沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

今週の気候ニュース:大気汚染対策で子どもの肺が驚異の回復

酷暑の九州を震度7が襲う!猛暑で動物園のライオンが死ぬ!千葉を10000年に一度の豪雨が襲う(ついでに昨晩深夜には震度5弱が襲う)!

…という崖っぷちな気候/環境ニュースが3週も続いてしまったが、今週は良いニュースにも目を向けてみよう。www.bbc.com

イギリスで大気汚染規制が導入された地域に住む幼い子どもたちの肺が、驚くほど早く回復し成長し始めたことが、最新の研究で明らかになった。調査チームはこの結果に「衝撃を受けた」と述べている。

「2026年の科学グッドニュース」に堂々ランクインできそうな良いニュースだ。

 

参考:昨年のグッドニュース10選↓

numagasablog.com

気候変動を筆頭に、あらゆる環境問題が激化・深刻化しているように思える昨今だが、ひとつはっきりと明るい傾向がある。それは大都市の大気汚染の改善だ。

 

よくオススメするハナ・リッチーの『これからの地球のつくり方 データで導く「7つの視点」』でも、「最も多くの人の命を奪っている環境問題」にして「最も劇的に改善している環境問題」の筆頭として、第1章で「大気汚染」について論じられている。

まず大前提として、大気汚染がいかにとんでもねぇ激ヤバ環境問題なのかを知ってほしいので、本書の第1章から引用する(数字表記は漢数字から置き換えた)。

WHOのまとめによると、大気汚染により毎年700万人が亡くなっている。420万人は屋外の大気汚染が原因とされ、380万人は屋内で木や炭を燃やすことが原因とされている。もう一つの国際的保健機構である保健指標評価研究所(IHME)もまた、それに近い670万人という数字を発表している。それよりも死者数は多いとする科学者もいる。直近でもっとも引用されている研究では、吸い込む空気が原因で少なくとも900万人が毎年亡くなっていると推定している。

もっと身近な例にあてはめてみると、こうした数字は喫煙による死者数に近い。喫煙による死者はおよそ800万人である。これは交通事故の死者数である130万人の六倍以上にあたる。毎年のテロや戦争の死者数の数百倍になる。大気汚染は新聞の見出しにはのぼらない、静かな殺人者だ。洪水や台風の映像ほどは衝撃的でないものの、近年の自然災害による死者数の合計よりも500倍も多くの命を奪っている。

こうしてデータで見せられると、大気汚染はまさに桁違いの殺意(?)をもつ環境問題といえる(喫煙もヤベーなという印象が強まったが…)。真に恐ろしいのは「地味」という点かもしれない。地震や台風や火災やテロやサメの襲撃は確かに恐ろしいし、ニュースの絵面や字面も派手なので報道されやすいが、「今月も大気汚染で世界の人が50万人も亡くなりました」というニュースを聞いたことがある人は少ないはずだ。実際、そういう計算になるのだが…。

私自身も気候変動を人類社会におけるトップクラスの問題だと考えているが、単純に現在進行形で死んでいる人の数を考えれば、大気汚染こそ確かに真っ先に取り組まなければいけない問題のはずである。人類は何をやっていたのか。

人類「ごめん」  〜完〜

 

…いや、そうではなく、人類は一応(遅ればせながら)やるべきことをやってきた、というのが今週の本題だ。

以下の『これからの地球のつくり方 データで導く「7つの視点」』より引用したグラフと本文を見てみよう。↓

状況は悲惨だ。だがこの本の多くの事例と同じで、これが全体像ではない。大気汚染による死者数はいまだに恐ろしいほど多いが、このデータの中には希望が見える。
大気汚染という人類の悲劇は今がピークらしいということだ。おそらく、大気汚染による死者数はそろそろ頭打ちに近づいている可能性が高い。暗い話に聞こえるかもしれないが、最悪の時期は過ぎ去った。

人類が「大気汚染のピーク」を過ぎたかもしれない、というのはなかなか元気が出る話だ。

こちらはBlueskyで見かけたポストで、さまざまな汚染物質が減少していることを示すグラフ。

Bit of good news for your weekday: our species has probably passed "peak pollution" based on data from Our World in Data, so don't listen to all the (dubiously funded) doom merchants. Heck, moving to renewable energy and electric transport will be worth it for the clean air alone.

