- そんなわけで『ガールズ&パンツァー 劇場版』の感想を書こうと思います(なるべくネタバレなしで)。TOHOシネマズ日本橋、1100円。
- TV版は一切見たことがなかったし、「なんか萌えとミリタリーなんでしょ」くらいの雑な認識しかなかったんですが、最近この劇場版を褒め称える声が各方面から聞こえてきて、さらには「和製マッドマックス」なんていう聞き捨てならない言葉を耳にしたこともあり、「そこまで言うなら見てやろうじゃねーか!」と逆ギレ的に翌日のチケットを取ってしまい、無計画にも丸腰で劇場に繰り出したんですね。そしたらこれが…最高に楽しかったんですよ!!そりゃ絶賛の嵐も吹くわ…!
- 映画を見てから1週間くらい経っちゃったんですが、「せっかくだしTV版も観てから感想書くか」と思ったので、Amazonプライムビデオにちょうどよく入ってた全12話+OVA(アンツィオ戦)をコツコツ見てました。こっちも実に面白かったです。
- 前作を見てみて改めてわかったんですけど、今回の映画版、TV版を知らなくても十分に楽しめると思います。予習してから行くのがもちろん理想ですが、とりあえず映画を見ちゃうのも全然アリかと。本編が始まる前に「TV版のおさらい」もありますので一見さんも安心!(同じ続編でも『叛逆の物語』よりはグッとハードルが低いと思われます…。)
- TV版を軽く説明しておくと、華道や茶道と同じく「戦車道」が「乙女のたしなみ」とされている世界を舞台に、女子高生たちが怒涛の戦車バトルを繰り広げるというお話です。…繰り広げるなよ!といきなり突っ込みたくなりますが、突っ込んでるとキリがないので先に進もうと思います。主人公・西住みほを指揮官とする大洗女子学園「戦車道」チームが全国大会に挑むという、実にクレイジーな王道熱血青春ストーリーなのです。今回の映画版は、TV版の最終話で全国大会が終了した後のエピソードになっています。
- 水島努監督の手掛ける本シリーズ、その最大の見所として、緻密かつダイナミックな戦車アクションがあげられます。戦車道の試合は実弾撃ちまくりのガチバトルであるため、当然ながら戦車がしょっちゅう被弾したり横転したり炎上したり爆発したりするのですが、中にいる女子高生は絶対に死なないので安心です。なぜ死なないかというと、車内が特殊カーボンで覆われているからです。銃弾が降り注ぐ中でハッチから身を乗り出していても、車内の特殊カーボンが守ってくれます。カーボンの力は偉大ですね。突っ込んだら負けです。いっそすがすがしい。
- しかしそんな数々のツッコミをねじ伏せる魅力が本作にはあります。戦車を女子高生が乗り回すという設定こそ素っ頓狂ですが、そこで描かれるのは至極まっとうでストレートな、少女たちの熱い成長譚なのです。(そのギャップがまた一種の狂気を生んでいる気もしますが…。)テーマの異様さもあって、正直なところ見る前は偏見を抱いていたのですが、蓋を開けてみれば熱のこもった快作であり、根強いファンがたくさんいるのも当然だと感じました。
- そして劇場版は、TV版をさらに上回るボルテージをもつド級のエンタメ作品です。冒頭からいきなりド迫力の戦車バトル(TV版の大会終了後のエキジビションマッチ)が始まり、戦車にちっとも興味がない私でもテンションが否応なしに上がってきます。カメラワークも見事で、戦車という造形物をいかに魅力的に見せるかという工夫が随所に凝らされていました。
- いかんせんこの時点では全くの初見だったため、キャラ設定とか人間関係とかは把握しきれませんでしたが、ド派手なアクションの合間に挟まれる女の子たちの小気味いい会話やリアクションによって、見ているうちに大体の人物像がつかめてくる作りになっています。
- 大量のキャラクターが出てくる(66人とか!)にもかかわらず、それぞれがしっかり描き分けられていて、見せ場もちゃんと用意されているため、初見の私でも映画を見終わるころには各キャラへの思い入れが深まっていました。いわんや、TVシリーズからのファンをや…という感じでしょう。TV版をチェックし終えた今、私も必ずもう一度劇場で観たいと思ってます。
