沼の見える街

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こういうのでいいんだよLV100。『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』感想&レビュー(ネタバレあり)

「頭空っぽにして楽しめる映画は、頭空っぽでは作れない」という有名なことわざがある。いや実際にはないが、多くのクリエイターが同意する真理だろう。観る側は頭を空っぽにしようが熟考しようが好きに観てOKなのだが、作る側が「頭空っぽ」で雑に適当に作ってしまえば、まず間違いなく観客は「えっ今の展開おかしくね?」とか「今時こういう表現はないわー」とか「とにかく話がつまらない」とかいちいち気を散らされてしまい「頭空っぽ」では楽しめなくなることだろう。「頭空っぽで楽しめる」とか「こういうのでいいんだよこういうので」と観客が思えるような「ちょうどイイ!」塩梅の作品を作るのは、実は極めて高度な技術なのだ。その真実を改めて思い知らせてくれる、「こういうのでいいんだよLV100」みたいなエンタメ大作が劇場に降臨した。『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』である。

結論から言って、素晴らしいエンタメ作品であった。実写エンタメ大作という括りでは、ここまで躊躇なく「万人にオススメ」できる映画を久々に観たな、とさえ思う。まさに「快作」と呼ぶのがふさわしく、先月の海外アニメ『長ぐつをはいたネコと9つの命』に匹敵する、よっぽど娯楽作品が嫌いとかじゃなければマジで誰が観ても楽しめるエンタメになっているので、ぜひ劇場に駆けつけてほしい。

 

【ざっくりあらすじ】

舞台は多様な種族やモンスターがいるファンタジー世界。頭は回るが腕っぷしは弱い盗賊エドガン(クリス・パイン)と、荒っぽいけどめちゃ強い相棒の戦士ホルガ(ミシェル・ロドリゲス)は、監獄から脱出をはかり、ある困難なミッションに挑戦する。気弱な魔法使いサイモン(ジャスティス・スミス)、変幻自在なドルイドのドリック(ソフィア・リリス)、ド真面目だが変に面白い聖騎士のゼンク(レゲ=ジャン・ペイジ)など、癖の強めな面々も仲間に加え、ダンジョンやモンスターやドラゴンの脅威をくぐりぬけるうち、一行は世界の命運がかかった陰謀に巻き込まれていく…。

 

【伝説のゲーム「D&D」】

何も知らずあらすじを聞くと「なるほど、ベタな魔法ファンタジーって感じなのね」と思うだろうが、それもそのはず、実は本作は、テーブルトークRPGとして歴史的にも重要なゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ(通称D&D)』の映画化なのである。D&Dは、いわゆるRPG的な「ドラゴン」とか「ダンジョン」とか「魔法」とかの概念を、今私たちが馴染んでいるような形で広く作り上げた立役者と考えられている。その意味で本作は「ベタ」どころか、むしろ「元祖」と言っても言い過ぎではないような歴史と伝統がある世界観の映画化なのだ。

ちなみに元ネタのTRPG「D&D」については、最近アトロクでその歴史や意義を特集していたので、本作が楽しかった人は聞いてみると役立つと思う。

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「D&D」を元ネタにした映画であることは事前に知っていたので、何かTRPGっぽい要素(サイコロ振るとか?)を入れてきたり、たとえば『LEGO® ムービー』のように「第4の壁」を破るメタな仕掛けがあったりするのかな?と少し身構えていたのだが、いざ観てみれば(少し拍子抜けするほど)何の予備知識もいらず楽しめるエンタメに仕上がっていて驚くほどだった。

気軽に楽しめるとはいえ、美術セットも豪華だったりと、明らかに金がかかっている。セットとCGをうまく組み合わせているのか、パッと見ではほとんど大予算の『ゲーム・オブ・スローンズ』とも大差ないようなレベルに仕上がっている。そんな非常にしっかりと構築されたファンタジー世界観で繰り広げられるのが、しょうもない脱力ギャグ満載な、ダメ人間たちのおとぼけ珍道中だというのがまた本作のスゴイところだ。

 

