- 九井諒子『ダンジョン飯』2巻が発売してたので、お絵描きついでに感想を書こうと思います。すごく…面白かったです…。
- すでに大評判の作品なので(1巻のAmazonレビューがすごいことになってる…)あらすじとか不要かもしれませんが、一応簡単に説明しておくと、主人公一行がダンジョンに潜って、ドラゴンに食べられちゃった妹(左上)を助けに行くお話です。ダンジョンの中では食料が何より重要なわけですが、お金も時間もない主人公たちは、なんと食料をダンジョンで「現地調達」することに!
- 巨大サソリだのスライムだの人食い植物だの動くヨロイ(!?)だのといった、ダンジョン内の食べられそうなモンスターや食材をゲットしては調理する主人公一行。そして毎回、意外にも美味しそうな「ダンジョン飯」が完成するのであった!…という流れで、(基本)一話完結の話がゆるやかにつながっている漫画です。ゲームにもファンタジーにも食にも一切興味がない人以外は全員楽しめると思います。説明はこれくらいにして、さっそく2巻の各話感想を。
- 第8話「キャベツ煮」。今回はモンスターを食べるわけではないですが、ゴーレムを畑にして野菜を作るというぶっ飛んだアイディアにいきなりやられました。スポットライトが当たるのはドワーフ族の超有能な仲間・センシ。彼の「食」に対する、というより「生き方」に対する思想がここで語られます。一見キワモノなグルメ漫画に見えて、実は「食」を通じた「生きること全般」という普遍的な問題に踏み込んでいるのが本作の見どころ。とはいえ基本やってることはダンジョン探索とゲテモノ食いなので、説教くさくならないところが素敵です。
- 第9話『オーク』。これまた短いながらも、「人種的な対立」という深いテーマを読み取ることができるお話。今やすっかり乱暴者のイメージが定着してしまったオークのイメージを、巧みに利用してひっくり返してきます。過去の血塗られた争いの歴史を振り返っても、オークに言わせれば、乱暴で残酷で野蛮なのは人間やエルフのほう。美人のエルフ族・マルシルが、オークからは「野蛮な顔」とか言われてるのも象徴的です。マルシルとオークは「歴史的認識」の相違によって対立しますが、根が深い問題であるため根本的な和解は無理そう…。それでも「食」をきっかけにその対立が少しだけ和らぎます。「食」こそがお互いの文化をリスペクトするための最初の一歩なのではないか、という仄かな希望を感じさせるお話でした。ピリ辛チキンを食べるマルシルかわいい。
- 第10話『おやつ』。序盤からちゃんとキャラを立ててきた人たちがまさかの即・全滅!バジリスクの話もですが、こういうところ、わりとしっかりダンジョンの過酷さを描いてますよね本作は…。そしてまさかの虫!あ、イラストで主人公(右)が食ってるのは宝虫ジャムパンです。カラフルなジャムって何かこう…。
- 第11話『ソルベ』。2巻でいちばん好きな話かも。回想に出てきた妹のファリン、かわいいし良い子だな〜。ファリンちゃんマジ天使。(実際その悲しげな微笑みから、短編集『龍の学校は山の上』の名作「進学天使」のあの子を連想。)でもファリンちゃん、今頃ドラゴンの胃の中でだいぶ消化されているのではなかろうか。今回も(幻影とはいえ)顔面ぶん殴られてたし、九井先生、天使に厳しいですね…。あと今回、とにかくロジックが丁寧で見事でした。幽霊は物をすり抜ける→ゆえに瓶に入れたままでも聖水は幽霊に効く→さらに幽霊が触れたものは凍る→したがって聖水がシャーベットになる、という流れ、ぶっ飛んではいるけど論理がひとつも破綻してなくて、実に美しい。オチも妙にリアルで好きです。
- 第12話『宮廷料理』。ついに概念を食べようとしはじめた…。「動く絵」という西洋ファンタジーお約束の怪異を、こんな風に「グルメ」に絡めてくるとは。「いやあれは完全に雰囲気の問題だった」にスゴイ笑いました。あと巻末のおまけが妙に怖い。
- 第13話『塩茹で』。チルチャック回ですね。ミミック=巨大ヤドカリという発想も面白い(ピクミンの中ボスみたいだな…)。眠くて目をショボショボさせているマルシルさんがすごく可愛いです…。ていうかマルシル×チルチャックはかなりイイですね…。明日のコミケで「マルチル」の同人誌が売っていないかな(あながち無いとも言い切れない)。
- 第14話『水棲馬(ケルビー)』。これまでどんな時も冷静沈着だったセンシが、信じていた水棲馬に裏切られ、はじめて深い動揺を見せます。この話で2巻は終わりですが、最初の2話(ゴーレム回とオーク回)とテーマが強く呼応し合っていると思いました。ゴーレム回では「このダンジョン世界で自然とともに生きていく」というセンシの思想が、そしてオーク回の「自分とは異なる他者ともわかりあえるかもしれない」という明るい兆しが描かれましたよね。
- しかしそれに対して、この第14話の「自然の中の絶対的な他者が牙をむく」という事態が、主人公たちへのとても苦いカウンターの一撃になっています。だからこそセンシは水棲馬に裏切られた後、自分の信じていた「確固たる世界」が壊れてしまったように感じてショックを受けたのでしょう。それでも仲間との出会いや(哀しいことも含めた)新しい出来事を通して、センシの世界も壊れ、広がり、変わっていく。そして「世界が変わっていく」ことは「すでに確固たる世界を持っている」ことよりも、ひょっとすると素敵なことなのかもしれない。マルシルに水棲馬石鹸でひげを洗ってもらってフワッフワになり、忌み嫌っていた魔法の力を借りて気持ちよさそうに水の上を進んでいく新たなセンシの姿から、そんなメッセージを受け取りました。(穿ち過ぎかもですが。)
- 長いのでもう終わりますが、2巻も最高に面白かったです。まだ語り足りないくらいですが、明日は初めての夏コミに挑むつもりなので早く寝ます。あんまり暑かったらくじけてやめるかもしれないけど…。ではまた。