沼の見える街

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劇場版『響け!ユーフォニアム』感想

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  • 先日やっとこさ見た劇場版『響け!ユーフォニアム  〜北宇治高校吹奏楽部へようこそ』の感想です。2015年の、というより今世紀を代表すると言っても過言ではない大傑作アニメ『響け!ユーフォニアム』、その全13話を109分にまとめた総集編ですね。まさかの映画化が発表されて以来、有志のファン仲間と一緒にカウントダウン絵(や漫画)を描いたりしながら、公開を全力で楽しみにしていました。
  • とはいえその一方で、そうは言っても総集編だしな…時間も足りないだろうし、無理が生じる部分もあるかも…とか心配な点もあったのは事実です。しかしいざ観てみると、意外なほどまっとうに映画版『ユーフォ』として成立していて、良い意味で驚かされましたね。爽やかな感動を抱いて劇場を後にすることができました。
  • 今回の劇場版、良かったところは色々あるんですが、映画化した最大の意義をひとつ挙げるなら、何と言っても映画館の音響で劇中の音楽を改めて体感できたことです。TV版を見ている時から「このハイクオリティな演奏を映画館で聴けたらいいのにな〜」とか薄ぼんやり思っていたのですが、当時はまさか実現するとは想像もしていませんでした。久美子たちの演奏が、体の芯に響くような大音量と高音質で味わえる…。『ユーフォ』ファンとしては、それだけで劇場に足を運ぶ価値があると思いますね。
  • 特に今回の映画で大きな山場となる曲が、サンライズ・フェスティバルで演奏された『RYDEEN』です。TV版と違ってフルバージョンでの演奏となっており、新しいシーンも大幅に追加されています。北宇治高校が公の場で力を合わせて、初めてひとつのことを成し遂げるという中盤のクライマックスですから、ここを「盛った」のは大正解でしょう。音響の迫力と作画の見事さが相まってとても華やかなシーンになっていて、まさに「劇場版」ならではのゴージャス感がありました。
  • 音楽をガラッと変えてきたのもけっこうな驚きでした。いわゆる名シーン、たとえば8話の大吉山のシーンでは「意識の目覚め」が、11話のオーディション決着のシーンでは「重なる心」が当然使われるものかと思ってたのですが、新曲に差し替えられていてけっこうビックリしました。
  • まぁ場面ごとに細かい省略がある以上、同じ曲を使っていてはタイミングにズレが出てしまいますからね。『ユーフォ』はBGMの盛り上がるタイミングとキャラクターの感情の波の「一致」にかなり気を使ってる作品なので、劇場版をやるからには専用の新曲を作ったほうがいい!という心意気だったのでしょう。(私含め)元の曲が大好きだった人は少し残念だったかもですが、また新しい雰囲気での『ユーフォ』語り直しという感じになっていて、新鮮で良かったと思います。
  • もうひとつ大きな変更点として、今回はセリフが全て録り直しとなっています。「よりアニメっぽくなく」という音響からの指示があり、全体的にはリアル寄りで、声の抑揚も控えめにしてあるそうです。そのためTV版から「明らかに変わった!」とすぐ気付けるような箇所は少なかったと思いますが、(予告編にも使われていた)終盤の久美子の疾走シーンでは非常に大きな変化がありました。
  • 「うまくなりたい うまくなりたい うまくなりたい!」と心の中で叫びながら夜の街を駆ける久美子。『響け!ユーフォニアム』全体のハイライトともいうべき名シーンですが、今回の劇場版だと「うまくなりたい」のセリフが、より切実で絞り出すような発声になってましたね。「ウオオォォォーーー!」という熱血感が3割増しくらいになっていた気がします。さらにそこへ、久美子の荒い呼吸音が別録りで重ねられていて、「息づかい」が大きく強調されていました。
  • パンフレットの対談で、『響け!ユーフォニアム』という作品を漢字一文字で表すと何か?という質問があったんですが、演出の山田尚子さんが「管(くだ)」と答えていて、「なるほど…!」と膝を打つ思いでした。『ユーフォ』は吹奏楽という「息」の芸術を扱ったアニメであり、実際、当初から「呼吸」と「息づかい」という観点のアプローチがされていたそうです。(ED曲『トゥッティ!』のキーフレーズも「息を合わせて」ですしね。)
  • 「管(くだ)」というのはもちろん「管楽器」のことでもあるわけですが、人間にも気管という空気の「管」はあるわけで、人もまたひとつの楽器である…というスタンスが本作ではとられていると思います。『ユーフォ』では楽器と人間がある種「平等」に描かれているというか、どちらも同じ「空気の通り道」としてキラキラとした輝きを伴って描写されていて、それがこのアニメに他とは異なる凛とした美しさをもたらしているわけですよね。
  • なので今回「うまくなりたい」のシーンで久美子の荒ぶる「息」が強調されていたのは、「呼吸」という『ユーフォ』の原点に立ち戻った結果だと言えるかもしれません。人間もまた「管(くだ)」であり、息によって音を出し、自分の中の想いを表現する。久美子という「管」が、自分の中の「うまくなりたい」という熱い想いを「息」を介してしぼり出すことで、ユーフォという「管」とさらに深く一体となろうとしている…。あのシーンには久美子の内面の変化を表す上で、そんな意味合いも込められていたのかもな、と改めて考えたりしました。
