沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

今年最も人生変えたゲーム。「ポケモンスリープ」1ヶ月プレイしたよ感想

毎年、新年の抱負は「早寝早起き」である。小学生か?と思うかもしれないが、毎年熟考した末に、真面目に選んでいるのだ。早寝早起き…もっと具体的に言うと「生活のリズムを健全に保つこと」と「ちゃんと睡眠時間をとること」は、クオリティ・オブ・ライフに圧倒的な影響力を及ぼすといっても過言ではない。私はこういう睡眠の本とかをいろいろ読んでいるので詳しいのだ。朝ちゃんと起きたほうがやっぱ健康的だろうし(人によるとはいえ)おおむね午前中のほうが人間の能力は発揮されやすいみたいなデータもあるそうだ。というわけで毎年、新年の抱負は「早寝早起き」というわけだ。

へ〜、さぞや健康的なんすね、けっこうなこって…と思ったかもしれない。だが「毎年」という部分に注目してほしい。なぜ毎年わざわざ「早寝早起き」を新年の抱負にあげるハメになっているのか…? それは、毎年失敗しているからだ。小学生の標語のような「早寝早起き」は、ある種の人間(私)にはかなり困難なミッションなのである。

会社員とか学生とか、何時に起きて何時までに出社・通学しないといけない…みたいな規範ある生活をし、ナチュラルに早寝早起きしてる人は「何がミッションだ、大げさな…」とばかにするかもしれない。しかし(私のような)フリーランスや在宅ワーカーなど、そういう社会的な縛りがない人間にとっては、安定した「早寝早起き」生活は意外なまでにハードルが高いものなのだ。

私も、そりゃ外出の用事がある日とか、たまに早寝早起きを実践できる日はある。だが習慣としては続かない。数日後にはちょっと夜更かしして、ちょっと寝坊する…。じわじわ就寝/起床が遅くなり、深夜2〜3時くらいに寝て昼前に起きる、くらいの生活リズムにいったんハマってしまうと、体内時計もそれに引きずられ…。気づけば「遅寝遅起き」生活で半端に安定してしまうのだ。そこから「早寝早起き」に戻すのはエネルギーが必要だし、なまじ睡眠時間自体は確保できているし、寝坊したからって(概ね)誰に怒られるわけではないので、じゃあ早く寝て早く起きる必要がどこにあるんだ…?あほらし…しょせんこの世界はカオス…と「早寝早起き」へのモチベも失われてゆく。

これがもっと切実な問題、たとえば即座に健康を害するとか、仕事に支障が出るといった問題であったり、あるいは早寝早起きのメリットや報酬が膨大とかであれば、こちらももっと気合をいれて改善に取り組んだことだろう。だが「早寝早起き」はそういう類のミッションでもない。中途半端に困難で、中途半端にメリットもあるが、中途半端に報酬が少ないゆえに、中途半端に先延ばしされてゆく…。しかし心の奥底では、「早寝早起き」生活への理想を捨て去ることはできない…。だからこそ毎年「早寝早起き」を抱負に挙げながらも、結局はグダグダになり、自分自身への少々の失望を味う…というビターなサイクルを繰り返していたというわけだ。人生はそういうもの、と諦めるべきなのだろうか…? 

そうとは限らない、とゲームが教えてくれることもある。

 

 

遅寝遅起きにさよならバイバイ(希望)

きっかけは1ヶ月ほど前、友人同士の集まりの終わり際に、なんとなく「早寝早起きがしたいなぁ…」的なことを呟いた結果、イラストレーターの村上ヒサシさんにあるゲームをオススメされた。巷で人気のスマホゲーム「ポケモンスリープ」であった。

www.pokemonsleep.net

「あーなんか話題だよね」と思いつつも、即座にプレイを決断したわけではない。というのも私は(ゲームそのものは大好きだが)スマホゲームをほぼ全くやらない人間なのだ。評判の良い「メギド72」とかは遊んでみて、それなりに進めたし面白かったが、結局途中で触らなくなってしまった。なんかスマホやタブレットの小さい画面でちまちまバトルやアクションやストーリーを進めるというのがイマイチはまらないのかもしれない。あと課金システムもなんかコワイし、「基本無料」みたいな言葉も「そんなこと言って搾り取るつもりなんでしょう?」と勘ぐってしまい信用できない。最初にさっぱり数千円だか払って買い切って終わりにしたい、昔かたぎ(?)のゲーム好きなのだ。唯一の例外がポケモンGOで、元から散歩が好きなこともありそれなりにハマったが、最近は全然プレイしていなかった(なんかカバンがいっぱいになったりポケモンの所持数がいっぱいになったりして、面倒くさくなってしまったのもある)。

