沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

『アントマン』観た!

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  • マーベル原作映画『アントマン』(原題:ANT-MAN)観た。TOHOシネマズ錦糸町、1500円。前評判通り、すごく面白かった。個人的にはマーベルのヒーロー映画でベスト級。まだ公開したばかりなので、なるべくネタバレなしで感想を。
  • ちなみに意外と知られてない気もするけど、本作はMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の系譜に連なる作品。つまり『アベンジャーズ』とかと同じ世界観で、これからこのシリーズを楽しむ上でも『アントマン』は観るべき作品なんだけど、宣伝とかではあんまりこのことを言ってなかったような…?
  • 一応これまでのMCUの流れをざっと説明すると、まず『アイアンマン』から始まって、ハルク、キャプテン・アメリカ、ソーといった個別のヒーロー物を連続で公開し、最後に『アベンジャーズ』で一同を集結させた。ここまでがMCUの第一段階「フェーズ1」。
  • そして現在は「フェーズ2」の段階にある。アベンジャーズで活躍したそれぞれのヒーローの続編が作られ(特に『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』は傑作と名高い)、その締めとして大作『アベンジャーズ2』で再びヒーローが全員集合するという流れでした。その流れからは少し外れるけど、世界観を同じくする2014年の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が大ヒットを記録し、各方面から絶賛されたのは記憶に新しい。
  • そんな超大作ラッシュの「フェーズ2」の大トリをつとめるヒーローが、まさかの『アントマン』だというのが実に趣深い。銀河を股にかける大冒険、揃い踏みオールスター大作と、特大スケールの作品が続いたけど、その次が身長1.5cmの「アントマン」!この極端さが面白い。
  • このヒーロー、私もまったく知らなかったし、アメリカ本国でさえけっこう「誰?」という感じだと思う。というのも本作、むこうではあまり興行的に振るわなかったらしくて、公開週の成績はマーベル映画歴代ワースト2位だったらしい。(余談だがワースト1位は『インクレディブル・ハルク』。主演のエドワード・ノートンがハルク役から追放されたのはそのせいなのかもしれない。でも多分そのおかげで『バードマン』に出られたんだと考えると、人生塞翁が馬というべきか…。)…そんなわけでとにかく地味でマイナーなヒーロー映画だけど、蓋を開けてみれば、見逃すにはあまりに惜しい、素晴らしい作品だった。
  • ストーリーをざっくり説明する。刑務所から出たばかりの元泥棒、スコット・ラングが主人公。可愛い娘がいるんだけど、服役中に妻に離婚されてしまったため滅多に会えない。娘の誕生日パーティに顔を出しても、妻と新しい婚約者(警官)に速攻つまみだされる始末。「信頼が欲しければまずちゃんとした暮らしをして」と妻に言われるが、前科持ちを雇ってくれる働き口などない。追い詰められたスコットは、仲間の誘いに乗ってもう一度泥棒に手を染める決意をする。だが忍び込んだ先で待っていた「あるもの」をきっかけに、スコットは極小ヒーロー「アントマン」としての道を歩み始めることになるのだった…。
  • まずこの主人公のスコット・ラングが本当に魅力的な、哀愁の漂う良いキャラなんですよね〜。そもそも「子持ちバツイチ40代の前科者」が主人公のヒーロー映画とか、斬新すぎるだろっていう話ですよ。それに前科者といってもスコットは決して悪い人間ではなく、むしろ正義感のために「義賊」めいた行動をしたせいで逮捕されてしまったのです。その男気が報われることもなく、結果として待っていたのは、「31アイスクリーム」のバイトさえクビになるような辛い現実だった…というのが、本当にリアルで切ない。「報われてほしい」と素直に思える、厚みのあるキャラクターです。
  • そんなスコットが何だかんだで「アントマン」として活躍することになるんだけど、そこに至るまでの「修行」シーンがすごく楽しいし、わくわくする。そして思ったよりもずっと重要な役を担っていた、アリたち!…うん、「アントマン」だから当然っちゃ当然なのかもしれないけど、けっこうびっくりしました。…例えて言うなら、何も知らずに『スパイダーマン』を見に行ったらスパイダーマンが大量のクモを操り出した、みたいな驚きがあった。いや、すごく斬新で面白いですよ、虫と友達のヒーローなんて。まぁ虫が嫌いな人はキツイかもしれないけど…。
