「良いニュース」と「悪いニュース」がある…。どっちから聞きたい?
答え→どっちからでもいいから、両方ちゃんと聞きましょう
というわけで、NYタイムズのこんな記事を読んだ。
'The Very Good and Very Bad News on Climate'
訳「気候に関する非常に良いニュースと非常に悪いニュース」

『Here Comes the Sun』(未邦訳)の著者であり、太陽光発電の推進者として再エネ/気候界隈では有名なビル・マッキベンがNYタイムズでインタビューを受けている。(インタビュアはエズラ・クライン。)ギフト設定なのでしばらく本文も無料で読めると思うが、まずざっくりまとめとく。
「非常に良いニュース」は、再生可能エネルギーの高性能化&低コスト化による驚異的なスピードの普及。数年前ですら想像つかない規模と速度で、エネルギー情勢に変化が起こっている。
「非常に悪いニュース」は気候変動が激化するスピードも凄まじいことで、欧州や米国を襲った猛暑や、山火事のような災害の悲惨さは、地球の気候システムの脆弱さを示す。あくまで一例だが、つい先日のスペインの山火事↓
もうひとつの「非常に悪いニュース」は政治からくる。トランプを筆頭に、科学を否定して気候変動対策を遅らせようとする世界中(日本も含む)の極右勢力による、政治的なバックラッシュのリスクもますます深刻になる。
気候変動にまつわる(本当に意味のある)ニュースは、ほぼこの「良いニュース」と「悪いニュース」に集約されるが、どちらのほうが大事ということはない。どちらも極めて重要であり、これらを知った上で私たちがどうするか、が未来を大きく左右する。
というわけでNYタイムズの記事。マッキベンが「非常に良いニュース」として再エネの急速な進歩について語っている。この進歩を支えるのは再エネの圧倒的に高い経済的合理性であるという話。
まず、クリーンエネルギーのイメージについて。世間的には「高尚で高価で、少し見栄を張れるもの」であり、エネルギー界のホールフーズ(日本で言えば成城石井?クイーンズ伊勢丹?)としてイメージされているというが、実際には「エネルギー界のコストコ」のようなものである、とマッキベンは語る。その心は…
「安価で、店頭に大量に在庫があり、すぐに使えるからです。
私たちが生涯を通じて太陽光や風力といった代替エネルギーと呼んできたものが、今や明白かつ常識的で分かりやすい発電方法となっています。今世紀初頭のある時点で、太陽光や風力でエネルギーを生産する方が、火を使って発電するよりも安価になるという、目に見えない一線を越えたのです。」
「エネルギーのコストコ」はマッキベンのお気に入りフレーズのようで、ガーディアン紙でも記事を書いている↓
「ここはエネルギーのコストコだ!」:作家ビル・マッキベンが再生可能エネルギーの将来性について語る
人類は70万年もの間、生活に必要なエネルギーを得るために、薪集めや電気代の支払いなど、あらゆる手段を講じてきました。しかし今、少なくとも太陽光パネルや風力タービンを建設する先見の明がある地域に住んでいる限り、もうそんなことをする必要はありません。
中央集権的だったエネルギーの支配構造をひっくり返し、万人に広げるという点で、極めて民主的…というか、まさに文字通り「革命的」という言葉がぴったりくるような性質をもっている、ということをマッキベンは強調している。
NYタイムズの記事に戻る。
エズラ・クラインが現在の再生可能エネルギーの状況を整理する。
2026年4月、世界的なエネルギーシンクタンクであるEmberが「世界の電力レビュー」を発表しました。ご存知の通り、これはエネルギー専門家にとって毎年恒例の重要なイベントです。このレビューによると、2025年の世界の電力需要増加分の75%は太陽光発電だけで賄われるとのこと。これは驚くべきことです。