それでも紹介を聞く限りでは、私の「早寝早起き」という見果てぬ(というにはささやかすぎるが)夢に、「ポケモンスリープ」はばっちり刺さっているように思えてならなかった…。というわけで、その日帰ったら(もう深夜0時近かったが)すぐにポケモンスリープをダウンロードしてプレイを始めてみた。思い立ったが吉日というではないか。

さっそく、ぽちゃカワ系おじさんのネロリ博士が登場した。どうやらポケモンの睡眠を研究しているそうだ。私も「動物の夢」をテーマに図解を描いたことがあるし、そのうち「動物の睡眠」で一冊本を出せたりしないかなとか思っている(たいへん興味深いテーマなのだ)くらいなので、そのニッチな好奇心、なかなか気があいそうだなと感じた。

しかしこのネロリ博士、会ったばかりというのに、何やらカビゴンがどうとか眠気パワーがどうとか睡眠シンクロとか微妙に情報量が多い上に「それは科学…なのか…?」と若干心配になる感じのことを言い始めて、もう深夜で眠かったし、正直何を言ってるのかよくわからなかったので、とりあえず深く考えずにネロリ博士が命じるままに「睡眠計測」というのをやってみることにした。ピカチュウもくれたしな。

だが実はこの時点でいきなり、ちょっと抵抗を感じたと言わざるをえない。というのも、スマホをベッドに置かないと「睡眠計測」ができないというのだ。何を隠そう、私は寝室にはスマホを持ち込まない主義者だった…。電磁波が云々みたいな物理的なアレをそこまで懸念しているわけではないが、なんかベッド周りにスマホがあると落ち着かないし、深夜に急に鳴ったら起きちゃうのでは?と不安もあった。しかしまぁスマホが物理的に近くにないと睡眠が測定できないというのは「そりゃそうだろうな」とも思ったので(どういうシステムか詳しくは知らないが、調べたところ、スマホの加速度センサーが体の動きを検知するらしい)、大人しくスマホをベッドに置いて就寝した。

…その前にひとつ重要なファクターを設定する必要があった。「ねむりの約束」である。その名の通り「この時間までに寝よう」という時間を自分で設定し、その目標を達成すると(プラスマイナスの幅があるのでそこまで厳密ではないが)アイテムや経験値などボーナスがもらえる…という仕組みのようだ。ラジオ体操のスタンプカードね。あまり早くても達成できる自信がないので、とりあえず「ねむりの約束」を深夜1時に設定して、今度こそ就寝するのだった。

てんてんてろりん(←ポケモンセンターの音)

 

わくわくどうぶつ(ポケモン)睡眠図鑑

起きた。スマホで気が散るかと思いきや、昨夜は眠かったのでまぁまぁぐっすり眠れたようだ。いきなり「ありゃ?」と思ったポイントをあげると、スマホのバッテリーだ。スマホの睡眠計測はバッテリーを消費しすぎないよう、バックグラウンド再生で行われたようだが、それでも充電量が大幅に減ってしまっていたのだ(iphone12でちょっと前の機種だから、というのもあるかもしれないが…)。私はともかく、朝起きてすぐ家を出ないといけない人は、寝起きでスマホバッテリー残り20%とかになっていたらかなり厳しいだろう。睡眠計測にスマホを使うなら電源との接続は必須といえるかもしれない(それはそれでバッテリーの状態が少々心配になるが)。

まぁバッテリーの心配は置いといて(スマホを充電しつつ)ゲーム画面に戻ると、ネロリ博士が寝起きにいきなり電話を入れてきた。私を治験者か何かと思っているのだろうか(やってることの実態を考えると、まさに治験者以外の何者でもないが…)。眠気パワーがどうこうと、博士号もちのくせに相変わらず不明瞭なことを言っているようだが、要は眠ったからポケモンが集まってきたよとのことで、さっそくリサーチを開始する。わくわく。どんなポケモンがいるかな〜。

 

じゃん!