  • そんな感じで、「久美子の成長」というひとつの物語としては、今回の劇場版はむしろTV版よりもわかりやすくなっていたと思います。とはいえ本作、なんといっても13話もあるTV放映版を109分に圧縮した総集編ですから、どうしたって色々なシーンの省略はありました。あくまで「久美子と麗奈の関係」を中心とした構成にしたようで、その本筋に直接かかわってこないキャラクターの出番はかなり削られていましたね。正直「あそこカットか〜、残念…」と思った箇所も少なくなかったです(それだけ『ユーフォ』という物語に「捨てシーン」がないということですが)。
  • 葉月ちゃん、サファイアちゃんといったメインキャラの出番も8割がたカットされて「友人Aと友人B」みたいになってましたし、夏紀先輩も今回の映画版からはその女神めいた魅力が伝わりきらないでしょうし、葵先輩なんて存在自体が省略されていましたからね…(TV版7話は名エピソードですが、物語全体へのアンチテーゼとしての性質を帯びているため、劇場版に盛り込むのは確かに厳しい)。
  • 『ユーフォ』は繊細極まりない「群像劇」としての魅力が大きい物語なので、時間の制約でこれらの秀逸な脇キャラの掘り下げができないというのは少しもったいないなぁという気もします。(個人的には「まどマギ」や「進撃」みたいに前後編の総集編でも全然よかったんですけどね。さすがに色々難しいか…。)
  • まぁこうした省略はファンとしてはたしかに残念なんですが、それでも本作の編集の上手さには特筆するべきものがあったと思います。特にサンフェス以降のテンポ感は素晴らしく、ほとんど違和感を覚えませんでした。時間制限が厳しい以上、中途半端に色々なシーンや人物を見せていって散漫な印象になるよりも、焦点をこの二人に絞って『ユーフォ』の核心をしっかりと見せていく、という判断は正解だったんじゃないかなと思いますね。
  • そして今回の映画化に当たって、むしろTV版よりもおいしい役回りだったのでは…?という脇キャラが一人だけいます。何を隠そう、我らが「デカリボン」こと吉川優子さんです。本来なら優子は、葉月やサファイアよりもさらにサブ的な立ち位置のキャラなわけですが、「久美子と麗奈の関係の変化」を軸とした劇場版では10話と11話をガッツリ描かざるをえないこともあり、そこに非常に深く関わってくる優子も必然的にクローズアップされる…という寸法ですね。これぞ役得って奴だぜ!(違う)
  • さらに「おお!!」とテンションが上がりまくったのは、なぜか優子まわりだけ追加カットが妙に多いんですよね。まずは、TV版でいう10話の後、麗奈とサシで会話をする直前、早朝の音楽室でのひと時が追加されていました。特に目立ったセリフがあるわけではないんですが、オーボエの鎧塚さんとの間に意味深な沈黙が走ったりして、なかなか興味深いシーンでした。(ちなみに鎧塚さんは二期で重要になってくるキャラだそうな。優子と仲良しで、しかも百合属性だとか…。ヤバイですね。)
  • 続く麗奈との会話の場面でも、「わざと負けろって言うんですか…?」と麗奈に問い詰められた優子が、一瞬「うぅ…」みたいな苦悶の表情を浮かべるシーンが挿入されていて、あの時の優子の複雑な心情がいっそう鮮烈になっていたと思います。夏紀との下駄箱での会話がカットされたのは残念でしたが、そのへんの葛藤の代わりとしてこれらのシーンが挿入されたのかもしれないですね。愛されてんな、デカリボン…。
  • もう何度も言っていることですが、優子は『響け!ユーフォニアム』という作品の美点を最もよく象徴しているキャラだと思っていまして…。いかにも記号的なサブキャラで、一見ミーハーな嫌な奴で、主人公たちの行く手を阻むための「障壁」にすぎないのかと思いきや、終盤、驚くほど丁寧かつ自然にその心理が描写される。それによって『ユーフォ』という物語全体に、非常に深い奥行きが与えられることとなる…。優子が実質的な主役だといえる10話と11話は何度見ても涙ぐんでしまいますし、紛うことなき「神回」だと思いますね(まぁ後半は全部神回ですが…)。
  • そんなわけで群像劇としての『響け!ユーフォニアム』の面白さを考える際、優子の描写は決定的に重要です(今後この種の物語を作るにあたって、ひとつの指針となるようなキャラクターだとさえ思います)。先ほど色々な人物の描写が不足してるのはもったいないな〜と書いたんですが、優子の心理をより丁寧に描くことで、群像劇としての魅力もしっかり打ち出せていたんじゃないかな、とも思うんですよね。さすがぼくらのデカリボン!二期での活躍も期待してるぜ。羽ばたけ!!
  • とはいえ、やはりこの劇場版だけを観て終わりにするのはもったいないと感じるので、TV版を未見の方はぜひそちらもフルで見てみてほしいですね…。たった13話ですし。オススメする鑑賞の順番はTV版→劇場版ですが、劇場版から見ちゃっても別に良いんじゃないかなと思います。別にネタバレがどうこうみたいな話でもないですしね…(むしろ大筋を知ってからTV版を見るのも面白いかも)。スクリーンで『ユーフォ』世界が味わえるのは今だけですし、迷っているのならとりあえず劇場に行ってみてはいかがでしょう。
  • まだまだ語り足りませんが、さすがに長すぎるのでこの辺で終わります。ほとんど久美子とデカリボンの話しかしてないのに4400字超えか…(これでも削ったんですが)。とにかく『響け!ユーフォニアム』、マジに時代を代表するような物凄い傑作だと思いますので、リアルタイムで立ち会えたことに感謝しつつ、今後も語っていきたいと思います。二期も死ぬほど楽しみです。
  • 映画やアニメが好きで、こんな辺境のブログを読んでくださってるような方々はもうみんな『ユーフォ』見ればいいじゃん!と思いますよホント。絶対好きになるに決まってますから!!(断言)…そしてよろしければ、私や私のユーフォ仲間と一緒に楽しくユーフォ談義をしましょうね…。それではまた。