読んだ本の感想まとめです。別にルール決めたわけではないが、なんか日曜日に更新する流れになってるな。いつまで続くかな〜
↓前回
<今週読んだ本>
『インディ・ゲーム新世紀ディープ・ガイド──ゲームの沼』 田中 "hally" 治久 (監修), 今井 晋 (監修)
『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』千葉聡
『食の歴史――人類はこれまで何を食べてきたのか』ジャック・アタリ
『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』酒井隆史
『インディ・ゲーム新世紀ディープ・ガイド──ゲームの沼』 田中 "hally" 治久 (監修), 今井 晋 (監修)
『インディ・ゲーム新世紀ディープ・ガイド──ゲームの沼』読了。百花繚乱&奇々怪々なインディ・ゲームの魅力を、「戦争」「フェミニズム」「LGBTQ+」「音楽」「文学」など多様なテーマに着目してゲーム識者が紹介する本。ゲームは娯楽や暇つぶしとしての側面も大きいのだろうが、それと同時にいま最も前衛的な表現メディアでもあると実感させられる。
海外でもゲーマーズゲートのような事件もあったし、ぶっちゃけ日本でもフェミニズムや性的マイノリティ関連の問題に冷淡だったり敵対的なゲーマーも沢山いる印象なので、ゲームを紹介する本にフェミニズムやLGBTQ+の章もあるのは意外に思う人が多いかもしれない。だが個人的なゲーム好きとしての感覚でも、実は現代のゲーム(特に海外)はその辺に意識的かつ先進的な作品もかなり多い印象がある。まぁだからこその反動でゲーマーズゲートみたいな動きも活発化してるんだろうが。
本書で語られるようにインディゲームにも沢山あるみたいだが、そもそも超メジャー級タイトルでも『The Last of Us Part2』とかがすでに現れてるわけだからね。ラスアス2みたいにレズビアン女性を主人公に据えて(もう1人の主人公も筋肉バッキバキのコワモテ女性だし)こんな超弩級のエンタメを成立させた作品が、じゃあ映画やドラマやアニメにどんだけあるかって言ったら全く思いつかないので、なんならこうした観点では映像エンタメ全体がゲームに水を開けられちゃってる感じもする。
そんなわけで、先進的なゲーム界でもさらに先進的なインディゲーム界の名作を色々紹介してくれる本書のような存在はありがたい。有名な『Gone Home』(帰省したら誰もいなかったゲーム)や『Unpacking』(荷物を開けるゲーム)がフェミニズムの章で紹介されており、やってみようかなと思った。見た目だと全然わからなくて積んでいてしまったが…。評判いい『Butterfly Soup』もいいかげんやらねばな。
ちなみに本書で熱くオススメされてた『ディスコ エリジウム』、セールでPS版を買ったので遊び始めてる。とんでもねえ文章量で面白いが、主人公が精神的ショックで絶望してゲームオーバーになった。クセの強いゲームっぽいが、ハマるかもしれない…。
購入→『インディ・ゲーム新世紀ディープ・ガイド──ゲームの沼』
『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』千葉聡
『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』読了。日本のカタツムリ(陸貝)研究の第一人者が、進化生物学の面白さ(と学問としての大変さ)を生き生きと語る本。生物学者の営みがどういうものなのかを改めて伺える本でもあるし、市井の生きものファン(私含む)も励まされる内容。プロの生物学者が書いてるのだが文章力も巧みで読みやすく、一風変わった生物学入門としてもかなりオススメできる。
『進化のからくり』では、ある特定の生物についてとことん調べる…という手法は一般的には奇異にも見られるという話もされて、本書の著者もバブル時代のリーマンに「カタツムリなんて研究してどうすんの?」とか面と向かって言われたりしたという。しかしカタツムリ=陸貝のように(外から見れば)狭く些細に思える対象を深く掘り下げることで、「生命の進化」という極めて重要な問題の核心が見えてくるのだ。それは科学という営みの根本でもある。
『進化のからくり』、実はけっこう前に買ってたのだが(タイトル的にも)よくある動物の浅く広くな雑学系なのかな?と思い込んで積んでたのだが(ごめん)、ちゃんと読んだら陸貝というマニアックな対象に焦点を絞ることで、むしろ普遍的な進化の法則を解き明かす…というガチかつ読みやすい良書だったので、積ん読消化してよかった。
当初は本書、研究者ではないものの在野の生物好きで、注目すべき研究成果をあげている"現代のダーウィン"のインタビューも収録予定だった…(けど色んな事情でやめた)と書いてあり、それもぜひ見たかったなと少し惜しい(タイトルにもさらに合ったと思うしね)。特に生物学はアマチュアが重要な役割を果たしてきた分野だと思うから、いつか形にしてほしい。
ところで『進化のからくり』にもあったが、進化にまつわる学説って日本でも最近まで冷遇されていて、80年代には高校でも一切扱っておらず、大学でさえまともに教えてなかったと聞くと、海外の宗教保守の進化論否定をあまり笑えない感じになってくる。そもそも「進化」自体が相当に新しい概念というのも「進化あるある誤解」の背景にあるんだろうな。
↓ポケモンのせいだけとは言えないようですね…
生物学的な意味での「進化」という概念が誤解されがちな理由、まぁまぁポケモンのせいだと思うし、ポケモンのアレは進化(evolution)ではなく変態(metamorphosis)なのは有名な話だが、変態という言葉を使えなかった事情は理解できるので、さらに元を辿れば変態に変な意味を付与した奴のせいなのか…