え、何…?なにこれ? 土?ゴミ?石? イシツブテの死体?

 

な〜んだ、ディグダかー。よかった、イシツブテの死体じゃなくて。寝起きから死体、見たくないもんね。

 

…いやまぁ、初日からいきなりわかりにくいポケモンの寝姿(寝姿ではなくない?)が目に入って混乱したし、これをディグダの図鑑写真として載せる判断はそれでいいのかネロリお前(動物図鑑のモグラのページに土だけ載せたら苦情くるだろ)という気持ちは隠せないが、このようにポケモンの知られざる「眠り」の生態を観察しようというコンセプトは理解できたし、面白いと思う。しかもそれぞれのポケモンに数種類もの「眠り」の姿が用意されているようだ。眠りというニッチなコンセプトでも、膨大な数のキャラクターのいる「ポケモン」でなら成立するという、IPの力技を感じざるをえない。

 

私の大好きなフシギダネともすぐに出会えてゴキゲンであった。カワイイッ! 「こうごうせい寝」って夜はどうするんだろ。どうでもいいか、カワイイから。ダネダネッ

 

睡眠の特徴も、それぞれのポケモンの生態を活かして、キャラが立ったものになっている。たとえばコダックはよく頭痛に悩まされているが、寝ているときも頭痛に悩まされているといった具合↓。シンプルにかわいそう

 

動物好きとして、ちょっと感心したのは、ワニノコの「はんきゅう寝」。ぱっと見「いや寝てないじゃん」となるかもしれないが…

これは「半球睡眠」という、現実の動物の睡眠を参照したものだろう。ワニなどの一部の動物は、片目を開けながら、脳を半分ずつ眠らせることで知られているのだ。

www.afpbb.com

 

他にもデルビルの「のび寝」や「とおぼえ寝」もそうした例のひとつと思われる。

先述の睡眠図解でも書いたように↓、犬が眠っているとき(起きている時のように)体を動かしたり、吠えたりするという行動を反映したのだろう。

 

こうした動物の生態の反映は、現実の動物の「睡眠」を知る上でもきっかけになるし、ポケモンというコンテンツに「生物学の入り口」としての役割をもっと引き受けてほしいと願っている身としては喜ばしい傾向だ。あくまでポケモンはフィクショナルな存在だし、まだ実装されているポケモンも限られているため、「この寝姿は現実の生物でいうアレだな!」と思える事例はまだそこまで多くない印象だが、今後のアップデートに期待は高まる一方だ。

↓最近だとヒゲペンギンのマイクロスリープも話題になったし、ポッチャマ(未実装)が登場した暁にはぜひ「爆速うとうと寝」みたいな感じで導入してほしい。

natgeo.nikkeibp.co.jp

 

はじめようか、睡眠計測

そんなわけで「睡眠計測」をしてみたわけだが、「おお〜」と思ったのは、やはり自分の睡眠リズムがグラフで表示されることだ。

この形の「睡眠リズムのグラフ」は本などでよく目にしていたが、自分で計測してみると、本当にこういう波を描いているんだなぁ…という不思議な感銘がある。レントゲンで自分の内部骨格を撮ってもらった時の「おお…」感にも通じる気がする。私も動物なのだなと思える(あたりまえ)

さらに睡眠の浅さ/深さの塩梅に応じて、その日の眠りが「うとうと」「すやすや」「ぐっすり」の3パターンに当てはめられるのだが、この3つは単にタイプ(まさにポケモンの草・炎・水のように)であって「良し悪し」ではない、というバランスも意外とユニークで上手い。睡眠のタイプによって、寝起きに登場するポケモンのタイプも変わってくるという仕組みだ。

「眠り」をゲームにしようと考えた時、普通やっぱり「深いほど良い」みたいな発想になりやすい気もするが、そこでジャッジするのではなく、「眠りの種類は人それぞれ」と強調するように、ポケモンの「タイプ」という「良し悪しでなく種類」でおなじみの概念に繋げる…という作りも巧みである。実際、適切な眠りは人によるというしな…。

