- 『悪党に粛清を』(原題:THE SALVATION)観た!新宿武蔵野館、1000円。すごく良かったです…!幸せを感じました。惜しむらくは明日上映が終わってしまうことだ…。
- 写真は映画館に飾られていた、主演マッツ・ミケルセンのサイン入りポスター。英語で「武蔵野館へ」って書こうとしたんだろうけど、よく見ると「ムシャシノカン」ってなっててカワイイ。「あ、間違えた」みたいにちょっと直したっぽい跡もあるし…。マッツカワイイ。
- さて、このお茶目なマッツ・ミケルセンさんですが、「デンマークの至宝」として知られるほどの世界的な超人気俳優なんですね。そんな彼が、「まさかの西部劇⁉︎」「しかも主人公⁉︎」というのが、まずは本作『悪党に粛清を』の最大の驚きでしょう。
- というのもこの方、クールでスタイリッシュで残酷な悪役のイメージが大変に強い役者さんですからね。映画だと『007 カジノロワイヤル』のラスボスが印象深いですが、それ以上にマッツ・ミケルセンの名を世界に知らしめたのは、なんといっても海外ドラマの『ハンニバル』です。名作『羊たちの沈黙』の前日譚にあたるお話で、まだ「人喰い博士」としての正体がバレる前の精神科医レクター・ハンニバルが主人公。このレクターをマッツさんが優雅にセクシーにデンジャラスに演じてみせ、一躍世界的な大スターになったというわけです。
- ま〜たこのドラマが死ぬほど面白くてですね…。猟奇殺人の話なので、とんでもなくグロい場面が律儀に毎回あるのですが、あまりにもグロくてもはや崇高な芸術の域に達しているところがヤバすぎるんですよ…!気持ち悪さを通り越して「美しさ」すら感じてくるのが凄くもあり、怖くもあり。レクターもレクターで「肉」を物凄く美麗に調理してオシャレに食べたり振舞ったり(オイ!)してるしさぁ。超シリアスで重厚なサイコサスペンスなんですが、もはや一周回って笑えてくるんですよね。そのへんのバランスが本当に素敵なドラマです。
- 「犯罪者に共感できる」というイヤすぎる特殊能力をもつFBI分析官・ジョン(超イケメン)と、レクター博士との危うく隠微な関係性もたまらないですね…。あ、pixivで素敵な小説を書かれている某氏が以前「本作にほむさやを感じる」と仰っていましたが、私も完全に同意見です。これはほむさやですね。あと『ゴーン・ガール』もほむさや(?)。
- 放っておくと前置きが無限に長くなっていくので本題に入りましょう。本作『悪党に粛清を』は19世紀アメリカを舞台にしたいわゆる西部劇なわけですが、主演だけでなく監督や製作や脚本もデンマークの人なんですね。例えばイタリアの「マカロニ・ウェスタン」のように、非アメリカ人が作った西部劇というのはたくさんあるわけですが、デンマーク製というのはたいへん珍しい。
- 異色なのはそれだけではありません。本作、観ている間は全く気付きませんでしたが、なんとロケ地が南アフリカなんですよ!理由は「アメリカより安く上がるから」だそうな…。たしかに荒野は広がってますけど、それにしたってすごい発想ですよね。馬が荒野を走るシーンとかを撮っていたら、背後にシマウマやキリンが写り込んじゃって大変だったそうです。そんな西部劇があるか!!デンマーク人が南アフリカで西部劇を作る…。聞いただけでなんだか頭がクラクラしてくる話ですよね。
- しかし、本作の最も異色な点は、ここまでおかしな製作状況にもかかわらず、出来上がった作品は堂々たる「王道」の西部劇だった…ということかもしれません。マッツ・ミケルセンがわざわざ西部劇に出るくらいだ、きっと相当な変化球だぞ…と構えていたら、まさかのド直球エンターテインメントだったとは…!
- ざっとあらすじを言うと、デンマークからアメリカ西部に移住してきた元兵士のジョンが、「そろそろ暮らしも落ち着いてきたし…」ということで妻子をアメリカに呼び寄せるんですね。7年ぶりの家族との再会を喜んだのもつかの間、乱暴な悪者二人組によってなんと妻子が誘拐されてしまいます。すかさず悪者を追いかけてブチ殺すジョンですが、時すでに遅く、妻と子は変わり果てた姿に…。こうして家族を失ったジョンと、怒り狂った悪者のボス達との間で、復讐の連鎖が幕を開けるのだった…!というお話です。
- 話自体はもう何百回と繰り返されてきた「ベタ」なものなんでしょうが、ベタだろうと何だろうと作り手に技量があればいくらでも面白くなるんだ、と再確認しましたよ。まず、シャープでドライな語り口に惚れ惚れしました。本作は「復讐劇」ということでとにかくいっぱい人が死ぬんですが、妻子の末路に象徴されるように、「死」というものが非常に乾いたタッチで描かれます。いい人も悪い人もパンパン死んでいく。それが西部劇特有の諸行無常さを生んでいる。主人公の大事な人もドンドン無残に死ぬわけですが、マッツ・ミケルセンもあくまで淡々としていて、激しく泣きじゃくったりはしない。それでも彼の悲しみがドスンと伝わってくるのは、演技や演出の的確な積み重ねによるものでしょう。
- そしてクライマックスは、マッツ・ミケルセンが作中で静かに静かに積み上げてきた感情が、雪崩を打つように「復讐」の名のもとで爆発します。当然ながら、イーストウッドの『許されざる者』を連想しましたね。序盤〜中盤におけるマッツ特有の「静」や「冷」の演技があればこそ、ラストの「動」と「熱」に向けて映画が(文字通り)燃え上がっていく様がダイナミックに感じられたのでしょう。「王道復讐娯楽活劇」に彼を起用したのは奇手にも思えますが、必然性がちゃんとあったのだと思います。
- ラスボスのデラルーを演じるジェフリー・ディーン・モーガンも素晴らしかったです。それにしても極悪な野郎でした…。でも彼には彼の物語もあって、彼の中では筋が通っていて…みたいな含みもあるんだけど、でも悪いもんは悪い!みたいな塩梅で、それって「復讐譚」のラスボスとしては最高だと思いますね。彼の演じた『ウォッチメン』のコメディアンもそんな感じのキャラでした。
- 壮絶な過去をもち(物理的に)口がきけなくなった敵ボスサイドの女、マデリンもよかったですね。演じたのは人気女優のエヴァ・グリーンです(あ、マッツが007の悪役を演じた時にボンドガールだったのか…まさかの再共演)。セリフ一切なしで、彼女の複雑な内面を鋭く表現していました。ただまあ、口の痛々しい傷とか鋭い眼差しとか、すごいカッコイイ造形のキャラだし、願わくばもうちょい活躍シーンが見たかった気もしますが。ま、最後に大活躍するし、十分か。
- あ、もう時間がない…し長すぎるので終わります。今日は観光案内とかして疲れたしな…。いかんせん明日で(新宿の)公開終了なのでちょっとオススメしづらいのですが、とにかくたいへん面白い「邪道で王道の」西部劇でしたよ。こういう映画がたまに見られたら、それだけでホント幸せです。マッツファンと西部劇は後日でもいいので何とかして観てくださいな。ではこの辺で。ムシャシノカン!