【恋愛にならない男女バディの良さ】

「スットコドッコイ指輪物語」とも呼ぶべき、楽しい冒険ファンタジーの核となるのは、やはり魅力的な主要キャラクターたちだ。

まずは主人公の男女コンビ、エドガン&ホルガの描かれ方が良い。

冒頭の初登場シーンからして象徴的だ。マッチョなタフガイ囚人が僻地の監獄に送られ、収監された牢屋にはすでにエドガンとホルガがいた。なぜか手袋を編みながら男に挨拶するエドガン、無愛想にジャガイモを食べているホルガ。女性であるホルガを見て「遊ぼうぜ」などと軽口を叩く男に、エドガンは「やめとけ」と忠告するが、なおも絡もうとする男を、ホルガは一瞬でブチのめす。崩れ落ちる男、何事もなかったかのように話を続けるエドガンとホルガ…。

このシークエンス、説明的なセリフは何一つないにもかかわらず、この2人がどういうキャラクターで、どういう関係性で、どんな人生を送ってきたのか、観客になんとなく伝わるようになっている。あるキャラクターを観客に紹介するための導入シーンとして、お手本のように理想的と言っていいだろう。

エドガンを演じるクリス・パインは、最近観た彼の演技の中ではベストアクトと言っていいほどハマっていた。腕っぷしは弱いので、主に作戦や知略を担当するのだが、それもけっこうな頻度で失敗する。そんなダメ人間ではあるのだが、諦めずに目的を叶えようとする姿を応援してしまうのは、クリス・パインの演技の繊細さも大きい。バラバラになりかけたチームを、自分の弱さをさらけ出しながらまとめる彼の「リーダー」としての資質の描かれ方は、リアリティがあるものだった。後に明らかになる、妻の命を失ったエドガンを苛む「後悔」は、「ああ〜それはキツイ…」と本当に思えてくるヘビーさなのだが、だからこそ彼の成長と変化、そして最後にたどり着く心境には泣かされる。

相棒のホルガはもはや「ミシェル・ロドリゲス」という概念をそのまま具現化したみたいなキャラと言えるが、やはり無骨な女性がバンバン戦闘力を発揮する姿は気持ちいい。「強い女戦士」表象自体はそれほど珍しくないと言えるが、特に注目すべき場面は、元カレの家を尋ねるシーンだろう。「荒くれ者で家を開けがちな男と、彼を愛しているが付き合いきれず、別の男と次の人生を始めてしまう女」的な、よくある男女のジェンダーロールをひっくり返したような場面になっている。こうした性別規範のズラシと破壊をちょっとずつ入れていくことで、風通しの良さを作品全体にもたらす技術は、日本のエンタメも大いに見習うべきだろう。

さらにエドガンとホルガの間に、いわゆる恋愛フラグが一切立たないのも良い。その上で、互いにかけがえのない「家族」になっていく…というストーリーとなっているわけだが、それを恋愛なしで成り立たせてしまう手腕も凄いなと思う。男女だからといってむやみに恋愛関係にしてしまう安易な手癖に日頃からうんざりしている身としても、恋愛の逃げ道に頼らず人間性と関係性を正面から描写しようとする本作は、かなり痛快だった。

 

【ダメだけど愛すべき"旅の仲間"】

脇を固める他のキャラクターも、みんな少しずつダメだったり厄介だったりする部分を抱えているのだが、それがしっかり魅力につながっている点が高度なキャラ造形だと感じる。

まずは気弱な魔法使いで、隠れた才能がありながら、こそ泥めいた稼業で糊口をしのぐサイモン。演じるのは『名探偵ピカチュウ』の主人公でおなじみ、ジャスティス・スミスだ。偉大な魔術師を祖父にもつコンプレックスに向き合い、精神的な成長を遂げるという、本作のもう1人の主役とも言える重要な役柄を、彼ならではの人懐っこい雰囲気でうまく演じていた。これからスターダムを駆け上っていきそうな注目の若手俳優だ。

