沼の見える街

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『クリード チャンプを継ぐ男』感想

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  • 映画『クリード チャンプを継ぐ男』(原題:CREED)を観ました。TOHOシネマズ日本橋、0円(6ポイント鑑賞)。前評判の高さにかなりハードルを上げて劇場に向かいましたが、それを軽く超えてくるほど凄い作品でした。『スター・ウォーズ』もいいけど、こちらも断然オススメです! まだ公開初日のため、ネタバレを避けつつ感想を書きたいと思います。
  • 超有名なボクシング映画『ロッキー』シリーズの「続編」にあたる作品ですが、本作の主役はロッキーではありません。なんと今回の主人公は、ロッキーの最大のライバルだったアポロの隠し子・アドニスなのです。シリーズは6作目の『ロッキー・ザ・ファイナル』で一度完結しているのですが、今回の『クリード』で主人公を変更し、新しい物語として仕切り直すというわけですね。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』と『クリード』、ともに歴史的な映画シリーズの「エピソード7」にあたる作品ですが、その両方が同時に公開されてると考えると、何だか凄い状況だ…。
  • とはいえ『フォースの覚醒』同様、『クリード』も決して安易な続編やスピンオフではありません。『ロッキー』という伝説的な作品のエッセンスを徹底的に抽出し、現代的なブラッシュアップを重ねた末、最高に燃えるエンタメとして新たに打ち出してきた映画、それが本作『クリード』なのです。
  • 今回の主人公、アポロの息子アドニスを演じるのはマイケル・B・ジョーダンくん。ジョシュ・トランク監督の『クロニクル』で、ひょんなことから超能力を得てしまった高校生トリオの一人を好演していました(めっちゃ面白くて切ない青春ドラマの傑作なので未見の方は是非!)。また、とある黒人青年の最期の一日を描いた意欲作『フルートベール駅で』でも主演を務め、話題を集めました。
  • そして本作『クリード』の監督は、この『フルートベール駅で』を撮ったライアン・クーグラーだったんですね! 全然知らなかったので「マジで!?」と思いました。だって、カンヌで評価されるような実験的な社会派映画『フルートベール駅で』が長編デビューで、その次に撮るのがよりによって『ロッキー』の続編って凄くないですか…。極端すぎやしませんかね…。
  • 実際、クーグラー監督は非常にチャレンジングな男。「『ロッキー』の続編を作りたい」という学生時代から抱き続けた想いを、直接シルベスター・スタローンにぶつけたそうです。スタローンは「いや続編とか無理だろ…」と常識的に断ったのですが、しつこいクーグラー監督の情熱にほだされて「いっちょやってみっか」と腰を上げたとのこと。社会的弱者の姿を真摯に描き出した『フルートベール駅で』にみられた、監督やジョーダンの送り手としての姿勢にも大いに共感したのでしょう。こうして『ロッキー』のまさかすぎる続編『クリード』の制作がスタートするのでした。
  • 本作は、養護施設でのアドニスの荒みきった少年時代から幕を開けます。アポロの本妻だったメアリーと出会って一緒に暮らすことになり、高等教育を受けてちゃんとした仕事にも就いたアドニスですが、自分の体に流れる「チャンピオンの血」に抗うことができません。ついには仕事を辞めて、プロのボクサーとして生きることを決意します。
  • そこでアドニスが教えを請いに行くのが、今は亡き父アポロの好敵手だった、前作までの主人公ロッキー・バルボアです。スタローン演じる年老いたロッキーは「いやコーチとか無理だろ…」と常識的に断ったのですが、しつこいアドニスの情熱にほだされて「いっちょやってみっか」と腰を上げます。……なんだか本作『クリード』の成立過程によく似ていますね。
