沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

読んだ本の感想まとめ(2023年1/29〜2/5)

読んだ本の感想まとめです。今週は映画を(劇場や配信や試写で)いっぱい観たり、ドラマ『THE LAST OF US』第3話にひたすら打ちのめされてビルとフランクのことを一生考えていたりして忙しかったので大して読めてないが、もう毎週やったほうがいっそリズムが生まれるのかもしれない。

 

↓前回

numagasablog.com

 

<今週読んだ本>

『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』國分功一郎

『森の力 植物生態学者の理論と実践 (講談社現代新書) 』宮脇 昭

『ナショナル ジオグラフィック日本版 2023年2月号』

『珈琲の世界史 (講談社現代新書) 』旦部幸博

番外『Animage (アニメージュ) 2023年』 02月号

 

 

『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』國分功一郎

 

なんで急にスピノザの入門書なんて読み始めたかというと…(という文脈を書いておかないとけっこう忘れてしまうのである)

前回紹介した『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』という解説本がけっこう面白くて、もう1回元の本『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』を読み直していたんですね。

その『ブルシット・ジョブ』の中に、スペインのとある公務員が、6年も仕事をサボって哲学者スピノザの研究に(専門家レベルに達するほど)没頭していたのだが、6年間のあいだ誰ひとりサボりに気づかなかった…という凄いエピソードがあった。言うまでもなく職務怠慢の究極バージョンであるし、もちろんダメはダメなのだろうが、ちょっと畏敬の念も抱いてしまったんだよね。

『ブルシット・ジョブ』によると、その公務員への仕事は上司からほとんど嫌がらせ的に割り振られたということなんだけど、そんな無意味な仕事をブッちぎって、真に自分にとって意味のあるスピノザ研究にその時間を費やして、ついには専門家レベルにまで到達した…ということになる。まぁ日本で似たようなニュースがあったら絶対総たたきだろうし、さすがに最近はそんな仕事はめったなことで成立しないだろとも思うんだけど、なんだか胸がスッとする話だし、人間の可能性すら感じてしまった。

逆に言えば、仕事中でも別にみんながずっと忙しいわけでもなかろうし、職場でも暇な時は読書くらい堂々とできるようにしてくれれば、まだまだ世の中の知性が底上げされるポテンシャルって全然あるのでは…?とか思わざるをえなかった。もっと本も売れて、(私とか)クリエイターも潤うかもしれないし…。

私自身も(今はフリーランスなので良くも悪くもそんな状況に置かれることは考えづらいが)現実でそういうブルシットなジョブを強制されるような状況になれば、例のスピノザ公務員のような方向性で、システムの隙をつきながら、何か自分にとって意義あることをやろうと企てるかもな〜と想像したりした(それが難しい場合がほとんどなのだろうが…)。

前置きが長くなりすぎたが、『ブルシット・ジョブ』のスピノザ公務員の話を見ていたら、ちょっとスピノザ哲学そのものに興味が湧いてきた。世の中やブルシットなシステムへの反逆として学ぶ価値があるとその公務員は思ったわけだから。ただ初心者には難解という話もよく聞くので、とりあえず入門的な新書を読んでみるか…と。そこで読んでみたのが、この『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』というわけ。

スピノザの理論はとても一言で言えるようなもんではないし、詳しくは本を読んでほしいわけだが、本の中で紹介されていた以下の1節が良いなあと思った。

もろもろの物を利用してそれをできる限り楽しむ〔……〕ことは賢者にふさわしい。たしかに、ほどよくとられた味のよい食物および飲料によって、さらにまた芳香、緑なす植物の快い美、装飾、音楽、運動競技、演劇、そのほか他人を害することなしに各人の利用しうるこの種の事柄によって、自らを爽快にし元気づけることは、賢者にふさわしいのである。

(第四部定理四五備考)

難しめな言い回しではあるけど、要するに賢者とは「楽しめる」人のことなんだ、と言ってるのだろう。ブルシットな世のアレコレを打ち砕き、生きることを心から楽しむためにも、哲学が必要なんだと。件のスピノザ公務員の心をひきつけたのも、こういうところにあるんだろうな。

