沼の見える街

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『アーロと少年』感想

  • ピクサーのアニメーション映画『アーロと少年』(原題:The Good Dinosaur)を観てきました。TOHOシネマズ新宿、1100円。
  • 「恐竜が栄えていた時代、もしも隕石が地球に激突しなかったら…?」という「IF(もし)」を描いたファンタジー作品です。つまり恐竜が絶滅しないわけですから、哺乳類に覇権を握られることもなく、そのまま地球の支配者として恐竜が君臨し続けるわけですね。知能もどんどん発達していき、簡単な農業や牧畜業(!)までも営めるようになっています。スゴイ。
  • 主人公は、弱虫でビビリ屋のアパトサウルス・アーロくん。てっきり「少年が恐竜に出会う」という『ヒックとドラゴン』的なお話だと思い込んでいたので、いきなり恐竜視点でドラマが始まった時は「あ、そっちが主役なんだ!」と意表を突かれました。「恐竜が農業」とか聞くと「無理だろ…」とか思っちゃいますが、意外にも合理的に作業をこなしていく描写が楽しい。
  • しかし、農業に精を出しながら暮らしていたアーロとその家族の幸せは、ある日ひょんなことから壊れてしまいます。その傷が癒える間も無く、アーロはとある事故によって、家から遠く離れた見知らぬ土地で迷子になってしまう。そして傍らには、自分たちの幸せを壊す原因となった「少年」がいて、さ〜てどうする?というお話になっています。ちょっと『ライオン・キング』っぽいですね…(野暮なツッコミ)。
  • まず本作最大の見所は何と言っても、数千年前の地球の雄大な自然の美しさです。CGアニメですが、もはや完全に実写っていうか、むしろ実写よりリアルなのでは…と思うくらいの恐るべき臨場感。「水」の表現とか、すでに究極のレベルに達してるんじゃないですかね。(ユーモラスにデフォルメされた恐竜の造形がちょっと浮いちゃうくらいでした…。)とにかくCGによる自然描写、ヘタな自然ドキュメンタリーではすでに太刀打ちできない次元に突入していると思います。
  • すでに色んな方が指摘されてますが、本作は「恐竜」を登場人物に据えた「西部劇」なんですよね。無限に広がる荒野や山や森や空を前に、思わず「ああ…」とため息をつくような感覚は、西部劇におなじみの要素でしょう。途中で出会うあるキャラクターたちが「ヤァ!ヤァ!」と大量の牛を追っかけるシーンなんかは、もうモロに「西部劇!」って感じでしたね。まぁみんな恐竜なんですが…。
  • 往年のディズニーらしさを感じた点は、けっこう怖いシーンが多いことですね。アーロと少年が旅を続けるなかで、様々な恐竜や生き物に遭遇していくわけですが、わりと変というか異常なキャラが多くて、ちょっと『不思議の国のアリス』みたいなニュアンスも感じました。
  • いちばん怖かったのは、何と言っても翼竜「テロダクティル」の皆さんですね…(ちなみにプテラノドンではない)。いっけん気のいいナイスガイズとして登場するので、『ファインディング・ニモ』でいうウミガメたちみたいな役回りなのかな〜とか思ってると、「ギャーーー!!」と叫んでしまうトラウマものの展開が待っています。子ども泣くだろ!!
  • …でもこういう明確に「怖い」シーンがあるのってディズニーの名作群の血筋をちゃんと受け継いでる気がするので、個人的には大歓迎です。「気の狂ったキャラ」が子供向けアニメに出てくると怖いですよね。クライマックスで『ジョーズ』オマージュっぽく再登場するのも実に素敵でした。(「自分の傷を自慢し合う」っていうシーンもあって、こっちも『ジョーズ』のパロディかな。)
  • 他にも面白いと思ったのは、前半でアーロが出会うトリケラトプス的な恐竜ですね(こっちは正確な名前がわからない…)。いろんな鳥をでっかい頭のあちらこちらに止まらせていて、それぞれにおかしな名前をつけています。ユニークなのはこのキャラ、物語上の役割を何も担っていないんですよね。よくわかんないタイミングで登場して、よくわかんないことを言って、よくわかんないまま退場していきます。ユーモラスで可愛いんですが、その「よくわかんなさ」が何ともいえない不気味さを生んでいて味わい深かったです…。
  • でも昔のディズニー作品(それこそ『アリス』とか)を見てると、こういう「物語的な必然性の無さ」が生む不気味な感覚ってわりとあった気がするんですよね。そして意外とそういうキャラの方が「なんだったんだろ、あいつ…」ってずっと覚えてられるような気がします。この独特のディズニーらしさを現代に甦らせてくれたのは嬉しい。
  • そしてアーロの相棒となる少年は基本的に言葉が通じないので、(近年の映画界の大テーマでもある)非言語的なアプローチが楽しめる作品でもあります。言葉に頼らず、絵や動きによって登場人物の感情の揺れ動きや、出来事の移り変わりが表現されていく。『マッドマックスFR』もそうですが、このあたりのテクニックは個人的にとても参考になるのです。
  • 特にグッときたのは、アーロと少年が「家族」という概念を「言葉」を使わずに共有するシーンですね。ラストの伏線にもなっていて、泣かせるだけでなく非常に上手い。間違いなく本作の白眉といえる名場面だったと思います。
  • まぁだからこそ、ラストはああいう結末じゃなくてもよかったんじゃね?って気もするんですが。「こんな数千年も前から恐竜も人間も、どいつもこいつもファミリーファミリー言ってんスか? 伝統的家族観ってヤツはそこまで絶対的なもんなんスかぁ〜?」とかヒネくれたことを言いたくなるというか…。せっかくブッ飛んだ設定なんだし、もう一段「飛躍」があっても良い気はしたな〜。(たぶんその辺の「飛躍」は『ズートピア』が果たしてくれるだろうと期待はしているのですが。)
  • そんな具合に言いたいこともなくはない映画なんですが、基本的には大変クオリティも満足度も高い、よくできた佳品だったと思います。ピクサー好きや恐竜好きはもちろん、西部劇やサスペンスが好きな人にも全力でお勧めできる映画ですので、みんな普通に観たらいいと思いますよ。だってピクサーだし!…まぁ来月公開の『ズートピア』に喰われそうな雰囲気もあって、隕石が落ちようが落ちまいが結局恐竜は動物に喰われる定めなのか…とか不謹慎なことを思わなくもないんですが、ホント応援してます…。では一旦この辺で。