再生可能エネルギーは発電量の3分の1以上を占め、初めて石炭を上回りました。そして、これは驚くべきことだと思いますが、多くの人の予想に反すると思いますが、2025年には中国とインドで化石燃料による発電量が初めて減少しました。
つい先日のこのニュースのこと(エンバーの新しい報告)ですね↓
マッキベンが記事の中で強調する、もうひとつの重要な技術がバッテリー。これは「再エネって24時間電力供給できないじゃん」的な意見への強力なアンサーにもなる。
[クライン]よく聞かれる懸念は、場所によっては24時間365日電力が供給されているものの、すべての場所で供給されているわけではないという点です。大規模に展開しているバッテリーは永久に電力を蓄えられるわけではないため、依然として大きな断続的な問題が生じます。
気候モデルについて話すと、彼らはこの点を懸念しています。
[マッキベン]確かにそうですが、はっきりさせておきましょう。過去5年間が太陽光発電と風力発電の時代だったとすれば、次の5年間はバッテリーの時代であり、この技術は現在、驚異的なスピードで進歩しています。
突然、通常8時間持続するバッテリーパックが組み立てられるようになり、夜間の電力供給が可能になった。しかし、それよりもはるかに長時間電力を保持できるバッテリーを開発する人も増えている。それを実現する技術は、月を追うごとに目覚ましい進歩を遂げています。
それともちろんEV(電気自動車)。アメリカも日本も他の先進国よりEV普及率が格段に低いEV後進国なので、つい「EVはオワコン」みたいなネット記事に納得しそうになるが、世界的には今も着実に伸びている。(欧州全体では前年比+35%、グローバルサウスでも伸び、世界では前年同月比で+9%)
マッキベン、EVのポテンシャルを語ると同時に…
[マッキベン]私たちは自動車によって築かれた国に住んでいます。自動車は20世紀のアメリカを特徴づける最も重要な要素です。
車好きの人にとって、一度電気自動車(EV)に乗ったら、ガソリン車には戻れないでしょう。静かで、可動部品がほとんどないので、修理もほとんど必要ありません。EVよりもさらに優れているのが電動自転車で、これは地球上の現代において、まさに革命的な発明となる可能性を秘めていると私は考えています。
[クライン]いやあ、それはかなり大胆な発言ですね。(笑)
突然の電動自転車推しに(クライン共々)わろたが、京都で乗ってみたら確かに快適だったので、次の自転車は電動にしちゃおうか、とか少し考え中であった(余談)
昨日は(トミイマサコ先生のオススメに従い)電動レンタサイクルで京都を巡ってみたが、とても気持ちよく楽しかった。 鴨川沿いや御苑や神社の森を颯爽と駆け抜けたり。 公共交通機関では入らないような裏道に入り、マルタやシチリアで修行したというお兄さんの京風イタリアン(名物は昆布だしの西陣カルボナーラ)を食べたり。 京大あたりに行ってみたらこんな京大イメージに合致する祭りがあっていいのかというカオスな激アツイベントがやっていたり。 日本の観光客は意外と使わないようなのだが、地下鉄もバスも一長一短な京都を巡るなら自転車最強説ある(中心部がもうちょい自転車フレンドリーになってくれたら完璧といえる)
— ぬまがさワタリ@『いきものニュース図解』ほか3/19同時発売 (@numagasa.bsky.social) 2026-04-27T00:53:21.270Z
エネルギー/技術面のこうした劇的な変化を強力に主導する中国について、二人は対話をかわす。
[クライン]アメリカでエネルギーや気候変動に関する政治問題について話し始めると、よく「中国やインドはやらないだろうから、我々が何をしても意味がない」という意見を耳にしますね。
しかし、中国は恐らく世界で最も重要な電気技術の推進力となっています。
[マッキベン]はっきりさせましょう。彼らは電気技術の最大の推進力であるだけでなく、それを利用して地球上で技術的、経済的な優位性を確立しようとしており、おそらく政治的な優位性も伴うことになるでしょう。