さっそくスピノザの原著『神学・政治論(上) (光文社古典新訳文庫)』も読んでみたりしたわけだが、初っ端からけっこうフルスロットルでかましてくるため、当然だがとてもじゃないが入門書をちょっと読んだくらいで理解できる哲学ではないだろう…とも思う。ただその根底にある思想は何か大事なものだと、入門書レベルからも感じ取ることはできたので、今後もスピノザ先輩のことを気にかけてみたいところ。

購入→『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』

 

 

『森の力 植物生態学者の理論と実践 (講談社現代新書) 』宮脇 昭

↓この「都市の再野生化」にまつわるCNNの記事を興味深く読んでいたら…

www.cnn.co.jp

海外でもその手法が高く評価されているという、著者の宮脇昭さんの名前が出てきたので、著書も読んでみたのだった。若い頃から森林再生や植林に深くコミットしてきた人生を振り返りつつ、今後の日本の「森林」のあり方を語っていく本で、「日本一木を植えている科学者」として名高いのも頷ける情熱と知識量だな…と感銘を受ける部分も大きかった。

ただ一方で、これは著者さんが高齢ということもあるだろうし、この方だけの問題というわけではないと思うんだが、わりと素朴に「日本人の精神」「日本のDNA」的な、ぶっちゃけ非科学的だし排外的なナショナリズムにも容易に転じうることを無批判に称揚しだすくだりがあり、正直ヒェ…となる部分もあった。いかに専門領域の知識が豊富とは言え、そこは少し突き放した距離感をもって読む必要がありそうだなとは。ただ一読の価値ある本だと思うし、生態系や動物を考える上でも植物に向き合わねば、の想いを新たにした…。

購入→『森の力 植物生態学者の理論と実践 (講談社現代新書) 』

 

 

『ナショナル ジオグラフィック日本版 2023年2月号』

毎月定期購読してるナショジオだが、今月は特に「ラッコ特集」が読み応えあったので紹介。絶滅寸前になるほど数を減らしていたラッコを、再び自然に返す「再導入プロジェクト」が世界各地で行われていた。そのことによる生態系へのメリットや、観光を潤す利益などを語っていく一方で、ラッコの大食いっぷりが漁業者に引き起こす不安なども当事者インタビューも織り交ぜて語っていく点で(私自身はもちろんラッコに栄えてほしいとはいえ)意義深い特集だった。そして、ラッコ歓迎派もラッコアンチも同意するのが、ラッコの圧倒的かわいさであった…。

キーストーン種であるラッコが生態系に与える影響は基本的に良いものだと思うし、『ゆかいないきもの超図鑑』で紹介したように、増えすぎたウニを食べてくれて、そのおかげでケルプ林が回復して、結果的には漁獲量が爆増した…という結果も出ている。

ただ、やはり大食いな動物なだけあり、海の幸を食べ尽くしちゃうのでは…?と短期的には不安になる漁業者も多いみたいなんだよね。まぁ無理もない不安かもなと思うので、そうした既得権益層とのコミュニケーションもしっかりしつつ、ラッコのいる健全な生態系を作っていってほしいところ。

ていうかラッコ再導入を巡る現地の悶着を聞いていると、わりと『ウルフ・ウォーズ オオカミはこうしてイエローストーンに復活した』みたいになってる面もあるんだなと…。外野からのんきなもんだけど、いつか『ラッコ・ウォーズ』として本になったら読みたい。『ウルフ・ウォーズ』との違いは、賛成派と反対派が「とはいえカワイイのはめちゃくちゃカワイイ」と同意してるという点だが…。実に一筋縄ではいかない動物である。

ちなみにナショジオ今月号、ブルキナファソの「泥建築」特集(気候変動への対策にもなりうる伝統的な泥建築だが、まさに気候変動によって危機に晒されているというのが皮肉だしヒドイ話…)とかも面白かったので、雑誌ごと読んでみてほしい。全く知らんジャンルの情報も飛び込んでくるのが雑誌の良いところだね。

