沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

『同級生』感想

  • アニメーション映画『同級生』を観ました。TOHOシネマズ、1500円(特別料金)。かなり期待していたのですが、予想をはるかに超える素晴らしい作品だと感じました。現時点での今年のベストです。
  • 中村明日美子のBL漫画『同級生』をアニメ化した作品で、正反対の性格をした二人の男子高校生の恋愛模様が描かれています。私はこの作品、そもそも公開されること自体が画期的な出来事だと思っていて、しばらく前から密かに楽しみにしてました。同性愛を堂々とメインテーマに据えたエンタメ作品が、日本でこれほどの規模で公開されたのって、マジで初めてじゃないですかね。探せばあるのかもしれませんが、前例が全く思いつきません。
  • ただ私は百合はかなり好きなのですが、BLは(興味こそあれ)ほとんど門外漢だったので、『同級生』も予告を見た限りでは「素敵そうな映画だけど、ちゃんと楽しめるのかな…」と少し心配していました。しかし蓋を開けてみればまったくの杞憂というか、開始数分でグッと物語に引きずり込まれ、60分間途切れることなく二人の行く末を見守ることになりました。
  • おもな登場人物はチャラめの音楽好き男子・草壁光(声:神谷浩史)と、秀才のメガネ男子・佐条利人(声:野島健児)の二人です。まったく正反対の性格をしているのですが、合唱の練習中に起きたとある出来事を通じて互いを知っていき、だんだん惹かれあっていくことになります。
  • この過程が本当に自然でキラキラしていて、たいへん素晴らしいんですよね…。映画は大きく3つの「季節(夏・秋・次の夏)」に別れた構成になっていて、草壁の視点と佐条の視点が順番に移り変わります。「草壁からみた佐条」「佐条からみた草壁」の魅力が、それぞれしっかりとした説得力をもって描かれるので、お互いの距離がどんどん縮まっていくことにスンナリ納得がいくんですよね。
  • ひょんなことから二人が突然ちゅーしてしまう場面などは、BL的な文脈に慣れていないと少し戸惑うかもしれません(私も「おお!?」と思った)。でもその「戸惑い」こそが一種の映画的な飛躍を生んでいるとも言えるんですよね。何かとんでもないことが突然起こって、決定的な変化が訪れてしまった…!というようなインパクトを、(私のような)BL素人のほうがむしろよく味わえるかもしれません。
  • この映画は確かに「BL」作品なのですが、二人が「同性愛者(ゲイ)」であることはあまり強調されていなかったと思います。ただお互いが好きで、それは外から見たら「ゲイのカップル」ということなるのかもしれないけど、二人としてはただ「好きな人が好き」というだけなんだ…と。文章で書いてもよくわからないと思いますが、映画を見るとハッキリ伝わってくるはずです。(最近感想を書いた漫画『同居人の美少女がレズビアンだった件。』の中の「私は私」という考えにも通じています。)
  • 主役の二人はもちろん好きですが、個人的に好きだったのは、草壁の友だちの男の子ですかね。草壁と佐条の関係にうっすらと気づいていて、ちょっと引いた視点で「おまえらってもしかしてさぁ…」みたいなことをたまに草壁に言ったりしてくる。これはひょっとすると後半で、この友だちにドン引きされちゃうみたいな展開もあるのかな〜…とハラハラしていたんですが、予想を気持ちの良い方向に裏切ってくれて、そこもグッときましたね。温泉のシーン、とても良かったです。
  • クライマックス(といっても静かなものですが)に、タイトルにもなっている「同級生」というキーワードを草壁が口にするシーンがあるんですが、そこも本当に感動的でした。佐条の悩みに対するシンプルで率直な、でも確かなアンサーになっていて、思わず涙ぐんでしまいましたね。そこから終盤へつながっていき、未来を感じさせる爽やかな終わり方をするのも素敵でした。
  • そんな感じに私としては大いにオススメしたいところなんですが、まぁなんといってもBL映画なので、どうにも受け付けないという人もいるかもしれません。予告編の時点で「うぅ」となっちゃう人も多いかもしれないし…。でもやっぱり近年の日本の映画で、これほど繊細に美しく瑞々しいタッチで「恋愛」をちゃんと描いた作品はないと思うので、偏見を捨てて、いや偏見をもったままでもいいので、とにかく色々な人に見て欲しいなと思います。
  • 監督の中村章子さんの線の美しさとか、声の演技や音楽の見事さとか、もっと語りたいのですが、まだ公開3日目ですし、あんまりネタバレとかするのも野暮かなと思うので、とりあえず気になっている人は是非見てみてください…。細かい良かったところとか、Twitterなどで引き続き語っていくと思います。では眠いのでこれで。