沼の見える街

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映画『ユースフル・ゴースト』感想メモ

映画『ユースフル・ゴースト』面白かったのでイラスト&短めな感想メモ。

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死んだ妻が掃除機になって帰ってくる、という一見ふざけた一発ネタの幽霊映画…と思いきや、政治や資本主義や差別に踏み躙られてきた人々の無念を幽霊に託す物語として、驚くほど射程が広く深い、豊かな映画だった。

特にゲイの登場人物(アカデミック・レディボーイという役名らしい)が忘れ難く、(保守性も色濃く残しつつだが)アジアの中でも先んじて同性婚を実現したタイ社会の変化を鮮やかに示す作品でもある。とはいえ真面目なだけではなく、ホーンテッド家電たちが引き起こす人間模様をシュールに描く半コメディとしても楽しい。

「死んだ妻が掃除機になる」というキャッチーでふざけた絵面から始まって、「歴史の底に沈められた人々を記憶し、語り継ぐこと」という極めて普遍的で、今こそ大切なテーマに触れる手腕、見事だった。まぁ画面上でやってることは掃除機vs冷蔵庫とかそんな感じなんだが…。(妻ナットが乗り移る掃除機が動くシーンの楽しさと不気味さ、妙な可愛さは、ちょっと「WALL-E」とかも連想した。)

「幽霊」という存在がフィクションで描きうるものが、今でもとてつもなく大きいと示してくれるし、ホラーやオカルト好きこそ観るべき一作だと思う。

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『ユースフル・ゴースト』、予告みる限りでは「ほーん、タイの心霊ホラーコメディね(『サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件』みたいな感じかな)」と思ってたが、良い意味で斜め上の映画だった。

この予告、けっこう何度も劇場で目にしたんだけど、ぶっちゃけ本作の核は全く伝わってなくて、観てみると全然ちがうところに連れて行かれる映画だったな。(ただでさえ1回あらすじ聴いただけでは「何??」となる映画だし、1分ではどうしようもないと思うので予告への文句ではない)。性的なシーンがけっこうあって、それがまた重要だったりもするので。

でも予告の冒頭のシャラララン…みたいな御伽話っぽい効果音はとても本作を象徴しているよね。この「御伽話」がゲイの幽霊とゲイの語り手のロマンスによって包まれていることに本作の核心があると思う。

同性婚が法的に承認され、数多くのBLやGLドラマが制作されるようになった現在でも、マイノリティの人々への差別的な扱いは残る。ある調査では、性的マイノリティの人々の40%以上が教育機関での差別を経験したことがあり、同様に40%以上が、周囲からの承認のために異性愛者のふりをしたことがあると回答している。

『ユースフル・ゴースト』パンフ解説より

同性婚を実現したとはいえタイも楽園ではないどころか、政治的弾圧の苛烈さという点では日本より過酷な点も多い。LGBTQ+に限らず、タイトルの「ユースフル」には、「役にたつ」マイノリティしか存在を許されないという悲哀がシニカルに込められているのだと思う。

『ユースフル・ゴースト』観て思ったが、劇中の突飛な何か(本作でいえば幽霊)にメタファーとして託すだけではなく、実際にLGBTQ+の人をキャラクターとして登場させる、といった具体的な描写をちゃんとやることの重要性も改めて感じた。

たぶん本作にしても、「妻が掃除機になって帰ってきた」という話を聞くゲイの語り手のラブロマンス、という入れ子構造がもしなかったら、もう少しボンヤリした話になってた気がするんだよね。彼の話のおかげで「幽霊とは」の核心が明白に伝わる映画になっている。

メタファーという強力だが便利すぎる道具に頼ってリスクを避けがちな日本もハリウッドも学ぶべき点が多い一作だと思う。

LGBTQ+の問題だけでなく、粉塵公害(掃除機ってそういうこと…!?となる)、再開発、政治的な弾圧や虐殺…といったタイの歴史を取り巻く様々なものに苦しめられ、口を封じられ、忘れ去られた人たちを「記憶する」ことで救う…いやむしろ、生者である私たち自身が救われることでもあるんだ、というとても重要なテーマに貫かれていた。

その上で「妻が掃除機」というシュールすぎる絵面が全編を支配する心霊コメディ調の作りなのもスゴイ。一応クリエイターとして活動してる身としても、ちょっと真面目に憧れてしまうバランスのタイ映画だった。もっと観なければ…

 

ところで『ブリング・ハー・バック』と『ユースフル・ゴースト』を続けて観たんだが、「死者の帰還」というテーマで相互に共鳴しあう、素晴らしい二作だったな(お盆に2本立てやってほしいな)

『ブリング・ハー・バック』鑑賞。 『トーク・トゥ・ミー』監督コンビの新作とのことで期待して行ったが面白怖かった〜。 『異端者の家』のヒュー・グラントばりに「あの名優がヤベーやつ」案件でありつつ、サリー・ホーキンスに頼んだ甲斐が大いにある映画で、終盤は悔しいかなグッときてしまった(あんだけ非道な所業してるのに!) 主人公の視覚障害をもつ妹・パイパーを当事者キャスティングで演じたソラ・ウォンさんも凄く良くて、彼女の「生」が誠実に描かれることが、この陰惨すぎる(褒め言葉)恐怖映画に一筋の光を投げかける。 残酷表現(肉体破壊系)の容赦なさは完全に前作超え、てか今年のホラーでも屈指なのでそこだけ注意ね…

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