Gavin Shoebridge (@kiwiev.bsky.social) 2025-01-30T18:46:42.910Z

bsky.app

ほとんどの汚染物質の量が近年、ピークをすぎて減少に向かっている(農業で生じるアンモニアだけは例外のようだが)。

 

ハナ・リッチーは『これからの地球のつくり方』で以下のように語っている。

すでに書いたが、大気汚染の解決策はひとつの基本的な原則に従っている。それは、これ以上ものを燃やさないということだ。私たちはものを燃やさずにエネルギーを生産する方法を見つけなければならない。あるいは、安全に微粒子を捉えて絶対に大気中に排出しないことだ。多くの国はこの段階から遠くない。最貧国は遅れているが、燃やす対象を変えてエネルギーにすることで、かなりのところまで達している。

「ものを燃やさない」は、気候変動対策の一丁目一番地ともいえる「温室効果ガスの排出削減」とほぼ同じ「原則」である。化石燃料の燃焼を止めて再生可能エネルギーに移行したり、ガソリン車から電気自動車に移行したり、調理器具や暖房器具を電化したりすることは、気候変動対策になると同時に、大気汚染の改善にも繋がるというわけだ。

 

というわけで、冒頭で紹介したニュースに戻ろう。

www.bbc.com

今回の研究では(気候対策にも関連する)排ガス規制によって大気を浄化することで、子どもの肺機能が劇的に改善したことが示されている。

BBC記事よりグラフを引用↓

今回の研究には関与していない英レスター大学のアナ・ハンセル教授は、子どもたちの肺機能の改善は「生涯にわたる健康上の恩恵をもたらす可能性が高い」と述べた。

世界の都市で暮らす10億人以上の子どもにとって朗報であり、環境/気候対策を推し進めることの直接的かつ具体的なメリットでもある。

 

関連ニュースとして今年、ロンドン、サンフランシスコ、北京など世界の19都市で、大気汚染の「著しい減少」が達成したという喜ばしいニュースもあった。

www.theguardian.com

自転車専用レーンの設置、電気自動車の普及、汚染車両への規制といった対策が、大気の改善に繋がったという。

「この報告書は、都市がかつては不可能と思われていたこと、つまり10年強で有害な大気汚染を20~45%削減できることを示しています」と専門家は語っている。

今回の「子どもの肺機能が改善」の研究はロンドンだったが、他の大都市で同様の研究をやっても、似たような結果が出てもおかしくないだろう。

 

「気候変動対策(排ガス規制など)をしても、結果が出るのはだいぶ先のことでしょ」的な言われ方もよくするが、少なくとも大気汚染のような深刻な問題の解決にはすでに繋がっている…どころか、健康面では思った以上に早くポジティブな変化が起こっている。気候変動対策は気候変動対策のため「だけ」ならず、というわけだ。

仮に気温上昇による被害の全てを防ぎきれなかったとしても、少なくとも人類が「きれいな空気」を手に入れることは十分に可能である。気候変動/環境問題対策がもたらす様々なメリットに目を向けつつ、絶望せずに歩いていくとしよう。

 

最後に、気候界隈で(?)けっこう有名な風刺漫画を紹介しておく。

気候サミットで、気候変動対策をするとこんな良いことがありますよ(エネルギーの自立性、熱帯雨林の保護、持続可能性、雇用、住みやすい街、きれいな水や空気、子どもの健康など)と、メリットを列挙する人に対して、気候変動に懐疑的な人が反論する。

 「もしも気候変動がデマだったらどうする? より良い世界をムダに創ってしまうだけじゃないか!」というのだ。

 

大声で言い返そう。「いいだろ別に!!」