中国の作業ペースは驚異的です。昨年の今頃、中国は1日に3ギガワットの太陽光発電設備を設置していました。1ギガワットは、大型石炭火力発電所1基分に相当する。つまり、8時間ごとに太陽光パネルでできた発電所1基を建設していたことになる。
人々は、この事態がどれほどの速さで起こっているのか、ほとんど理解できていないと思う。
日本でもことあるごとに「中国の脅威」とか安全保障がどうとか語られるけど、そういう人に限って、再生可能エネルギー自体のポテンシャルも、中国が今やってる猛スピードの社会改造のことも、やたら過小評価していることが多いのは呑気というか、現実が見えてないなと思う。(ネット空間ではグレタ・トゥーンベリさんをバカにしていればリアリストを気取れるのかもしれないが…)
再エネという普遍的に重要なはずの技術で、経済的なチャンスも大きいはずのビジネスを、「敵国」としての中国と結びつけて叩く動きは、日本だけでなくアメリカでも加熱しているようだ。
[クライン]ワシントンでは現在、トランプ政権下だけでなく民主党政権下でも、中国に対する敵意が著しく高まっている。つまり、我々は深刻な競争関係にあり、中国からもたらされる進歩は歓迎されないという認識が広がっているのです。
それぞれが新たな脅威となる。もし彼らが太陽光パネルの技術を向上させたとしても、それは地球環境の生態系にとって恩恵となるどころか、アメリカのサプライチェーン能力に対する脅威として捉えられてしまうのです。
[マッキベン]それは大きな間違いだと思います。中国は例えば太陽光パネルを製造する並外れた能力を持っている。なのに、価格が安くなりすぎたため、価格を少しでも上げようとして、その能力の一部を意図的に停止させているのだ。
しかし、そうではなく、私たちがこれを優先事項と決め、協力して工場をグローバル化し、24時間365日稼働させ、膨大な数の太陽光パネルを生産し、地球上のあらゆる鉄道の側線や埠頭に積み上げ、人々がそれらを持ち帰って自分たちのパキスタンを作るように言う世界を想像してみてください。
ここで急に「パキスタン」が登場するのはこのニュース↓を受けてのこと。
パキスタン(人口2億4000万人)が中国の激安パネルを大量に輸入して、世界第3位の太陽光パネル輸入大国になり、すごい勢いで「太陽光革命」を起こした…という昨年の記事。
この太陽光ブームが、国民や市場が主導する「草の根革命」として起こり、政府主導の大規模な太陽光発電所の形態と異なることが注目を集めた。
マッキベンによると、「次のパキスタン」になりつつある国があるという。
先月時点で、再生可能エネルギー導入のスピードという点で新たなパキスタンになりつつある国はフィリピンだ。ホルムズ海峡の封鎖で大きな打撃を受けたフィリピンにとって、再生可能エネルギー導入は明白な解決策となった。
誰もが、a) 知りもしない水路の奥に閉じ込められうるエネルギーに頼りたくないこと、そして b) エネルギーをアメリカ合衆国のように不安定で信頼できない国に依存したくないことに気づき始めている。
へ〜、フィリピンがね…と調べたらこんな英語記事があった。
「フィリピンがアジアの再生可能エネルギーの成功事例として台頭」
原油と精製石油の輸入にほぼ全面的に依存しているフィリピンは、湾岸戦争による燃料価格の高騰によってその状況がさらに悪化しているが、現在、地域で最も急速に成長している再生可能エネルギー市場の一つとして台頭している。こうした経済的負担に対処するため、政府は最近、国家エネルギー非常事態を宣言した。
フィリピンはパキスタンを抜き、中国にとって2番目に大きな太陽光パネル輸出市場となった。
ちなみに1位はオランダらしい。
