沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

願うものに気をつけろ。『オブセッション 災愛』感想メモ

『オブセッション 災愛』面白かったので感想メモ。

hlo.tohotheater.jp

(公式サイトがしょぼいので仕方なくTOHOシネマズのサイト↑)

 

世界興収が4億ドルとかとんでもねぇことになってるサプライズヒットなホラー(監督は若干26歳!)というのを聞いて楽しみにしていたが、なるほどの切れ味だった。

ざっくりいうと「猿の手」的なアイテムを手に入れた若者が「願った」ことが、最悪の形で叶ってしまう…というあらすじの恋愛ホラー。いや恐怖のラブコメといった方がいいか。

優れたホラーの特徴は、日常的な物事や概念を改めて違った視点で見せてくれることだと思うが、本作は「恋」…というか「恋は人を変える」みたいな(良きこととして語られがちな)現象を恐怖の視点から切り取る。

とことんダークでシニカル、しかし観た後に誰かと語りたくなるような、強烈な一作だった。直近でも『ブリング・ハー・バック』も良かったし、今年はホラーの良作が続くが、中でも特にオススメできる一作。

 

監督はカリー・バーカーという若いクリエイターで、YouTubeで公開してる中編映画『MILK & SERIAL』も観たのだが、面白かった。

www.youtube.com

ドッキリ(Prank)系YouTuberが友達の誕生日にドッキリを仕掛けるのだが、事態はどんどんおかしな方向に進み、だんだん洒落にならないことに…という1時間ちょいのファウンドフッテージもの。色々すごいことになる若者・ミルクをバーカー監督自身が演じている。

同じくバーカー監督の『THE CHAIR』も観た。これも良い。

www.youtube.com

途中で恋人があるリアクションからスッと感情を切り替えるシーンの怖さとか『オブセッション 災愛』に通じるものがある。色んな受賞も納得のキレ。

 

最近だけでも、YouTuber出身でヒット作を作った監督を並べてみると…
『オブセッション 災愛』のカリー・バーカー
『トーク・トゥ・ミー』『ブリング・ハー・バッグ』のダニー&マイケル・フィリッポウ
『バックルームズ』のケイン・パーソンズ
『ウェポンズ』のザック・クレッガー
『ライト/オフ』のデヴィッド・F・サンドバーグ

…などなど(ちょっと遡ったが)かなり思いつく。YouTubeとホラーとの相性の良さはやはり際立っているようだ。

あとホラーじゃないけど『FEVER ビーバー!』のマイク・チェスリックもYouTuberだったりする。

『FEVER ビーバー!』鑑賞(テアトル梅田にて)。 過酷な大自然に放り出された男が、野生動物たちと命懸けの知恵比べ! ビジュアルから想像する通りのローテクでトンデモバカ映画であることは確約するが、驚くほど心が満たされる怪作&快作。 バスター・キートンやチャップリンの時代の白黒無声クラシックを存分にリスペクトし、映画史的なインテリジェンスも感じさせる。それでいて最初から最後まで考えうる限りのバカな(賞賛)ギャグやアクションを乱れ打つ勢いがすばらしい。 まるで中に人が入っているかのような圧巻のアクションをみせる動物たちからも目が離せない。乗るしかない、この謎のビーバーフィーバーに。打倒ピクサー!

ぬまがさワタリ@『いきものニュース図解』ほか3/19同時発売 (@numagasa.bsky.social) 2026-04-19T13:00:37.173Z

bsky.app

ここにきてYouTube出身監督がガッと波に乗ってる感じなのは、むしろ商業側が動画サイトなどのインディ畑の才能をヒットに乗せるための感覚を掴んできた、ということなのかもしれない。もう少しすると日本にもこういう大波が来るのだろうか。(アニメだと「銀河特急 ミルキー☆サブウェイ」とか思いつくけど。)

 

『オブセッション 災愛』主演陣だと、みんな言うだろうけどなんといってもニッキーを演じたインディ・ナヴァレッテさんが良かったですね。喜怒哀楽の色んな種類の「重い」感情を瞬発的にコロコロ変えなきゃいけない難役だったと思うが、見事に演じ分けていて凄かった。

