- 映画『ちはやふる 〜上の句〜』を観たので(といっても10日くらい前ですが)あっさりめに感想を書いておきます。TOHOシネマズ錦糸町、1100円。爽やかで瑞々しくて、大変おもしろかったです。
- カルタに青春を懸ける高校生の少女・千早を主役にした漫画『ちはやふる』の映画化ですね。末次由紀の原作も途中まで読んでまして、そっちもかなり好きです。最近は追えていなかったんですが、これを機にまた読み進めてみようと思います。
- 予告編を見た限りでは、正直あんまり期待してませんでした。「え〜、千早が広瀬すずってなんかイメージと違う…」という声が多かったみたいですが、私もご多分にもれずそんな反応でしたね。広瀬すずは確かに超かわいいですし、『海街diary』での素晴らしい演技も記憶に新しいですが、千早というキャラの重要ファクターである「残念」というイメージがあんまりなかったので…。しかし本作の広瀬すずは、そうした我々一般人の懸念を(まさしく冒頭のカルタの札のように)見事にスパーーーン!と吹き飛ばしてくれました。
- 千早の特殊技能である「耳の良さ」をどのように映画的に表現するかというのは非常に重要な問題でしたが、深い集中のなかで「耳をすませる」広瀬すずの凜とした佇まいがその答えでした。冒頭のカルタシーンで、髪をかきあげながら「聴く」姿勢に入った彼女を包む静けさの表現がまず素晴らしい。千早がどういう才能をもっていて、競技カルタというのがどのような「戦い」なのか、ワンシーンで観客に伝えることに成功していました。もちろん具体的なルールなどは順を追って説明されていくのですが、「競技カルタとは何なのか」を端的に説明している見事な導入だったと思います。
- その後も千早の残念美人っぷり、というよりカルタのこと以外何も考えていないクレイジーサイコ女子高生っぷりの再現度も圧巻であり、とにかく広瀬すずの強靭な求心力がひたすらに物語を牽引していきます。彼女のもっているとんでもないカリスマ性はすでに語り尽くされているとは思いますが、「これほどのものとは…!」と改めて驚かされました。これからの日本映画界を背負って立つことになる女優さんなのは100パーセント間違いないですし、そんな彼女の初めての本格主演作ということで、エポックメイキングな映画として今後も語り継がれていくと思います。
- そんな感じで「広瀬すず無双」を存分に味わえる作品ではありますが、決して彼女のワンマン映画ではありません。広瀬を取り巻く若手の俳優さんたちの演技も素晴らしいの一言でした。まずは何と言っても、実質的なこの映画の主役(視点キャラ)である、千早の幼馴染の太一を演じる野村周平ですね。本作の二人目のMVPでしょう。
- 太一は一見すると単なる完璧イケメンなんですが、過去に犯したひとつの「過ち」をずっと引きずっており、罪悪感にとらわれています。しかし高校で再開した千早に影響されて、自らの「業(ごう)」と向かい合い、そして立ち向かっていく。千早への憧れと自分の弱さの間で引き裂かれそうになりながらも、求めるものに必死で「手を伸ばす」彼の姿に観客はグッとくるわけです。この『ちはやふる 上の句』は、ある意味では太一の物語ということですね。
- 本作が優れているのは、前後編の二部作という作りになっているにもかかわらず、その太一の「物語」が前編でひとつのゴールに到達するということです。特に何度でもその素晴らしさを褒め称えたいのが、クライマックスの決戦ですね。ネタバレになってしまうので詳しくは書けないのですが、太一の葛藤と成長、そして丁寧に積み重ねてきた伏線がうまく絡まり合って、とにかく熱いラストバトルでした。
- 決着のつけ方も実にロジカルで、見事なものでしたね。本作は全体的に「カルタって凄い…!」と観客に思わせることを重視しており、言い換えれば「俺たちの知ってるカルタじゃない…!」という意外性を前面に押し出していたわけです。しかし最後の最後に「カルタならでは」の、誰もが知っている「ある行為」によってバトルに予想外の決着がつく。このトリッキーな流れが実に綺麗でシビレるんですが、しかしその「予想外」を引き起こしたのは紛れもなく太一の「手を伸ばし、掴もうとする意志」だったというのが、本当に感動的なんですよね。一応創作をする人間の端くれとして言いますが、こういうシーンを描けるというのは全くもって羨ましいし、素直に憧れます。ただただ素晴らしいクライマックスでした。
- ちょっと太一まわり(?)について熱く語りすぎましたが、他の出演陣も軒並み素晴らしくてですね…。前編では決して出番は多くはなかったですが、3人目の主人公といってもいい新(あらた)を演じる真剣佑の「只者ではない」感も絶品で、後編でのさらなる活躍がすごく楽しみです。
- 千早の個性豊かな部活仲間たちの演技もとても良い。着物マニアこと奏(かなえ)を演じる上白石萌音の「絶妙」としか言いようがない庶民的な可愛さ、机くんこと駒野を演じる森永悠希の「超いるいる」と叫びたくなる強烈な実在感、肉まんくんこと西田を演じる矢本悠馬の味わい深いチャラさ…。主役3人のオーラは圧倒的でしたが、彼らのキャラの強さも全く負けていませんでした。みな若手ですが、これからさらなる飛躍が期待されますね。
- 最後にPerfumeによるテーマ曲『FLASH』についてですが、これも最高でした。「曲調が本編に合ってないのでは?」という意見もチラホラ見かけますが、「FLASH=火花」というタイトルにも象徴される、軽快さと明るさと一抹の悲しさが絶妙にブレンドされた楽曲で、この映画によくマッチしていたと思いますよ。歌詞もしっかり「競技カルタ」の特性について語ったもので、映画の冒頭とも呼応していますし、完璧な選曲じゃないでしょうか。腰の引けた半端なタイアップ曲とは一線を画していると思いますね。Perfumeの新作アルバムに収録されているようなので、普通に買います(だからiTunes Storeから早く発売してくれ)。
- もう少し語りたいのですが、後編の公開も近いようですし、この辺で終わりにしておきます。数々の屍が山と積まれている「漫画の映画化」の中でも、ほとんど奇跡に近いような、非常に理想的な映画なのは間違いないと思いますので、広瀬すずファンの方や原作ファンの方はもちろん、それ以外の人にも全力でお勧めしたいです。私に後編の前に漫画をしっかり読んどこうかな…。ではまた。