  • キャストもみんな良かったですね。もちろん主演のポール・ラッドの、ハンサムなんだけど何とも締まらないユルい感じも良い味出してるし、名優マイケル・ダグラスも安心の渋い演技で、ヒロインのホープ・ヴァン・ダインも最早イケメンとしか言いようのない格好良さ。
  • 個人的に特筆したいのは、スコットの親友ルイスを演じたマイケル•ペーニャ。最近だと戦車映画『フューリー』にも出てたけど、『エンド・オブ・ウォッチ』でジェイク・ギレンホールと共演した時の印象が特に強いですね。今回は完全にギャグ担当だったけど、ペーニャさん独特のチンピラ感と可愛らしさがすごく良く出ていて、かなり美味しい役回りだったと思う。ラストの「せっかく決めたのにちょっと時間が余っちゃった感」とか、たまらないものがあった。
  • 敵ボスのダレン・クロスを演じるのがコリー・ストールというのも面白いキャスティング! 傑作海外ドラマ『ハウス・オブ・カード』で、ケビン・スペイシー演じる極悪な主人公に翻弄(蹂躙)されていた、可哀想な若い議員を演じていた人ですね。今回のボスも大物というよりはどこか純朴な未熟さを残した、それゆえに危ういという人物造形なので、意外にもぴったりの配役だと思う。けどまさかヒーロー映画の悪ボスになるとはなぁ…確かにちょっとサイコパス感あるかも。悪役としての経験をいっぱい積んで、いつかケビン・スペイシーに逆襲してほしい(?)。
  • そして全然知らなかったんだけど、脚本にエドガー・ライトがガッツリ関わっていたんですね!! あの大傑作ゾンビコメディ『ショーン・オブ・ザ・デッド』をはじめ、『ホット・ファズ』とか『ワールズ・エンド』とか、とにかくキレのあるコメディをたくさん撮っている人。そりゃ面白いはずだわ。本当はこの人が監督も務めるはずだったんだけど、なんだかんだで降板させられちゃったとか。ふーむ…。マーベルヒーローものにしてはセンスが尖りすぎていたのかな…。
  • でもさすがのライト印というべきか、ギャグはひとつ残らずバシッと決まっていた! もう誰もが爆笑するであろう、機関車トーマスがあんなことになる場面を筆頭に、ちょいちょい挟まれる小ネタの数々も最高だった。感動的な場面にうっかり水を差す主人公とか、いわゆる「外しのギャグ」みたいなのもすごく気が利いてる。
  • いかにもな「エドガー・ライト節」として真っ先に思いつくのは、ルイスが伝聞で聞いた仕事のネタをスコットたちに披露する回想シーン。あのシャープさ自体がギャグになっているカット割り、どうしたってライトの過去作を連想しますよね。(訂正:タマフルの映画評で知りましたが、この場面はペイトン・リード監督のアイディアだということでした…思いっきり半可通な発言でお恥ずかしい…。)サイモン・ペッグがあの場面にカメオ出演していても全然違和感ないくらい。今はトム・クルーズといちゃいちゃするのに忙しいから無理か…(?)。
  • そして本作の最大の面白さは、なんといっても「スケールの小ささ」を逆手に取っていることですね。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『アベンジャーズ2』と、「スケールの大きい」話が続いていたからこそ、『アントマン』の「小ささ」はすごく新鮮に映る。
  • 1.5cmという極小の視点から眺めた世界を冒険するスリルや、同じく小さな敵と繰り広げられる猛烈なバトル。そしてたまに視点が引くことで生じる、「結局やってることは小さいんだよな」というクールな笑い。「敵の強さ」や「スケールの大きさ」をインフレさせていく意外にも、創意工夫でいくらでも物語は面白くできるんだという考え方、大好きです!(ジョジョを4部で一回「スケールダウン」させた荒木飛呂彦の発想にもつながると思う。)
  • そして「小ささ」というのは物理的な「サイズ」だけの話ではない。本作の主人公が戦う理由もまた「小さい」。例えばキャプテン・アメリカとは違ってスコットは、結局は自分の大切な人とだとか、限りなく小さいもののために戦う。そんなちっぽけな動機をもったちっぽけな人間は、世界の大きさからすれば限りなく小さい。とくに、金持ちの社長でも、天才科学者でも、北欧神話の神でもない、「子持ちバツイチ40代の前科者」なら尚更(それこそアリのように)小さい。それゆえの苦しみもちゃんと描いて、そのうえで「小さいからって、なめるなよ!」というヒーローなんですよね。そこが『アントマン』の何よりの魅力。次の『キャプテン・アメリカ/シビルウォー』にも出るということなので、ぜひ大活躍して「ビッグ」な連中の度肝を抜いてやってほしいです。
  • 長くなっちゃったのでこの辺で。ホント、誰が見ても「スゴイ面白かった…」と思える良作だと思うので、迷ってる方はぜひ!これが初めてのマーベル映画っていうのも、全然アリだと思います!アリだけに。アリだけに!!…アリーヴェデルチ(さよならだ)!!