- 決して一人一人の描写に長い時間は割けないはずなのに、的確かつ鋭い描写の積み重ねできっちりキャラを立ててくる手腕は、やはり脚本の吉田玲子さんの力によるものが大きいのでしょう。(『けいおん!』で有名な方ですが、映画ファン的には傑作『たまこラブストーリー』が記憶に新しいですね。)中盤の日常(?)パートも楽しかったです。仮校舎での(切羽詰ってはいるものの)楽しそうな生活ぶりとか、みほの闇が垣間見えるボコミュージアムとか、西住姉妹の思い出の美しい情景とか、バトル以外のシーンも見応え十分です。
- そしていよいよ迎えることになるクライマックスのバトルは、なんとこれまで戦った強敵たちが…という王道にもほどがある王道展開!「おっと…俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」とか「ここは俺に任せて先に行け」みたいな、もはやギャグでしか見かけないようなベッタベタな展開を、真正面から照れずにやり切るんですよね、このアニメは…。でもそれこそが「ガルパン」最大の美点だと思います。
- 紋切り型のキャラクターが繰り広げる「ありがち」な場面の数々が、周到な伏線と巧みな演出によって、しっかりと燃える「王道」に昇華されている。例えばカチューシャが成長するエピソードでは、少し前のノンナやまほ達との会話(崇拝と信頼の違い云々)が地味に効いていて、TV版を見ていない私でさえつい涙腺が緩んでしまいました。
- 人間ドラマだけでなく、肝心の戦車バトルももちろん素晴らしい出来栄え。特に終盤の、廃墟と化した遊園地での戦いは圧巻の一言でした。作り手が「戦車にできること」「遊園地でできること」を徹底的に考え抜いて、そのアイディアの限りを「くらえ!!」とばかりに全力でブチ込んでくるので、なんかもう「面白い」を通り越して頭がクラクラしてきて、多幸感が半端ないことになるんですよね…。この感覚こそ、「ガルパンを観にきたと思ったらマッドマックスだった」っていう感想が多い理由だと思います。(他にも「楽器を奏でながら戦車に乗ってる人がいる」とか数多くの共通点があるのですが…。)
- ラスボスとの最終決戦も最高でした。それまでキャッキャと楽しそうだった女の子たちの会話が完全に影を潜め、サインと目線だけでコミュニケーションをはかり出し、戦場に響くのは戦車の走行音と砲声のみというのが渋すぎますね。みほとラスボスとの決着のつけ方はもはや「カッコイイ」としか形容しようがありません。しびれました。ぜひ劇場でご確認ください。
- そろそろ眠いので終わりますが、本作『ガルパン劇場版』、とにかく圧倒的なエンタメ作品であると感じました。最近の日本の娯楽映画で、ここまでクオリティもテンションも高い作品って、ちょっと思い浮かばないですよ…。
- 私もけっこう先入観を持っていたのですが、「萌えとミリタリーを組み合わせただけの、オタクに媚びた安易なアニメでしょ?」とタカをくくって見逃すのは、あまりにもったいないと思うのです。「この作品を作った人は本当に、心の底から戦車が好きなんだな…!」というのがひしひしと伝わってきて、思想や信条の枠を超えて「何かを好きであることの大切さ」という普遍的なテーマが伝わってくる。ミリタリーファンでも何でもない私でさえ、その情熱に心を打たれずにはいられませんでした。さらにエンタメとして抜群に面白いんですから、そりゃ絶賛されるのも当たり前ですよ。必見だと思います。
- ま〜ツッコミどころだらけで穴も多いのは事実ですし、とにかくぶっ飛んだ世界観ゆえ慣れるのに時間がかかるかもしれませんが、少しでも関心のある方は、いっそTV版の予習なんてすっ飛ばして明日にでも劇場にパンツァー・フォー(前進)!してみてはいかがでしょうか。きっと予想を超えて楽しめるはず。私も2回目を観るのが楽しみです。観たらまた何か書きますね。ではまた。