またこれは毎日測っていると気づくのだが、睡眠のタイプは同じ人でも日によって変わるので、登場ポケモンのタイプの偏りすぎも避けることができる。参考までに私のここ1週間の睡眠データだが↓、見事にタイプがバラけていると気づくだろう。睡眠の長さと「タイプ」が意外と関係ないということにも注目だ。なんか異常に睡眠時間が長い日もあるが気にしないでほしい(なぜか夜中に目覚めてしまい、そのぶん寝坊した…)

睡眠タイプが「良し悪し」ではないかわりに、睡眠時間はスコアに直接的に反映されるので、いわゆるショートスリーパーの人はちょっと辛いかもしれない(ただし真のショートスリーパーは非常に稀で、大抵は単に睡眠不足なだけのようだが)。自分がいつ、どれくらい、どのように寝ているのかを測るだけでも、日々の睡眠の改善にけっこう効果があるのではないかと思われる。多少スコアが伸び悩んでも気にせず、とりあえず測るだけ測ってみることをオススメしたい。

 

必須級アイテム? Pokémon GO Plus +

ここで、先述したスマホのバッテリー問題に戻りたい。スマホによる睡眠計測がけっこうな電池を消費するという、地味にきつくなってきそうな問題の解決策を調べたところ、「Pokémon GO Plus +」というアイテムがあることがわかった。

プラスプラスってなんだよくどいな、「完成ファイル最新版(修正)第3版・改」かよ…みたいに内心ツッコみながら詳細を見たが、当初はポケモンGOを快適に遊ぶためのデバイスとして開発されたのだが改良されて、ポケモンスリープにも使えるようになったよ、ということらしい。

スマホと接続することで、スマホがわりに「睡眠計測デバイス」としてベッドに置いておけばよく、先述したスマホバッテリー問題も解決できるわけだ(電池持ちも非常に良いので充電がたまにでいいというのも嬉しい)。

まだ始めて間もないゲームのためにわざわざ6千円くらいするデバイスを購入すべきか迷ったが、健康的生活には初期投資が必要という考え方もある…。逆に6千円も出したら「続けなきゃ損」って気分にもなるだろ…と判断し、思い切って買うことにした。そして評判通りというか、ああ買ってよかったなという感想だ。というかさっきも言ったが「起きてすぐ家を出なきゃいけない(充電の時間がない)」かつ「寝ながらスマホを充電できない(orバッテリー寿命が心配なのでしたくない)」という人には必須級アイテムと言わざるをえないと思う。そうでなければ別に不要かもだが。

あえてデメリットを言えば、まぁやっぱ6千円もするのと、スイッチを押すとピカチュウの声(は別にいいけど)とともに妙に派手にボタンがビカーーッと光ったり、たまに謎に白い光を発して震える現象があったり、ディスプレイとかはないためちゃんと計測できてるか心配になったり、なんか微妙にクセのあるデバイスなので、もう少しシンプルかつ安価な機械で代用できないんだろうか…とは思ってしまうが…。少なくともポケスリとApple Watch(持ってないけど)との連携とかは普通にできてほしい。

とはいえ特に問題もなく、毎晩「Pokémon GO Plus +」を便利に使わせてもらっているし、大目標である早寝早起き生活の達成に大いに役立っているといえる。ただ最初に6千円も払ってしまったので、逆にゲーム本編ではしばらくは一銭たりとも払わず無課金でがんばる心構えである…。しぶいユーザーですまない。

 

1ヶ月たちました

そんなわけで課金アイテム(物理)の「Pokémon GO Plus +」も駆使しつつ、なんだかんだ1ヶ月にわたって睡眠計測とポケモン調査&育成を続けたわけだが…

結論から言って、あれほど難しいと思っていた夢の「早寝早起き」生活があっさり実現してしまい、我ながらびっくりしている。おおむね0時台(早ければ23時台)に就寝、7〜8時台に起床…という、「こういう規則正しい生活が送りたいなあ(送れたら苦労しないけど)」とぼんやり考えていた理想の早寝早起きが、1ヶ月以上にわたって実行できていることは、私にとっては実に驚くべきことなのだ…。

毎週、その週の睡眠リズムがどうだったかを「総合評価」してもらえるのだが、現時点では毎回「S」評価をもらえている。どういう基準なんだろうと思ったが、ミッドスリープタイムというのが重要らしい。

