沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

「山口華楊展」(SOMPO美術館)感想メモ

新宿のSOMPO美術館で開催中の「山口華楊展」、良かったので感想メモ。

www.sompo-museum.org

山口華楊(1899-1984)
山口華楊は、京都の友禅職人の家に生まれました。17歳で、文展に初入選。以後、官展を中心に展覧会への出品を重ねます。1938年に晨鳥社を再興。1944年、海軍省派遣画家としてビルマ方面に従軍。戦後は日展を主たる発表の場としました。1981年、文化勲章を受章。1982年にはチェルヌスキ美術館(パリ)で個展が開催され、「偉大なる現代の動物画家」と評価されました。

「すてきないきもの&カルチャー」を肩書きとする者としては(肩書きなのか)行かなくてはいけないが、夏なので暑くて引きこもっていたら終わりかけていた(8/30まで)のであわてて駆け付けたのだった。

動物と植物を精力的に描き続けた画業の集大成が見られる展示で楽しかった。(思わぬ素敵な出会いもあったが、後述しよう。)

個人的ベストを選ぶなら「青柿」。

華陽が自宅の庭の柿の木を描いた作品なのだが、葉も実も青々としていて、よく見ないと柿だとわからない。

右下の黒猫との鮮烈な対比によって、柿の木のむせかえるような「青(緑)」の色彩や匂いまでもが、鑑賞者にむわっと迫ってくるような力強い絵だった。右下にひとつだけ落ちている実も画竜点睛という感じ。実物は大きな絵なのでしばし圧倒された。

動物と植物を描き続けることで、生命の繊細さとパワフルさを表現した華陽の才能がほとばしる一作。

もうひとつ選ぶなら「黒豹」だろうか。

かつて大阪の天王寺動物園にいた黒豹をモデルにしたという。

これも「青柿」同様、一種の黒猫(黒いネコ科)を描いたといえる絵だが、影のように伸びやかな黒豹のシルエットを鮮烈に捉えている。華陽はカラスの絵もわりと描いているので、動物の輪郭が描く「黒」の美を愛した画家でもあったのだろう。

パリのチェルヌスキ美術館の華陽展(1982年)でも、この「黒豹」がメインビジュアルに採用されたそう。わかる〜(フランスでウケそう)

 

京都の動物画家というと、最近知った竹内浩一(生まれはちょうど華陽の半世紀ほど後だが)も思い出す。こちらの記事で触れた。

numagasablog.com

華陽も嵐山に通ってサルを観察して描いていた。竹内の儚げで幽玄としたサルよりもどっしりした生命力を感じさせる。

嵐山のサルたち、意外と日本美術のキーパーソン。じゃなくてキーモンキーだね…

 

「白鷺」は気品と神秘を感じさせるサギたちを描いた作品。

華陽自身は「新幹線の車窓から、田に舞い降りる白鷺を見て、絵の構想がひらめいた」とのちに語っているのだが、(図録の修正メモによると)この絵が発表された当時は新幹線はまだ開通していなかったという。
華陽の記憶が混同したのか、話をちょっと盛ったのか、時空SF新幹線だったのかはわからないが、この絵のぼんやりと不思議な雰囲気をちょっぴり増している話だ

 

かように華楊は(非ダジャレ)動物や鳥や植物の絵が多かったのだが、ちょっと異色で目を引いたのが「南海魚」という絵。

高島屋の委託で扇子の原画として描いた絵らしいが、魚を主題とした絵は見た限りこれだけだった。

エンゼルフィッシュと思しき魚の青い縞模様や、余白を生かした大胆な配置がなんとも綺麗で、普通にこの柄の扇子ほしくなった(売店にワンチャン売ってないかと思ったが、なかった)。

華陽の経歴に「1944年、海軍省派遣画家としてビルマ方面に従軍。」とあり、その時に見た動植物や自然の記憶が、その後の華陽の創作を方向づけた可能性があるという。美しい一方で、戦争の影がほのかに落とされた作品でもある。

 

戦争といえば…ではないが、今回ちょっと素敵な出会いがあった。

山口華楊展の会場・SOMPO美術館に行く途中、道に迷っているご高齢のマダムに出会った。目的地が同じだったため、一緒に美術館まで行き、なんか流れで展示も一緒に見ることになり、さらに流れでランチもご馳走してもらった。

80代のマダムは水彩画と俳句と気功を趣味とし、同年代のフレンズが認知症になったり亡くなったりしつつも(アートや気功のパワーもあってか)ご自身は精力的に生活されているようだ。

ちょうど終戦の年に生まれたそうで、最近のやたら好戦的な情勢には危機感があり、トランプがいかにしょうもないかの話で盛り上がったりした。「ジェントルマンじゃないのよね、あの人は」と上品なマダムも苦言を呈していた。非常に控えめな批判だが、まったくだ…。

トランプの存在に良かった点などないが、たまたま出会った80代のマダムと「全くあの野郎は戦争おっ始めるわインサイダー取引で大金稼ぐわ本当しょうもないですよね!」と世代を超えて盛り上がれる共通の話題を提供してくれたことには1ミリほど感謝しよう。

ちなみにマダムは認知症のお友達にこういう美術展のポストカードに手紙を書いて送っているとのことだった(絵葉書をちゃんとハガキとして使ってるんですね…と変なコメントをしてしまった)。私も誰か友達にでも送りつけるか…(うっかり2枚買ってしまったため)

素敵な絵と素敵な出会いをくれた山口華陽に感謝。