そして自然の化身であり変幻自在のドルイド、ドリック(最推し)。後述するが、本作のわくわく動物ムービーっぷりを激増させてくれた立役者である。演じるのは『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』でベバリー演じたソフィア・リリス。Netflixの『ノット・オーケー』の主役もとても良かったので、メジャーシーンで活躍してくれて嬉しい。あんなにかわいらしい見た目なのに、アウルベア(フクロウ熊)という名前そのまんまなファンタジー巨獣に変身して暴れまわる、ハルク系のパワータイプなのも最高。ちなみにアウルベアのデザインには、シロフクロウの特徴をうまくとらえるための資料集めから始め、数ヶ月を費やしたという。

「旅の仲間」の中でも目をみはる存在感を放つのは、レゲ=ジャン・ペイジ演じる聖騎士・ゼンクである。超真面目すぎて逆にオモシロ感が出ているキャラで、その繊細な美男子っぷりとのギャップがまた面白い。一見かなり知的なオーラを醸し出しているが、洞窟で「賢者しか襲わない」脳みそモンスターと出会った時、彼も他のおバカ連中と一緒に無視されていたので、実はやはり彼もまたバカ…ということなのか(観客も「そうかもな…」と納得できるのもスゴイ)。別れ際、歩き去っていく姿を写し続けるギャグに笑ったが、その後も地味に(遠すぎてボヤケていたが)いつまでも写り込んでるのがさらに笑えた。

悪役ではヒュー・グラントの演じる詐欺師フォージも、おヒュー度120%って感じで最高だった。大傑作『パディントン2』の悪役があまりに凄まじいハマりっぷりだったせいで、ヒュー・グラントのその後のキャリアを決定づけてしまった気もするが、本人が生き生きと演じているので何も問題はないだろう…。

 

【ギャグとサスペンスは同じ技術】

このようにキャラクターも善悪問わず魅力だが、個人的に本作で最も感心したのはシナリオであり、ストーリー面だ。その美点を言葉で説明するなら「笑いとスリルを高いレベルで両立している」ことだと思う。ギャグとサスペンスの両立とも言い換えられる。

本作の特徴的な点は、脱力するようなしょ〜〜もないギャグシーンと、ガチで手に汗握るようなスリリングなサスペンスシーンが、両方たくさん含まれ、しかも作品のトーンを損なうことなく同居していることだ。

ちなみに本作の監督の2人、ジョン・フランシス・デイリーと、 ジョナサン・ゴールドスタインは、『スパイダーマン:ホームカミング』でジョン・ワッツ監督と一緒に脚本を務めた人である。『スパイダーマン:ホームカミング』も、コメディとスリルをハイレベルで両立した、MCU屈指の傑作だと思っているので、本作のクオリティにも納得という感じではある。

「ギャグとホラーは紙一重」というのはよく聞く話だが、実は「ギャグとサスペンスも紙一重」というか、ほぼ同じ技術なのではないか…?と、本作を観て改めて気づくことになった。ギャグもサスペンスも「緊張と緩和」の呼吸のとり方がクオリティを決定づけるので、片方が巧い作り手は、もう片方も巧い傾向にあると思う。

本作を代表するギャグシーンをひとつ選ぶなら、エドガンたちが墓場で死者を生き返らせて、質問をするシーンだろう。生者と死者のテンポの良い掛け合いによって、かなり笑える場面に仕上がっているのだが、「1人の死者に5つしか質問できない」という謎ルールの設定によって、会話にちょっとした緊張感(サスペンス)をもたらしているのが上手い。この「質問は5つまで」のような明快なロジックを提示することで、緊張(と笑い)を生む手法は、本作の主要なサスペンス的な見せ場にも適応されている。

 

ーーー以下ネタバレ多め注意ーーー

 

そんなわけで、特に素晴らしいと思った本作のサスペンスシーンを3つ紹介する。ややネタバレなので、なるべく鑑賞後に読んでほしい。

 

○わくわく動物変身エスケープ

どんな生き物にも変身できる能力をもつドルイドのドリックが、ハエに姿を変えて敵のアジトに潜入する。しかし、悪の魔術師ソフィーナに正体を見破られてしまう! そこから、様々な生き物に姿を変えながらドリックが城を脱出する…というシークエンスが始まるのだが、この一連の場面が驚くほど素晴らしかった。

