沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

『ウルフウォーカー』特別上映、いろいろ感想

池袋HUMAX『ウルフウォーカー』プレチケ特別上映が昨日無事に終了しました! ご来場の皆さん、ありがとうございましたー。

「ウルフウォーカーの方はこちらです!」という劇場スタッフさんの案内に導かれてシアター2へ向かう(なんかウルフウォーカー本人がいっぱい劇場に集まったみたいで良いすね)。そしてやっぱ劇場ポスターはテンション上がるなあ。

HUMAXの2番シアター、行く前は小さめのスクリーンなのかな?と思っていたんですが、いざ入ってみるとけっこうデカく感じて満足でした。『ウルフウォーカー』は2020年の劇場公開時もわりとミニシアター系でのまぁまぁ小規模公開だったので、なんなら国内では今回が歴代いちばん大きなスクリーンでの上映だった可能性ワンチャンありますね…。善いことをしたぜ(?)

夢のような上映時間はあっという間に過ぎ去り、上映後には拍手が起きて企画者としてもうれしかったです!ちなみにチケットは100枚くらい売れたもよう。上々の販売数とのことで、プレチケさんも喜んでいました。皆さんありがとね〜。

 

つい先日、トリビアとか言いつつ再びオタク語りしまくりな記事を書いたのですが…↓

numagasa.hatenablog.com

今回の上映会でスクリーンで見て、また改めて気づいたことなどあったので、雑感として書き残しておきますね。大きく分けて3つほど。

 

<"漫画"的アート>

パワフルかつ重層的な物語はもちろん、とにかく美術が素晴らしい作品であることはもう100回語っているわけですが、何度見ても新しい発見をもたらしてくれる、改めて凄いアートワークだなと震えてしまいます。

今回特に思ったのは、本作のアートにはとても「漫画的」な面もあるよな〜と。たとえばこの場面。

↑驚いて怯えるロビンの心情を、背景の鬱蒼と生い茂った木々の模様を、まるで漫画の「効果線」のように駆使して表現している。こういう場面が、よく見ると実はたくさんあるんですよね。他にも草や落ち葉や木の根など、自然界にあるものの美しく複雑線や形を、漫画/コミックのお約束的なコードにあわせた「効果線」として巧みに活かしているのが斬新で面白い。それでいてあくまで自然描写と地続きなので、「漫画をオマージュしてみました」的なわざとらしさは皆無。登場人物の心情を視聴者の目と脳に流しこむようにスムーズに伝え、かつ物語が進む方向をダイナミックに指し示しもする、画期的なビジュアル表現だなと。

本作の漫画っぽさは「効果線」にとどまらず、たとえばメーヴが街にひとり乗り込む場面では、画面が漫画のように縦に3分割されて、それぞれで少しずつ違う空間・違う視点が描かれるんですが、その枠線を超えて自由にメーヴが動き回るという非常に目に楽しい作りになっています。手塚治虫の漫画も連想する、枠線を使った遊び的な表現がもたらすメタな楽しさも感じるし、人間の"枠組み"を超えるメーヴの超人的な運動能力をスマートに表現しているとも言える。コミック的なお約束をメタ&フルに活かしまくった同時代の傑作『スパイダーバース』ともリンクする点です。「カートゥーンサルーン」のカートゥーンって元を正せば漫画のことなので、原点回帰したような精神性も感じさせますね。

↑でも書いたような、極めて古典的であり平面性を感じさせるアート表現と、現代的なコミックの効果線や枠線を駆使した最新鋭の表現が見事に同居している本作、やはりビジュアル面に限ってみても相当に奥深く底知れない一作だなと実感しました。小さい画面で見ると見逃しちゃうぜ、な楽しさもいっぱいあるので、やっぱつくづく映画館で観たい作品ですね。善いことをしたわ(2回目)

 

<民衆の描き方>

『ウルフウォーカー』、主人公やオオカミはもちろんなんですが、民衆/大衆といった「普通の人々」の描き方も非常によく考えられていると改めて思いました。下の記事では、「民衆の残酷さ」について詳しく語って、我(とビニタキさん)ながら的を射ているなと自画自賛しつつも、実は今はちょっぴり異なる解釈をしていまして。

cinema.ne.jp

例えば、捕まったモル(母オオカミ)が処刑されそうになり、たまらず飛び出して暴れるメーヴを見て、集まった民衆が大笑いする場面。ここはオオカミに感情移入している観客側としては胸が痛くなるような、人間の愚かさ・残酷さを突きつけられるような場面…でもあるんですが、別の見方もできるなと。

というのもこの「嘲笑」を向けられている矛先には、オオカミたちだけではなく護国卿も含まれている(というか護国卿の反応を見るに、彼は自分への嘲笑だと受け取って、だからこそ焦っていた)。つまり踏み躙られてきたアイルランドの民衆が、歴史の勝者側である(クロムウェルをモデルにした)護国卿を「オオカミと子どもに良いようにされてらあ!」と笑い物にして、ある種の復讐を遂げる場面でもあるんだなと。そう考えると、残酷で醜悪な場面でもあると同時に、一筋縄ではいかない民衆のパワーを表しているシーンにも思えて、見返せば見返すほど「(辛いしムカつくけど)なんか良い場面でもあるな…」と複雑な感情が湧いてきて、今や本作の最も面白い場面のひとつだと思ってます。

