沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

『クリムゾン・ピーク』感想

  • 昨日観た映画『クリムゾン・ピーク』の感想を(半端ですが)書いておこうと思います。TOHOシネマズシャンテ、1400円。色々ツッコミどころはあるものの、美麗な映画だと思いましたよ。
  • ロボットvs怪獣の激戦を描いて日本の映画ファンにも大絶賛された『パシフィック・リム』や、奇妙で哀切なファンタジー世界を構築した『パンズ・ラビリンス』等を手がけた、みんな大好きギレルモ・デル・トロ監督の最新作です。
  • 「パシリム」も「パンズ」もどちらも大変面白い作品ですが、個人的にデル・トロ監督で一番好きなのは『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』ですね。アメコミ原作映画『ヘルボーイ』の続編なんですが、前作より桁違いに面白くなっていてびっくりした覚えがあります。レンタル屋さんにあるはずなので探してみてね(前作は見なくていい気もする)。
  • そんなこんなで私ももちろんデル・トロ大好き人間なんですが、彼が「本気のゴシック・ホラーを撮る」という噂を聞いて以来、ずっと日本公開を楽しみに待っていました。デル・トロ監督といえば超が100個つくほどのエクストリームなオタクとして有名ですが、怪獣や特撮やアメコミだけでなく、いわゆる幻想文学的なジャンルにも深く精通しているんですよね。
  • 特に『パンズ・ラビリンス』はその幻想趣味の結晶のような傑作で、ホラー的な要素もかなり色濃かった。そうした素晴らしい趣味を持つデル・トロがガチのゴシック・ホラー、それもど直球ど真ん中の幽霊屋敷モノを撮るとなったら、それは期待しないほうが無理というものです。
  • ただですね…。この『クリムゾン・ピーク』、すでにいろんな媒体で言われていることですが、いざ蓋を開けてみると(おそらく多くの人が期待していたであろう)いわゆる「ゴシック・ホラー」とはかなり違っていたといいますか…。そもそも「ホラー」かどうかすら怪しい、という映画でしたね。だから悪いというわけでは全然ないのですが…。
  • ざっくりあらすじを言っておくと、小説家志望の少女イーディス(ミワ・ワシコウスカ)が、トム・ヒドルストン演じる准男爵トーマスと出会って恋に落ちてなんだかんだあった末に結婚し、意地悪な義姉ルシール(ジェシカ・チャスティン)と一緒に、人里離れた古くて不気味な館で暮らすことになります。こうして筋書きだけ見るとゴシック・ホラーど真ん中なんですけどね…。
  • それはさておき、この館の描写が、もう圧倒的に素晴らしい。「映画という世界を構築すること」に対するデル・トロの偏執的なまでの情熱の前に、ただひれ伏すしかありません。監督が隅から隅まで徹底的に意匠を凝らした成果を、大スクリーンで目の当たりにすることができる、至福のひと時を味わうことができました。…というかデル・トロの自宅(通称「荒涼館」)がそもそもこんな感じなんですよね、たしか。「映画っていうか単なるお前ん家じゃねーか!」とか、理不尽なツッコミを入れたくなります…。
  • イーディスが玄関に足を踏み入れた瞬間に、ガランとした館のロビーが映し出されるわけですが、壊れて空いた屋根の穴から雪が舞い込んでくる絵面とか、もう「美しい」の一言でしたね。心の底からウットリします。
  • その後イーディスが、館に隠された秘密を探るために夜な夜な館をウロウロするんですが、そんな秘密なんてどうでもよくなってくるほど館の造形が素晴らしくてですね…。もう謎なんて永遠に解けなくていいから延々とイーディスに館をウロウロしていてほしい…と思うくらいです(失礼)。視覚的な喜びという面ではもう、大満足でしたね。この「館」のビジュアルを大画面で堪能できたという意味でも、映画館に足を運ぶ価値はあったと思います。
  • ただ、館にたどり着くまでが意外とモタモタしてるんですよね。前半の1時間くらいかけて、イーディスとトーマスがどういう風に結ばれるのか、みたいな顛末が相当じっくりと描かれるのです。
  • もちろんそこはデル・トロ監督だけあって、決して観客を退屈させることはないのですが、この事実だけをもってしても、本作がガチの「ホラー」として作られたわけではないことは明白だな〜と思います。恐怖を期待して見に行くと、おそらく肩透かしを食らうでしょう。
  • 幽霊も出るし、その外見もキッチリ作りこまれてておどろおどろしいんですけど、いまひとつ怖く感じられないんですよね。どのお化けも敵意があるわけではなく「主人公にヒントを提示する」的な存在なので、あんまり恐がる気になれないというのもあるんですが、「見せ方」が妙にぎこちないというか…。
  • 特に「見せる順番」に関しては思うところが多かったです。誰もいない空間からボールがコロコロ転がってくる場面とかも、ホラー演出としてはすごくいいシーンのはずなのに、すでに直前に「化け物」を堂々と見せちゃってるから、「今更ボールなんて転がってきてもな〜」って感じちゃうんですよね。最近の映画だと、演出面ではどうしても『イット・フォローズ』の鮮烈さと比べてしまいます。
  • 前半部にもけっこう痛い暴力シーンがあったりして、緊張感が途切れることはないのですが、そういう「ショッキングな」場面が館にたどり着く前に起こっちゃうものだから、館が外の世界に比べてとても怖い場所だ、みたいにイマイチ思えなくて…。ああいう事件こそ「館の中」で起こるべきなんじゃないの…? 恐怖の演出としては、ちょっともったいないと感じるところは多かったです。
  • とはいえ前述のように、そもそも本作は「ホラー」ではない、ということなのでしょう。ゴシック・ラブストーリーというか、ゴシック・ミステリーというか、なんと呼ぶべきかはわかりませんが、とにかく「ホラー以外」を期待して行けば「意外と怖かった…」とお得な気持ちになれるのかもしれません。
  • 明日が早いので今日は半端なところで切り上げますが、また追記するかもです。1p漫画も描いているので、完成した際にでも…。ホント、観るとお絵描きしたくなる美しい映画なのは確かなんですよね。寒い冬に見るにもぴったりだし、「真冬のホラー」としてもオススメです(だからホラーじゃないのでは…)。それではまた。