- トッド・ヘインズ監督の映画『キャロル』の感想です。TOHOシネマズ日本橋、1100円。美しくてクラシカルで大変良い感じの百合映画でしたね…。
- カンヌで絶賛されたり、アカデミー賞にノミネートされたこともあって、色々注目されている作品なんですが、私はおもに百合的な興味から見に行きました(直球)。『ブルージャスミン』であまりに痛々しい元セレブの女性を怪演して賞賛されたケイト・ブランシェットと、『ドラゴンタトゥーの女』で一躍有名になった美女ルーニー・マーラという、そうそう思いつかない凄いカップリングですからね…。百合好きとしてはチェックしないわけにはいきません。
- 何年か前に『アデル、ブルーは熱い色』というフランス映画が話題になりましたよね。いまや世界的な超有名女優となって007にも出たレア・セドゥの出世作で、こちらも女性同士の恋愛を真正面から描き切った強烈な作品でした。女性の同性愛を描いた映画は(『アデル』のように絶大な支持を受けているものもあるとはいえ)まだまだ欧米でもメジャーとは言い難いようですが、そんな中で『キャロル』のような作品がアメリカから出てきて、批評的にも非常に高く評価されていることは意義深いですね。
- テーマ的なことはいったんおいても、画面全体に格調高い雰囲気が満ちていて、見ているだけで眼福というか、とにかく気持ちよくなってきます。列車の音だけが響き渡る冒頭の暗闇のシーンから、映画の舞台である50年代アメリカへ一気に引き込まれました。そこから過去へ飛んで、二人が「列車のオモチャ」をきっかけにして出会う…という流れが綺麗です。
- このオモチャ売り場での会話もとても良いんですよね…。なんてことはない短い会話なんですが、テレーズがキャロルに惹きつけられていく過程に強い説得力がある。大女優ケイト・ブランシェットの面目躍如ともいうべきファースト・コンタクトでした。
- それにしてもケイト・ブランシェットはやはり凄い女優さんです。『ブルージャスミン』の痛すぎる元セレブや『シンデレラ』の腹立たしい継母なども当たり役でしたが、今回のケイトはシンプルにカッコよくて、憧れの対象になるのも「むべなるかな」という感じ。とはいえ、彼女にも深刻な事情があることがだんだんわかっていくのですが…。ミステリアスな魅力とタフな気丈さ、そしてその中に包み込まれた脆さを見事に表現していました。
- もちろんテレーズ役のルーニー・マーラも良かったです。当初は『クリムゾン・ピーク』のミア・ワシコウスカがテレーズを演じる予定だったそうですが、急遽マーラに変更になったそうな。ミア版も観てみたい気もしますが、なんとなくマーラの方がケイトとのカップリング的には良かったんじゃないかな、と思います。マーラの少し潔癖すぎるような雰囲気も、テーマとマッチしてますし…。ミアだと途中に出てきた男性ともけっこううまくやっていけそうに見えちゃう気がするんですよね。それに去年は真紅の幽霊屋敷をフラフラするので忙しかったでしょうから(?)。
- テレーズとキャロルのベッドシーンも(『アデル』ほどではないものの)かなりガッツリと撮っていて、えろいというよりは「すごいな…」と思いました。ルーニー・マーラの肉体が本当に美しくて、キャロルが思わず漏らした「My angel, flung out of space...(空から降りてきた私の天使…)」という言葉に深く共感してしまいます。
- テーマ的には『ゴーン・ガール』とも通じるものを感じましたね。こちらはあの作品ほど物騒ではありません(血だまりも出てきません)が、キャロルやテレーズを押しつぶしていたのは、男性社会からの「女性」に対する目に見えない強い抑圧でした。そこから手を取り合って逃げ出そうとする彼女たちの姿には、おぼろげな不安とともに爽快感を感じずにはいられません。二人が乗った車が走りだすシーンは、音楽の良さも相まって大変グッときました。
- 衣装や美術などのビジュアル面も本当に美麗で、うっとりさせられます。50年代アメリカの「シック&派手」とでも呼ぶべきオシャレ服をしっかり着こなすケイトも凄いのですが、個人的にはマーラのモコモコした装いがめっちゃ可愛かったですね。あのチェックのマフラーとかすごく良い…。ほしい…。
- (パンフレットで芝山幹郎さんが書いていたように)20世紀アメリカを代表する画家のエドワード・ホッパーを想起させる、暖かくもあり、どこか寂しくもあるタッチの色彩を放つ画面が多いのも素敵でしたね。本作の(2015年の映画とは思えないような)クラシカルな雰囲気の醸成に、光の表現は大いに貢献していたと思います。
- 思いつくままに好きなポイントをダラっと箇条書きしてみましたが、今日はくたびれたので終わります。百合なだけではなくホントに本格的な良い映画なので、百合好きのみならず映画ファンはみんな観たらいいと思いますよ。パトリシア・ハイスミスが偽名で書いたという原作小説も読んでみようかな…。ではまた。