— ぬまがさワタリ (@numagasa) 2023年1月28日
1/29現在、電子版ポイント40%還元中。
『食の歴史――人類はこれまで何を食べてきたのか』ジャック・アタリ
『食の歴史―人類はこれまで何を食べてきたのか』読了。前から面白そうでリスト入れてたのと、ちょうど電子版が半額だったので読んでみたが面白かった。フランスの有名知識人ジャック・アタリが「食」に着目して人類史を読み解いていく1冊。「食べる」という行為が生物としての根幹にある行動だからこそ、「食」は人間の全ての営みに深く結びついてくるし、人類存亡の鍵も握る…ということがわかってくる。
人類が言語を発展させて地球最強レベルに繁栄する動物になった、決定的な要因も"食"にあるとアタリは語る(火を使うことで消化に費やすエネルギーが減り、脳のキャパが増えた等)。個体数が増加するにつれ、定住化を本格化させた人類は「自然を食らうために自然を手なずけようとする」というループに突入していく。それが人類にとって良いことだったのかはともかく…。
本書の全体にうっすら流れるテーマとして「食と権力」がある。「食」が特権階級の権力維持のために利用されてきた歴史を、メソポタミア文明や古代中国とかまで振り返って語っていく。翻って現代の「食と権力」を、グローバル企業が"食"を媒介にして巨大な支配構造を形作る…という視点で考察していく。
『食の歴史』後半でも語られるように、たとえば気候危機のような地球規模の大問題を考える上で、つい「発電をどうするか」とかにばかり目が行きがちで、それも当然ものすごい大事なんだけど、実は「食」が占める割合が非常に大きいんだよね。たとえば畜産は温室効果ガスを大量に排出するのだが、だからこそ菜食主義が市民権を得始めているという側面もある。
気候危機の問題でも、ぶっちゃけ「食」について解決すればぜんぶ解決するんじゃね…?とまで言ったら当然言い過ぎなのだが、多くの人が思ってるよりは「食」の重要性ウェイトがめちゃ重い、というのは気候変動対策を扱う本とかでも実際よく語られること。(『DRAWDOWN ドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』『Regeneration リジェネレーション 再生 気候危機を今の世代で終わらせる』とか。)「食」は副次的な役割どころか、全然"主役級"のテーマというのは「食」に産業として携わる人も、色々なものを日常的に食べている私達一般市民も覚えとくべきではないだろうか。
かように「食」はどこまでも個人的/ローカルな営みのようでありながら、極めて社会的な行為としての側面ももっている。この両義性が「食」の面白いところなので、こういう「食の歴史」みたいな本はつい心惹かれてしまうのだった。
1月中は電子半額みたい。
『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』酒井隆史
『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』読了。日本でもヒットしてブルシット・ジョブ(以下BSJ)という言葉を広めた『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』という本を翻訳した著者による解説本。かなり人口に膾炙してきた感もあるものの、意外と誤解も多そうな「ブルシット・ジョブ」の概念を正しく理解し、日本社会の現実と突き合わせる上でもけっこう意義のある本だと思う。
元本『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』、私も読んで面白かったし重要な本だと思うけど、『ブルシット・ジョブの謎』でも書かれているように、たしかに書き方のクセがちょっと強めなんだよね(4000円とかするし)。だから話題になって買ったけど途中で挫折した…という人が多めなのもわかる本ではある。こういう「話題の本を解説」系って普段あまり読まないし、別に元本読めばいいじゃん…なスタンスではあるのだが、やはり翻訳者はさすがに理解が深いなと思うので、この新書『ブルシット・ジョブの謎』から入るのも全然アリだと思う。元本も読んでほしいけどね。
なお原書『ブルシット・ジョブ』が書かれたのはコロナ前だが、(ブルシットジョブの真逆とも言える)エッセンシャルワーカーの過酷な現状がコロナ禍で浮き彫りになった今、さらに重要性が増してしまってるという辛い面もある。真の意味で社会や他者の「役に立つ」仕事ほど不遇に扱われるという歪み…。
そういう、なんでブルシット・ジョブ(クソどうでもいいのに待遇はいい仕事)が沢山あるのに、本当に世の中に必要な仕事は待遇が悪いのかの問題に、『ブルシット・ジョブ』著者のグレーバーは「道徳羨望」(立派な行動を引きずり降ろそうとする感情)という言葉を作って考察していて、日本もそれ相当ありそう…と薄ら寒くなるのだった。教師が例に上げられていたけど、クリエイターの一部が異常に薄給だったりとか、「やりがい搾取」みたいな問題にも通じるのかな〜とか。
さらにこの問題の重要性が増している昨今、著者が亡くなってしまってるのは残念だけど、ブルシット・ジョブは「仕事」を根本から考え直していく上で重要な概念だと思うし、この新書を立脚点にしてぜひ読もう。
本書→『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』
今週はこんな感じでした。講談社系が新書セールとかやってる せいで無限に買ってしまうが、それによって逆に積ん読を消化しようという気持ちも湧くので、結局とんとんかもしれない(そうかな)