ドリックほど自由自在の「変身能力」を持っていれば、下手すれば「なんでもありじゃない?」と緊張感を損なってしまいかねないが、動物にしか変身できないというルール設定と、敵の魔術師も探知能力を持っていることを示すことで、スリルを確保している。

ハエ・ネズミ・タカ・シカなど、次々と異なる生き物に変身して、鎧の中や空に逃げていくドリックの姿をワンカット風の撮影で追うショットは、映像的な快楽に溢れている。なおプロダクションノートによると、シカの姿は、パルクールを専門とするスタントマンが茶色い服を着て実際に演じることで、群衆やカメラにダイナミックな反応を生み出したという。

変身能力の楽しさを絵で表現すると同時に、今にも捕まってしまうかも?という緊張感も両立した、強力なサスペンスが構築されていた。まさにセンスオブワンダーに溢れた、本作屈指の名場面だろう。

余談だが動物といえば本作、地味に動物(ファンタジー動物も含む)の描写が良かったよなと思う。あの恐竜のようなヘビクイワシのような鳥?のモンスターを、馬+ニワトリみたいな役割で家畜っぽく使役してる設定とかも妙にリアルで面白かった。そして中盤の山場である、レッドドラゴンのでっぷり太った姿にも意表を突かれたが、ドラゴンとは言え「動物」である以上、そりゃ引きこもってたらああなるわな…というリアリズム表現でもあったなと。

 

○どきどき魔法犯罪サスペンス

どこにでも空間移動ポータルを作れる「そこ・ここの杖」を活用して、敵の本拠地に乗り込むための「犯罪計画」をチームが企てる、一連の場面も素晴らしかった。「そこ・ここの杖」は、ドリックの変身能力と同じく「それなんでもアリじゃね?」と思えるくらい便利な魔法アイテムなのだが、「見える場所にしかポータルを作れない」という制限も示しつつ、『オーシャンズ11』も連想する魔法クライムサスペンスを作り上げる手法が見事だ。

「何ができるのか・できないのか」をしっかり観客に示し、「このキャラがこうしたからこうなった」というロジックをきっちり構築しつつ、誰の目にもわかりやすいエンタメとして成立させるという意味で、本作全体のアクションの良さが最も良く現れた場面と言える。全てがうまくいったと思いきや、ごくシンプルな「誤算」によって急に手詰まりになったりするのも、犯罪系スリラーの王道を行っていて面白いし、本作らしい脱力ユーモアも光っている。

 

○デスデス魔獣迷宮デスゲーム

終盤で主人公たちが巻き込まれる、権力者たちの主催する悪趣味な「デスゲーム」もスリリングだった。コロッセオのようなダンジョン闘技場で、満員の観客が見守るなか、主人公たちは魔獣と命がけの追いかけっこをすることになる。本作はコメディタッチとはいえ、『ゲーム・オブ・スローンズ』のような残虐さも蔓延する世界観なのだ…とよくわかる場面でもあった。

実際、ここは本作の中ではかなり恐ろしいシークエンスで、「鬼ごっこ」の中で判断をミスった人が容赦なく死んでいく姿は、『イカゲーム』さながら手に汗握るサスペンスを生んでいた。さらに主人公たちが魔法などの特技を封じられていることもあり、けっこうな絶望感もある。だからこそ数少ないチャンスを掴み、自身の能力や邪悪なギミックをロジカルに活かして危機を打開する展開はカタルシスがあった。

このデスゲーム場面、セットも豪華で派手な見せ場なので、普通ならこれをクライマックスに持ってきそうなものだが、これをクリアした後に真のラストバトルが待っている…という作りも、まさに「満漢全席」という感じの満足度を生んでいた。

 

以上「サスペンス」的に優れた見せ場をとりあえず3つ選んでみたが、どれも「映画にこんなシーンがひとつでもあったらそれだけで満足して劇場を後にできる」くらいのハイレベルな場面だ。なのに、これらがあくまで「たくさんある見せ場の中の一部」に過ぎないという事実も驚くべきことだ。

