
予告編を劇場で一目みた時点で「なんてことだ…絶対みなければ…」となる映画が年に数本ある。今年は本作「オークストリートの異変」がそれであった。なんといってもあの「イット・フォローズ」のデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の、実に8年ぶりとなる、マジで待望の最新作である。
「イット・フォローズ」は10年前にイラスト解説や記事を書いていた。おお、10年前か…としみじみする(文体が違ってて別人のようだが…)。長年このブログを読んでる稀有な人はご存知かもしれないが、私の映画紹介は生き物紹介(紹介?)よりキャリアが長いのだった。
「イット・フォローズ」も昨日、10年ぶりに見返した。オールタイムベスト級に好きなホラーだが意外と再見はしてなかった(そういう映画もけっこう多い)。
やっぱ抜群に面白くて、怖いだけでなく若者の日常のちょっとした美しい瞬間(とそこからの突然の変調)を捉える手腕と視線が際立ってるし、文句なしに2010年代ホラーの最重要作のひとつよな〜と思う。作品の出来から言っても文化的影響力から言っても際立った一作と言える。
つい先日記事を書いた「オブセッション 災愛」が代表格だが、今のインディ精神やミニマルさや心理描写の繊細さを武器とするYouTuber出身のホラー監督が活躍したりする、新しい流れのひとつの源流にもなった作品だと思う。
ちなみに続編の「They Follow(原題)」もこの夏から撮影開始らしい。It→Theyと複数形になってて若干ジワる(あれが同時に複数くるとしたら確かに怖い、てか難易度上がるな…)
デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督といえばもう一本、「アンダー・ザ・シルバーレイク」(2018)も大好きな映画である。「イット・フォローズ」からはまたガラリと空気が変わって、デヴィッド・リンチみ(特にやっぱ「マルホランド・ドライブ」でしょう)が濃厚な、奇怪なLAノワールとなっている。
これも超面白かったんだが、興行的には振るわなかったようで(まぁ万人ウケするような内容ではない)、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督もこれ以降しばらく新作を撮らないまま8年がたち、どうしてるかな、もう撮らないなら残念だな…と思っていたところに、突然(本当に突然)劇場の予告編でその名前を目にすることになった。
しかも…恐竜!!?
ホラー/怪奇映画ファンで「イット・フォローズ」→「アンダー・ザ・シルバーレイク」と観た時点で「この監督の次作、なんだろ…?もしかして、恐竜映画かな?」と思った人はゼロだっただろう。この予告も世界的になんの前触れもなく突如映画館に現れたそうなので、驚きもひとしおだ。
あらすじは、平和な町の一帯が太古の時空(ここは曖昧だが)に丸ごと吹き飛ばされ、恐竜や古生物に襲われることに…!?というお話。なんだかスティーブン・キングの中編とか(実際「ミスト」や「アンダー・ザ・ドーム」と雰囲気は近い)、最近だと「ブラックミラー」シリーズとかにもありそうな、SF風サバイバルホラーである。
最初に予告編を見た時、「予告では恐竜がフィーチャーされてるけど、たぶん実際に観ると、タイムスリップした後に追い詰められていく町民の人間模様の描写とかが多くて、実際はそんなに恐竜ばっかり出てくる恐竜映画ってわけではないのかもな」と予想したのだが、そんなことはなかった。恐竜映画だった。恐竜(含む古生物)のスクリーンタイムで見れば、それこそ「ジュラシック」シリーズと比べても遜色ないほど、正面突破の恐竜映画だった。
