沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

今週の気候ニュース:ライオンも死ぬ猛暑と動物園の未来

思えばこの6年くらい、「動物好きはなぜ気候変動の問題に取り組むべきなのか?」ということをずっと言い続けてきたと思う。

一番大きなきっかけは、2020年頃のオーストラリアの森林火災であり…(図解にもした↓)

numagasablog.com

「ゆかいないきもの超図鑑」も、この森林火災の話を起点に、「社会的な問題を取り入れつつ、楽しく読めるいきもの図鑑」というコンセプトで作った。(それが読者にどれほど伝わったかはともかく。)

動物を主題にした児童書もエンタメもこれほど沢山あるのに、こうしたトピックを扱っているものが少なすぎる、という問題意識もあった。

この本を出した数年後の今も、気候変動は激化していく一方だ。今週、日本の動物好きをざわめかせたのは、「猛暑のなか多摩動物公園のライオンが3頭死ぬ」という痛ましいニュースだった。

国際的にもけっこう広く取り上げられ、BBCニュースにもなっていた。

www.bbc.com

死んだのはメスのライオン3頭で、記事には「脱水と多臓器不全が確認され、暑さが原因となった可能性が高い」とある。

「気温」のほかに、もうひとつ重要な指標が「湿度」である。

東京大学の唐木英明名誉教授(獣医学)は、湿度が高いことでライオンの体温調節が難しくなっていると、国内メディアに話した。

唐木さんによると、ライオンは汗をかく代わりに、呼吸によって気道の水分を蒸発させ、体温を下げる。

しかし、湿度が高いため、ライオンの体温が十分に下がらなかった可能性があるという。

気温に比べると指標がわかりづらいが、「蒸し暑さ」は動物の発汗システムによっては致命的なものになりうるというわけだ。湿度が低い地域(ヨーロッパなど)の「35度」と高い地域(日本など)の「35度」では、同じ猛暑でも体への危険性が段違いになる。

「湿気」の脅威を日本人自身も少し甘くみているところがあるので、これは動物に限らず、単純に気温だけで暑さのリスクを判断してはいけないということだろう。


このたびのライオンの死を受けて、「気候変動の恐ろしさに動物好きが真剣に向き合うべき理由」がまたひとつ…でもあるが、もうひとつ考えないといけないのは、やはり動物園という施設が本来的に持つ、「生息環境が全く異なる動物を別の場所に連れてきて、気温管理のできない屋外で飼育する」という無茶といえば無茶な側面だろう。

ライオンやキリンのようなアフリカの大型動物は動物園の花形だが、アフリカの厳しい環境に適応したことは、アフリカと全く違う日本の厳しい環境に適応できることを意味しない。

私自身も本のコラボやイベントなどで動物園と一緒に仕事をさせてもらうこともあるし、当然ながら動物好きとして思い入れも深い施設だ(個人的に行くのは、どちらかといえば水族館が多い派ではあるが)。スタッフや飼育員の皆さんが動物を扱うプロであり、動物への愛情を抱いていることを疑うはずもない。ただし、それだけではどうにもならない問題が多すぎる。気候危機によって社会全体が激変する時代、動物園のあり方だけこのまま…というわけにいかないとも思う。

動物園によく行く、動物が好きという人も、「はじめての動物倫理学」は一度読んでみてほしいと思う。動物倫理の基本的な考え方や、その枠組みから見た現代社会のさまざまな「動物問題」を考えていく一冊だ。

動物園に対する批判的な見方の紹介に一章が割かれていて、辛くなったり反感を覚えたりする動物好きも多いかもしれないが、気候変動による猛暑がもたらした今回のライオン死亡事件のように、どこかで向き合わないといけないタイミングは来る。

動物園の存在意義について改めて考え、より倫理的で持続可能な「未来の動物園」を作り出したいと思うなら、「今ある批判」に(耳をふさぐのではなく)耳を傾けることは不可欠のはずだ。

ここまで気候が極端化して今後も激化する一方となると、(体の仕組みにもよるが)ライオンのような動物は、このまま日本の屋外で飼育し続けることは難しいのではないかと考えずにいられない。夏季の展示は実質的に休止として屋内に退避させておくか、(予算的に非現実的だが)ドームのような展示用施設を作るとか、なんらかの抜本的な対策が必要になるだろう。

もっといえば個人的には動物園という施設は、やはりできる限り「珍しい動物に来てもらう」のではなく、「人間がテクノロジーと学識と想像力を活かして動物の世界を垣間見る」ための施設、という方向に進んだほうがいいんじゃないか、とは思っている。

www.cametan.com

このライブカメラ↑のように、人間が自然の中におじゃまして覗き見る技術のほうを磨き上げ、そうした映像を大画面やVRやARで映し出す技術や、それを動物学的な知識とともに楽しむ文化を発展させていくこともひとつの道筋だろう。 

水中のライブカメラ技術も発達しており、こちらではハワイのサンゴ礁に集う色々な生物を垣間見ることができる。たまにサメがきたりもするようだ。

www.youtube.com

たとえばこういう2Dライブ映像を、実際に中に魚がいるのかと見紛うくらいの精度でリアルタイムで水槽(っぽいディスプレイ)に再現する技術くらいなら、そんな夢物語でもない気がする。

さらに想像力を飛躍させてみると、動物の行動や振る舞いをLLM(いわゆるAI)に学習させ、進歩著しいアニマトロニクスの技術を活かし、「本物らしく」動き回る動物ロボットを導入する、的な方向もありうるのではないか。なんなら今の動物園で、檻の中でぐったりしている「本物の」動物よりも、ずっと「本物らしい」かもしれない…。

こうした発想に基づいて変化を遂げた「動物園」は、飼育が比較的かんたんで持続可能な動物(あまり「花形」っぽくはないかもしれないが…)は引き続き飼育しつつ、ライオンのような珍しい異国の動物は実際には飼育せず、その存在がなんらかのテクノロジーで代替された、「インタラクション博物館+動物の世界体感パーク」みたいな性質の施設になるだろう。

SNSでこれを言ったら「動物園はテーマパークじゃなく研究施設なんですが?」みたいな反発も来たが、いや動物園に意義があるとしても「動物を見せ物にしてる」という側面は否定できないだろというのは置いといて、本当に「研究」のためだとすればなおさら、今の動物園の形がふさわしいのか考える必要があると思う(少なくとも野生環境からは完全に切り離されているわけで)。学問の観点から動物園を捉えるにしても、どのみち「動物に来てもらう」ではなく「人間が動物の世界を覗く」発想と技術の進歩は必要になる。

動物園という施設には、まだ様々なポテンシャルがあると思う。「動物に会いたい」「動物のことを知りたい」という人々が訪れる貴重な場所であり、人が動物への関心を抱く重要なきっかけになる施設でもある。

theconversation.com

だからこそ、その持続可能性や倫理性を動物好きこそが真面目に考え、議論し、変えるべきところは変える必要がある。それが猛暑の犠牲になったライオンへの、せめてもの礼儀というものだろう。