沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

映画『バクマン。』観た。

  • 映画『バクマン。』観ました。TOHOシネマズ日本橋、1100円。
  • ジャンプで連載していた同名のマンガ『バクマン。』の実写映画化ですね。高校生二人がマンガを描いて、週刊少年ジャンプでのし上がっていく、みたいな景気のいい話です。監督は『モテキ』『恋の渦』の大根仁で、主演は神木隆之介佐藤健。この二人がW主演で、それぞれシュージン(原作担当)とサイコー(作画担当)を演じてます。
  • ただ、わりとあちこちで「キャスティング、逆じゃね…?」と囁かれているようですね。たしかに原作のヴィジュアルを考えると、小柄なサイコーを神木くん、背の高いシュージンを佐藤くんが演じるほうが、イメージ的には合っている気がします。でも、結果としてはこれでよかったんじゃないですかね。神木くんのシュージン、素晴らしかったですよ。ひょうひょうとしていて、キュートで、何より嫌味がない。ここ最近ジャンプに載ってた『バクマン。』の読み切りを読んで、つくづく「シュージン、嫌な野郎だな〜〜」と思ったこともあり、あのシュージンを「嫌味なく」演じられるなんて、神木くんはつくづく凄いなと思いました。
  • そんで逆に、サイコーが佐藤くんだったのも、だいぶこの作品を救っていたと思う。だってサイコーって、小畑絵の美麗さにごまかされがちだけど、授業中にクラスの好きな女子の絵をノートに描いてるような奴なんですよ。……キモくないですか(直球)。最近の読み切りでもこのノートの件が、さも「うるわしき青春の1ページ」みたいに描かれていたけど、このポイントを「青春よのう」と感じるか「普通にキモい」と感じるかで、たぶん『バクマン。』にノレるかノレないかが分かれると思うんですよね。私はノレなかったクチです。別にキモいのは全然いいけど、それをキラキラしたものとして描写するっていうセンスがもう、「かんべんしてくれよ」って感じでした。
  • でもそんな気持ち悪さも、さすがに佐藤健レベルのイケメンが演じると大幅に軽減されるものなんですね。仮に神木くんがサイコーだったら確かにイメージ通りだけど、まだまだキツかったと思うので(『桐島』の主人公のイメージも抜けてないし)、このキャスティングで正解だったのでしょう。原作苦手な私でも楽しく見られたのは、何をおいてもこの二人のおかげだと思います。
  • お話的に一番面白かったのは、編集室の幹部だけが参加できる超重要な「編集会議」の様子ですね。喧々諤々で「アリ」か「ナシ」かを決めるっていう。ただ、この編集会議の様子はさすがに集英社のトップシークレットのようで、取材は入れられなかったらしいけど。こういうのを見ると「新連載をあんまり心なくディスったりするのはよそう…」とか思いますね…。
  • ちょいちょい挟まれるジャンプネタもわりと面白かったです。噂の「コミック背表紙」エンドロールなんて、その最たるものですし。途中漫画家たちが車座になって語るシーンで、「コアなジャンプ好きが集まってする話が『スラムダンク』かよ〜、もっと色々あるだろ」とか思ったんですけど、ちゃんとした伏線だったとは! ラストの「バシーン」とか、主人公コンビの連載漫画の行く末を語るモノローグとか、単なるパロディの域を超えて「ジャンプ映画」の着地としても気が利いているし、上手いな〜と思いました。
  • あと、予告編にも使われていた「漫画バトル」も楽しかったです。「漫画を描く」という地味な作業が、みごとに映画映えしていました。スタイリッシュ。ライダーやるろ剣の佐藤くんはもちろんですが、神木くんも染谷将太くんもちゃんとアクションができる人たちなのだなあ。
  • そうそう、染谷くんも良かったですね〜。ライバルキャラ、新妻エイジを怪演していました。最近の染谷くんは『WOOD JOB!』といい『寄生獣』といい普通に「主人公!」みたいな役ばっかりでしたが、こういう「曲者キャラ」がやっぱり映えますね。原作よりも陰湿なネチっこい感じになっていましたが、「キモい」感じはせず、実力者っぽかったです。
  • あと、編集部の服部を演じた山田孝之もベリーグッドでした!最初のやる気ない&手厳しい感じも「立ちはだかる無関心という名の壁」って感じですごく良かったし、だんだん誠実さと熱さをあらわにしていく演技も本当に上手い。つくづく良い役者さん。リリー・フランキーの編集長も、桐谷健太や新井浩文をはじめとした漫画家のライバル勢も、俳優陣はみんな良かったです。
  • ただまぁ確かに総じて面白かったんだけど、やっぱりそこまで「好き」にはなれないかな〜という感じですね。これはもう、原作が合わないという時点でしょうがないのかもしれない。そこをひっくり返してくれるほどではなかった。
  • アラやツッコミどころも多々あるけど、それ以前に、「ジャンプ的な価値観」をまったく乗り越えられていないというのは、映画としてはどうなんだろう。なんか少し匂わせるだけでもいいから、「ジャンプっぽい漫画だけが漫画ではないよな」「ジャンプで成功するだけが漫画家の道じゃないよな」っていう視点が欲しかった(実際その通りだろうし)。せっかくメディアを変えているのに、ジャンプという文化に対する「批評」が全く感じられなくて、そこが一番つまんないと感じた点でした。結局「ジャンプ万歳」かよ…みたいな。
  • いや、「漫画家の労働問題」みたいなのはあったけど、あれはいくらなんでもリアリティが無さすぎるでしょう。全員が突っ込むことだろうけど、なんで誰もアシスタントを雇ってないのよ。そりゃぶっ倒れるし血尿も出すわ。ああいうのは自己批判のふりをしてるだけで、批評とは呼べないですよ。ただの目くらまし。その「労働問題」も結局「友情・努力・勝利」で解決しちゃうとか、「ハァ…?」って感じでしたね。
  • 本作のクライマックスは、日本橋ヨヲコの傑作『G戦場ヘヴンズドア』とよく似た構図になっていて、まあ熱いといえば熱いんですが、先ほどのアシスタント問題といい、この展開のためにリアリティを犠牲にしたのが丸見えで、個人的には全然ノレませんでした。それでアンケートの結果に一喜一憂されても、「よかったね、お幸せに」って感じでしたね…。もちろんその後の帰結は、先述した伏線の使い方といい、映画としてはよくまとまっていたんですけど。
  • これは原作の問題でもあるけど、全体を通じて漫画が「武器」であり「道具」なんですよね。社会的な成功を収めるための手段にすぎないというか…。もちろん私の愛する『ジョジョ』だってそういう苛烈な競争の中から生まれたわけで、そのこと自体を否定するのはおかしいけど…。でも、そこまで堂々とその「アンケート至上主義」的な価値観を肯定されても挨拶に困ってしまうジョジョなんて一時期アンケートまったくとれてなくて打ち切られかけてたわけだし…。うーん。もし次回作があったら、ぜひその辺に果敢に突っ込んでほしい気もする。
  • …などと色々めんどくさいことを考えたせいで、また無意味に長くなってしまったので終わります。ヒロインのアレな扱い(嫌いじゃないけど)についてとか、色々語りたかったんですが。でもジャンプ好きとしては総じて楽しめましたよ。「漫画の実写化」としては相当イイ部類に入ると思うので、少なくともジャンプ好きなら覗いてみては。では。