沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

『弟の夫』読んだ。

  • 田亀源五郎『弟の夫』1巻と2巻を読みました。いろんなところで絶賛されている漫画だけあって、とても良い作品でした。先日の『同居人の美少女が〜』から立て続けに同性愛をテーマにした漫画を読んでいるのですが、なんかマイブームなのかもしれません…。いずれも当事者性の強い作品ですし、マイブームとか言ったら失礼かもですが、肩肘張った漫画ではないので皆さんも気軽な気持ちで読んでみてはいかがでしょう。
  • 『弟の夫』は、シングルファザー・弥一と娘の夏菜のもとに、突然クマのような見た目をしたカナダ人男性が訪れて、一緒に暮らすことになるお話です。彼の名はマイクと言って、なんと弥一の弟の「夫」だったといいます。二人はカナダで同性婚をしたのですが、弥一の弟が亡くなってしまったため、マイクは彼の故郷を訪れることにしたんですね。
  • そんなわけで、弥一と夏菜とマイクの奇妙な共同生活が幕を開けるわけです。このマイクという男性が、非常に良い人なんですよね…。弟が同性愛者だということは知っていたものの、弥一はその「夫」を目の当たりにして最初は動揺を隠せませんでした。しかしなんとなく一緒に暮らし始めるうちに、だんだんマイクの善良さや、ゲイに対して抱いていた偏見、そしてマイクが抱えている悲しみに気づいていく。この過程がとても丁寧に描かれていて、登場人物たちの心境が心に染み渡ってきます。
  • 田亀源五郎といえば有名なゲイ・アートの巨匠ですし、絵柄は(一般向けにマイルドにしてはいるものの)なかなか独特で、テーマや設定もかなり特殊な作品だといえるでしょう。とはいえ、その問題意識の描き方は非常にオーソドックスかつ正攻法なので、メッセージがまっすぐ胸に響いてくるんですよね。おかしな言い方かもですが、とても勉強になります。今時ちょっと珍しいと感じるほどの、すごくまっとうな作劇の漫画だと思う。
  • 娘の夏菜ちゃんのキャラも良いですね。いかんせん子どもなので時にハラハラするような失礼なこともマイクに言ったりするんですが、そういうのもひとつひとつ「なぜいけないのか」と周囲の大人からフォローが入るので、安心して読むことができます。そして何より、子どもならではの「そんなの変!」というような鋭い視点が挟まれることで、社会におけるゲイの立ち位置がはらむ問題点などがふと浮き彫りになったりする。それに対する弥一の苦悩も含めて、全体にとても真摯な視点を感じる、優れた作品です。
  • とはいえ先述したように、堅苦しい(説教くさい)漫画では決してありませんので、気になってる方は読んでみてください。私も3巻が出るのが楽しみです…。今日はこんなところで。