沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

読んだ本の感想まとめ(2023年2/6〜2/12)

読んだ本まとめです。今週はわりと引きこもっていたので読書がそこそこはかどってしまった(そうなるとこのまとめ記事が大変になる)。せっかく高いipad miniちゃんを買ったので無駄にせず活かしていきたい…。

 

<今週読んだ本>

『ふなふな船橋』吉本ばなな

『チャップリン 作品とその生涯』大野裕之

『グリーン・ジャイアント  脱炭素ビジネスが世界経済を動かす』森川 潤

『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』ロブ・ダン

『フェミニズムってなんですか?』清水晶子

 

前回↓

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『ふなふな船橋』吉本ばなな 

吉本ばななさんの小説は以前よく読んでいて、『王国』シリーズとか『デッドエンドの思い出』とか大好きだったのだが、最近なんとなく離れていた(別に嫌いになったとかではなくあまり小説自体を読まなくなったため)。そんな中、千葉県の船橋を舞台にしたという本書を見つけて、船橋への愛着が深い私としては捨て置けず、久々にばなな小説の世界に触れたのだった。

ばななさんと船橋の繋がりは調べてないので不明だが、取材もしっかりされたのであろう、愛すべき船橋の名所(?)がたくさん出てきてそれだけで楽しい。やはり地元の知ってるロケーションがフィクションに出てくると嬉しいね。私も全然知らないようなお店とか場所も固有名詞でバンバン出てくるので船橋に行く時参考にしたいと思う(てか私が言うほど船橋ガチ勢ではなかったのか…?)。

そして本作、なんといってもご当地キャラにして全国的知名度を持つ「ふなっしー」がびっくりするほどフィーチャーされる。個人的には特に思い入れがないので(ごめんなっしー)地元民にはマジで大人気なんだな…と思いながら読むしかなかったわけだが、ふなっしーという特異なキャラを通じて、フィクションやキャラクターがどれほど人の人生を励まし、支え、救いうるかということを語っているんだと思う。 

終盤で「いや、ふなっしーは商業キャラクターであって実在しないし、そいつでビジネス展開して金儲けしてるやつがいるんだよ」という(事実といえば事実な)ツッコミ視点も出てきて、これほどふなっしーフィーチャーした作品でその冷徹な視点を入れてくるのが良い意味でばなな作品らしいわけだが、それに対して「いや、キャラクターが"実在する"っていうのはそういうことじゃないんだよ」とフィクションを愛する主人公が反論する下りとか、創作好きとしてもかなりグッと来てしまった。

購入→『ふなふな船橋』

 

 

『チャップリン 作品とその生涯』大野裕之

昨年のベスト本に選んだ『チャップリンとヒトラー――メディアとイメージの世界大戦』が非常に面白かったので、同じ大野先生の書いた『チャップリン 作品とその生涯』も読んでいた。チャップリンのNGフィルムをぜんぶ見た、世界的にも珍しいチャップリン研究者である大野先生が、彼の作品と生涯を通して「喜劇王」が後世に残したものを読み解く1冊。

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昨年の「チャップリン映画祭」で代表作を(10本ぶっ続けで…)見倒していたこともあり、「あの映画のあそこか〜」とわかって、チャップリンの苦闘や天才っぷりを面白く味わうことができた。映画のいいところは、観ることで「その映画を語る言葉」を見聞きするという楽しさも生まれることだね(当然すぎるけど)。片っ端から名作を観るのもいいと思うけど、映画祭などの機会で、有名な巨匠の作品をちゃんと「縦軸で」まとめて観ることも大事だな〜と思わされる。チャップリン映画祭は今後も全国巡業するようなので行ける人はぜひ行ってほしい。

ところで『チャップリン 作品とその生涯』、別に絶版されたわけではないと思うのだが、最近まで品薄だったみたいなので、私も仕方なく古書店で買ったのだが(もうしわけない)、つい最近重版して買いやすくなったみたい。やったぜ。みんな買おうね。