購入→『ナショナル ジオグラフィック日本版 2023年2月号』

 

 

『珈琲の世界史 (講談社現代新書) 』旦部幸博

今年はコーヒーに向き合おうと思っているので、色々コーヒー本を読み漁っているのだが、いきなりものすごい勘違いをしていたことが明らかに…↓

そう、高級コーヒー豆の「ゲイシャ」って日本の芸者とは何の関係もなくて、エチオピアのゲイシャ(ゲシャ)村で野生種が採取されたからゲイシャって名前だと知ったのである…。いやさすがに日本産とは思ってなかったけど、何か芸者に引っ掛けた由来があるのかなとは思ってた…マジか…

そんなゲイシャコーヒーの産地ゲイシャ村、エチオピアの地図を頑張って探したら見つけた。マジか〜。よく見たら近くに「マジ」って地名あるし。やかましいわ

www.google.com

で、このゲイシャの件を冒頭でいきなり教えてくれたのが本書『珈琲の世界史』。なおゲイシャコーヒーの由来は『珈琲の世界史』という本に豆知識として書いてあったのだが、別に「芸者だと思ってたでしょ?でも実は〜」的なノリでさえなかったので、そんな勘違いは誰もしてなかったということか…ばかな…するだろ……。

そんな『珈琲の世界史』は、コーヒーという人類が3番目に大量に飲んでる(水とお茶の次)の飲み物に着目しながら、コーヒーの起源を巡る諸説から始まり、世界の歴史の移り変わりを語っていくという面白い本でした。イギリスやフランスの政治体制の変革であるとか、歴史上の重要な場面でけっこうコーヒーが大きな役割を果たしていると知れてコーヒー好きとしても楽しい。

あと意外と知られてなさそうな日本のコーヒー史とかも興味深かった。「スペシャルティーコーヒー」とか「サードウェーブ」とかよく考えると何なの?っていう人も多いだろうし、ちゃんとした知識を得ておくと良いかもしれぬ。

ところで読んで知ったけど、何度か紹介した『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』と同じ著者さんなのね。同じコーヒーという対象へのアプローチでも、「科学」は理系的な興味をもつ読者、「世界史」は文系的な興味に向けて書いたそうな。化学的メカニズム寄りな『コーヒーの科学』と本書をあわせて読むことで、文・理を兼ね備えた最強のコーヒーマスターになれるかもしれませんね。類書だと中公新書の『コーヒーが廻り世界史が廻る』もけっこう面白い。引き続きコーヒーに向き合っていきたい。

購入→『珈琲の世界史 (講談社現代新書) 』

 

番外『Animage (アニメージュ) 2023年』 02月号 インボイス特集記事

まだ特集記事しか読んでないので番外とさせてもらうが、良かったので紹介。

アニメーターの西位さんと、声優の甲斐田裕子さん(好き)と税理士さんの対談が載っていた、アニメージュ2月号。インボイス問題は私も何度か言及してるけど、フリーランスのクリエイターの集合体である日本アニメ界の今後にマジで大きく影響しそうだし、ぜひアニメ誌で語られてほしい問題だったので、意義深い特集であると思う。アニメ好きは一読をお願いしたい。対談の中で、やっぱ当然ながらクリエイター側も社会や政治に無関心ではいられない…といったことも真摯に語られていて、本当そうだよなと。

ちなみにKindle Unlimitedでも読めるのでぜひ。にまたKindle Unlimited2か月99円キャンペーンやってるみたいなので、対象者ならどうぞ。

関係ない話で恐縮だが、甲斐田さんの最近のお仕事では『バッドガイズ』のダイアン知事がマジ最高でしたね! 本作は本職声優ではない人の吹替えの見事さも話題になったが、やっぱプロ声優の熟練の業も至高ということは重ねて強調しておきたい。そのためにも"裾野"を守らないとね…。

購入→『Animage (アニメージュ) 2023年』 02月号

 

今週はこんな感じでした。ところでipad miniがタイムセールで安かったので買ってしまったよ…(今日までらしいので気になる人はどうぞ)。読書、はかどらねば…