沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

今週の気候ニュース:氷河崩壊が引き起こす地震と土石流の脅威

先週は明るい気候グッドニュースに触れてみたが、今週は再び、ド級の恐ろしいバッドニュースに触れざるをえない。

www.bbc.com

8月26日に発生し、ネパール・中国を襲った土石流のことだ。リンク先で動画も見られるが(BBCの編集で人が飲み込まれる瞬間は映ってないとはいえ)ショッキングなので一応注意してほしい。そこに映っているのは、山から打ち寄せる怒涛の鉄砲水によって、まるで怪獣に壊される特撮作品のセットのように、現実の建物や橋が跡形もなく破壊されていく様子だ。

ネパール観光局は29日、これまでに外国人261人を救出したが、320人がなお行方不明だと発表した。

中国のCCTVは30日、中国側の行方不明者546人のうち、261人は23カ国の外国人だと伝えた。

最新情報だと死者は700人近く、行方不明者も3000人以上の大惨事となった。災害の性質上、亡くなった人を特定することすら簡単ではなさそうな上に、この地域は世界中から人が訪れる土地でもある。日本含め様々な自然災害が続発する東アジアでも、史上屈指の大災害として扱われるのはほぼ確定だろう。

 

ちなみに災害発生時のショッキングな映像は中国では全く放送されていないらしい。そこには中国/チベット間の政治的な事情も絡んでいるようだ。

www.bbc.com

中国共産党は、今回のような惨事が住民の不満をあおりかねないと懸念しているだろう。災害の事後対応への不満、あるいは大災害を未然に防ぐための先見性の欠如に対する不満を、当局は警戒しているはずだ。

また、今回のような悲劇がもたらす影響や、それが住民団結のきっかけになる可能性も、中国政府は恐れているかもしれない。特に、信仰が長く中心的な役割を果たしてきた地域社会においてはなおさらだ。

中国共産党政府は、災害発生直後から救援活動自体は熱心に行っているようだが、BBCの記者が情報収集に苦労するほど、当局の厳しい規制によって、現地のネット上には災害画像も動画もほとんど見つからないという。

逆説的に、「中国政府が放送を許可できないほど甚大かつショッキングな気候災害」だと世間に示す形にはなっているが、情報収集をネットに全く頼れないとなると現地の被災者の苦労は増すばかりだろう。大災害と独裁的な政治体制が組み合わさった時のリスクのひとつと言える(日本も他人事ではないが…)。

 

そして一応は(雲行き怪しいとはいえ)言論の自由が保証されている国の一市民として、やはり強調しておかなければいけないのは、この大災害が気候変動/地球温暖化の影響によって発生した可能性が高い、ということだ。「可能性が高い」というかデータや状況証拠をみる限りほぼ確定じゃねーの、と素人目線では思うが、ここは科学者たちの厳密さ重視の姿勢を見習うとしよう。

 

現時点でわかっていることは、こちらのCNN記事に詳しい。

www.cnn.co.jp

「最も可能性が高い原因」として地滑りが上げられている。注目すべきは以下のポイントだ。

正確な原因の特定には数週間かかるが、巨大な氷河の塊が山からはがれ落ち、峡谷に落下したとみられている。

USGSはその後、揺れは、地震ではなく、この極めて強力な地滑りそのものが引き起こしたもので、その規模はM5.2の地震に相当すると説明した。

つまり、地震が氷河の地滑りを引き起こしたのではなく、地滑りが地震を引き起こしたのだ。

最後の一文はさりげないが、我々一般人の固定観念を揺さぶるような恐るべき内容でもある。まだ気候と結びつきやすい豪雨や台風と違い、地震はさすがに「人知を超えた」天災として扱われることが多いが、科学者の推測通りに人為的な気候変動が氷河の融解と地滑りを引き起こしたなら、その結果としての地震も人災ということになる。

 

