沼の見える街

ぬまがさワタリのブログです。すてきな生きもの&映画とかカルチャー。

『バケモノの子』を語るナイト

  • 先日の『がっこうぐらし!』感想といい昨日の『バケモノの子』考察といい、(ネタバレ回避のためとはいえ)どうしてもこう、作品を取り巻く状況との関係、みたいな方向に話が行きがちで、我ながら良くないなと思ってます。私には(一応)師匠筋にあたる人がいるのですが、その方が読んだら烈火のごとく怒ることでしょう。「作品そのものにちゃんと向き合ってない!死ね!!」って。いや流石に「死ね」とは言われたことないですけど…。こわいジーサンなのです。今は離れ離れになってしまいましたが…今も変わらず恐いんだろうな、たぶん。
  • というわけで映画『バケモノの子』の感想を書いてみようかと思います。我が師に怒られることのないよう、なるべく映画の中身に言及しようと思うので、昨日よりもちょっとだけネタバレ注意で。
  • まず、冒頭がすごく良かったです。真っ暗闇に火が二つ灯って前口上が始まると、だんだん火の数が増えていき、それらが一面に広がるにつれて語りもヒートアップ、きらびやかな音楽も盛り上がっていく。その語りと音楽をバックに巨大な炎のシルエットが舞い、バケモノの国「渋天街」の世界観や、二人の人物の対照的な性格がシンプルかつダイナミックに提示されます。この冒頭、まあ言っちゃえば単なる「状況説明」なわけですが、暗闇と光と音楽を活かした映画的なケレン味にあふれる構成になっていて、たいへんワクワクしました。
  • そこから始まるストーリーも、(特に前半は)ひたすら軽快で楽しかったです。孤独な少年・九太が最強のバケモノ・熊徹と出会い、反発しあいながらも師弟として通じ合っていく過程がテンポ良く描かれていきます。本作は、なんといってもこの熊徹のキャラ造形が成功していると思う。腕っ節の強い無愛想な乱暴者だけど、どこか素直で憎めないのです。若干不安だった役所広司の声も、そんな「強いダメ中年」な熊徹の性格にばっちり合っていました。やっぱり好きになっちゃいますね〜、熊徹…。特にケモ好きにはたまらないのでは(言わんでいいことを…)。
  • 脇を固めるキャラも魅力的でした。バケモノ世界の長老「宗師」の座を巡って熊徹と争うライバル・猪王山(いおうぜん)の実力者&人格者っぷりもカッコ良かったです。観た人の大半が「もうお前が宗師でいいよ…」と思ったことでしょう。まあこの人も色々な秘密を抱えているわけですが…。
  • それと、熊徹の友人2人組も良い仕事してました。口の悪いサル顔の多々良(声:大泉洋)と、優しいブタ顏の百秋坊(声:リリー・フランキー)。本作はキャラの性格設定と配置が実に上手くて、このコンビも、熊徹の両脇に置くならコレしかないという感じでバシッとハマってました。ガキ1+バケモノ3のアンサンブルもたいへん愉快。ていうか中の人めっちゃ豪華ですね…。多々良の声優いいなあ、と思っていたら大泉さんだったとは。『駆込み女』のときも思いましたが、「ひょうきんかつエッジのきいた語り部」をやらせたら本邦一ですね、この人は…。リリーさん抜擢の理由は、普段は優しいのに怒ると『凶悪』…じゃなかった、怒ると怖そうだからかな。どちらも最高の演技でした。
  • ヒロインの楓ちゃんも、思ったより良かったです。「思ったより」というのは、予告編で微笑むこの子を見たとき、正直「かわいい!」というよりは「出たよ…」という気持ちが先行してしまったので…。「出たよ細田ヒロイン…。ハイハイ、良い子ですね可愛いですね」みたいな屈折した先入観がどうしても生じてしまったというか…。
  • でも楓ちゃん、どこか影のある雰囲気が細田作品には異質な感じだし、フレッシュなヒロイン像で、良かったと思いますよ。まあ、戦闘中にしゃしゃり出てきて大声でなにやら感動的なセリフを叫び始めたりするくだりとかは、ちょっぴり「出たよ…」と思っちゃいましたけど…。いや、ささいな問題ですね。何といっても声が広瀬すずですから。あの『海街diary』の犯罪的に可愛いヒロイン、すずちゃんですよ。この子を得た時点で勝ちでしょう。ひれふすしかない。
  • とりあえず良かったところを思いつくまま並べてみました。昨日も言ったように、基本的にはたいへん良くできた楽しいエンタメなんですよ。応援してますし、成功してほしい。ただですね…。突っ込みどころや言いたいことも、ないわけじゃないんですよ。わかりやすいところだと、今回、細田作品には珍しく「嫌な人」の描写が多めなんですが、その点やっぱり不慣れなのか、なんか「安易だな〜」と感じる新たな「嫌ポイント」が生まれてた気もしました。バケモノサイドはみんな良かったんですが、人間がな〜。