購入→『チャップリン 作品とその生涯』

 

『グリーン・ジャイアント  脱炭素ビジネスが世界経済を動かす』森川 潤

気候危機を回避するための地球規模の「脱炭素」へのシフトが、もはや倫理の問題とか意識の高い低い云々ではなく、世界的な巨大ビジネスとなっている…という現状を、その波に乗りまくってる企業など、通称「グリーン・ジャイアント」を紹介しながら語る本。そして例によってというべきか、日本がその波に明らかに乗り遅れてる…というシビアな現状も見えてくる。

「気候を正常化するのに"奇跡"の技術は必要ない。すでにツールは揃っている」というガーディアン記事がちょうど出たわけだが…↓

www.theguardian.com

脱炭素の波に乗るにあたって、まずはなんといっても風力や太陽光のような、再エネの「王道」をいかに走っていくかが重要になってくるわけだが、日本は上の記事でいう変な"奇跡"…というか奇策に走ろうとして、かえって最重要な王道の領域で遅れを取ってしまっている…といった傾向があると、本書『グリーン・ジャイアント』でわりと辛辣に書かれてたな…。

『成長戦略としての「新しい再エネ」』を読む限り、せっかく再エネに関する大きなポテンシャルはあるのだから、色んなしがらみに負けてないで本当の意味で次世代のウェーブに乗っていってほしいものだ…。やはりその最大の障壁が硬直した政治ということなんだろうか。もちろん市民側の意識も重要なんだろうけど。

ところで『グリーン・ジャイアント』読んで、世界の年金基金は10年以上前から(気候変動含む)ESG投資に踏み切っており、実は日本の年金基金も相当な割合がESGに回るというのは「へー」となった。年金やら積立投資やらIDECOやら、自分の金が具体的にどういう方面に回るのか見えにくいところもあるので、ぶっちゃけ環境的な観点では大丈夫なとこに行ってんのか…?と不安になることもあったが、少し安心した…かな…?(まぁ完全には安心できないからこそ企業への市民からのプレッシャーも大事になってくるんだろうけど。)

ちなみにこういう気候危機や脱炭素の本って気が滅入る側面もあるけど、読んだら読んだでけっこうエキサイティングでもあるんだよね。たぶん人類が一度も経験したことないレベルの超デカいシフトが社会に起こってるのが、不謹慎だが単純に面白いというのはある。地球環境や人間社会のメカニズムを再考する好機なのは確かなので、引き続き考えていきましょうね…特に動物好きならなおさら…

購入→『グリーン・ジャイアント  脱炭素ビジネスが世界経済を動かす』

(2/12現在、電子半額ポイント還元中)

 

『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』

『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』、献本いただいて読んだのだが、今年ベスト本に選ぶ可能性があるほど、たいへん面白かった(そして怖かった…)。これから気候変動などで激変していくであろう世界で、ヒトや他の生き物がどんな変化を迎えるか、生物学の見地から切り込んでいく。

生きもの好き視点でもかなりエキサイティングな本なのだが、鳥好きとしてはカラスに光が当たるので熱い。本書によると、変化していく環境に対応できる「発明的知能」を持つカラスのような鳥と、より特殊な状況に特化した「自律的ノウハウ」を持つ鳥がいるのだが、激変していく世界では前者が有利となり、後者が不利となるという。

さらに人類自身にも、同じ傾向が見られるかもしれない。気候変動などで激しい変貌を遂げていく世界で、人や社会がうまく存亡できるかどうかは、その社会のシステムがカラスのような「発明的知能」に近いか、他の鳥のような「自律的ノウハウ」に近いかにかかっている…という話をする。その理屈だと、硬直的な日本社会はかなり後者に近い感じがするので、ヤバそうな気配だが…。

