- 先日見た映画『デッドプール』の感想です。TOHOシネマズ日本橋、1100円(映画の日)。予想通りグロとメタと下ネタにあふれたパンキッシュな映画で、それでいて意外なほどまっとうな倫理観と爽快感があって、たいへん楽しめました。一応ネタバレに注意しつつ語っていこうと思います。特にネタバレ云々みたいな映画ではない気もしますが…(←こういうのもネタバレかな…)。
- アメコミ界で最も型破りなヒーローとして、おもにマニアックな層を中心に根強い人気を保ってきたコミック『デッドプール』の、初の本格実写化です。すでに世界中で大ヒットしているようで、喜ばしいことですね。日本での公開は大幅に遅れてしまいましたが、宣伝担当の真摯で楽しい仕事っぷりも話題になりましたし、この調子で売れ続けて欲しいです。
- このヒーローの何がそんなに特殊かというと、なんといってもそのキャラクター造形の強烈さにあります。終始ふざけた冗談ばっかりかましている性格とか、不死身の肉体再生能力とか、正義なんて別にどうでもいいという自己中っぷりとか、パンツをかぶってるような変質者っぽい外見とか、色々と変わった特徴の多い、とにかく「濃い」ヒーローなのです。
- その中でも一番ユニークな特徴をあげると、演劇用語で言う「第四の壁」をガンガン破ってくるキャラクターなんですね。なんと「自分が漫画の登場人物であること」を理解しており、いきなり読者に話しかけてきたり、いわゆる「楽屋ネタ」を連発してきたり、非常にメタフィクション的な要素の強いヒーローなわけです。作品の枠組みをぶっ壊すのも大得意で、突然スパイダーマンとのコラボを始めたりもしていました。今読んでいる原作漫画『モンキー・ビジネス』では開口一番「ようスパイディ!『アメイジング・スパイダーマン』611話以来だな!」とか、ひどいメタ発言をかましていましたね…。
- そうしたとんでもない個性が災いして(?)、そのコアな人気にもかかわらず、きわめて映像化の難しい作品でした。これまで何度か「X-MEN」シリーズ等にチョイ役で登場したりはしていたものの、原作の原型をとどめない改変っぷりにファンからは非難轟々だったそうで…。だからこそ今回のデップー初の単発映画には、世界中のファンから大きな期待が寄せられていたようです(売り上げ的には全然期待されてなかったみたいですが)。
- 開幕早々のオープニングクレジットからして、もう良い意味で「めちゃくちゃやるなぁ…」と呆れてしまいます。暴力アクションシーンを(ザック・スナイダー風の)3Dの静止画っぽく写した映像は普通にカッコイイんですが、それに合わせて出てくる文字列がすごい。普通こういうのって役者や監督の名前が順番にクレジットされるわけですが、本作では名前を出すことなく、重要な役柄をスッゴイ適当なキャッチフレーズで紹介してくれるのです。
- たとえば主人公、ヒロイン、悪役を演じる俳優たちがそれぞれ「GOD'S PERFECT IDIOT(神の作りし完璧なる間抜け)」「A HOT CHICK(色っぽい女)」「BRITISH VILLAIN(イギリスの悪者)」などと皮肉たっぷりに表現されているのが笑えます。他の役者も「MOODY TEEN(不機嫌な10代)」はまだしも「COMEDY RELIEF(お笑い担当)」なんてそのまんまですし、「CGI CHARACTER(CGIキャラクター)」に至っては身も蓋もなさすぎて爆笑です。初見だと何がなにやらですが、映画を観た後にもう一回チェックすると「これはアイツのことだな」とニヤリとできるはず(YouTubeでOPだけ見られますよ)。
- もうこのOPが作品を見事に象徴していると思いますし、全編にわたって大体こんなノリで一貫しています。身も蓋もないドライさと殺伐としたユーモアに満ちていて、ものすごい密度のセリフの応酬も見所のひとつですね。冒頭のタクシー運転手(インド系)との物騒な会話からして、「こいつは普通のヒーローとはワケが違うぞ」ということが即座に伝わるようになっています。
- その後に突如として巻き起こる高速道路でのバトルも迫力が凄かった。「銃弾はあと12発だ、さぁ観客のみんなも一緒に数えてみよう」みたいなメタメタしい台詞も織り交ぜつつ、次々と悪人をぶっ殺していくデップーさん。銃弾で開けられた穴が即座に塞がっていく様子など、もはやヒーローというよりは普通にモンスターの領域ですが、迷いなくバンバン悪を撃っていく姿はやっぱり痛快です。
