沼の見える街

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科博の特別展「海 ―生命のみなもと―」行ったよレポート

上野の国立科学博物館の特別展「海 ―生命のみなもと―」に行ったので簡単なレポートです。

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科博の特別展は必ず行くようにしてるが、夏の特別展は夏休み(絶対混む)ともろ被りしているため、油断してると終わってた!ということにもなりがち。意外ともうあと数週間なので動物勢はお早めに〜

 

まずは最も広いメイン展示場で、来場客を飲み込まんとする実物大メガマウス!

メガマウスは50年前くらいにハワイ沖で発見された深海ザメ。体長7mもの巨体をもち、深海ザメとはいえ比較的浅い水深(200mとか)に生息し、夜には海面に浮上してくることも考えると、わりと最近まで見つからなかったのは意外な気もしてくる。

ただ、個体数の少なさもあって、生きた姿が目撃されることは極めて珍しい。最近では2匹の生きたメガマウスが水面を泳ぐ姿がサンディエゴ沖で撮影されたニュースも。しかもオス/メスで求愛行動をしていると思われ、メガマウスの社会的な生活を捉えた現状ほぼ唯一といっていい貴重な映像資料となりそう。

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ちなみにこの実物大メガマウス、元は神奈川の京急油壺マリンパーク(21年に閉館…)に展示されていたメガマウスを持ってきたとのこと。閉館は残念だが、再び日の目を見てよかった。ヤスリのような小さな歯もちゃんと再現されていて良い模型。「がまぐち」って感じね。

実物大サメといえば、ホホジロザメもいるよ。

人食いザメとしてのキャラが立ちすぎてるサメゆえに、意外とサイズで語られない気もするけど、実物大で見るとやっぱ超でかいよねホホジロザメ。250m以深まで潜って獲物を探すらしい(と考えるとやっぱメガマウスはいうほど深海ザメでもない感じもしてくる)

 

メイン展示場のもうひとりの主役、ナガスクジラ。

科博名物、半分は骨格の(人体模型ならぬ)鯨体模型となっていて、ナガスクジラの骨格の様子がよくわかる。大量の小魚やプランクトンをこし取って食べるために舌骨が発達しているそうだ。実物大の骨を眺めながら、そういえばゼルダ新作でもクジラの骨を巡るイベントあったな〜とか思い出した。

展示にあった「ホエールポンプ」という解説も興味深い概念。クジラの息継ぎと餌取りの上下移動(ポンプ)が起こす「湧昇流」によって、海の生態系を担うプランクトンが栄養を得ていたりする。つまりクジラの「ポンプ」が海洋生態系を支えているという話。私たち人類は水平思考がどうとか言いつつ、空でも海でも(自力では)立体的に活動しづらい肉体をもつこともあり、「縦方向」の思考に弱すぎるよなとは前から思っているので、クジラに学ぶべきことは多いかもしれない。

 

メイン展示場では「親潮」と「黒潮」という日本周辺の2大海流を軸にして、様々な生き物や生態系を紹介していた。

今回の「海 ―生命のみなもと―」展は、「海の生き物の展示」であると同時に、やはり「海」そのものの展示としての側面も強いのが興味深いところ。ホエールポンプのような「縦軸=垂直」の海の動きと、海流のような「横軸=水平」の海の動きを、あわせて紹介することで、海のあり方を3D的・立体的に理解してもらおうというコンセプトなんだと思う。

実際、海流そのものを解説する展示もあった。

ちょうどワケあって調べてた「黒潮大蛇行」のコーナーも見つけて、タイムリーだった(どのように蛇行が発生するかを説明する動画もあって勉強になる)。世界でも黒潮だけに見られる「海の大事件」で、2017年から始まって5年以上も続いていて…とあったが普通に今年も続行しており(過去最長の7年目)、漁業や気候など多方面に大きな影響をもたらしている。

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海そのものの展示といえば、特別展の冒頭も、熱水噴出にまつわる特集でけっこう見応えがある。最も心をくすぐったワード「ロストシティのチムニー」。チム・チム・チェリーのチムニー(煙突)である。

現在の地球で唯一アルカリ性の熱水噴出が発見された、大西洋の海底「ロストシティ熱水域」の炭酸塩チムニー(煙突)。海底熱水といえば酸性で、黒い硫化物を沈殿させるもの…という知見を覆したという。真っ白の煙突が並ぶ「失われた海底都市」…。ロマンである。

ちなみにチムニー、抱きまくらぬいぐるみもある(茶色いけど)。唯一無二すぎるだろ

 

他にも、生き物と海の関わりについて、見どころが色々あるのでぜひ学んでほしい。

たとえばキーストーン(=要石)種の代表格として紹介されるラッコ。ラッコを再導入したらウニを食べまくってケルプ生態系が回復した話は有名。

このへんのことは前にも図解した。

 

もうひとつ、意外と面白かったのが「人類と海」の歴史。

旧石器時代にどうやって人類が海を超えたのかの謎を解こうと、石器時代に手に入る材料や道具のみを使って作った舟で、実際に台湾〜与那国島を渡ったというからスゴイ。地図もコンパスも使わずに星や太陽だけを頼りにした航海は、45時間くらいかかったらしい。

あと、かなり地味だが興味深かったコーナーが「貝塚」の中身をずらっと並べた展示。

貝殻の多くに稚貝が含まれておらず、貝の利用の持続可能性をけっこう考えていたんじゃないかという話もあって縄文人に感心。このままでは海洋資源を取りまくって滅ぼしかけてる現代人が縄文人より格段にアホになってしまう。

縄文人が利用していた様々な動物の骨などもあってワクワクしちゃう。ブダイやイシダイの硬いユニークな歯も、そりゃ見つけたら何かしら使うよね〜という感じで、こいつらわかってるな(何目線)と。よくみるとシャチの歯とかあるし。わざわざ狩ったわけではない…よね?

気になった魚・ヨコヅナイワシ。2.5mのイワシってどんだけだよ、と思うが、正確にはイワシの仲間ではなく、セキトリイワシという別の仲間の最大級サイズ。

ぬいぐるみもある。かわいい

こんなにイワシのぬいぐるみが充実してるのは海展だけ!

ハダカイワシ…!

 

図録も相変わらず充実してるので生き物勢は忘れずにね。フルカラー200p専門家がっつり監修で2600円は安いぞ。まじでな

 

余談:せっかく上野に行ったのでアメ横に寄って、隠れ家的なカフェ「御影ダンケ」に入ってみた。アメ横の喧騒の中にこんな昔ながらの喫茶店が…という驚きがある。「わちふぃーるど」とピーターラビットが同居する味わい深い空間でした。