ロイターの良いグラフィック記事↓(これも動画や写真がショッキングなので一応注意)

www.reuters.com

「氷河の下部が崩壊→雪崩が谷を下る→地すべりが下流で壊滅的な工事を引き起こす」という流れがよくわかる。

比較の図によって、ブルジュ・ハリファ(ドバイの世界最高の高さのビル)よりも高いというか大きな範囲(1km近く)の氷河が破断したと図示されている。これほどの規模の氷河が崩落したとなれば、地震さえも引き起こす破壊力を持とうというものだ…。

中国政府の地質学者によると、土石流は秒速約50メートルで流れ、20キロ以上にわたって広がった。人が反応できる時間はほとんどなかったという。

記事にもあるように中国・ネパールの国境の両側の湖が決壊してしまえば、被害がさらに拡大していく懸念もある。

ひとたび発生してしまえば「詰み」ともいえる大災害の原因については、繰り返しになるが、こうした専門家の発言を重く受け止めるべきだ。

ニュージーランド地球科学研究所の科学者サイモン・コックス氏は「気候変動は、高山地帯の岩石と氷を不安定化させる状況を生み出している」と述べた。

これにより、今週発生したような崩落や災害の連鎖がより頻繁に起こるようになっているという。

専門家は、気候変動を今回の土石流の単独かつ直接的な原因と表現することには慎重な姿勢を示す一方で、気温の上昇と氷河の融解が今回の災害に影響した可能性が高いとみている。

専門家が「慎重」なのはあくまで、気候変動が土石流の「単独かつ直接的な原因と表現すること」であることであり(これは異常気象の原因が気候変動「だけ」と断言する科学者がいないことにも通じる)、少なくとも気候変動が要因のひとつであることは間違いないだろう。

 

タイムリーなギフト記事を見かけたのでこちらも共有
「山々が崩れ落ちていく」(英語)

https://www.nytimes.com/2026/08/29/opinion/nepal-flood-glacier-melt-climate-change.html?unlocked_article_code=1.9FA.DJL-.eLQ7pmqwJGfd&smid=url-share

これは、寒冷な山岳地帯における新たな、そして方向感覚を失わせる危険の兆候である。氷河と永久凍土の急速な不安定化は、瞬く間に景観全体を変貌させてしまう可能性がある。こうした連鎖的な崩壊を引き起こすプロセスは複雑だが、その背後にあるのは人為的な気候変動である。私たちの化石燃料の燃焼が、世界の最高峰を崩壊させているのだ。

人為的な気候変動、つまり化石燃料を燃やすことが、文字通り「山を動かして」いる。ただし、動かされた山に押しつぶされるのは人々なのだが…。

私たちは山々、特にサンスクリット語で「雪の住処」を意味するヒマラヤ山脈を、固定され、時を超越し、不動で、永遠のものだと考えがちです。しかし、ネパールで起きた災害は、山々が脆弱であることを示す、最新の憂慮すべき兆候です。人類が地球温暖化を進めるスピードは、山々を根底から引き裂いています。

私たちが「人間のスケールを超えた不変の存在」と考える山でさえ、気候変動のスピードの前では脆弱だということ。いわんや、他の自然現象をや…。

 

日本でも今月、千葉県が豪雨に襲われたと思ったら、今度は石川・富山に同じく「レベル5の大雨特別警報」が発令された。

weathernews.jp

氷河の崩壊によって引き起こされた地震と鉄砲水や、1000年に一度クラスの豪雨災害について報じる時、気候変動について全く言及しないのは、街でクマが人を襲っている時に「動物が人を襲っています」とだけ報じるようなものだ。…いや、なんかへんなたとえになってしまったが、なぜか頑なに動物の名前を言わなかったら生理的におかしな感じがするだろう。災害関連のニュースを見ていて受ける違和感はそんな感じだ。

言論の自由を標榜する民主主義国家を名乗る以上、メディアも「大災害が起きました、こわいですね」だけでなく、しっかり原因(確定ではなくても可能性が高い原因)について語る必要がある。そのためには一般人が(こういうブログとかも含めて)日常的に気候変動の話題を増やしていくしかないのかもしれない…。