  • 特に「うげぇ」って思ったのは序盤に一瞬でてくる九太の親戚の描写ですね…。この連中の凄まじいまでのテンプレ「嫌な人」っぷりは、冒頭であんなにわくわくしていた私でさえ「アッ…この映画だめかも」と感じてしまうに十分なものでした。いくらなんでも親を亡くしたばかりの子どもに対して親戚みんながあんな態度とらないだろ!鬼か!!「真のバケモノは貴様ら人間の方だ!」みたいな話になるならまだしもさ〜。
  • ひょっとすると、九太がバケモノとバケモノ合体してバケモノマンになって「きさまらは人間の体をもちながらバケモノに!バケモノになったんだぞ!これが!これがおれが身を捨ててまで守ろうとした人間の正体か!」と涙を流して怒り狂いながら親戚一同を皆殺しにする展開になるのかな、と思いきやそんなことはなかったし…(長い上に不要なデビルマンネタ)。
  • もちろん九太の孤独を際立たせるためには、親戚を嫌な人にするのが手っ取り早いというのはわかりますよ。でもそれにしたってリアリティがなさすぎてな〜…。その後の面白さで十分盛り返しましたけど、正直ガクッとなりましたね。もうちょっと描写を省略して絵で見せるとか、匂わせるくらいにしておくとか…。まあ「嫌な奴をどう描くか」はそれこそディズニーとかでさえ苦心しまくっている困難な問題ですからね。うーん。
  • あ、「悪役問題」のついでに話が飛ぶんですが、図書館で楓ちゃんがチャラい男女グループに「騒ぐなら外で騒ぎなよ」って注意した時、相手の女が「は?うざいんですけど」とか言うのかと思いきや「…外でなら何してもいいの?」って返したんですね。「えっ何その返し方、なんか深い!面白い!」って一瞬思ったんですよ。でも結局は後のテンプレ悪行の前振りに過ぎなくて、そこもけっこうガッカリでしたね…。
  • ま、チャラい奴らが絡んでくるくだりは、楓のいじめられっ子設定&九太が楓をカッコよく助ける描写のために必要だったんでしょうが。でも正直あのへんは「ハイハイ」って感じでしたね…。ぶっちゃけそういうイジメ云々の描写、不要だったと思います。なんか薄っぺらいし。『白鯨』のおかげで二人は出会ったってことで良かったんじゃね、と個人的には思いますが。ま〜、チャラい若者グループというのは現代アニメや漫画において、『マッドマックス』のモヒカンザコみたいな存在なので、しょうがないのかもしれませんね…。倒されても心の痛まない存在。ちょっと不憫ですが。
  • 賛同してくれる人は少ないと思いますが、もしあのままチャラい子たちが「外でなら何してもいいの?」って言ってホントに大人しく退散していたら、作品世界にすごく奥行きが出たと私は思うんですよね。「あ、チャラい子たちにも(よくわかんないなりに)それぞれの考えや哲学があって、この世界でちゃんと生きてるんだ」というような奥深さが…。まあ、本作みたいな娯楽映画に望むことではないか。ちょっと思っただけです。
  • 悪役といえば実質的なラスボスとなるあの人もな〜。正直「お…おう…」って感じでしたね。「よく知らないけどいつの間にかあんなことになっていた」感がすごい。たぶん時間的な制約が大きくて、作り手も本当ならもうちょっとあの人の描写を増やしたかったんでしょうね。せめて九太との絡みの場面があと一つでもあればな〜。そこで『白鯨』を軸に、あの人と九太との対称性が暗示されたりしていれば、ラストバトルがもっと盛り上がったでしょうに。いいキャラなだけに、惜しいなと。それでもラスボスのキャラの弱さを、熊徹のキャラの強さが補っていて、じゅうぶん熱い戦いになっていたんですけどね。「心の中の剣」にはそりゃ〜うるっときましたよ。
  • あ〜、どうしても不満点の方が書きやすいのでついディス気味になっちゃってますが、本当、誰が見てもちゃんと面白い良作ですからね。昨日の繰り返しですが、このご時世にこれほど良質なエンタメ長編アニメをきっちり作り上げたということに対しては、最大限の敬意が払われるべきだと思います。細田作品だし今回も賛否はあると思いますが、私はかなり肯定派ですよ。
  • もう長いので今日はこんな感じで。やっぱり私の師匠には怒られそうな文章ですが…。離れていても、なんかいつも見張られているような気がして、うっとうしいような頼もしいような。…あ、ちょっと『バケモノの子』っぽいですね。とか言って無理やりまとめてみました。本作をご覧になった方、よろしければお気軽に感想などどうぞ。ではまた。