沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

『イーストウィックの魔女たち』観た。

  • ジョージ・ミラー監督の映画『イーストウィックの魔女たち』をDVDで観ました。マッドマックスFRにどハマりした者の務めとして(?)、ミラー監督の過去の作品は全てチェックせねば…と思い立ち、このところ『ベイブ』や『ハッピーフィート』などを立て続けに観てたんですが、その流れで今回は87年の『イーストウィックの魔女たち』をチェックしてみました。
  • かなり奇妙な雰囲気の映画ではありますが、「さすがはマッドマックスFRを撮ったミラー監督だ」と感じられるところも沢山あって、とても面白かったです。マッドマックスFRが好きだった人は確実に気にいると思いますよ。
  • ざっくりあらすじを説明すると、郊外の街でひっそりと暮らす3姉妹(独身)のもとに、ジャック・ニコルソン演じる怪しい金持ち男・デイルが現れます。このデイルがまた超うさんくさいんですが、同時に妙な魅力と色香を放つ人物でもあって、3姉妹を次々と篭絡していくんですね。
  • しかしある時ひょんなことから街に恐ろしい出来事が起こり、3姉妹はその原因であるデイルを警戒していくことになります。そこから彼女たち3人vsデイルの戦いが幕を開けていき…!?というお話です。
  • マッドマックスFRに関する議論で避けては通れないのが、フェミニズム的なメッセージの強さです。ジョージ・ミラーは、イモータン・ジョーに抑圧された5人の妻たちを描こうとする上で、わざわざ著名なフェミニズム研究家に協力を仰いでまで描写の正確さにこだわり抜きました。銃器や車を描く上で専門家のチェックが必要であるのと同じように、「虐げられた女性達」を描くためにもプロによる監修があるべきだ、とミラー監督は考えたのです。(さすが。)
  • そしてこれが重要なことですが、マッドマックスFRにおけるフェミニズム描写は全然「とってつけた」感じがしないですよね。「なんか今フェミニズムって流行ってるし、一応入れとくと受けがいいんじゃね?」的な安っぽさを全く感じさせない。もちろん助言をした研究者の功績も非常に大きいのでしょうが、なんといってもフェミニズム的な思想が、ジョージ・ミラー監督にとって一貫して大切なテーマだったからというのが最大の理由でしょう。そのことが『イーストウィックの魔女たち』を見ると改めてよくわかります。
  • とはいえ、四角四面の押し付けがましい映画では全くありません。女性を妙に神格化したり、汚れなき存在として扱ったり、そういうこともありません。仕事がうまくいっていなかったり、離婚した寂しさを酒で紛らわせたり、下ネタトークで夜通し盛り上がったり…。そういうちょっとダメっぽい感じもある、あくまで等身大の女性として3姉妹が描かれていて、そこが凄く好きでした。
  • その上で「畏怖すべき」何かを女性は持っているんだ、だからリスペクトしようぜ…という公平なスタンスを感じます。この姿勢こそが、のちの「We Are Not Things」という、マッドマックスFRを最も象徴的に表すメッセージへと繋がっていくのでしょう。
  • そして3人を翻弄するデイルが非常に不気味で強烈なキャラクターなんですよね。それでも「こいつに惹きつけられる気持ち、なんかわかるな…」とさえ思ってしまう。3人の精神的な隙をついて彼女たちを次々「モノにしていく」過程は、「クソ野郎だな!」と思いつつも少し感嘆してしまうほどです。
  • しかし前半こそ余裕綽々で振舞っているデイルですが、終盤にいくにつれてどんどん化けの皮が剥がれていきます。この様子が可笑しくも悲しくて、ジョージ・ミラーが一貫してもっている、男性主義的な「マッチョさ」に対する批判的(嘲笑的?)な視点を感じさせますね。(ちなみにデイルはイモータン・ジョーの一種の原型だとも言えるんじゃないでしょうか。)3姉妹vsデイルのラストバトルは不気味で滑稽ながらも非常に盛り上がるので、とにかく必見です。
  • ジョン・ウィリアムズの手がけた音楽も凄く良かったり、色々語りたいのですが、眠いのでこの辺で終わります。おなじくミラー監督の『ロレンツォのオイル』も見なければ…。では。