欧州はともかく、いわゆる先進国ではない(なんなら民主主義的な国でもない)中東や東南アジアでの劇的な再エネ増加に注目が集まっている昨今だが、まぁどこぞの「先進国」のように石油業界(or原発)と癒着した極右政権が再生可能エネルギーを攻撃してる、とかでなければ、シンプルに経済合理性だけ考えた場合、普通こうなるよなという気もする。先進国とは…と悲しくもなるが。
まさにそういう動きについての記事も先日読んだ。
「アメリカの石油時代は崩壊しつつある。次に何が起こるかは恐ろしいものになるかもしれない。」
笑顔のホスト側はこれを認めていないが、2日間の会談で一つだけ明白なことがあった。それは、世界の勢力均衡が、衰退しつつある西側の石油国家から、台頭しつつある東側の電気国家へと移行しつつあるということだ。
石油に固執するアメリカと、再エネで電化を目指す中国の対照は今や明白で、(マッキベンも言っていたが)イラン戦争は「アメリカが中国に主導権を譲り渡した瞬間」として歴史家に振り返られることになるのかもしれない。
しかし、旧来の石油利権団体は依然として政治的、軍事的、そして財政的な力を味方につけており、それを利用してエネルギーの流れを逆戻りさせようとしている。
その結果、世界中の民主主義国家は、いわば化石燃料ファシズムと呼ばれるものによって脅かされている。これは、より安価な再生可能エネルギーに取って代わられるであろう石油、ガス、石炭の市場を維持するために、法律を破り、嘘を広め、暴力をちらつかせる過激な政治運動である。
「化石燃料ファシズム」はしっくりくる言葉で、中東にしろロシアにしろ、要は化石燃料という史上最強の既得権益を守るためのなりふり構わぬ闘いに人類が巻き込まれてる真っ最中という見方もできる。気候変動の「非常に悪いニュース」にあたる政治的バックラッシュも、こういう状況から生まれてくるのだろう。
ただ、そんな暗澹たるバッドニュースとあわせて読みたい、(またも)ビル・マッキベンによる、光明さしてくる記事も先日読んだ。
「右派も左派も支持できる気候変動対策」
太陽光発電の経済的ポテンシャルが大きすぎて、たとえば今トランプを支持してるような右派も、イデオロギーやリベラル憎しだけで再エネを拒否し続けるのは難しいんじゃないの、という話。
実際、[太陽光は]合理的で保守的な考え方とほぼ完全に一致する唯一のエネルギー形態と言っても過言ではないと思います。ある意味、それは超個人主義者のためのエネルギーです。
これは面白い見方だなと思った。先述した「太陽光=民主的」というのを裏返して言っただけなのだが、確かに「サバイバリスト向き」でもあるんだよね。
マッキベンも記事で冗談交じりに言ってるんだけど、いわゆるマッドマックス的な、ヒャッハーな世界観で、崩壊した社会で石油とか貴重なエネルギー源を巡って人々が血みどろの争いを繰り広げる…!みたいな話、現実で太陽光発電が普及した後だと成立しない設定かもしれない。わざわざ争わないで各自が勝手に太陽光パネルでも使って発電すりゃいいだろ、ってなっちゃうから。
関連する話題で、賃貸にも置ける太陽光パネルとして注目を集めているバルコニー太陽光発電、主に欧州で普及しつつある一方、アメリカではまだこれからという感じ(法的にはグレーゾーンだが勝手に置いてる人も多い)。
…なのだが、最初にバルコニー太陽光発電の設置・使用を認める法律を制定したアメリカの州が、なんと全米屈指の保守的な州、ユタ州なんだよね。
ただ「そもそも保守的とは」から考え出すと、政府や企業や社会への依存度が最も低いエネルギー・太陽光の自家発電システムを、最も保守的な人々が最初に合法化するというのは、実は理にかなってる気も。
10年くらいしたら(化石燃料ロビーの影響力が劇的に低下したことで)保守派の政治家がめちゃくちゃ再エネを推進している、みたいな状況も絶対ありえなくはないと思う。エネルギーと政治も、なかなか一筋縄ではいかない。
「政治的な分断が深刻だ」みたいな決まり文句で全てを片付けることなく、良いニュースにも悪いニュースにも、どちらにも耳を傾けていくことが大事になりそうだ。