- 話が進んで行く構図も、観客を飽きさせないように工夫がされている。一回ド派手な戦いのシークエンスを見せておいて、そこから過去にさかのぼってデッドプールがいかにして生まれたのかということを説明していき、ヒロインのヴァネッサとの恋愛模様も描きつつ、その過去エピソードが進むともう一度現在に…というような作りになっています。ちょっとややこしいですが、実際に見てみるとしっかり明快で混乱させられることはありませんし、ノンストップでラストバトルまで連れて行ってもらえるような感覚でした。
- 今回の仲間である(X-MEN組の)2人にもそれぞれ魅力がありました。「不機嫌な10代」ことネガソニックさんと「CGIキャラクター」ことコロッサスさんですね。ネガソニックさんは自分の体を爆発炎上させるという物騒すぎる能力をもち、スポーツ刈りで目つきも悪い、恐ろしげな(でもどこか可愛らしさもある)女の子です。コロッサスさんはガチガチの鋼の肉体を持つ心優しい大男で、デッドプールをなんとか「X-MEN」に勧誘しようと苦心しています。どっちもまだほとんど世間では知られていないようなマニアックなキャラですが、今回のデップーとの絡みでファンが増えたでしょうし、今後の活躍が期待できそうですね。
- 荒くれ者が集まるバーの店長のウィーゼルという男も良い味出してました。顔が焼けただれてしまったウェイドを見て、慰めるどころか「アボカドが古くて腐ったアボカドとセックスして生まれたみたいな顔だ」みたいなひどすぎるセリフを投げ付けるくだりとか最高でしたね。(でもこのセリフのおかげで湿っぽさはかなり薄れました…。)クライマックスのバトル手前で、「俺も一緒に行ったほうがいいんだろうな…」と言い出して「おっ付いてくるのか」と一瞬思わせて「でも行きたくない、すまんな」というところもガクッとなって笑えましたね。さすが「コメディリリーフ」とOPでクレジットされただけのことはあります(この人だよね?)。
- 次々にぶち込まれる映画ネタの数々もそこまでマニアックというほどではなかったので、ある程度の映画好きだったらニヤリとできるのではないでしょうか。「96時間」ネタとか「127時間」ネタとか「エイリアン3」ネタとか、ちゃんとタイトルや主演男優をアナウンスしてくれますし、親切設計です。
- 映画ネタを生かしたド直球にメタなギャグも多くて楽しかった。デッドプールが同居人のアルおばあちゃんに、「しょせんこの世は見た目がすべてなのさ、ライアン・レイノルズが演技で今の地位を築いたと思うか?」とか愚痴をこぼすシーンとか最高でしたね(お前がライアン・レイノルズだろ!!)。 他にも様々な「第4の壁」を超えてくるようなシーンがあって(カメラを動かすところとか)、とても面白かった。
- ただ個人的に、メタなネタは期待が一番大きかった要素でもあったので、もっと無茶苦茶にハッチャケてくれてもよかった気もするんですよね。「第4の壁を越える」的な演出自体は、正直なところ(特に洋画や海外ドラマでは)すでに目新しいものではありませんし…。もっと『デッドプール』ならではの「ここまでやっていいのか!?」という、物語の構造をぶち壊しかねないような仕掛けがあったら良かったな〜とは少し感じました。
- また、やっぱりデッドプールの魅力って(詳しくは知らないんですが)ある種の底の見えない感じというか、他のヒーロー達が守らざるを得ないルールを平気で破ってくるふてぶてしさとか、そういう底知れなさなんだろうな、とイメージしていたんですよね。なので一作目でいきなり「ビギニング」というか「オリジン」をやったことで、ある意味でキャラクターの「底」を見せてしまったことが、ややもったいないような気がしました。そのぶん、デップーというキャラの親しみやすさは十二分に浸透したと思うんですけどね。
- とはいえ、あくまで今回の映画は記念すべき第1作目なわけで、今回の大ヒットで次回作は間違いなく予算が増えてもっと豪華になるでしょうし、次はあらゆる意味でもっともっと「大暴れ」してあちこちに甚大な迷惑をかけるデッドプールさんが見られるだろうと確信しています。そんなわけで、日本でもバカ売れしてほしいと心底思いますね。ヒロインや悪役についても全然まだ書き足りないですが、ちょっと長すぎるのでここらで一度終わります…。もう一回くらい見るかも(次はより過激と評判の吹き替えで観たい)。それでは。