余談だが個人的に『「もしも?」の図鑑 もっと楽しい! 恐竜たちの飼い方』という本にイラスト担当で参加したばかりなので、平和な町に恐竜が!というプロットには妙に当事者性?を感じてしまった…。(この本では恐竜と人間が共存しておりホラー要素はないが…)
〜以下、登場恐竜について軽いネタバレあり〜
デヴィッド・ロバート・ミッチェル(以下DRM)監督のファンはほぼ全員「えっ恐竜映画!?」というリアクションだったかもしれないが、パンフレットによると、恐竜は監督にとっても思い入れの深い対象だったようだ(父親が考古学者に憧れていて、恐竜が身近だったらしい)。
そんな思い入れも功を奏してか、確かに生物ファンが「あ、これは恐竜好きが作ってるな」とちゃんと思えるような細やかさも感じる。例えば恐竜のチョイスだ。本作を見て、半分くらいの人は「ティラノサウルス怖かったな〜」と思って帰るんじゃないかと思うが(名前も出ないので)、あれはティラノサウルスではなく、アロサウルスだ。
同じ中世代の大型肉食恐竜でも、ティラノサウルスは白亜紀、アロサウルスはジュラ紀なので時代が違う。ということは「ジュラシック(ジュラ紀)・パーク」ではアロサウルスが主役を務めるべきだったんじゃないだろうか。それはともかく、世界一有名な恐竜とされるティラノサウルスを差し置いて、あえてちょっとマイナーなアロサウルスをメインの脅威に持ってくるあたり、作り手のこだわりを感じる。本作で最もショッキングな後半のある展開(残酷表現が苦手な方は注意)でも、アロサウルスが千両役者っぷりを発揮しており、まごうことなき主役恐竜であった。
もう一つわかりやすいポイントは羽毛だ。全体として恐竜が羽毛でモサモサしており、より鳥っぽくなってるというか、最新の恐竜学の知見を反映した姿になっている。
こういう↑最新の恐竜ドキュメンタリー(いやもちろん恐竜の映像を撮ったわけではないので厳密にはドキュメントしてないが…)では、結構な割合の恐竜がすでにフッサフサの羽毛恐竜として描かれているので、生き物好きとしてはむしろ馴染み深いのだが、「ジュラシック」シリーズなどでしか映画の恐竜に触れてこなかった人は、ちょっと面食らうかもしれない(「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」では満を辞して羽毛恐竜が活躍したりしたけど。)
ただ羽毛があろうとなかろうと、日常の中にあんなに巨体で動きも速く人を捕食する動物が現れたら文句なしに怖いはずだし、本作もその異様さと怖さを十二分に表現できていたので、たとえフッサフサでもサバイバルホラーの主役を務めるポテンシャルは十分にあるな、恐竜…と確信できた次第だ。
さらに偶然ではあるが、今年の夏は『プリミティヴ・ウォー 恐竜戦争』という、これまた面白い恐竜映画もスクリーンに登場している。こちらも実は恐竜の姿が全体にモッサモサで、現代仕様にアップデートされた本格恐竜映画だった。試写で観て面白かったのでコメントも寄せた。
8/7公開『プリミティヴ・ウォー 恐竜戦争』に推薦コメント寄せました。
— ぬまがさワタリ@特別展「鳥」大阪展(〜6/14) (@numagasa) 2026年7月30日
ベトナム戦争のジャングルでアメリカ軍vs恐竜が死闘!という、あらすじだけで脳が溶けそうなトンデモ映画と思いきや、思いのほかしっかり作った恐竜大作でびっくり。㊗️羽毛恐竜がついに銀幕に本格進出!https://t.co/LLuZ9adnlQ
🦖𝓒𝒐𝒎𝒎𝒆𝒏𝒕到着💥
— 映画『プリミティヴ・ウォー 恐竜戦争』公式 (@primitivewar_jp) 2026年7月29日
━━v━━━━━━
「愛と恐怖がほとばしる恐竜大作!
