沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

『オデッセイ』感想

  • リドリー・スコット監督の映画『オデッセイ』の感想です。TOHOシネマズ日本橋、0円(6p鑑賞)。
  • 結論から言って、前評判の高さを裏切らない、知性と楽観性に貫かれた大変に面白い作品でした。すでに多くの人が絶賛している映画ですし、今更あんまり私が説明することもないかな〜という気持ちなので、適当な感じで良かったところを箇条書きにしてみようと思います。
  • その前に一応ざっくりあらすじを言っておくと、宇宙飛行士のマーク(マット・デイモン)という男が火星に置いてきぼりにされちゃって、次の助けがくる(と思われる)4年後まで、めちゃくちゃ限られた条件で生きなきゃいけなくなっちゃった!というお話です。ホーム・アローンならぬマーズ・アローンですね(うまくない)。
  • しかし予告編の悲壮で重厚な雰囲気とは裏腹に、実際の作品はかなりポップなノリです。音楽の使い方も(そのまんまといえばそのまんまですが)たいへん面白く、一種のミュージカル映画としても楽しめます。
  • ちなみに原作は読み途中ですが、こっちもすごく面白い。科学的な描写がかなり詳しいので一見とっつきにくさもありますが、文体はブログの日記のように砕けた口調ですし、ユーモアにもキレがあって、笑ったりハラハラしたりしながらスイスイ読めます。これから未読だった後半部を読もう…。
  • この前ちょっと書きましたが、個人的にすごくテンションの上がったシーンがありまして…。火星と地球との唯一の通信手段として、旧式のカメラが見つかるんですね。火星の映像を地球に送れるカメラなんですが、いかんせんただの送信機なので、地球からのメッセージは何も受け取ることができない。
  • 「YES」と「NO」の立て札にカメラの首を振らせることで、二択の質問には地球からでも答えられるんですが、火星で生きていくためにはどうしたってもっと詳しい情報が要る。しかしこのままでは地球から意味のある文章は送れない。このカメラだけでどうやって、火星と地球の間で意思疎通をはかるのか…?
  • 引っ張ることでもないのでネタばれしちゃいますが、答えは「カメラの首振り角度を基準にした新しい言語を生み出す」です。16進法を用いることで、カメラの動きを数学的なプロセスを経てアルファベットに対応させていく。カメラが首を振った角度や回数を「記号」化した結果、地球から火星に「言語」を送ることが可能になるんですね。この試行錯誤の部分が(短いながらも)非常にグッときました。
  • 本作は『オデッセイ』なんて妙なタイトルになってはいますが、原題は「The Martian(火星の人)」です。「火星のアメリカ人」と訳すのが一番適切なのでは、という意見を読み、私も「それだ!」と思いました。火星なんていう、地球の常識がまったく通用しない極限状態でも、人間は科学的な「知識」を武器に様々なものを生み出して乗り越えていくことができる。合理性を良しとするアメリカ人スピリットの極みというか、普遍的な人間の「知性」というものに対して深い信頼を置いたお話なわけです。
  • その精神性をもっとも象徴する場面は、マークが化学と植物学の知識を駆使し、わずかな種芋と土と肥料から「じゃがいも」を作り出すシーンなのでしょう。その一方で、このカメラと数学を用いた「言語」という概念もまた、マークが知識をもとに1から作り上げたものですよね。「食料」から「概念」まで、いざとなれば人間は1から生み出して、困難を乗り越えることができるんだぜ!…という、まさに「火星のアメリカ人」というタイトルにふさわしい力強さを感じました。
  • 「じゃがいも」という何てことのない食べ物が、1から作るとなるといかに大変かが本作を見るとよくわかります(鑑賞後にじゃがいも食べたい!という人が多い)。それと同じように、「言語」の役割や成り立ちにも光が当てられたような気がするんですよね。この世に(私含め)一定数いると思われる「言語好き」な人たちも、この場面にはグッときたんじゃないでしょうか。
  • あと途中に出てくるNASAの研究員の、いかにも「ギーク(超オタク)」という雰囲気の若者が好きでした。明らかに社会不適合者っぽい感じで、上司が「おれはきみのボスなんだぞ!」とシビレを切らすようなフリーダムすぎる生活態度なわけですが、この子が終盤にちゃんと(それも物凄く重要な役回りで)活躍するんですよね。こういう「変人」の肯定的な描かれ方ってあんまり日本の映画とかでは見かけなくて、「いいなぁ」と思わされました。『ベイマックス』でも感じましたが、こうした「ギーク肯定」の感覚が、エンタメで普通に描かれているのが少しうらやましいです。(脱線しますが『ジュラシック・ワールド』の恐竜オタクとかもこういう役回りであってほしかった。)
  • それから『アントマン』で素晴らしい仕事をしたマイケル・ペーニャがまた良い役(マークの仲間の宇宙飛行士)をもらっていましたね…。出番こそあまり多くなかったですが、要所でじんわりくる演技を見せてくれます。親しみをこめて遠く離れたマークをdisる場面とか、たまらないものがありました…。
  • 以上、思いつくことを適当に書いてみましたが、そろそろ眠いので終わります。(序盤にちょっとだけ痛々しいシーンがあることを除けば)誰でも気兼ねなく楽しめる文句無しのエンタメ大作だと思いますので、SF興味ない…という方も、ぜひ大画面で見てみてくださいませ。めっちゃ面白いですので。それではまた。