沼の見える街

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『マッドマックス』「極上爆音上映」を語るナイト!!

  • 立川シネマシティで開催されている、『マッドマックス 怒りのデスロード』の「極上爆音上映」(極爆)がホント素晴らしかったので、その感想を書こうと思います。イモーーータン!!
  • この立川シネマシティ、都心から離れた小規模な映画館ではあるものの、大手シネコンにはできないような面白い試みを次々と行っていることに定評があるようです。今回の「極爆」なんてまさにその極みですね。なんと本作『マッドマックス』のためだけにわざわざ、採算度外視でメチャクチャ高価なサブウーファー「Meyer Sound 1100-LFC」を購入したと言うんですから、気が違っています…じゃなかった、気合が違いますよね。まさにマッドな心意気です。
  • それこそ開館当時から音響にはたいへん力を入れていたことで知られる立川シネマシティですが、こうしたさらなる音響設備の導入で何を目指したかというと、ずばり「重低音の超強化」。通常のスピーカーでは十分に出すことのできない低音域も、この高性能サブウーファーならバッチリです。重厚かつクリアな重低音を響かせることで、映画の「音」の質と量を大幅に底上げできる。「極上」な音質と「爆音」な音量の両立が可能になるというわけですね。これが(単なる大音量ではなく)「極上爆音上映」と銘打った理由でしょう。
  • 特に今回の『マッドマックス』は、「音」がものすごく重要な作品です。本作は極力セリフや言葉に頼らない、純粋に映画的な「語り」をトコトン突き詰める手法を取っているため、アクションや表情といった動作や、美術や衣装や風景などの視覚的な情報がワンシーン毎にギュッと凝縮されています。それゆえ「音」もまた、非言語的な「語り」の手段として、非常に大きな役割を担っているわけですね。
  • この立川の「極爆」ではその「音」を何倍にも増幅したうえで、徹底してクリアな状態で観客に届けるわけですから、視覚効果で言う3Dに匹敵するような効果を「音」の領域でもたらしているわけです。その結果、生半可な3Dよりも立体的なマッドマックス世界が、文字通り「飛び出して」くる。おおげさではなくIMAXとかにも引けを取らない、むしろそれ以上にスゴイとさえ言える、素晴らしい鑑賞体験でした。
  • まず言うまでもないことですが、やっぱり「轟音」の迫力が段違いですね。特に車関連の「音」の表現の豊かさといったら凄まじいです。走る音、揺れる音、エンジンの音、車体同士がぶつかる金属音、クラクションの音、ひっくり返ってクラッシュする音、ぶつかって炎上して爆発する音…。『マッドマックス』シリーズならではの「車」の轟音が全編にわたって全身にぶつかってくるため、座席が揺れたりするわけでもないのに、「おれは車に乗っている!」としか思えなくなるようなものすごい「ライド感」を味わえます。
  • 「車」関連以外にも、素晴らしい「轟音」のシーンはたくさん。思いつくままにあげてみれば、民衆の怒号や歓声、王国を流れ落ちる滝のような水の音、イモータン・ジョー軍勢のドラムの音、ドゥーフ・ウォリアーが奏でるギターの爆音、迫り来る巨大な砂嵐の音、嵐の中で体や窓ガラスに砂が叩きつけられる音、崖が爆破されて崩れ落ちる音、武器将軍が「レクイエム」をBGMにぶっ放す銃の音、遠くで聞こえる謎めいた爆発音、そして何と言ってもジャンキーXLの手がけた重厚でハードな音楽…。耳ではなく、脳ですらなく、肌と骨と内臓で直に音を「味わう」原始的な映画体験に、観るものすべてを引きずり込んでくれます。その臨場感、もう完全にライブのそれでした。
  • そして特筆すべきは、大迫力の「轟音」だけでなく、「静かな音」の美しさもじっくり味わうことができるという点です。たとえば砂が体をサラサラと流れ落ちる音。緊迫した場面で「ギィ…」と車のドアを開ける音。カラスの不気味な鳴き声。むなしく吹き抜ける風の音。満天の星空の下で鳴る、優しいオルゴールの音。ノンストップハイテンション発狂ムービーとして名高い『マッドマックス』ですが、実は静かな名シーンもたくさんあるんですね。この「極爆」、超高性能スピーカーでそうした「小さな音」もていねいに拾ってくれるため、轟音の場面との対比で本作特有のメリハリ感がいっそう際立つわけです。
  • 個人的に最も感銘を受けたのは、真実を知ったフュリオサが絶望のあまり義手を外し、砂漠にひざまずいて号泣する場面でしょうか。ここ、ドラマチックな音楽の陰にフュリオサの「あああああ!!」という嘆きの声が隠れているんですが、普通の映画館だとあんまりその声が聞こえなかったりするんですね。でも今回の「極爆」ではすごくハッキリ拾ってくれていて、よりフュリオサの絶望が伝わってきました。名シーンがいっそう名シーンになっていた。
  • というわけでこの「極爆」、単に「高級なスピーカーでガンガンにデカイ音だせば満足するんだろ?」的な低い志の企画ではまったくありません。映画において「音」が果たすべき役割というものを、「極爆」の主催者たちが徹底的に考え抜いていることが、上記のフュリオサのシーンからもひしひしと伝わってきましたよ。誠実としか言いようがない。こんな良い映画館が近くにあって、立川の映画ファンがうらやましいです、ホント。
  • 夏の大作ラッシュで映画館の回転が速いせいで、映画史どころか人類史に残る傑作『マッドマックス 怒りのデスロード』でさえも、すでにどんどん公開が縮小されています。諸行無常を感じざるをえませんが、それでも立川シネマシティのようなマッドで立派な映画館が、しつこく、それも最高の環境で上映を続けてくれているわけです。ホント、人類は全員行った方がいいですよコレ。まあ私も家からは若干遠かったし、twitterで教えていただかなければ面倒臭がって機会を逃していたかもしれない(感謝!)ですが、ちょっと足を伸ばしてでも行く価値は絶対にあります。IMAXとかと違って追加料金もとられませんし、交通費はその分ってことでいかがでしょう。とにかく圧倒的に素晴らしいマッドマックス体験でした。ウィットネス・タチカワ!
  • それにしても『マッドマックス』今回で3回目ですが、見るたびに新しい発見がありますね。あ〜、もう一回レイトショーかなんかで観ておきたい…!まだまだ冷めそうもありません、『マッドマックス』熱。ていうかさっさとアートブックほしいぜ。ではまた。