そんな面白い見せ場の数々は、必ずしも「見たことないほど斬新!」というわけではない、というのも逆に興味深い。たとえば『RRR』みたいに、全ての要素が常に観客の想像の50倍上を行くみたいなブッ飛んだ特殊例も確かに凄いのだが、この『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』のように、全てのシーンが観客の想定より1.5倍くらいフレッシュだし面白い…!くらいの塩梅でも、ちゃんとギャグやサスペンスを論理的にブラッシュアップしていけば、全体の満足感はこんだけ高くなるんだな…と感銘を受けたりもした。

 

【濃厚でオタクな元ネタ、しかしバーンと開かれたドア】

冒頭でも書いたが、本作はTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』が元ネタだ。そっちはそっちで長く深い歴史のあるコンテンツであり、世界中にマニアが沢山いるので、もっとオタク的な方向に振り切ることもできたかもしれないし、それこそ「第四の壁」を破る的な演出も可能だったかもしれない。しかし本作『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』は、あくまで初心者大歓迎な娯楽映画として、さらっとスムーズに楽しめる作りだ。そのバーンとドアを開け放つような、圧倒的な「開かれ」っぷりに、初見だと「TRPGゲームが元ネタ」と全く気づかない可能性あるよね…?と少し心配になったほどだった。

しかし、あえてオタク文化圏への過剰な目配せ・ウケ狙いや、メタな奇手奇策に頼らず、真に万人が楽しめる「開かれた」ような作りにしたことは、結局この映画にとっても、元ネタの『ダンジョンズ&ドラゴンズ』にとっても良かったんじゃないかと思う。仮に元ネタの存在に気づかなかったとしても、まずは映画を楽しんだ後で、詳しいマニアたちの「あそこはあれが元ネタで…」という語りによって、改めて「そうなんだ」と興味を深めることもできるのだから。(まさに私が今そういう状態である。こちらの記事↓もじっくり読んでみるつもりだ。)

『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』を原作TRPG側から紹介してみた|マイケル・スタンフォード|note

比較するのもなんだが、たとえば同じ日に観た『シン・仮面ライダー』は、「歴史ある有名コンテンツ」の現代版リブートという点が本作と共通しているが、かなり対照的な作品と言えて、比べてしまう部分も多かった。庵野監督という際立ったオタク系クリエイターの手による、作家性が色濃い映画なので、ある程度「内向き」になるのは仕方ないし、そこが魅力という声も理解できる。シリーズファンが「これはあの過去作を踏襲していて…」的に楽しめる要素も色々盛り込まれていたのだろうと思う。しかし肝心のシナリオや演出といった、エンタメを成り立たせる基本的な部分が、練り込み不足に感じられて、どうしても作品として「閉じた」印象は否めなかった。

どんなにマニアックな文脈の上にあろうと、まずは「何も知らない人を楽しませることを最優先する」ことに全力を尽くした本作『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』からは、(『シン・仮面ライダー』に限らず実写でもアニメでもそうだが)内向きに閉じがちな日本エンタメが学ぶべきことは多いと感じる。

もちろん予算など、海外の大作エンタメと比べれば不利な面もあるので単純比較は難しいが、真っ先に学ぶべきは、まずはなんといってもシナリオであり、特にサスペンスとギャグの構築ではないだろうか。根本的には同じ技術であるサスペンスとギャグ、つまり「スリルと笑い」という、エンタメを成り立たせる二大要素を強化することで、作品としての完成度は爆上がりするはずだ(ウェットな感動/泣かせやマニアックな小ネタはその後でいいと思う)。本作のようにアメリカだけでなく、インドや韓国などアジア圏にも沢山の優れたエンタメ作品がある。それらから学び、その美点を吸収していけば、「オタク的な読み解きも存分にできるが、万人に開かれていて、新規のファンの獲得にも繋がる」という、理想的なバランスのエンタメ作品を日本で作ることも、きっと夢ではないだろう。

 

【おまけ】

ちなみに時間の都合で日本語吹き替えで観たんだけど、全然よかったです(まぁ最近は吹き替え事故案件もだいぶ減った印象だが)。ホルガが甲斐田裕子さんだったの、ファンなのに気づかず不覚。あと途中で出てくる死体が無駄に超豪華なので耳を澄ませときましょう…。

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