  • 実際この『クリード』という作品における「ロッキーとクリードの師弟関係」からは、メタ的な含意を容易に読み取ることができます。ロッキーという伝説的なボクサーは、そのまま『ロッキー』という伝説的な映画の象徴でもあるわけです。あまりに偉大な「先人」(スタローン)の成し遂げたことを、現代の「ファイター/作り手」(クーグラー監督やジョーダン)がいかに受け継ぎ、乗り越えていくのか…? そうした暗喩も感じ取りつつ、世代を超えたタッグであるクリードとロッキーの行く末を、観客は見守ることになります。
  • ボクシング映画の醍醐味は、何と言っても「訓練シーン」の盛り上がりだと思うのですが(最近の邦画だと『百円の恋』の特訓シーンが印象深かったですね)、本作のクリードとロッキーの「地獄の特訓」も実に素晴らしかった。最初はうまくいかないけれど、練習を繰り返しているうちに動きが研ぎ澄まされていく、という過程をテンポ良くしっかりと見せてくれて、試合に向けてテンションがどんどん高まっていきます。
  • そしてボクシングシーンの迫力の凄まじさと言ったらありません。トレーニングを重ねたマイケル・B・ジョーダンは、リアリティを失わない範囲で映画的ケレン味に溢れたアクションを成立させる、見事なパフォーマンスを見せていました。
  • また今回の最大の敵、英国チャンピオンのリッキー・コンランを演じたのは、ライトヘビー級王者の肩書を持つ実在のプロボクサー、アンソニー・ベリューです。さすがプロとしか言いようのない殺気と身のこなしで、クライマックスのバトルを存分に盛り上げていました。
  • 『ロッキー』シリーズへのユーモアに溢れたオマージュもたくさんあって、劇場には何度も笑いが起こっていました。ニワトリを追っかける特訓の再現とか、往年のファンはニヤリとすることでしょう。(余談ですが今年は『恋人たち』といい、ニワトリを追っかけるシーンのある傑作が目立ちますね…。)
  • ロッキーが書いた特訓内容のメモを、アドニスがiPhoneで撮影するくだりの「ジェネレーション・ギャップ」ネタも最高でした。「写真はクラウドに保存したよ!」とアドニスに言われて、「なんだよ雲(クラウド)って…」と空を見上げるロッキーが可愛すぎる! 『ロッキー』第1作から40年たってるもんな…とか時間の流れを感じさせてちょっとしんみりします。
  • 当然ながら旧作ファンへの目配せだけではなく、めちゃくちゃ燃える『ロッキー』オマージュも沢山あります。象徴的なのが、音楽の使い方。本作は『ロッキー』を前提としてはいるものの、あくまで『クリード』という新しい主人公の物語なので、あの伝説的に有名な「ロッキーのテーマ」は使わないのかな〜…と思っていたんですが、「ここぞ!」という場面でさりげなく、しかし非常に効果的に流れてくるんですね。
  • たとえば、ロッキーの姿にどうしようもなく「老い」を感じてしまうようなシーンがあるのですが、その哀愁に満ちた背中に重ねて、あの「チャチャーチャー…チャチャーチャー…」というテーマが悲しげにアレンジされて流れる。ささやかなオマージュではあるのですが、非常にグッとくるものがありました。往年のファンは泣き崩れることでしょう…。
  • かと思うと、クライマックスのとある場面で、まったく正反対の超「アガる」曲の使い方をしたりもするわけですが…さすがにネタバレになるので黙っておきます。とにかくラストバトルは必見!としか言いようがない素晴らしさでした。最初の入場シーンの圧倒的な臨場感から、すべてを出し切った末にたどり着く結末まで、全部ひっくるめて非常に贅沢な数十分間です。この「クリードvsコンラン」こそが、今年公開されたあらゆる映画の中の「ベストバウト」だといっても過言ではないと思います。ぜひ大スクリーンでチェックしてくださいませ。
  • 長いのでこのくらいにしておこう…。もっと過去作と結びつけて語ったりとかするべきなのかもですが、そういうのは他の詳しい人がやってくれることでしょう…(他力本願)。別に『ロッキー』とか興味ない人でもスッゴイ楽しめると思いますので、ぜひ! ちなみに字幕は俺たちのアンゼたかしなので、マッドマックス好きもぜひ! それでは。