あと地味に規則性だけでなく、睡眠時間も長くなっていて、日中に眠いとかダルいとか思うことが減った気もする。これはシンプルに「寝れば寝るほどスコアが高くなる」というゲーム性に引っ張られた部分が大きいかもしれない。まぁ健康になるに越したことはないので素晴らしいことだ。

いつまでもダラダラ実現できなかった「早寝早起き」生活をこうもあっさり実現できた過程に、ポケモンスリープが果たしてくれた役割とは、その秘密とは何なのか、考えてみると…。

まず地味だが、最初に設定した「ねむりの約束」がけっこう有効に機能していることが大きいと思う。約束とはいえ、別に好き勝手に変えられる「目標時間」であって、ボーナスもごくささやかなものだし、破ってもこれといってペナルティがあるわけでもない(ボーナスがもらえないくらい)ので、たいした拘束力があるわけでもないが、一応自分で設定し、守るとちょっと褒めてもらえるということで、「何時までにはベッドに入ろう」という意識が働き始める。それがひとたび数日〜1週間くらい続いてしまえば、あとはその習慣を破るほうが気が引けるようになってくる。「就寝」の時間さえ一定になってしまえば、眠る時間自体はタカが知れているので、自然と「早起き」生活にもなるというわけだ。

要は「習慣づくり」というだけの話なのだが、習慣を作るのにゲームがこれほど有効に機能するとは…と、ゲームのパワーを改めて認識させられる結果となった。別にそのゲームで得られる報酬も(当然だが)お金が儲かるとかそんな物理的な「報酬」でもなく、ゲーム内のごくささやかな達成なのだが、それでも現実の行動を変えることにこれほどの効果を及ぼすことに驚かされる。

さすが天下のポケモンコンテンツというべきか、ゲームそのものが何気によくできているというのも大きいだろう。

「とりあえず眠りを計測する」「ひとまず目標の就寝時間を決める」という非常に低いハードルから始めて、少しずつ報酬を与えて成功体験を積み重ねつつ、だんだんできることを拡張していき(ポケモンの数や料理の種類が増えるなど)、ときには欠乏感も感じさせながら(もっと鍋の容量が増えたらいいのに!など)、「次にできること」のハードルをおのずから乗り越えさせていく…(図鑑を増やしてアップグレードしよう!など)という、正のフィードバックループ的なサイクルを生み出す。これはゼルダやピクミンなどとも共通する基本的な流れなので、本作「ポケモンスリープ」もまさに任天堂的なメソッドで作られたゲームといえるだろう。それを「睡眠」「ポケモン」を組み合わせて試みたことが画期的なのだ。

もちろん本作はあくまで「睡眠」をメインの目標に据えたスマホゲームなので、たとえばポケモンの収集や育成に関しては、本家ポケモンには及ばない…と思いきや、個人的にはむしろ本家ポケモンよりも手応えを感じさせる作りになっている、とすら感じる。最近の本家ポケモンは(最新作のスカーレット/バイオレットも)、子どもを含めてより万人がスムーズに楽しめる作りを目指していることもあり、普通にポケモンを捕獲・育成して攻略するだけなら(初代や金銀とか初期に比べれば)かなり簡単なゲームになっていると思う。基本的には(最初にもらえる御三家など)強いポケモンと、補助的なポケモンを集中的に育てていけば、けっこう力技でクリアできてしまう。普通に戦っていればレベルもバンバン上がるので、気づいたらもう進化してた、みたいなことも多い。捕獲に関しても、このポケモンさえいればけっこう大丈夫、という便利な捕獲要因が毎回いたりするので、あとは物量と根気でなんとかなってしまうことも多い。

一方で本作ポケモンスリープは、そうした「力技」が通用しにくい。なんといっても、「睡眠」という現実世界の肉体的な行動を毎日実行しなければ、何もできないゲームなのだから…。

育成の条件にしても、実は本作はかなり厳しい…というか「シブい」。しょっぱいと言ってもいい。ポケモンのレベルアップや進化に必要な経験値にしてもアメにしても、ポケモンの捕獲(ではなく本作では餌付けなのだが)に必要なエサにしても、カビゴンを育てるためのエナジーや料理の食材にしても、ラクで効率のいい稼ぎ方というものは基本的に存在せず、(リアルマネーを払わないとすれば)基本的には毎日「寝る」ことでしか稼げない。言い換えれば、とにかく何事にも「時間」を必要とするゲームなのだ。

