- というわけで、映画『百日紅(さるすべり) 〜Miss HOKUSAI〜』をみてきた。TOHOシネマズ日本橋、1100円。
- やはりというか、まあ予想はしていたけど、大傑作でした。日本に住んでいる人類も住んでない人類も全員みたらいいんじゃないでしょうか。現時点の2015年ベスト1位でございます。見ている間、ずっと幸せでした。
- いちおう軽く説明すると(昨日もしたけど)、葛飾北斎の娘である浮世絵師・お栄を主人公にした江戸物語。杉浦日向子の漫画が原作で、クレヨンしんちゃんの『オトナ帝国』などで有名な原恵一という監督がこのたびアニメ化。
- いちばんの見所は、「江戸」というひとつの世界そのものでしょう。光、影、色彩、空気、音、人、そして化け物たち。ひとつひとつの要素をていねいに徹底的に描写することで、繊細かつ巨大な世界が目の前に立ち上がる。圧巻。
- ただ、原恵一作品ということで『オトナ帝国』みたいないわゆる「泣ける」感じを期待していくと、ちょっと「アレ?」と思うかもしれない。「大感動作!」という種類の映画ではないです。まずはとにかく、手で触れられるほどの圧倒的な「世界」を味わい尽くすべき作品。
- 何より最初に杉浦日向子の伝説的な原作マンガがあって、それに対するリスペクトという要素が今回は大きい。ゆえに原監督、「泣かせ」方面の作家性はだいぶ抑えているのではないでしょうか。というかなるべく「泣かせない」ようにさえしていると思う。(グッとくる場面はいっぱいあったけど)
- 原監督が本気を出せば、観客の涙腺を破壊することなど造作もないことだろうに、それをしなかった。そこに矜持を感じる。
- たとえば終盤、ある人物がああいうことになる(なんのこっちゃ)。まあ要は悲しい出来事があるのだが、その描き方が今の邦画ではちょっとありえないくらいにアッサリとしている。そして、そこからバサッと映画が終わる。
- もちろん、原作のタッチがアッサリしているからといえばその通りなのだが、それにしたってこの切れ味、なかなか出せるものじゃない。もっと「泣かせ」にかかって、盛り上げて、すべてを台無しにしてしまうことがいかにたやすいか。下手に実写化とかされていたらとかどうなっていたことか。(…ありえない話じゃないのが怖いな。『戦国大合戦』→『BALLAD 名もなき恋のうた』の例もあるしな。『FOREVER 名もなき江戸の花』とかいったりして。絶対に…やめてほしい。)
- 何かおかしな方向に行きそうなのでこの話はやめるが、とにかく、原恵一だから可能となったアニメ化だということは、間違いないだろう。そして、漫画のアニメ化としては、これ以上ないくらい完璧な出来栄えだったと思う。
- 原作をとことんリスペクトし、魅力を最大限に引き出し、でもその上で削るところは削り、変えるところは変え、短編集だった原作に軸を通して一本の映画として成立させる。そして最も大事なことだが、アニメにしかできない表現によって独自の世界を作り出す。言葉にするとシンプルだが、よりによって、よりによってあの『百日紅』でこれをできる人が、どれほどいるというのか。
- まあ例によって私は『百日紅』を数回読んだ程度のヌルいファンなので、ガチでコアな『百日紅』原作ファンがこの映画をみてどう思うかは知らない。でも、「こんなの『百日紅』じゃない!」って怒る人は、いないんじゃあないですかね。(いてもいいけど別に)
- いやまあ、「あのエピソードがないじゃん!」っていう小さな残念とかはそりゃあるだろうけど。そこはもう「原作をぜひ読んでね」っていう、作り手たちの明確なメッセージを感じました。「今回お見せしたのはごく一部だけど、面白いでしょ? 原作、読みたくなったでしょ?」って。
- とにかく本当に良い映画が観れて、よかった。こういう映画が観たくて生きている。今日は映画を見て帰ってきて急いで絵も描いて、そのうえ長文になってしまったのでここまでにします。くたびれがう。内容について全然語れていないのでまた色々書こう…。