前のブログでも書いたように、史実ではアイルランドは1649年にクロムウェルに征服されて以来、平民に対する搾取体制が敷かれ、実質的な植民地となってしまいます。オオカミに象徴される自然への抑圧が強まると同時に、アイルランドの人々への抑圧も激化していくわけです。そうした負の歴史を十分に踏まえた作り手が、アイルランドの民衆をただ愚かに、残酷なだけの存在として描くことはやっぱりないだろうなと今は確信しています。実際、最後には「音楽のように美しい」と民衆がオオカミの遠吠えに耳を澄ませる、感動的なシーンも用意されていますからね。

 

クィアな解釈>

本作が「ガールミーツガールものとして最高!」という言い方は散々してきましたが、もっと直接的に、性的マイノリティのあり方を描いた「クィアな」作品として読み解くことも十分に可能だなと改めて思いました。例えば「ウルフウォーカーになる」ことを「性的マイノリティとしての自分を解放すること」のメタファーとして読み解くのも全然アリだなって。

まず本作における人間社会は(17世紀という時代背景もありますが)家父長制や男女差別、性的な規範にがんじがらめになった世界として描かれます。これは直接的には、女の子である主人公ロビンへの抑圧と、そこからの解放について効果的に描くための舞台装置でもある。同時に、女性への抑圧と性的マイノリティへの抑圧が、今も世界中で常に連動していることを考えれば、本作の人間社会を「性的マイノリティにとって抑圧的な社会」として読み替えることもできる。

本作の登場人物のセクシュアリティは明示されないが、(カトリック的な宗教観が支配する)極めて保守的な世界で、「オオカミに変身すること」をロビンが家族にさえ打ち明けられずに苦しむ姿は、まさに自分の真の姿を周囲に明かせずに辛い思いをしている現実の性的マイノリティの人々を強く想起させます。

だからこそ「オオカミになって森を駆ける」ことを「自分のクィア性を解放させる」という清々しく感動的なシーンとして見ることもできる。あるいはもっと直接的に、メーヴとロビンの間にロマンス的な意味での愛情が芽生える兆しを見出すことも全然可能だな、と繰り返し観て改めて思いました。実際もし2人が異性なら(当初の予定通りボーイミーツガールだったら)たとえ起きた出来事がほぼ同じでも、ごく自然にロマンスとして解釈する人が多そうですからね。

付け加えれば、ロビンの父もまた家父長システムに縛られて苦しみながらも、娘がそこから逸脱する(=檻に入れられる)ことを恐れていたが、ロビンに「私たちは今も檻の中にいる」と告げられたことで、世界の歪さに気づく。そして彼自身もウルフウォーカーになることで、自分を苦しめていた支配から解放される…といったプロセスをしっかり描いているんですよね。「動物の解放」「女性の解放」「性的マイノリティの解放」…と様々な「解放」の解釈が可能な作品であることはすでに語った通りですが、「男性の解放」を描く映画としての意義も大いにあるなと思います。

他に有名どころだと『アナと雪の女王』のエルサは多くの観客にクィア的なキャラ解釈をされているし、最近だとピクサーの『あの夏のルカ』も同様の読み解きがされているし、「変身もの」「能力もの」をクィア解釈することはある種の王道とも言える。ただ『ウルフウォーカー』は家父長制に支配された人間社会の抑圧性をきっちり描いている点で、さらに一段進んだ解釈ができるよなと改めて思いました。

辛い余談ですが、ちょうど上映会のその日にアメリカで「ローvsウェイド」判決が覆されて、女性の自己決定権が半世紀くらい後退する運びとなりました(日本も変に追随しそうでマジでイヤだな)。これと連動して性的マイノリティの権利などもさらなる危機に陥ることが予想され、暗澹たる気持ちにもなるんですが、だからこそ心あるクリエイターは社会の負の部分をも鋭く見据えて、『ウルフウォーカー』のような素晴らしい作品を日々作っているんだろうなとも思います。ゆえに応援したくなるし、ぜひ色々な立場の人が観て、様々な形でエンパワメントされてくれることを、本作の大ファンとしては願うばかりです。

 

まだまだ無限に語れるんですが、とりあえずおしまい。昨日出た「ケルト3部作」ブルーレイBOXも豪華ですごいのでチェック!

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なお『ウルフウォーカー』を現状いちばん気軽に観られる手段はAppleTV+に入っちゃうことです。月700円とかでサブスクとしては安いし、クオリティコントロールが死ぬほど厳しいためか他のドラマとかも異様なほど面白いので加入して損はないです。みよう(直球)

tv.apple.com