沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

『私たちのハァハァ』観た。

  • 映画『私たちのハァハァ』観ました。テアトル新宿、1100円。観たのは先週の金曜ですが…。なんだかんだ後回しになっちゃいました。タイトルはいかがわしいにもほどがある感じですが、その実体は愉快で爽やかで瑞々しい、そして痛々しい青春ドラマでした。
  • 北九州に住んでいる女子高生の4人組が、実在する人気ロックバンド「クリープハイプ」のライブを観たいがばっかりに、1000km離れた東京まで自転車で行こうとするお話です。この「クリープハイプ」、私は映画『百円の恋』のテーマ曲くらいでしか聞いた事なかったんだけど、ずいぶん人気のあるバンドだったんですね。独特のかすれた細い声、たしかに魅力的。
  • 本作が独特なのは、この4人、ひとりを除いて演技経験はまるでなしということ。ちなみにそのひとりというのは主人公の文子を演じる三浦透子さんで、『鈴木先生』とかに出ていたそうです(他にも最近公開されたタナダユキ『ロマンス』の素敵な主題歌を歌っていたと知ってびっくり)。
  • 残りの3人は、女優としての経験はまるでありません(動画とか音楽配信とか、ネットでは活躍しているみたいだけど)。この4人の(当時)現役女子高生が、それぞれ女子高生を演じつつ、キャッキャしながら東京に向かって行き当たりばったりの旅をする様子が、(おもに)手持ちカメラのリアルな映像で映し出される。こう書くとかなり直球のロードムービーなんですが、その行き当たりばったりっぷりが半端なくてですね…。
  • どれくらい行き当たりばったりかというと、「東京まで自転車で行くなんて余裕っしょ!」というYahoo知恵袋のコメントを鵜呑みにして、ほんとに何も考えずに夜中に家出感覚で自転車で出発して、最初は若者特有のハイテンションで「ウッヒョーイ!いくぜ東京!」って感じでひた走って、夜はその辺で野宿したりするんだけど、案の定途中で疲れ果てて、お情けで車に乗せてもらったり、それに味をしめてヒッチハイクをしたり…みたいな、とてつもない感じなんですね。…もうちょい考えとけよ!! お金も全然もってなくて、途中で旅費のためにいかがわしいお店でアルバイトまで始めたり…。そんな次々と襲い来る試練(自業自得)を女子高生たちがときにキャッキャと、ときにダラダラと乗り越えていく過程がなかなか楽しい。
  • 思ったのは、「みんな演技経験ほぼゼロ」という事実が、本作に独特のひねったリアリティを生み出しているんですよね。いちばん最初、教室でカメラを回しながら「出発の誓い」を行うシーンからして顕著だったんだけど、いま邦画で「よし」とされている、いわゆる「リアリティのある演技」とはちょっと違う。楽しそうにはしてるんだけど、若干ぎこちないというか、不自然というか、言わば「つくってる」感じになってて、ちょっと嘘くさい、くらいの塩梅なんですね。多分、まだ彼女たちが演技に不慣れであるというのもその「嘘臭さ」の理由だと思うけど、その「演じてる」感じが、独自の本当っぽさを生んでいる。
  • 実際、女子高生に限らず10代の子って(大人もだけど)まわりに友達がいたらとりあえず楽しそうに振る舞うものだと思うんですよ、たとえ本当に心の底から楽しいわけじゃなくても。彼女たちは出発する前も出発してからもずっと「楽しそう」で、実際「旅だ!楽しい!イヤッホー!」って感じに描かれて、もちろん若い女の子がキャッキャしてる姿なので、見ている方も楽しい。でもその楽しさは、ちょっと無理をしつつ、お互いに気を使いつつ生み出しているものでもある、っていう微妙に居心地悪い感じもまた、ちゃんと伝わってくるんですよね。これ、地味にすごい発明だと思いましたよ。
  • 実際この4人、案の定あとで仲間割れとか始めますからね…。4人のうち1人は、まさか本当に東京まで自転車で行くだなんて全然思っていなくて、すぐにすごい戸惑いだしたりとか。最初こそみんな「クリープハイプ最高ーーー!」っていうノリなんだけど、その「好き」の度合いにも4人の間でムラがあることがわかってきたり。
  • 中盤のクライマックスで、4人がついに大げんかをしてしまうところがあるんですけど、不謹慎ながらスゴイ面白かったです。これまでのリアル志向が実を結んで、本当に女子高生が目の前で惨憺たる喧嘩をしているようにしか見えなかった。好きなバンドのTwitterをフォローするだのしないだの、コメントを送るだの送らないだの、喧嘩の内容自体は本当にしょうもないことなんですが、どこか普遍的な辛さがあって、音楽に限らず「何かのファン」である人なら「ううっ…」と共感できてしまう場面なのではないでしょうか。
  • その後の、バスの中でのLINEでの会話&仲直りシーンも素晴らしくて、本作の白眉だったと思う(タイトルの由来もちょっとわかります)。あれだけ大げんかしておいて、なんとな〜く無し崩し的に仲直りしちゃう展開も、これまでのいい加減な旅を考えると妙にリアルでもあり、同時にグッとくるところでもありました。
  • 最近のアニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』の中でも、LINEっぽいものが効果的に用いられてましたが、こういう「ネット上の会話をリアリティをもって描ける」という技術が、現代の若者を描いた作品にとって、必須条件になっていくのかもしれません。「2ちゃんねる」の書き込みとかってよく映画とかでも見かけたけど、たいていリアリティがなくって白けちゃうんですが、最近はこういう「ネットでの会話」の再現の精度もどんどん上がってるのかもな〜。要注目。
  • ラストには、ライブ会場であるびっくりするような出来事が起こるんですが、これ、リアルにお客さんには何も知らせずに撮ったのね…。そりゃびっくりするわ。なかなか大胆なことしますね。
  • とりあえず、こんな感じでしょうか。3連チャンのハシゴの最後で、夜遅くにかなり疲れた状態で見たんですが、本作のテンションにはけっこう合っていた気がする。タイトルは実にアレですが(しつこい)、決していかがわしい映画ではなく、「好きなものがある」ということの痛みと熱さに対する賛歌のような作品ですので、女子高生に騙されたと思ってご覧になってみては。ではこの辺で。