多発テロが発生した直後、カナダの小さな町に38機もの航空機がやむなく着陸。飛行機の乗客とそこで暮らす人々との交流を描く。

『The Problem with ジョン・スチュワート』

最近観てるけど面白い。有名なコメディアンのジョン・スチュワートが、アメリカの様々な問題について考えるショー。ふざけた語り口と思いきや、権力者に直撃インタビューをしかけて真っ向から議論する姿勢が凄い。こういうショーが成立するアメリカ、やっぱ底力あるよなと。

『モスキート・コースト』

頭脳明晰な男がアメリカの追跡から逃れ、家族を連れてメキシコへ脱出を試みるというサスペンスドラマ。いまシーズン2が進行中だが、なんとなくこんな話かな〜というイメージを丁寧に裏切ってくれて、破格に面白い。

『コール』

異色の短編ドラマ集。何が異色って、映像がほぼ全くなくて完全に音声だけで話が進むのである。それもうラジオドラマだろ!という感じだが、まさにラジオドラマの最先端バージョンといった趣きで、音だけなのにめちゃ怖かったり緊張感に満ちていたり、視覚を封じたがゆえのアイディアに満ち溢れている。必見、いや必聴。

 

<動物系もたくさん>

AppleTV+、地味に動物系・自然系ドキュメンタリーの秀逸な作品も多いので、生きもの好きはそれだけでチェックする価値あります。いくつかオススメを紹介。

 

『小さな世界』

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動物好きにまずイチオシな番組。でっかい自然界で生きる小さな動物たちの日常や大冒険を、どうやって撮ったのか想像もつかないクオリティの映像でとらえたドキュメンタリー。ハネジネズミ、ピグミーマーモセット、カヤネズミなど、かわいい小動物がその回の主人公アニマルに設定され、その視点に入り込むような美しく不思議な映像の数々に好奇心が刺激される。原語版ナレーションはポール・ラッド(アントマンってことね。)

 

『カラーで見る夜の世界』

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動物ドキュメンタリー界にとって、まさに10年に一度レベルの大革命が起こった。その名も…「低照度カメラ」。この撮影技術によってこれまで暗闇に包まれていた、せいぜい白黒でぼんやりしか映せなかった「夜」の動物たちの姿を、とても鮮やかにカラーで映し出すことが可能になったのである。『カラーで見る夜の世界』はそんな知られざる夜の世界を語る斬新な番組で、いかに人間が動物たちの生活の約半分について無知だったか、改めて学ぶ機会になるだろう。原語ナレーションはトム・ヒドルストン(MCU再び)。ちなみにNetflix『ナイトアース』でも同様の試みを行っていて若干ライバル関係を感じる。どっちもスゴイよ!

 

『ファゾム 〜海に響く音〜』

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 まるで人間の"文化"のように海から海へと伝わっていく「クジラの歌」を追って、海洋生物学者たちが海原へ漕ぎ出すドキュメンタリー。陸の常識を超越したクジラという生き物に取り憑かれ、"歌"に込められた深遠な秘密を測る(fathom)ことを試みる、女性研究者たちの姿が眩しい。

一方で、陸の文明社会での女性ならではの困難もさりげなく言及されるだけに、クジラの歌を追って人里離れた海辺の生活に明け暮れる研究者が、「この海の暮らしこそが"リアル"な生で、陸の日常が非現実に感じる」「元の暮らしに戻れるかわからんなぁ」的にこぼす場面が印象深かった。クジラという(色々な意味で)規模がデカすぎる存在を追う生活が、"普通の日々"のスケール感を狂わせてしまう感覚、想像を絶するような、想像できなくもないような。

クロエ・ジャオの映画『ノマドランド』でも大自然の中で動物の生に触れることが、人生の本質的な何かとして描かれていて、動物好きとして嬉しかったのだが、そんな日々のあまりの本質っぷり(?)に、『ファゾム』で研究者たちが「元に戻れないかもな…」と心配する姿には、妙なリアルさがあった。

 なお"クジラの歌"は今かなり熱いテーマで、本作で描かれたような研究によって、何千kmも離れた海へ、まるでポップソングのように"歌"が伝わるプロセスが徐々に明らかになっている。「文化」の定義によっては、地球で最初に文化を持ったのは人間ではなくクジラなのでは?という意見もある(『ゆかいないきもの超図鑑』でこのへん参考にしました)。

 

『ゾウの女王:偉大な母の物語』

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 メスのアフリカゾウ「アテナ」をリーダーとする群れが、厳しい自然を生き抜く姿を描く美麗なドキュメンタリー。ゾウの行動(水浴び/食事/排泄など)が生態系の中でどんどん波及して他の生物に恩恵や波乱をもたらし、ゾウそのものが一個の大自然のよう。巨大な体を持ちながら極めて社会性に溢れたゾウの生活を(制作に4年かけただけあって)驚くほど近い距離感で捉えていて凄い。子どもへの丁寧なケアや集団内での密接なコミュニケーションなど、意外とオオカミとの共通点も多いような。そして死を悼むような行動も…(最近のゾウ図解の参考にした)。

 

『その年、地球が変わった』

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 コロナ禍で人類の活動が大幅に制限されたことで、動物たちの生活や自然環境が変化し、時には劇的に改善された様を捉えるドキュメンタリー。地球の様々な場所から「人間」を抜くと何が起こるのか、壮大な社会実験が行われたと言えるが、その結果を残す貴重な映像にもなっている。

 アフリカの民家に(本来は夜に活発に動く)ヒョウが真っ昼間から堂々と現れて、予想もしてなかった撮影班が「みんな、動くな…」と緊張する場面のインパクトが凄い。ロックダウンの影響が巡り巡って、ヒョウなどの希少な大型動物の行動パターンにも大きな変化が見られる。

 コロナ禍が人間にとって災厄なのは確かだし、今の状態が持続可能なはずもないが、『その年、地球が変わった』を見ても、「人間が何をしようと地球は手遅れだし何も変わらない」という投げやりな諦念は間違っていて、やはり「人間の行動次第でスゲエ変わる」のは明らかなので、気候変動対策や環境保護なども、そこを教訓とすべきね…。

 

『太古の地球から 〜よみがえる恐竜たち〜』

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恐竜ドキュメンタリー…では正確にはないが(そりゃ撮影対象が絶滅してるからね)、CGアニメーション技術で本物と見紛うほどクオリティ高く蘇った恐竜が沢山でてくる、ハイクオリティな最先端科学ダイナソー番組。ジュラシックパークの印象で時が止まってる人は、色々ひっくり返ることでしょう。

 

ひとまずこんなところです。たぶん観て面白かったやつもいくつか書き忘れてると思うし、よく名前聞くけどまだ観てない作品もけっこうある(『SEE』とか)ので、引き続き観ていきたいと思います。実は1回解約しようと思ったのに先述の2ヶ月無料キャンペーンのせいで絶賛続行してしまっている。

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もう1回キャンペーンのリンク貼っとくので、みんなタダでAppleTV+に入って2ヶ月以内に上で紹介したやつぜんぶタダで見てくれ!(むりかも。)まぁとはいえ作品クオリティを考えれば値上げ後の月900円でも、最近のサブスク水準では安いほうだと思います。おしまい。