恐竜描写の現代アップデートも素敵。
羽毛があっても恐竜は
ちゃんとコワくてカッコいい!」#ぬまがさワタリ(作家/イラストレーター)@numagasa
🔥絶賛コメント全文はこちらhttps://t.co/jiK4qzZQyM… pic.twitter.com/HsxENMJDye
この夏が予期せずして、羽毛恐竜が激アツなホットサマーとなっているのは(鳥好きとしても…?)嬉しいことだ。ぜひ二本立てしてほしい。
〜以下、もうちょっと踏み込んだネタバレ。できれば鑑賞後に読んでね〜
ここまで散々「恐竜映画」と言ってしまったが、「オークストリートの異変」で活躍する(つまり人を食べたり家や車を壊したりする)生物のうち、体感半分くらいが「恐竜」ではなかった気がする。
この後に語る、とある重要な巨大生物を筆頭に、もはや中世代(恐竜の時代)の古生物ですらなく、恐竜が絶滅した後の新生代に栄えた動物も活躍したりするので、本作は時代の一貫性には特にこだわっていない。というか、時間SFとしての異様さを強調するために、あえてバラバラの時代から寄せ集めている可能性もある。(まぁ恐竜/古生物好きくらいしか気づいたり突っ込んだりはしてくれなさそうだが…。)
生物ホラーとしては最も鮮烈な場面だった、と多くの人が認めるだろうシーンの主役も、やはり恐竜ではない。全長13メートルのでっけぇ蛇、「ティタノボア」である。
拙著「絶滅どうぶつ図鑑」でも図解した古生物なので、特別にそのページを公開しておこう。

本はこちら↓
映画の「アナコンダ」のフィクショナルな主役さながら、ワニすら襲う古代の巨大ヘビが実在したこと自体がロマンだが、まさかDRM監督作品でフィーチャーされるとは誰に予想できようか…。アゴがめっちゃ開く構造で「自転車程度なら丸呑みできた」というので、あの家での恐怖シーンもまんざら絵空事ではなさそうだ。ちなみにCGオンリーではなく、撮影時には巨大なヘビの模型も用意したらしい。(準ロッキー方式…?↓)
ティタノボアのシーンは、「イット・フォローズ」でも存分に発揮された、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督のホラー映像作家としての腕前が一番わかりやすく出ていたシーンでもあった。つまり、画面内の人物たちが気づいていない状況で、ヤバい危機が少しずつ「迫りくる」=「フォローして(追いかけて)くる」というシチュエーションだ。そして観客は、それをハラハラしながら、むざむざと画面の外から観ているしかない。この「無力な快感」とでも呼ぶべき感情は、(たとえば自分で操作できるゲームなどでは発生しない)映画ならではの感覚と言える。
あれだけ巨大なティタノボアの存在に、家にいる全員が全く気づいておらず(この状況でさすがに不注意すぎるだろ…笑というツッコミどころはご愛嬌だが)、じわじわと危機が進行していく。このシーンが絵面的に面白い点は、家のバラバラな場所にいる4人が、同時に同じ動物に取り囲まれているということで、そんな芸当ができるのは巨大なヘビ以外にない。作家性にあふれた斬新なホラー展開と動物チョイスに唸った。まぁティタノボア本蛇(ほんへび)は何も悪くないので、ブスブス刺されてるのは、ヘビ好きとしてはちょっとかわいそうだったが。
同じ意味で、家族が会話しているところに急に現れたアロサウルスがゆっくり近づいてくるシーンにもかなり「イット・フォローズ」みを感じて、戦慄しつつも「恐竜・フォローズだな…」と少し面白くなった。
そんなわけで「オークストリートの異変」、予告編では面食らったものの、本編を見てみると、監督の作家性という意味で(確かにジャンルやモチーフは違うけど)やはり強固な連続性を感じるのだった。
個人的にはとても面白かったのに、残念ながらというか、「オークストリートの異変」は本国で興行的にはだいぶコケてしまったそうなので(アメリカ人の娯楽センスはよくわからない)、せめて日本では広く観られてほしいものである。
商業的に失敗しようと成功しようと、現代の映画界の鍵を間違いなく握る一人、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の今後(まずは次回作「They Follow」)に期待しつつ、さらなる傑作を生み出すと信じて、しつこく「フォロー」していくつもりだ。