汎用性の高い「発明的知能」が、専門特化型の「自律的ノウハウ」に比べ、不安定で移ろいやすい環境では有利になるって話、『RANGE(レンジ) 知識の「幅」が最強の武器になる』を思い出した。専門特化的な能力や知性は、スポーツのような特定の分野では確かに有利な部分もあるのだが、より現実社会に近い変化の大きいカオスな世界、通称「意地悪な世界」では、幅広い知識と多様な視点がものを言うのだ…という本。こっちも面白いのであわせて読んでほしい(今見たら電子ポイント還元やってた)

ところでカラスの「発明的知能」と、他の鳥の「自律的ノウハウ」の違いって、まさに私も考えていたことだったので、そんなちゃんとした名前があったのか!と少し驚いた。

両者に優劣があるわけではないという点は私も強調したのだが、本書の言うように、人間のせいで混沌としていく世界では、有利/不利がたしかに分かれそうだなとは思う…。

ただし「カラスの知性」対「フクロウの知性」が、そのまま本書で言う「発明的知能」対「自律的ノウハウ」の関係になるわけではないみたいだけどね。フクロウも相対的に脳が大きな鳥であり、本書で自律的ノウハウを持つとされる(比較的脳が小さな)鳥とはまた異なるようなので…。

人間はなんとなく「人間が繁栄するとカラスもついてくる」と思い込んでるが、実はカラスと人間の「知性の種類」がかなり似ているため、カラスが栄えるような環境では人間も栄えがち…というだけの話で、カラス視点では「人間ってどこでもついてくるね」って感じかもしれない。

『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』にも「発明的知能がカラスを利するような地域の多くでは、それがヒトをも利することになり、ヒトとカラスが同じような暮らし方をするようになった」と書いてある。ただし人が狩猟採集民だった時の話だけど。カラスと人は、どこか似たもの同士なのは間違いなさそう。

余談だが「輸送網を張り巡らせて世界の国々を結びつけた人類は、その過程で(人間を利用する)特定の生物種のコリドー=移動経路も作ってしまった」という部分、めっちゃ『THE LAST OF US』じゃん…と思った(ドラマ版でまさにその話してたし、私もちょうど語っていた↓)

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そんなわけで『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』、シンプルに面白いので動物好きや人類の未来を懸念する向きはぜひ読んでほしい…。究極的には、人類がしくじって滅亡しようと、ヒトに(比較的)近い脊椎動物とかが死滅しようと、広い意味での「生物界」は意に介さず存続し続ける…という話が最後に待っており、迫力と哀しさとパワフルさ、そして謎の安心感を覚えた。

購入→『ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること』

 

『フェミニズムってなんですか?』清水晶子

フェミニズムの歴史や実践や現状に関する、ありそうであまりなかった日本語で読める基本的な入門書。Twitterとかでもフェミニズムやジェンダー関連はよく議論されたり炎上したりしがちなテーマではあるが、より学問的な観点で今どのようなことが論じられているのか、専門家が書いたこうした本を読んで学ぶのは良いことだと思う。

特に「インターセクショナリズム」など、なんとなくわかっているような気になっていたものの、意外と腑に落ちて理解するのが難しいような概念についても、噛み砕いて解説されるのはありがたいところ。

個人的にも、フェミニズムは映画などの現代カルチャーを語る上でもすでに不可欠となりつつあると実感するばかりだし、いうて私も去年のベスト映画とかで10作中3作にフェミニズム的テーマ性の強い作品を選んでいたことに気づいたり。現実社会にリンクするように、エンタメにおけるこうした潮流は今後も世界的に強まっていくだろうし、現代の最も大きな潮流のひとつとして(バックラッシュ的な動きも強いとは言え)ワクワクする部分もある。

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ちなみにこの本も電子版50%還元セール中でした(2/12現在)。文春が唐突にセールやってるみたいなので本漁りがはかどってしまう…
購入→『フェミニズムってなんですか?』

 

今週はここまで。本がけっこう読めた週はまとめを書くのも大変だ…。まぁとりあえず続けてみよう。