沼の見える街

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『ザ・ウォーク』感想

  • 映画『ザ・ウォーク』観ました。109シネマズ木場、IMAX3D。実話をベースにした、とある綱渡り師による一世一代の「挑戦」を描く映画です。
  • 監督はロバート・ゼメキス。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『フォレスト・ガンプ』で映画の歴史に名を残し、その後も数多くのエンタメ作品を撮っている超有名監督ですね。ただ、ここ最近は大ヒット作や大傑作には恵まれてないよな〜(前作『フライト』は評判良かったけど)…という印象でしたが、しかし今回の『ザ・ウォーク』で久しぶりに「これぞ…!」というものが出てきたと思います。
  • 予告編を見た限り、『ゼログラビティ』的な3D表現に特化したライド型サスペンスとか、『リミット』みたいな場所を限定したワンシチュエーションもののスリラーとか、そういう映画なのかな〜と思ってたんですが、実際はかなり違っていましたね。
  • 大道芸人フィリップ・プティ(ジョセフ・ゴードン・レヴィット)が誕生してから、自らの才能と努力によってだんだん成功を収めていき、ついには究極の「綱渡り」に挑む…。そのサクセス・ストーリーが軽快なテンポで描かれていくという、スリリングながらも楽しいエンタメ作品でした。
  • 予告編で強調されていたような「高所の恐怖」はたしかに重要なポイントなのですが、それだけをゴリ押ししてくる一発ネタ的な映画ではありません。「世界一高い綱渡り」という狂気の沙汰に挑む人間の姿を通じて、普遍的な「挑戦する心」や「創造性」といったものの美しさをしっかりと描いた作品になっていたと思います。
  • 前半は、プティの生まれ故郷・フランスがメインの舞台になります。彼がどのように綱渡りという特殊なパフォーマンスに出会い、演者として成長していくか、そうしたくだりがユーモラスに描かれていて引き込まれました。厳しい師匠とのやりとりも後の伏線になっていて、ベタながらもグッときます。
  • 前半のハイライトは、パリの「とある場所」でプティが綱渡りを行うシーンで、びっくりすると同時に「なるほど、おあつらえ向きの場所だ…!」と納得させられましたね。せっかくならもっと色んなブッとんだ場所での綱渡りも見たかった気もしますが、テンポの良さを優先したのでしょう…。ゴードン・レヴィットの(ちょっとヒネくれた)軽やかな演技も見ものです。

ーー以下(有名な実話が元ネタだから別にいいと思うけど一応)ネタバレ注意ーー

  • 後半は予告編どおり、NYの「ワールドトレードセンター」のスゴイ高い2つのビルの間を綱渡りで横断してやるぜ…!という、プティの常軌を逸した途方もない夢を実現していく物語になります。
  • 当然ながらビル側からの許可が下りるわけもないので、不法侵入をしてゲリラ的に「綱渡り」を決行するしかないわけですが、この過程が一種の「犯罪(ケイパー)もの」として大変に面白いんですよね。(ちょっと頼りないながらも)志を同じくする仲間を集めて、綿密な準備を進めていくというワクワク感は、最近の作品だと『アントマン』にも通じるものがあります。
  • そしてついに決行の日がくるわけですが、ここからの展開はもう言葉で語っても無駄というか、ぜひ大スクリーンでチェックしてみてほしいです。「高低差の表現」という、ある意味で最も「正しい」3Dの使い方によって描かれた、しかし意外とこれまで存在しなかった、未知かつド迫力の映像を満喫することができます。
  • もはや「老匠」と言っていいような大ベテラン監督のゼメキスが、現代の最先端の映像テクノロジーを的確に駆使して、非常にフレッシュな画面を作り上げている…。なんかもう、そのこと自体に尊敬の念を抱いてしまいますね。まさしく「手に汗握る」と言うほかないクライマックスでした…。(一部劇場では手汗用のおしぼりまで配布された模様…。)しかし恐怖というよりは、今までに味わったことのない「崇高さ」のような感覚が心に押し寄せてきます。
  • なお、当時からワールドトレードセンターは「権威」を象徴する建物であり、ニューヨークの人々にもあまり良く思われていませんでした。「のっぺりした不気味で馬鹿でかいだけの、怪物みたいな建物だ」と不愉快に思っていた人も多かったようです。(現にプティも一目見た瞬間「こんなビルで綱渡りなんて無理だ…」と諦めかけたし。)
  • しかしプティが命がけの「綱渡り」に挑戦したことで、NYの人々がワールドトレードセンターに向ける視線も(期せずして)変化していく。不可能を可能にしようとするプティの姿勢によって、むしろビルに対する親しみも増したのかもしれません。そしてラスト、言葉での直接表現はされないものの、ワールドトレードセンターの「その後」を悼むような演出がなされて、これがとても感動的でした。
  • 2001年、自爆テロという行為の標的にワールドトレードセンターが選ばれたのは、あのビルが(外側から見た)アメリカの権威を象徴するものだったからでもあるのでしょう。その認識自体は、ある意味では間違っていません。それでも、「なにも暴力で破壊しなくたって、人間の想像力とチャレンジ精神は、あのビルを乗り越えていくことだってできたはずなのに…」という、作り手たちの深い悲しみと、無言の(しかし強い)抗議をラストシーンから感じました。
  • そういう意味で、面白くて怖いだけではなく、色々なことを考えさせてくれる素晴らしいエンタメ映画でした。できればIMAXをオススメしたいところですが、予告編であれだけ推していた割には意外とやってないんですよねコレが…(新宿ですら少なかったし)。とはいえ3D部分以外にも魅力は多い映画だと思うので、通常の3Dでもいいので覗いてみてください。では眠いのでコレで…。漫画も描こうかな…。