しかしそれが、ポケモンの育成や収集に、ふしぎな満足感と達成感を与えている。眠った時間にあわせて経験値や道具が充実していくわけなので、要はこちらが健康になるほど、ポケモンも強くなったり増えたりする。ポケモンが良い感じに成長してくれることは、こちらの現実生活が具体的に改善したことの証でもあるので、立派に育ってくれた喜びもひとしおというわけだ。

こうした「現実の人間の状態」と「ゲーム内のステータス」が噛み合って成長していくという様は、たとえば『リング・フィット・アドベンチャー』などでも実感できるものだった。ただしあちらはまだ「体育」という行動自体に一定のゲーム性があるものだったが、本作ポケモンスリープは「睡眠」という文字通り何の活動性もない行動を「ゲーム化」しているわけだから恐れ入ってしまう。

「本来はゲーム性のない行動をゲーム化する」ことは「ゲーミフィケーション」と呼ばれており、すでにさまざまな場所で活用されていて、『スーパーベターになろう!』などでも突き詰めて語られている↓。ゲーミフィケーションの可能性を広げる意味で、また驚くべき成功例が現れたと言ってよさそうだ。

 

2023年は(映画やアニメも凄かったが)ゲームは特に大豊作の年であり、大作からインディー系まで様々な良作ゲームをプレイした。だが「現実」にこれほど影響を及ぼしたゲームは本作『ポケモンスリープ』の他にない。「早寝早起き」という、他人から見ればごくささやかだが、私にとっては困難だった習慣を見事に導入してくれたという意味では、ポケスリは「今年最も人生を変えたゲーム」であるといっても過言ではない。

いや、正確には『ポケモンスリープ』が変えてくれたのではなく、私が頑張って自分で変えたのだ、という言い方をあえてすべきかもしれない。睡眠習慣のように、たとえささやかなことであっても、人生を変える力は、すでに私の中にあった。そしてゲームはその力を解き放つ可能性を秘めているということだ。ポケモンスリープに限らず、人の生を良くするためにゲームにどんなことができるのか、ゲーム好きとして今後も目が離せない。

まぁこんなイイ感じのことを言ってても、そのうちたまたま継続が途切れたりとか、意外とすぐ飽きてやめちゃって、遅寝遅置きサイクルに再突入…みたいな未来も十分考えられるし(現にリングフィットアドベンチャーは途中で止めちゃったし…)、それはそれで人間だね…としか言いようがない。いつもいつでもうまくゆくなんて保証はどこにもない、というわけだ。なので完全に習慣化できるまでは、少なくとも来年もまた「早寝早起き」を新年の抱負に据えねばならないと思う。しかし今度は「※まぁ無理だろうけどね…」とは思わない。行動を変え、習慣を変え、運命を変える力は、すでに私の中にあると、いつでもいつも本気で生きてる(※寝てる)ポケモンたちが教えてくれたのだから…。

 

ーーーおわりーーー

 

ちなみに『ポケモンスリープ』の監修をつとめている柳沢正史先生は睡眠の専門家で、覚醒と眠気に影響する脳内物質「オレキシン」を見つけた人としても知られる(リアル「ねむけパワー」発見者というべきか…)。↓の公式ページで色々な睡眠豆知識ものっていて興味深かった。

www.pokemonsleep.net

柳沢先生の監修したニュートンの図解本とかも出ているので、あわせて読みたい。

ちなみによく紹介してるブルーバックスの鉄板本『睡眠の科学』の著者である櫻井先生と、柳沢先生との共同研究でオレキシンの発見に至ったとのこと。

 

なお、現在ホリデーイベントというのが開催していて、クリスマスっぽくて結構楽しいので始めるにもオススメなタイミングである。みんなも寝ようぜ〜

↓クリスマスめいた雪景色の中、朝からカツカレーを頬張るカビゴン。睡眠はともかく食生活はめちゃくちゃだなお前…(私が作ってるんだが…)

良い子がカビゴンを参考にしないよう、健康な食生活をゲーム化する「ポケモンイート」も開発するべきかもしれない。