😠←こういう絵文字みたいな表情を、場違いな状況で人間が本気でやるとめちゃくちゃ怖いな…という気づきもあった。ホラー映画『Smile スマイル』といい、「笑顔が怖い」はホラーではむしろ王道になりつつあるが、「怒り顔が怖い」は一周してフレッシュだった。僕に嫉妬して怒ってくれる彼女」なので描き方によってはカワイイ場面といえなくもない(美少女アニメとかでそういうシーンはあふれているであろう)はずだが、ホラーとして描くとシンプルに怖いっていう。

 

〜以下、テーマに少し踏み込んだ感想〜

 

『オブセッション 災愛』、一見すると特にフェミニズム的とかそういう話でもないのだが、昨今話題の(ドラマでもNetflix「アドレセンス」とか)マノスフィア的なorインセル的な価値観、つまり女性差別に基づく異性愛至上主義に対して、デカい一石を投じるような作品にも結果なってて、そこが興味深かった。

www.netflix.com

要は「いい女とつきあう」ことを至上命題とする価値観(orそれができないことへの妬み僻み)、もっと乱暴な言い方だと「愛なんかいらねぇ、女なんか寝ちまえば勝ちなんだ」みたいな、相手の女性をある種「非人間化」する態度というのがある。

いやでもお前、「人を非人間化する」って結局こういうことじゃねーの?それって(もちろん被害が大きいのは女性だが男からしても)幸せでもなんでもなくね…?という、ある意味ド正論をド正拳突きでかましてくる、みたいな映画でもあるなと。説教臭くは全然ないし、絵面としてはどんどん血みどろ大騒動になっていくが…。

いっけん昔からある「やばい女性に好かれるとマジ怖い、という男視点のホラー映画」としても楽しく鑑賞できる一方で、この世に存在する異性愛規範とか男らしさみたいな価値観を鋭く批評する視点も感じられて、だからこそ語りがいがあるし、口コミによる爆発的ヒットもそのへんに理由があるのではと想像する。

『オブセッション 災愛』観て思い出した本が、最近読んで面白かった『異性愛という悲劇』。

その名の通り、同性愛者(レズビアン)である著者が、「逆に異性愛者のみんなは大丈夫なん?」と視点から世に溢れる「恋愛」を見つめ返し、斬っていく。
その「愛」が異性愛である以上、どんなに綺麗にシュガーコーティングしたところで、男女の不平等な権力構造の中に絶対的に組み込まれてしまい、不均衡なまま膨れ上がった男たちの欲望や妄想の被害に女性が晒されやすい。

『オブセッション 災愛』のニッキーの執着は恐ろしい反面、男の理不尽な「執着」に歪められた気の毒な女性でもある、というのがこの映画の肝だと思う。

男性が勝手に妄想するような「自分だけを愛してくれる理想の女性」との「誰にも邪魔されない理想の恋愛」が実現したとして、それは女性だけでなく男性にとってさえ、ひどく恐ろしいものになりうるのではないか…という。まさに「願うものに気をつけろ」という古くからある格言通りの物語であり、それこそ「猿の手」を思わせるクラシックかつ単純明快な恐怖の娯楽でありながら、ちゃんと現代らしく社会的な見方もできるという、理想的なエンタメ作品だったと思う。

 

それにしても『オブセッション 災愛』も最高だったし、直近で観た『ブリング・ハー・バック』も『ユースフル・ゴースト』もほんと面白かったし、映画文化も危機にあるとは重々承知だが、映画自体は全然終わってないな〜とつくづく思うのだった。

新たなアイディアや才能を持つ次世代の作り手が世界には沢山いて、その人たちは今日もカメラを構えてぶっ飛んだ作品を撮ろうとしてるし、観客も「もうショート動画しか観ない」なんてことはなく、ただ新しいものを待ち侘びているだけだ、ということを本作の商業的な成功も示している。

ヒーローものがちょっと不調なくらいで映画を勝手に死なせないでほしいものだ。

おわり