- ドウェイン・ジョンソン主演の映画『カリフォルニア・ダウン』(原題:San Andreas)観た。ヒューマントラストシネマ渋谷、1000円。
- 結論から言うと、大変イマイチな映画だったし、倫理的な意味でもけっこうな怒りを覚えた。現時点で今年のワーストです。ただ、観ている間と直後は結構「ふざけんな!」って感じに真剣に怒っていて、徹底的にディスってくれようと息巻いていたのだが、家に帰ってきたら若干どうでもよくなってきて、怒るのが何かアホらしく思えてきたので、適当に感想(ツッコミ)を書くことにする。
- いわゆるディザスター(災害)ムービーというやつで、カリフォルニアを超巨大地震と超巨大津波が襲うお話。ドウェイン•ジョンソン演じる主人公のレイは、レスキュー用ヘリのパイロット。大学生のかわいい娘がいるのだが、妻とは別居をしていて離婚寸前、しかも妻は金持ちでいけ好かない男との同棲を始めていた。人生の苦さをかみしめるレイ。そんなところに突如降ってわいたように襲い来る大地震!いい感じに死にそうになる妻と娘!果たして都合よく彼女達を助けられるのか!ついでに家族のKIZUNAを取り戻せるのか!そんな話です。すごく斬新でおもしろそうなお話ですね。投げやりになんてなってないですよ。
- まあストーリーとかは作り手も多分どうでもよくて、見せたかったのは何といっても、地震で崩壊するサンフランシスコの街並みと、大津波による洪水のスペクタクルだったのでしょう。これはさすがに迫力があって、3.11以降の日本での公開が危ぶまれたのもわかるな、という感じ(ポスターには「本作には地震・津波の映像が含まれます」との注意書きアリ)。しかし本作にとっておそらくベストの形式であろう「4DX」の枠が、日本では貰えなかったようで、それは少しかわいそうでしたね…。
- ただ個人的には、肝心の災害シーンも正直「別に〜」って感じでした。小さめのスクリーンで見たからっていうのもあるんだろうけど、崩壊の見せ方も単調だし、わりとすぐに飽きちゃいました。いくら「スペクタクル」に金をかけようが、「サスペンス」がゼロなもんだからスリルを覚えようがない。他ジャンルと比べるのも変だけど、たとえば『ウォーキング・デッド』みたいな「誰が死ぬかわからない」みたいな緊張感を全く生み出せてなくて、ひたすら予定調和的な展開が続くため、「どうせこいつらは死なないんでしょ」という悪い意味での安心感があり、全然ハラハラしない。不謹慎どうこう以前に、普通にお話がつまらなかったです。
- まあ災害を全体的に舐めきっているアメリカ人どもの姿勢そのものは、(怒る人もいそうだけど)私はけっこう楽しんで観ました。特に津波をモーターボートで乗り越えようとする夫妻の姿は「アメリカ人バカだな〜!」って感じでスゴイ笑ってしまった。楽しそうで本当によかったね…。現実の災害もそんなだといいよね、ホント…。
- そんな感じで基本的には憎めないバカ映画ではあるんですよ。ただ、私が本作を「今年ワースト」とまで言う理由になった、どうしても不快さを感じてしまう描写がありまして…。序盤、主人公の娘のブレイクが、母の再婚相手のダニエルと一緒に、地下の駐車場でビルの崩壊に巻き込まれるんですね。二人が乗っている車にガレキが落ちてきて車体が潰れ、ブレイクは足を挟まれて動けなくなってしまう。「助けを呼んでくる」と言って、不安がるブレイクを残して地上に向かうダニエル。最初はみんなに助けを求めるものの、さらにビルの崩壊が進んで気が動転し、ダニエルはそのまま地下のブレイクを置き去りにして外に出てしまう。
- その様子を目撃していたイギリス人兄弟が、命からがらブレイクを助けてくれるわけですが、その後ブレイクが「ダニエルの奴、私を置いて逃げたのね!最低!」みたいなことを言うんですよ…。あのさあ…。
- いや、もちろん「ダニエルはろくでもない奴だった!(やっぱりパパが一番!)」って話にしたいのはわかるし、確かに見捨てて逃げちゃったのは褒められたことではないですよ。でも、そのセリフを、当のブレイク本人に言わせるか、普通…? ブレイクが「いい子」として描かれていた分、なおさら。
- たとえばあのチビッコに「あの野郎、お姉さんを置いて逃げるなんてとんでもない奴だね!」とか言わせておいて、それに対してブレイクが悲しげに「…人は追い詰められると弱いものなのよ(でもパパなら…)」的な反応を返すとかさあ…。ちょっとした工夫でどうとでもなったはずなのに、その程度の手間すら惜しんで、ヒロインの好感度をガクッと下げてくる。この愛のなさよ。
- それだけならまだしも、さらに追い討ちをかけるように、お母さんもダニエルに電話越しに「よくも私の娘を見捨てたわね、あんたを殺してやる」とか息巻いてさあ。レイまでそれに乗っかって「さすがだな(ニヤリ)」とか言ってさぁ。何この夫婦、感じわるっ。自分たちはヘリに乗って安全地帯にいるくせに、その言い草はないでしょ(ていうか完全に公私混同だろ!)。そりゃ、あんたらにとっては自分の娘だから可愛いだろうけど、血の繋がってないダニエルまでが彼女を「命を賭して守り抜く」ことを、父母娘の3人揃って当然視してるのはさすがに不愉快。何様だよコイツら。
- まあその後、取ってつけたようなダニエルの「悪人描写」を入れて、それでバランスをとっているつもりなんだろうけど…。そもそもの話をすれば、「災害の時に周囲の人を見捨てて逃げてしまう」ことを必要以上に「悪いこと」として描くのって、どうなの…? 実際、助けたい気持ちは山々だったけど、結果としては「見捨てる」ような形で愛する人と別れることになってしまった人だって、現実には沢山いると思うんだけど(何も3.11に限らず世界中に)。「被災者に配慮しました」とか言いつつ、そういう配慮は別にないのな。
- 「実際に被災した人がどう感じると思うんですか?」みたいな論理で、作品に「不謹慎!」の石を投げるのは、もちろん決して良いことではないですよ。でも本作の作り手たちは、「災害の時に身近な人を見捨てて逃げる奴はクズだ」と断じるヒロイズムが、時にひどく残酷なものになりうるという可能性を、たぶん思い浮かべさえしていない。「俺たちのように強い男は、どんな時でも家族を見捨てたりなんかしないのさ!それが出来ない奴はクズ!」とでも思ってるんでしょうか。だとしたら、本当におめでたいことです。
- こういうマッチョで無神経な連中に冷水をぶっかけるような、ごく最近の素晴らしい作品がありました。『フレンチアルプスで起きたこと』と言う映画なんですけど。とても面白いサスペンス・コメディですが、深いテーマ性のある作品です(感想→『フレンチアルプスで起きたこと』観た! - 沼の見える街)。ぜひ心ある名画座に、本作『カリフォルニア・ダウン』と『フレンチアルプスで起きたこと』を2本立てで上映してほしい。たぶんそれでバランスが取れて、本作を「ちょっと無神経だけど脳天気でお気楽なB級バカ映画」として楽しむことができるはず。
- 「怒る気も失せた」とか言いつつ、なんだかんだディスってしまいました…。今日はこの辺にしときます。個人的にはけっこう逆鱗にふれてしまったのですが、別に気にならんよって人もいるだろうし、やはり映像はすごいので、一見の価値はある映画だと思います。人それぞれ!(雑な決め台詞)…ではまた。